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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

何でも短編集

怪物<あなた>となら闇の中でも

 世界を、イロイ村を照らす朝が来た。

 私リーブは、恋人のベジュと共にベッドで目覚めました。


「んん……っ、おはようベジュ。よく眠れた?」

「クキュルゥウウウ」


 いつものようにベジュの頭をなでると、ベジュは甘えた声で返事をします。

 これが、いつもの一日の始まり。


 ベジュは怪物です。言葉を話せない怪物です。尖った三本の角に鋭い牙と爪を持ち、ベージュの肌の八足歩行の怪物。

 村人は怪物であるベジュと、ベジュに恋する私を嫌い、よく石を投げられたり傷付けられたりします。

 でも、いいんです。私はベジュと一緒に暮らせるのなら――


「ガガッ!」

「ああ、そうだったわ、朝ごはん作らなくちゃね。……さてとっ」


 私は顔を洗い、姿見で軽く髪と服装を整えた後、キッチンで朝ごはんを作り始めます。

 一昨日ベジュが獲ってくれたのはウサギ。ここ最近ウサギばかり食べているような気がしますが、これらは全部ベジュが獲ってくれた大切な食料、ありがたくいただきます。


「いただきます」

「ギャガッ」


 ウサギの丸焼きを私はナイフとフォークで切り分けて食べ、ベジュはそのままかぶりついて食べる。

 食べ慣れた味だけど、ベジュと一緒に食べられるだけで幸せです。


 そんな朝食が、何事もなく終わると思っていました。ですが、現実はそうしてはもらえませんでした。



 突然、ドアを叩く音が聞こえ、扉を開けると村人の男性が剣を構えて立っていました。


「おいっ! お前らのせいで山の動物が全滅したんだぞ、この災厄を呼ぶ怪物め!」

「……っ!」


 男性はそう言って目の前にいる私を切りつけようしましたが、ベジュが飛び出して私をかばいました。

 緑色の血がどくどくと、ベジュの背中から流れていきます。


「キュ……」

「ベジュ! ごめんね、私がぼうっとしてたばっかりに……」

「……ふん、どうせ大したことのない傷だ。もう、一撃……っ!」

「グゥゥウ……!」

「ベジュ!」


 男性は剣を深く、ベジュの背中に突き刺したのです。

 ベジュは苦しそうにしているものの、私に心配かけまいと笑顔を見せています。ベジュらしいですが、とても心配です。


「どうして……どうして毎回私たちを傷つけるのですか? どうして私たちを災厄扱いするのですか?」

「災厄扱いではない、神のお告げにもある事実だ。そもそも、やられると分かっていて扉を開けるお前も悪い」

「私たちに用がある人は平等に迎え入れているだけです! ……それに、神のお告げだからといって私たちを傷つけていい理由にはならないと思います。……ですが、私たちが皆さんに迷惑をかけているのなら、今すぐにでも村を出ていきましょう。それでいいでしょう?」

「……良くない。お前たちはどこにいたって村に災厄を招くことに変わりはない。だから、そこまで言うのなら……」


「……」


「死ね」


「……!」


 彼が放った二文字の言葉は、鋭い刃で刺されたような衝撃を私の心にぶつけてきました。

 男性はそのまま、自分の剣をベジュの背中から抜いて帰っていきました。ベジュもさすがに、険しい表情をしています。


「……ベジュ。私たち、どうすればいいの? どうすれば……」

「グギュ……キュゥゥウ……」


 ベジュは何かを訴えるように声を発しますが、何を言っているのかは分かりません。

 皆のために、一緒に死のうと言っているのか。

 死ぬのだけはやめるべきと言っているのか。

 いっそのこと、村に復讐して――なんてことは、心優しいベジュは言ってないと思います。


「ベジュ……。私は、皆が幸せになれるのなら、死んだ方がいいかなって思ってるの。だって、本当に死ねって言われたし……」

「キュルキュ……」

「……私はベジュに出会えて、一緒にいられただけで十分有意義な人生だったわ」

「……キュ」


 ベジュは優しい目つきで私を見つめています。

 だから、だからベジュのことが好きなんです。

 あなたはあの日から、何も変わっていないところが。


「……ベジュ。思い出すね、初めて会ったあの日のことを」


 私は床に座り込み、ベジュの頭をなでながらあの日を思い出します。



 それは、去年の話です。

 イロイ村に一匹の怪物が迷い込んだという話を聞いて、私は家にこもっていました。

 怪物は、私の家の前までやってきました。

 窓から見える、大型犬ぐらいの怪物。

 私は、怖いもの見たさにじっと怪物を窓越しに見つめていました。怪物もまた、私のことを見つめています。

 そんな時間がしばらく経った後、遠くから矢が飛んできて、怪物に刺さりました。

 私は「討伐隊が来たんだ」と胸を撫で下ろします。この後は討伐隊と怪物の戦いになる、そう思っていました。


 ですが、怪物は後ろを向かず、ただただ私のことを見つめていました。

 驚きました。怪物も生き物、突き刺さった矢が飛んできた方向へと振り向くはずです。

 討伐隊が来た後も、怪物は振り向かずに私を見つめ続けました。

 無抵抗の怪物に、剣や斧の攻撃が襲ってきます。けれども、怪物は動きもせずに前を見ています。

 最初は「どうしてかしら?」と疑問に思っていましたが、怪物にできる大きな傷と怪物の足元に広がっていく緑の海を見ている内に別の感情が芽生えました。

 私は、ただただ怪物の無事を祈って家を飛び出し、怪物をかばって叫びました。


「もうやめて! この怪物は何もしていないでしょう!」


 討伐隊は「どけ、怪物は怪物だ」と話を聞いてはくれませんでした。

 私はそれでも必死に、自分の想いを伝えました。


「私はそうは思いません。だって、こんなに攻撃を受けているのに反撃もせず、振り向かない生き物なんて、世界中探したってどこにもいないでしょう? 姿は怪物かもしれませんが……きっと優しい心を持っているはずです!」


 しかし、私の想いは届かず、討伐隊は「怪物に洗脳されたか」と言い放ち、私を斬ろうとしました。


「ギャガァグ!」


 その時でした、私の目の前を怪物が通ったのは。


「あっ……、う、ううぅぅううっ!」


 怪物はちょうど首を斬られ、頭と体が離れて落ちていきました。

 私は思わず、吐き気を催してしまいました。


「……結果的に殺せたか。よし、帰るぞ。皆に討伐は完了したと広めておけ」


 頭と体が離れているのを確認した討伐隊はそのまま帰っていきました。


「あ……。どうしよう、どうしよう……。し、し、死んじゃった、死んじゃった……?」


 私の中では様々な感情が入り乱れ、似た言葉を繰り返していました。

 大丈夫じゃないよね、と怪物の頭を見てみました。

 怪物は、かすかに顔を動かしていました。ゆっくりと、そしてしっかりと笑顔を作っていました。


「! 頭を繋げたら……助かるかも!」


 まさか、とは思うかもしれませんが、その時の私にとっては精一杯の考えでした。

 怪物の頭と体を繋げ、離れないように手で押さえていました。

 それから七分ほどでしょうか。怪物の頭と体は繋がり、意識を取り戻したのでした。


「キュルゥ……!」

「良かった、良かった……! よく、よく生き返ったね。ありがとう、ありがとうっ!」


 私はぎゅうっと怪物を抱きしめ、怪物は甘えた声で喜びを表現していました。



 それが、私とベジュの大切な大切な出会い。

 あの時なぜ私を見つめ続けていたのかは分かりませんが、今ではベジュはかけがえのない一番大切な存在です。


「……それで、私はイロイ語で『優しさ』を意味するベジュって名付けて、こうして一緒に暮らし始めたのよね」

「キュクゥキュクウ」


 気がつけば先程できたベジュの傷はすっかり癒えていました。これも怪物としての力なのでしょうか。


「それにしても酷い話です。どうして、私たちは災厄を招く存在になってしまったのでしょう。どうして、災厄があるのでしょう……」

「キュゥ……」

「そうだわ、村長に詳しい話を聞きましょう! ……ベジュ、行こう!」

「カァルッ!」


 すっかり冷めてしまったウサギの丸焼きは後で食べることにして、私たちはラック村長の家を訪ねました。



「村長、お話があるのですが……。どうして、私たちは災厄を招く存在になってしまったのでしょう」

「……それか。お前は神のお告げの全文を知らないはずだ。今までお前たちには隠してきたが、知りたいのなら教えてやろう」

「……お願いします」


 私たちはゆっくりと頷いた。

 それを見た村長は長い白ヒゲを触りながら語り始めました。


「村に災厄が訪れたのはお前がその怪物を迎え入れてから間もなくだった。最初は皆、偶然だろうと思っていたが、どうにもおかしい。だから今から半年前、神になぜ村に災厄が起こるのかを問いかけた。すると神はお答えになった」


 村長は深く呼吸し、静かに言いました。


「『イロイ村に住む女性リーブと、怪物ベジュは村に災厄を招く存在です。負の力を持つ二人が出会ったことにより、負の力は村に働きかけるようになりました。二人が出会った以上、二人が世界のどこに存在していようとも、村に災厄が降りかかることは免れません。二人が死ぬ、それだけが村に降りかかる災厄を止める方法です』と……」

「……はい」

「……キュグゥル」


 予想通りの結果に、私もベジュもやや下を向いていました。

 でも、不思議に思うことがありました。


「ですがなぜ、半年もの間に私たちを殺さなかったのでしょう? 怪物が現れた時に討伐隊が私ごとベジュを斬ろうとしたように、やろうと思えば私たちを殺すことができたはずです」

「そ、それはだな……。お……お前たちが死ぬ日が決まっているからだ」

「え、えっ? い……いつですか?」

「……次の満月だ。運命神フルムーン様が村に降臨なさる満月の夜に、お前たちはフルムーン様の前で処刑される」

「そう……ですか」


 運命神フルムーン様の存在を聞いたことがあります。運命を司る者で、選ばれし者に自らの力を分け与えるという言い伝えがあります。

 私たちは、選ばれし者なのでしょうか。それとも単なる生贄、あるいはフルムーン様の力が無いと死ねない体なのでしょうか。


「……親切にありがとうございます。私たちは残された時間の中で自分を見つめて、処刑の日を待ちますね」

「キュグァ」


 私たちは深々とおじぎをして、村長の家を後にしました。


 満月の夜までの一週間、私たちは相変わらず村人たちに悪口を言われ、傷つけられる生活を過ごしながらも自分を見つめ始めました。


「ベジュ、知ってる? フルムーン様の力を分け与えられた少年が、自分の運命を切り開く昔話を。絶望的だった運命を、全て変えて平和に暮らしたの。その絶望的な運命が……なんだか今の私たちに似てるのよ。さすがに、人間の道を外れた悪い人はいないけどね」

「クルグゥ」


 ベジュは静かに頷き、遠くを見つめるような顔をしました。

 私は、今言いたいことを言うために話を続けます。


「……残酷な死に直面していた少年の運命を変えられたように、私たちの運命だって変えることができるわ、きっと。少年の行く末のように、そこに待っているのが自分から選んだ死だったとしても、きっと、きっとっ、良いことがっ……」

「ギュルクゥ……」


 気が付けば、涙があふれ出ていました。もう、死を覚悟したはずなのに、やっぱり怖いのです。

 ベジュは優しい声で鳴いていました。やっぱり、そんな優しいベジュがいるだけで私は幸せです。だからこそ、目の前にある死が怖いのだと思ったのです。


「あぁぁ、ありがとうっ、ベジュ。最後まで……ちゃんと生きようね」

「ギャルグァ……!」


 そろそろ夕飯を作りたいと思ったのですが、災厄によって山の動物たちは全滅。村の畑も不作ということで私たちは食料に困っていました。処刑の日が近づいている怪物とその恋人にわざわざ食料を分け与える、なんてことはありません。

 空腹の中、私たちは身を寄せ合って静かに目を閉じました。

 意識が夢の中へと入る直前、ベジュが何か語りかけようとしていました。


「ガァグ……ギャガグキャ……キュクルルルゥ……」


 意味は分かりませんでしたが、私はなぜか安心して、ゆっくりと眠りについたのでした。



 そして、気がつけば満月の夜。私とベジュが処刑される時がやってきました。

 処刑は村を挙げて大々的に行われるようです。運命神フルムーン様が降臨する日、そして災厄の根源が消える日ということで、村人たちはまるで祭りのように盛り上がっています。

 村長が大きな処刑台の上に立ち、月の光に満ちた杖を掲げてフルムーン様に語りかけます。


「運命神フルムーン様よ……我らに運命を導きたまえ……」


 すると、宙に小さな光の粒が集まって、その中から二本の角を生やした黒髪の青年が現れました。どこか優しそうで冷たい眼差しをしています。

 そして私たちを見るなり、こうおっしゃったのです。


「……運命とは、不思議なものだ。お前たちは、とてもとても……果てしなく罪深いものを背負っている。……そして今、その運命はお前たちの前へと現れる!」


 フルムーン様を中心に闇が広がり、気がつけば私とベジュ、フルムーン様だけの空間になっていました。


「……えっ?」


 ですが、闇が広がると同時にフルムーン様の姿が変わっていました。角があるのは同じなのですが、おどろおどろしい骨の怪物の姿になっていたのです。


「この姿こそ、我の真の姿。……我は、お前たちの存在を確かめるために現れた。見たところ、奴らの思惑通りに動いているようだな」

「……奴ら?」

「お前たちの前世……の、集合体だ。お前たちは『真実の地』という話を知っているか?」

「は、はい! あの、フルムーン様に力を分け与えられた少年が運命を切り開く昔話で……」

「その少年に殺されていった人間の集まり、それがお前たちだ」

「……グ……」


 ベジュが表現するのをためらっているのか、発声しかけます。

 少年に殺されていった人間……それは、かつて人間として許されないような悪事を働いた人々のことを指しています。


「リーブ。お前の魂は少年の故郷で生まれるように仕組まれた。そしてベジュという怪物と目を合わせた時、村に災厄が訪れるよう力に細工をした。全て、怪物と怪物に尽くす者のせいにすることで、自らの罪を来世の自分になすりつけようとしたのだ。それが彼らなりの、少年への復讐だった」

「どうして、そこまでして……」

「少年には運命の加護があるため、直接殺すことはできない。だからこそ、少年が亡き後に望んでいた未来を潰そうと考えたのだ。そして厄介なのは……この魂の集まりには運命の力が宿っている」

「運命の力が……? フルムーン様が分け与えなければそんなことには……あっ! そういえば、あの少年って、話の途中で……」

「運命の力を持った少年は、話の途中で自害をしている。自らが背負った殺人という罪を償うために。そしてその魂は、ベジュの中に流れている。ベジュの中では、悪者たちによる復讐心と、少年の深い悲しみの気持ちが混ざっているのだ。……そう、ベジュは全てを知っているのだ」


 私は静かにベジュを見る。ベジュは、真剣な表情でフルムーン様を見つめていました。

 しかし、その眼差しの向こう側から、普段の表情からはあり得ないぐらいに果てしなくまがまがしい憎悪を感じ取りました。


「ベジュよ、お前に問う。お前は……運命に則って復讐を果たすのか? それとも運命を変え、何事もなかったかのように平穏な日々を過ごすのか?」

「それってつまり……私たちが生きる道があるということですか?」


 私はフルムーン様に問いかけるものの自らの気持ちが抑えきれなくて、答えを聞く前にベジュに気持ちを伝えます。


「……ベジュ! 私、わたし……生き続けたい! どんなに苦しくても、あなたと……あなたと生きたいの! たとえ世界が闇に包まれていても、世界中の人々から嫌われていても、私は、あなたのそばで一緒に生きていたいのっ!」


 ベジュは、あの日のように私を見つめます。

 ベジュは頷き、そして首を横に振りました。


「ググァ、グァアグルルルッ!」

「……そうか。それがお前の答えか。なら……運命を受け止め、運命を変えるのだ!」


 フルムーン様はそうおっしゃると闇の中へと消えていきました。

 闇の中に残ったのは、私とベジュ。

 私は、ベジュが私と一緒に生きる道を選んだと信じて、優しくベジュの頭をなでました。


「……私たち、幸せになれるのよね? 災厄なんかなかったことにして、皆が幸せになる世界になるのよね?」

「…………」


 ベジュは甘えた声を出さずに、ただひたすら私を見つめていました。

 いつもとは違う反応に、私は戸惑いを隠し切れませんでした。


「ねぇ、ねぇ……。私たち、生きていけるのよね? 災厄を招くという運命を変えるのよね? それで、私たちは静かに暮らして……」


 ベジュは顔色一つ変えません。

 もしかして、ベジュは今でも復讐を願っているのでしょうか。

 そう思っていたら突然、私の頭の中に映像が流れ込んできました。


 それは、言葉では語りつくせないほどの、数々の地獄の光景でした。

 抵抗できる力を持たないまま、様々な暴力を受ける光景。

 悪意ある人によって殺される光景。

 いじめられる光景。

 将来を潰された光景。

 人に裏切られる光景。

 ただひたすらに自分を責め続ける光景。

 そして、運命を変える力によって本来あったはずの未来を、存在を失ってしまう光景。

 それらが一瞬に流れ込んできました。


 そうしてまでベジュが伝えたかったことは、私には分かりません。

 こんな光景があるから人間に復讐したいという気持ちなのか、前世の罪を許さないという気持ちなのか、運命を変えることなど許されないという気持ちなのか、様々な考えが頭の中を駆け巡りました。

 確かに言えるのは、これはいつものベジュの考え方ではないということでした。

 私の前にいるベジュはもう、別のベジュなのでしょうか。ベジュはもう、帰ってこないのでしょうか。


「……ベジュ、ベジュ……」





 その時、思った。

 ベジュは全てを受け入れ、全てを変えようとしていると。

 そのためには、私も全てを受け入れ、変えようという意思を持たなければならないということを。

 だから私は、怪物(あなた)と一緒に闇の中を進んでいくことにした。

 ゆっくりと、着実に。今までの時を想いながら。

 全ての存在に感謝しながら。全ての存在を恨みながら。


 辿り着いたのは、処刑台の上。宙には青年の姿をしたフルムーン様がいらっしゃる。

 村長の声が会場に響き渡る。


「これより、怪物と村人リーブの処刑を行う! 内容は、斬首刑だ!」


 死の時間が、刻一刻と迫る。

 村で一番力の強い男性が斧を持ち、ベジュの横に立った。

 ベジュは最後まで、抵抗することはなかった。


「そりゃ!」


 ベジュの首が、目の前で飛ぶ。

 あの時は吐き気を催した私だったが、今はそんな状態にはならない。

 次は、私の番だ。


 私は最後に一言を放つ。


「私は全てを許さない。そして、全てを許します。私は、そんな儚くて愚かな運命と共にあります」


 そして、私の首はどこかへと飛んでいった。





「ん、んん……。あ、あれ?」

「ギュ……?」


 私とベジュは、いつも寝ているベッドの上で目覚めました。

 あれ、さっきまでとても深刻なことを考えていたような気がするのですが、なんだったのでしょうか。

 でも、なんだか、いつもと違う実感が湧いてきます。


「……私、生きてる。ベジュも、生きてる」

「キュルルゥン」

「ベジュも、嬉しいのね。……私はね、今が、とっても幸せなの。これ以上ないってくらい、幸せなの」


 私はいつものようにベジュの頭をなでて、幸せを噛みしめていました。


「さてとっ。朝ごはんを作らなくちゃね。さあ準備準備!」


 私は起き上がり、顔を洗った後に服装を整えるために姿見の前へ立ちました。


「……あれ?」


 そこには私の姿はなく、代わりに笑顔の村長と角の生えた黒髪の青年が立っていました。


「村長? それに……あの人は、誰かしら? もしもーし!」


 私が手を振ると、二人は手を振り返してきました。声は聞こえません。

 姿見に自分の姿が見えないなんて、捉えようによってはとても恐ろしい話ですが、今の私はそうは思いませんでした。

 なぜなら、そばにベジュがいるから。

 どんな状態でも、ベジュと一緒なら笑い話にできます。


 今日もまた、私リーブと恋人のベジュの二人だけの時間が、ゆっくりと、永遠に流れていきます。


「キャルゥゥグゥ……ガァオ!」

「怪物<あなた>となら闇の中でも」を読んでくださり、ありがとうございます。


今作は少し難解、そして様々な解釈があるかもしれないお話となりましたが、私の中ではテンプレ・王道な作品となっております。

途中か最後に怪物……ベジュの言葉が分かるという展開もアリかもしれませんが、今回は一切理解ができないように徹しました。はっきりと意思は通じないかもしれなけど、それでもお互いが好き……いいと思います!


さて、今作は「真実の地」という作品からの設定や人物をいくつか出しています。

ですが……2018年1月現在ではこの作品は未発表(未完成)なため、あまり上手く補完できてないように見えます。

真実の地が完成次第、丁寧に修正を加える予定です。


……今作を読んでくださったあなたに、運命に立ち向かえる勇気と、幸せと希望を見つめる心を持てるよう願っています。

あなたにとって最善の運命が訪れますように。


そして、リーブとベジュ、村人の皆さん、世界中の皆さんがかけがえのない幸せを噛みしめられるよう祈っています。

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