サミーは私の大切な友達で心から大好きなんだ
あさひちゃんは飼っている老犬サミーの頭を撫でていた。
5歳の時に亡くなったお父さんの愛犬だった。あさひちゃんはお父さんが恋しくなるとサミーの頭を撫でに庭へ出た。
サミーは昔のように犬小屋の屋根に登って、元気に喜んで吠えた頃のようには、あさひちゃんを迎えることが出来なくなっていた。
あさひちゃんを見つけるとサミーは体を起こして、屋根を見上げるが、すぐに体勢を変えて、あさひちゃんが来るのを待っていた。もう駆け寄る体力もないのだ。サミーは老いた自分に戸惑っているように見えた。
「サミー、はやく、よくなってね」とあさひちゃんはサミーの頭を撫でながら言った。
サミーは小さく尻尾を振ったが、疲れたのか、その場で横たわってしまった。
あさひちゃんはサミーのお腹を優しく擦ってあげた。
「サミー、きもちいい? つかれがとれた?」と優しく話しかけた。サミーは目を閉じて寝息をたて始めた。
あさひちゃんはサミーを起こしてはならないと思い、右手で長いこと撫で続けていた。
あさひちゃんは、右手が疲れてきたので、撫でるのを一旦止めてから、右腕を高くあげたり、手首を回したりして疲れをほぐした。サミーは目を開けて、その様子を静かに見守っていた。それは父親の眼差しと同じように見えた。
あさひちゃんは今度は左手で撫で始めた。サミーは幸せそうな顔をして再び目を閉じた。
あさひちゃんはサミーを守る決心していた。ずっと一緒に育ってきた。兄弟のような存在になっていた。兄ようであり、時には弟のようであり、1番の親友でもあった。
あさひちゃんとママがケンカをした時には「家出するっ!」と言って何度もサミーの犬小屋に潜り込んだ事があった。
サミーは、あさひちゃんと一緒にいるのが嬉しくて、あさひちゃんの側で安心してよく眠った。
小学4年生になったばかりのあさひちゃん。サミーとは、これからもずっと一緒にいたいと願っていた。
「サミー、ずっと一緒にいようね」とあさひちゃんはお腹を擦り続けながら何度も囁きかけた。
「クゥン、クゥン」とサミーは、あさひちゃんに甘えた声を出した。
あさひちゃんは嬉しくなってサミーの頭を強く撫でた。
夏の終わりが近づいていた。切ない風が舞い上がり、夕暮れが珍しくピンク色に染まっていた。
あさひちゃんは空を見上げていた。星が出始めていた。
「サミー……」とあさひちゃんは泣きながら言った。涙が溢れ出て止まらなかった。
「サミー、空が見える?」あさひちゃんは涙をぬぐいながらお腹を擦り続けた。
「サミー、空が綺麗だよ」とあさひちゃんは言った。
サミーは吠える代わりに何度も尻尾を振って、あさひちゃんの思いに答えた。あさひちゃんはそれが嬉しくて声をあげていつまでも泣いていた。