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彼の誘い

気が付くと私は、講堂の入口に立っていた。

突然立ち止まった私の様子に、彩花と元気は心配そうな表情を浮かべているのが目に入った。


「どうかしたのか?」


私は一度深く目を閉じると、なんでもないわと苦笑いを浮かべ、彼らと次の教室へと向かった。



大学の授業が終わり、アルバイトに向かおうと足を進ませると、後ろから元気が駆け寄ってきた。


「鈴那、さっきまた顔色が悪いみたいだったけど・・・大丈夫か?」


私は彼に心配をかけないよう笑顔を返すと、大丈夫だと答えた。


彼とは家が隣で、小さい頃からずっと一緒にいた腐れ縁だ。

小中高と同じところへ通い、まさか大学まで同じになるとは思わなかった。

彼は整った顔立ちに笑顔が眩しい、居るだけで場を明るくしてくれる。

そんな彼は女子にとてもモテた。

小中高の学生時代、彼の傍に近寄るな!だの何度嫌がらせをうけたのかはわからない。

しかし元気は特定の彼女を作ることがなく、彼が私をかばうとさらに嫌がらせがひどくなっていくのだった。

そんな事があった中で、私は嫌がらせを適当にあしらいながら、レイラとの生活を楽しんでいたんだけどね。


「今日飯食いに来るか?母ちゃんが呼べってうるさくてさっ」


「ううん、今日はバイトもあるし、また今度行くね。お母さんに宜しく。」


そっか、と寂しそうに呟いた彼を背に、私はアルバイトへと急いだ。


私の両親は、6年前に亡くなった。

高校入学して間もない頃事故にあった・・・即死だった。

傷心した私を見かねて、隣に住む元気の家族は私を家に招き、ご飯を用意してくれるようになった。

申し訳ないながらも、弱っていた私は彼の家によくお邪魔していた。



アルバイトへ向かう途中、また視界が真っ白になった。

ちょっと、頻繁すぎない・・・?

気が付くと、私は最初にきた青年の部屋にいた。


ルイスは手に本を持ったまま、突然現れた私に呆然としたかと思うと、次第に顔を綻ばせた。


「お久しぶりです、スズナ様」


彼は王子様との言葉がふさわしいほど、美しい青年へと成長していた。

私の身長を軽々と抜き、ブロンドのサラサラヘアーに澄んだ青い瞳で私を見据えていた。

おぉっ、眩しい・・・。

まぁ王子もレイラも整った顔立ちをしていたし当然か・・・。

私はルイスに見惚れていると、彼はゆっくりと私に近づいた。


「どうかしたのですか?」


彼は徐に手を持ち上げると、そっと私の頬へ触れた。

やばっ、破壊力がすごいわ。

私は慌てて我に返ると、なんでもないと彼の手を掴み、微笑みを浮かべた。


「えーと、何か困ったことでも起こった?」


こうやってこの世界に呼び出されるってことは何かしらの目的があることが多いからだ。


「いいえ、何もありませんが・・・宜しければスズナ様のお話を聞かせていただけませんか?」


彼は眩しい笑顔でそう話すと、私は顔が熱くなるのを感じながらコクリと頷いた。


彼はメイドを呼びお茶を用意させると、私を席へと案内した。

部屋にいるメイドや騎士は、突然の存在に何も言うことはなくただただ壁の傍に立っていた。

レイラの時もそうだったけど・・・私の存在はこの世界で、どんな風に認識されているのかしら?

まさか本当に精霊だとでも思われているのかな・・・。


私はお茶へと手を伸ばすと、静かに啜った。

このお茶・・・懐かしい。

レイラとよく飲んだお茶と同じ味に、懐かしい思いがこみ上げてきた。

そんな私の様子に彼はただただ微笑みを浮かべ、優しい青い瞳で私を見つめていた。


私は彼に視線をあわせると、私の世界の事や、レイラと過ごした日々について話した。

そんな中、私はレイラを殺した犯人が見つかったのか・・・?と質問してみると、彼は静かに首を横に振った。

この世界は私の住む世界と違い王権で成り立っている。

戦争はないものの、派閥がいくつもあり、貴族同士の醜い争いをレイラと何度も見てきた。

王妃の座を狙う貴族たちが、王妃に一番近いレイラを、手篭にしようと襲わせたり、暗殺者を仕向けたり・・・。

私が物思いに更けていると、彼の青い瞳がじっと私を見つめていた。


「こんなにゆっくり話すのは初めてね」


「そうですね、いつもスズナ様は突然消えてしまいますから・・・」


彼は寂しそうな様子を見せると、カップを持ち上げお茶を飲んだ。


「そうだ、今日城で舞踏会が開かれるんです、よかった参加しませんか?」


「いやいや、無理でしょ・・・。いつ消えるかもわからないし・・・」


彼は静かにカップをソーサーに戻すと、


「大丈夫ですよ、この国でスズナ様を知らない方はおりませんから」


えっ、ちょっとまって、私はどんな認識をされているの・・・?

私は彼の言葉に血の気が引いた。


「・・・・私はこの国でそんな認識をされているのかしら・・・?」


私は恐る恐る尋ねてみた。

彼はキョトンとした表情を見せると、


「お母様があなたにこの世界の市民権を与え、貴族や王族とは異なる称号持っていることをご存じないのですか?」


「えっ、それどういうこと?」


「あなたは何度も私の母の貞操や命を助けたのでしょ?その功績を認められ王族からあなたの人権に対する保証が、母が王妃となった時に宣言したのです」


いつの間に・・・!

私は茫然自失でルイスを眺めていると、彼はクスリと笑った。


「ですので、安心して舞踏会に参加していただければと思うのですが、いかがでしょうか?」


「ちょっと待って、いやいや・・・舞踏会ならドレスも必要だし、エスコートも必須でしょ?昔レイラに教わったわ」


「そこはご安心下さい、ドレスはご用意しておりますし、エスコートは私が勤めましょう」


時期国王が私ののエスコート!?

無理無理・・・!彼の見目からしてエスコートがいないわけがないし・・・!


「いやいや、ルイスならもう相手がいるのでしょ?」


「残念ながら、まだ見つかっておりません。宜しければ相手役になって頂けると助かるのですが・・・」


彼は悲しそうな表情を浮かると、大きな手で私の手を強く握りしめ、上目遣いで青い瞳をウルウルと潤ませていた。

くぅっ・・・反則でしょ・・・!

私は強く出ることができず、なし崩し的に舞踏会へ参加することとなった。



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