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第二話 完結編 やっぱりどう捉えていいのかよく分からない? 

 時刻は8時10分。


 徐々に登校してくるクラスメート達をターゲットとするべく、玄関に向かった大木は3年用の下駄箱の側で身を隠していた。彼の背後には女子高生になった高山と、もともと女子高生である姫路亜美が隠れている。外では雨は止み、再び曇天に戻っていた。



「どうだ大木。誰かよさげな奴が登校してきたか?」


「きたきた!今、金田の奴が校門に入って、こっちに向かってる」



 金田とは、二人の共通の友人であり、同じクラスに属している男子生徒である。


 黒縁の眼鏡をかけた、中肉中背の猫背な高校生である彼は、イケメンとは言い難い無骨で無愛想な顔立ちをしている。日に焼けたその顔は、ワイルドというには微妙で、かといって知性派というわけでもない。人物としての彼は、ただ寡黙を装いつつ、シュールなボケを放つことだけを生き甲斐としている不毛な男である。


 メガネの奥のその目は「死んだ魚のような目」などと評さるなど、一部の人間を覗いて彼が本心で何を考えているのか分からない。だが一部の人間こと大木&高山は分かっている。彼は大木や高山とさして変わらない阿呆であることを。大木はこの怪人・金田をターゲットに選んだ。女になった自身の魅力で落とそうという……無謀な挑戦だ。



「うひょひょ〜。なんか緊張すんなぁ」


「自信を持て大木!今のお前は超絶ポッチャリ可愛いし。完全に声も女だし。演技力を発揮すればいける。な?姫路」



 同意を求めてくる高山に姫路は困惑する。



「な?って言われても……何が?」


「だから。大木は金田を落とせるよな?ってこと」


「いや……意味がよく分からないんですけど」



 大木は二人に向かって笑顔で敬礼をした。



「よし!行ってくる!」


「おうっ」


「行くの本当に!?誰が得するの!?」



 大木は玄関を飛び出し、学校の駐車場を歩く金田の前に出てモンローウォークしてみせる。所詮大木の発想力などこんなものなのだ。「女が男を落す」=「モンローウォーク」というべディ・ブープ時代のギャグしか頭にないのである。


 当然に金田は不気味なモンローウォーク女子を避けるようにして玄関に向かった。モンローウォークしてる爆発パーマ大木と一瞬目があってしまったがスグに視線をそらす。畳み掛けるように大木はウィンクしてみせたが、金田は全く見ていない。一目惚れして声をかけてくるに違いないと踏んでいた大木だったが、金田の無反応ぶりを前にしてこれでは埒が明かないと判断。自分の方から声をかけることにした。



「お前っ!無視すんなよ金田」


「はぁぁ!?」



 いきなり見知らぬ爆発パーマ女子高生に呼び捨てされた金田は、内心で大いに憤慨したものの、関わり合いになりたくない気持ちが勝ったのでこれを無視して玄関に突き進む。もう面倒になった大木は金田の腕を捕んだ。しかし今の彼は金田にとって友人の大木ではなく謎の爆発パーマ女子に過ぎない。当然の結果として大いに不審がられるのであった。



「な……なんだよ。いきなり何すんだお前!」


「いいからっ金田!ちょっと話があるから。こっち来いっ。ていうか来いや!!」


「いや離せ。俺はお前に用なんて全くない!おい、カバンを掴むんじゃねえバカっ」



大木は嫌がる金田を、駐車場の端にある杉の木の裏へ強引に引っ張って連れて行く。その様子を傍から眺めてる高山は笑いが止まらない。そして隣の姫路亜美はワケが分からない。



「あれ、ただ揉めてるだけじゃないの。男を落とすどころじゃないわよ」


「うぷぷっ。見た姫路?今から告白するぞ大木の奴。にしても金田の焦りまくってる顔、面白れ〜‼」


「嘘でしょ!?こっから告白するの?無理無理無理っ。本当、何を考えてるの貴方達」



 姫路亜美は「女の方から告白したら男を落としたことにならないのでは……」と素直に思ったが、阿呆達にはさしたる拘りはないようだ。ようするに金田を籠絡できたらなんでも良いのである。しかし男女の駆け引きたるもの、そんなに甘くはない。例え相手が阿呆の金田だとしても。



「見なさいって。やっぱり駄目よ。なんか変な雰囲気になってるもの」


「マジで?大木あんなに可愛いのに」


「可愛けりゃいいってもんじゃないでしょ」



 大木の動きが固まっているのが遠目にも分かる。そして金田をその場に残して、彼は玄関に向かって走ってきた。



「あれ?大木の奴が戻ってきた。早くね?」



 彼はそのまま全力疾走で高山の前に現れ、その肩を掴んで揺すった。



「告白したら2秒でフラれた〜‼くいぎみにフラれたぁ!ちくしょぉぉぉ!金田の奴、許せねぇぇ!」


「本当に告白しちゃったの大木くん!?なんでそんなことしたの!?」



 部外者には分かり切った結果だったが、二人は納得がいかないようだ。



「ええ〜マジかよ。大木はこんな超絶ポッチャリ可愛いのに。金田はフったのか」


「そりゃそうでしょ!冷静に考えて!どこに告白をOKする要素があったのよ大木君……」



 大木は下駄箱に頭をガンガンと打ちつけて悶え苦しむ。



「聞いて聞いて‼しかもフった理由が『俺は直毛の子しか愛せない』だぞ⁉嘘つけよぉぉ‼聞いたことあるか?そんなヤツっ」


「金田君なりに精一杯、気を使った返事なのかしら……」



 女子校生としてのプライドを打ち砕かれ、無駄に心に傷を負ってしまった大木。無駄死にとはまさにこのことであろう。木っ端微塵に砕け散った友人のために、天パの高山は立ち上がった。なによりも彼は金田の言い訳が許せなかったのだ。



「くっそぉ!待ってろ大木。俺が仇をとってやるからな!お前の死に様を無駄にはしないぜ」


「え!?高山君が行くの!?そもそも、なんの仇なの!?」


「任せた高山‼」



 天パのプライドをかけて高山は駐車場に向って走った。金田の前に現れた高山は、モンローウォークのやり方が分からないのでとりあえずわざとらしく髪をかきあげてみた。意外なことに金田が見惚れてる。ここで早くも面倒になった高山は、さっそく金田に声をかけることにした。というか突然怒鳴りつけたようなものなのだが。



「金田ぁぁ!」


「ええええ!?何っ」



 いきなり怒鳴られた金田は大いに驚いた。



「あの……何?俺に何か用あるの君?」


「そうだよっ。こっち来いよ金田!」


「ちょっ!さっきから何なんだこれ」



 そして強引に金田の腕を引っ張って、駐車場脇の杉の木の下へ連れて行く高山。しかし金田は動揺しつつも嫌がってるそぶりはない。それどころか死んだ魚の目と評される金田の目がキラキラに輝いている。これから起こる素敵な恋を予感しているようだ。



「もうちょいっ!金田が照れてるぞっ。そこだ!グイグイ押せっ高山!」


「やだ……。金田君がメガネを外しちゃった。本気よ彼」



 2分後。笑顔の高山は走って二人の元に戻ってくる。高山は照れている様子だ。



「どうだった高山!?結果は」


「いや〜参ったね。こっちが告白する前に『俺は天パの子しか愛せない。君こそ運命の相手』って手を握られちまったよ」


「マジでぇ〜‼なんなんだアイツ」



 この結果に姫路亜美もなんだか興奮してしまう。



「それでそれで?高山君はどうしたの?」


「それで……今に至る。すぐに金田を放ってこっちに来た。いや〜お前らに話したくて話したくて」


「え!?そのまま放ったらかしなの金田君」



 すると謎の美少女を追って金田が走ってきた。高山と大木は、慌てて3年の下駄箱の後ろに隠れる。高山を見失った金田は、姫路亜美に尋ねた。



「ハァッ、ハァッ。姫路?あのさ、女の子見なかった?お下げ髪の……。めっちゃ可愛い子」



 姫路亜美はタジタジになりながら嘘をついた。



「い……いや〜見なかったわよ。い……いたかしらそんな子」



 金田はわざとらしく頭をかいて照れる芝居をした。その姿には、恋する男としての謎の自信に満ちている。



「なんか突然、呼び止められたんだけど。名前も言わずに行っちゃってさ。1年生かなあの娘。結構目立つぜあんな可愛い娘」


「へ……へえ〜。金田君モテるんだね」


「あ、これ内緒にしといて」



 といいつつ「でもクラスの女子全員に伝えておいて」というギラギラしたメッセージが彼の顔に書いてあった。金田が立ち去ると、下駄箱の後ろから大木と高山がそうっと出てきた。二人はしてやったりの満面の笑みだ。



「ふぅっ!やばかったね〜!」



 大木はさっそく金田のモノマネをしてみせた。



「あ、これ内緒にしといて」



 2人は全力で喜びの奇声を発した。



「見た?見た?見た?金田の奴、すげー舞い上がってんぞ!相手は高山なのにっ」


「いや〜彼がああなるのも仕方がないよね。だって俺達はめっちゃ可愛いからなあ。ウンウン」



 高山と大木は謎のハイタッチをした。



「そんなに楽しいのかしら……」



 時刻は8時20分。ホームルームの時間が近づいてくる。姫路亜美も、いつまでも二人に付き合ってはいられない。



「私、もう教室に戻るね。遊びはほどほどにしときなさいよ〜。特に高山君ね」


「おお!姫路じゃあな」



 時間の都合上、クラスの男子全員とはいかなかったが、阿呆の金田を籠絡したことに阿呆の二人は満足していた。ところで姫路が去って、彼らは気づいた。自分たちがやたら目立っているということに。



「しっかしあれだな高山。野郎達が、みんなこっちをチラ見してくるな。先公まで。なんだ?俺の頭、そんな爆発パーマか?」



 謎の自信に満ちている高山が大木の肩にポンと手を置いて答えた。



「大丈夫。お前は超絶ポッチャリ可愛いよ」


「だよな〜!」



 実際、男子校生のほとんどがすれ違う二人に目が釘付けとなっていた。理由は大木の爆発パーマと、高山が異様に美少女になってたことにあった。



「っていうか、女子までこっち見てんぞ。そんな怪しいかな俺達?とりあえず手を振っとくか。ハーイ!」



 2人が知り合いでもない女子達に笑顔で手を振ると、何故か向こうからも手を振り返してくるのであった。



「にしても、なんで俺らこんな目立つの高山?」



 高山は、その問いかけは愚問だとばかりにほくそ笑む。



「だから……注目されて当然だろ大木君。だって俺達……。めっちゃ可愛い女子高生じゃん!」


「その謎の自信カッケェェー!いや可愛い〜!でも高山が言ってると思うと気持ちわりぃィ〜」



 とそこに、姫路と入れ替わるように世界史担当の伊藤先生が玄関に現れた。彼は囲碁部の顧問でもある。



「伊藤っちだ。どうする高山?一言『本日は女になりました』って説明しとくか」


「それ絶対、面倒だからやめとこう」



 2人は伊藤先生と目を合わさないように、背を向けていたが彼はそのまま通り過ぎてくれなかった。



「ちょっと、そこのアクロバティックな爆発パーマの君。こっち来なさい」


「高山っ。お前、呼ばれてるぞ」


「いやどう考えても爆発パーマはお前だろ大木!」



 大木はしぶしぶ伊藤先生の元へ。



「はいはいどうも。何か?」


「君はその髪型で登校してるのかな?ちょっと学校としては困るね」


「分かりました〜。では明日から坊主にしてきます!」


「お……落ち着きなさいっ!そんな思い切った決断しないで!色々と問題になるから。次にそっちの君も来てください」



 今度は高山が呼ばれた。



「え!?俺もですか。爆発パーマかけてませんよ俺」


「君達は二人ともちょっとスカートが短すぎないかね。なんというかね。ちょっと刺激的すぎる格好だから、明日からもっと長いの履いてきなさい」



 2人の返事がハモった。



「へい!」



 伊藤先生は立ち去っていった。



「おお!バレなかったな!」


「なんなんだよ〜この無駄なスリルは!」



 だが不毛な時間も終わりを告げる。チャイムが鳴り、ホームルームの時間になる。玄関に入ってくる学生達はすっかりいなくなってしまった。



「あーあ。廊下に誰もいなくなっちまった。どうする高山。この姿じゃ、いくらなんでも教室に顔出せないぞ」



 高山は何やら考え込んでる。



「大木さあ……提案なんだけどさ」


「なんだよ。急に」


「カフェに……いかね?」


「おぉ!?」



 高山の突然の提案に、大木は感動した。



「高山〜‼お前は女子レベルが高いな〜。行ったことあんの?」



 高山は全開の笑顔で首を横に振った。



「ないよ」


「ないの?」



 9時。無事に学校を脱出した二人は朝から開店してる某有名オサレカフェチェーン店に乗り込んだ。はっきり言って注文の仕方すら分からない二人なのであったが、この苦難を乗り越え無事に、テラス席に着席。しかし冷たい風が吹きさらしている。



「寒うっ。テラスって結構寒みーんだな高山」


「にしてもなんで冬なのにこんな短いスカート履いてんの俺達?早くコーヒーで暖まろうぜ大木」


「そうだな……あっつ!俺の猫舌は変わってないのかよ~」



 高山は片目を瞑り、両手の親指と人差し指で長方形をつくり、ファインダー越しに大木を見るような仕草をする。



「いいよ〜大木〜。都会の女子高生感がでてるよ〜。器持って。写真撮ってやるから」


「こう?こう?」



 爆発パーマの大木は精一杯オサレ女子を演じ、それを高山がスマホでパシャパシャと写真に収め続けた。姫路亜美がいればツッコミを入れるに違いない不気味な遊びであるが、残念なことに今はツッコミ役もいない。



「おお‼それそれっ。ザ•東京の女子高生!いいよ〜。素敵だよ〜。オサレだよ〜。はいカシャッ‼」


「ウププ。俺、ど田舎のガッチリ男子高校生なのに!」


「俺も撮って俺も撮って!」



 こうして阿呆な二人は精一杯、偏見に満ちた都会のオサレ女子ゴッコを堪能したのであった。しかしその時は男女問わず突然に訪れる。大木の様子がおかしい。何故か口数が減ってきている。



「どした大木。急に静かになったな」


「……高山、俺トイレ行きたくなったんだけど」


「うおっ。ついに!?どうすんだよお前!」


「コ……コレ、やばいよね。女子の方に行かないとだめなんだよね」



 大木の名誉のために述べておくと、彼は決して女子トイレに入りたいわけではないし、そこに魅力を感じているわけでもない。可能ならば男子トイレに入りたいのである。だが爆発パーマの超絶ポッチャリ可愛い女子高生(高山談)である大木が男子トイレに入るのは、別の意味で変態行為である。



「ぐぬぬ。女子トイレには行きたくねんだけど……」



 大木は大いに悩んでいた。しかし女子トイレ問題を回避する選択肢もない。家には戻れないし、学校に行っても同じこと。いっそ12時まで我慢しようかとも考える。しかしながら、どうにも我慢できそうもない。ついに大木が立ち上がった。



「高山、ついてきてくれ。頼む」


「え!?俺も?」


「ドアの前まででいいからっ」



 とりあえず女子トイレの前までは高山もついてきた。間の悪いことに、中からは大学生と思しき女子達の楽しそうな話し声が聞こえてくる。



「うおおぉ!中にもう女子がいるじゃん。しかも複数かよ。俺、この中に入んの!?捕まらないか」


「自分を信じろ!今のお前は紛うことなき可愛いぽっちゃり女子だ。心頭滅却して男であることを忘れて突入すれば勝機がある!」


「よ……よしっ!行くぞオラァ!」



 徐々に我慢の限界が近づく大木は、覚悟を決めて女子トイレのドアを開けて中に入った。しかし三歩進むと、鏡の前の女子達に遭遇。そのままUターンして出てきて高山と再び顔を合わせる。



「なんで戻ってきたお前!」


「ダメだ〜高山‼やっぱ一線超えられねえ。中にオサレ女子達がたくさんいんだぞ。無理無理」



 そのまま男子トイレの方に入ろうとする大木の腕を、高山は慌てて掴んで止める。



「バカ‼何やってんだ行けよ。男子トイレに入っちゃ余計にまずいだろ!中に男の客たくさんいたろっ!」


「高山、俺の代わりに女子トイレに入らね?」


「なんで俺が入るんだよ。なんの解決にもならないだろ」


「じゃあついてきて。一緒にしよう。友達だろ!?」


「気持ち悪いよ。なんでお前と女子トイレで連れションしなきゃいけねんだよ」


「一人じゃ不安なんだよ〜。頼むって」



 女子トイレの前で5分ほど、無駄なやり取りが続いたが、中にいたオサレ大学生達が出てきた瞬間に、大木は女子トイレに駆け込み、無事に事なきを得た。そして二人は寒いテラス席に戻った……。


 驚くべきことに、その後コーヒー1杯で、2人は2時間もテラスで粘り続けたのだ。時は午前11時。残り1時間で元に戻れる。とは言え、さすがに2人も女子高生ゴッコに飽き始める。テーブルに突っ伏した高山が、上目遣いで大木を見ながら、ぼやく。



「はぁ。二人で自撮りしてても虚しいな。もういっか。あと一時間で時間切れだしな」



 大木はストローを咥えたまま腕組みをし、何やら考え込んでるらしい。



「思い出した。小島から漫画を借りてたんだった。これ返しにいかねえと」


「急に何を言ってるんだ。今から返しに行くのかよ。後でいいだろ」


「いや今の方がいい。少女マンガだし」


「それ全然関係ないから。っていうかお前ら2人で少女マンガ読んでたの?」



 大木がどうしても今すぐ返したいというので高山はつきあうことにした……。三限目が終わり、休み時間となるのを見計らって学校に戻る。時は11時35分。15分休憩の直前、2人は小島のいる1年3組の扉の前に立った。



「小島の奴いるかな〜」


「何故、今渡す?放課後でいいだろ大木」


「でもアイツ、部活に来るかわかんねえし」


「だからって何で今なんだよ」



 とりあえず2人は机に座っている小島の姿を確認するや、自然な感じで教室に侵入する。そして大木は小島の元に駆け寄っ背後からて彼の肩を叩いて叫んだ。



「小島〜!久しぶりだな。なんか1年ぶりぐらいの気分だぞ。ヘイヘイヘイ!」


「え!?誰ですか。妙にフレンドリーな爆発パーマのこの人は」


「とにかく漫画返すぞ。『熱愛王子様、君の唇に結婚しました』いや〜キュウンンときたね。耳の奥が」


「そ……そんな軟弱な漫画は知らないなあ。そして貴方のキュウンンは単なる耳鳴りじゃないかなあ」



 大木の声はデカイので、1年3組の生徒達が大木と小島のやり取りに注目することとなった。ここで小島が態度を一変させた。



「とりあえず大木さん!ちょっと向こうで話しましょう!高山さんもきてくださいっ」



 小島が大木の背中を押し、高山の腕を引っ張って2人を廊下に連れ出す。意外な小島の反応に大木と高山は驚いた。



「おぉ?」


「小島、俺達の事は分かってんの?」


「そんな事はどうでもいいですから!なんで皆の前でデカイ声で少女マンガ返すんですか大木さん!デリカシーなさすぎでしょ」



 小島は誰の邪魔も入らないであろう、体育館裏に2人を連れて行った。



「いや2人とも学校戻ってきちゃ駄目でしょ。なんで戻ってきたんですか」


「その前にお前、なんで分かってんの?女になってること」


「姫路さんから2人の画像送られてきたんで。っていうか、カフェ店から僕と姫路さんに自撮り画像送りまくってたでしょ2人とも」


「そうそう!なんか勢いでお前にも送ってたわ」


「勘弁してくださいよ。2人の可愛い画像送られても、持て余すんですけど!」




 2人はこれまでの経緯を簡単に小島に語った。そして高山が腕時計の時刻を見れば11時55分。



「でな。オセロ師匠が言うには、12時になると俺たちは男に戻るらしんだ。もう後5分だな」


「そうそう。爆発パーマのお姫様が無事に大木に戻ります」


「まじスか!?そんなデジタルに切り替わるんですか」



 そしてその時がきた。午後12時になった瞬間、二人は突如白煙に包まれる。そして白煙が収まるとそこにいたのは男子学生服を着た男子校生の高山と大木だった。



「マジでぇぇぇ!なんだこれ!」


「いえーい!」



 ハイタッチする高山と大木。そして驚く小島。



「オセロの女神すげえっスね」


「まあ色々あってね。もうできないけども」



 大木はズボンのポケットから鏡を取り出し、しみじみと元に戻った喜びを語る。



「いや〜良かったよ、この男気溢れるポッチャリフェイスに戻れて」


「それ同感」



 唖然とするばかりの小島とは対照的に、2人は平常通りだった。



「ってもアレだったなあ高山。女になっても、そんな特にやることなかったなあ」


「いや十分エンジョイしてたでしょ大木は。写真も一杯撮ったしね」


「おお!それそれ。小島見てくれ」



 大木はさっそくカフェで撮った自撮り画像を改めて小島に見せた。



「どうっ?どうっ?」


「いやいや!どうって。てかこれを見せられても返答に困りますよ」


「大木の奴に都会のオシャレ女子感出てね?」


「いや〜……。微妙ですよね〜」



 後輩から否定されて先輩達は怒った。



「嘘だろ小島!俺めっちゃ可愛かったじゃん!」


「そうだよ。大木はすげ〜可愛かっただろ」



 えらい剣幕で先輩に怒られて小島は不本意ながら同意することにした。体育館裏でくだらない自撮り画像自慢をやっている内に4限目終了のチャイムが鳴り昼休み休憩の時間となった。ようやく通常の活動に戻れた3人。食堂に移動すると、そこで食券機の前に並ぶ姫路亜美とバッタリ会った。



「高山くん?大木くん?あ、戻ってるじゃない」



 姫路亜美と別れてから色んな事があった。高山達にはつのる話がたくさんある。



「いや〜。大変だったよ姫路。カフェで大木が女子トイレに入らなくてさ〜」


「それが高山の奴がトイレの中まで付き合ってくれないんだよ。冷たくね?姫路」


「なんの話してるの……。それよりアッチ見なさいよ!あの始末どうするのよ」


「何が」



 姫路が黙って指をテーブルの方向に向けると、そこにはラーメンを食べながらノートに何やら記している金田の姿があった。



「私は知らないわよ。金田君、朝からずっとあの調子なんだから」


「どゆこと?」


「本人に聞いてきなさいっ!」



 姫路に背中を押され、高山は金田に声をかけた。



「ウオッス。お前、何してんだ金田」


「あれ⁉高山と大木じゃん。何してんのお前ら。今日は休みなんじゃねえの」


「いやまあ色々とあってね。ところで何を書いてんのそれ」


「これか。ああ詩だよ。彼女に送る詩だ」


「詩⁉彼女⁉」


「そうか。お前ら午前中いなかったから知らねえか。今日、すげぇ可愛い子が俺にプローチしてきたんだぞ」



 高山は猛烈に困った。



「い……いやぁ。それは知ってるけどさぁ〜。気のせいじゃないかな」


「気のせいじゃねえよ!完全に相思相愛なんだよ」


「それでお前、詩を書いてんのかよ。どういう流れなんだよ」


「とりあえずちょっと見てくれ。途中だけど、この詩はいい感じだろ?彼女に聞かせるつもりだ」



 金田は詩を書き記したノートを高山に渡す。彼と大木の二人が中身を見れば、そこには震えあがるほどの愛が込められていた。



ーーーーーーーーーーーー


【愛はオセロのように】


名も住所もどこ中出身かも知らぬお前だけれど。

好きさ好きさ大好きさ。

例えインド在住だっとしても、構わない。

遠距離恋愛憧れる。


俺の心を狂わすガール。

今夜は君のことを思ってる歌うよ、ボイパしながら。

近所迷惑上等さ


ーーーーーーー



 金田の詩を読み終えた二人はドン引きする。大木は額を手で覆い嘆いた。



「百万歩譲っても会ったばかりだろ……。いきなり詩ってなんだよ」


「彼女に聞かせたらどう思うかな」



 それに関しては彼女ご本人である高山が直々に感想を述べた。



「うん、マズイよね。全く直視できない。正直、この詩をこの世界から消滅させたい」


「オイオイ。お前の感想じゃねえ。その娘がどう思うかって話だぞ」




 ここで待ってましたと大木と高山は肩を組むと、満面の笑みを浮かべる。



「いやあのな……金田。今日お前に告白しようとした女の子って2人いるじゃん?それな……実は俺たち2人でした〜‼どお?笑ったか⁉俺が爆発パーマの方なんだよぉ!」


「そうそう。あれは俺と大木。面影あるだろ?いや〜結構健気な女子高生になり切ってたからね。なかなかのもんだったろ〜。まさかそんなに真に受けるとは思わなかったけど」



 しばし金田は呆気にとられる表情を浮かべた後、二人を鼻で笑った。ノートを閉じて席を立つと、大木の肩をポンポンと叩く。そして憐れむような顔を見せた。



「そうだな、確かに今朝までは俺もお前らと一緒の次元にいたんだっけ」


「はぁ!?」


「お前らも頑張れよ。ボケで現実を誤魔化してても人生話が進まねえぞ」


「いや……だからマジだって。これマジ。冗談じゃねえっての」


「俺は一足先に行くぜ。お前には俺は眩しすぎるかもしれないが、現実を見ろよ」



 金田はラーメンで曇ったメガネを拭くと早々に立ち去った。



「違う違う違う。だからアレは俺で、オセロの女神が……。おいおい聞けって金田」



 高山は呆れた。



「行っちまったよ〜金田の阿呆。どうする?」


「いいんじゃね。ほっとこうぜ。嘘ついてねえし俺達」


「そだな」



 その様子を遠巻きに見ていた小島が二人の元に駆け寄る。



「先輩達、マジで何をやってんですか!うわ怖っ。ああならなくてマジで良かった〜‼あぶねぇ」



 実は内心で女高山の方を可愛いと思ってしまっていた小島は、一歩間違えれば自分があのような惨状になっていたかもしれなかったことに震え上がった。その後、姫路も加わって四人はテーブル席について昼食を取り始める。高山と大木は、小島にこれまでの経緯を説明した。



「へぇ〜。オセロの女神が出てきたんですか。やっぱりウチらも真面目に囲碁やらないとマズいんですかねえ姫路さん」


「そうみたいね。だからこれからは囲碁をちゃんとやりなさいよね、そこの二人も」



 囲碁部の部長として大木は意見を述べる。



「でも別にオセロやるぐらい自由だっての。なあ高山」


「ん〜。でも女にリバースされるのはシンドイよね。も〜無理」


「そうだよな〜。爆発パーマはちょっとシンドイよな。じゃあ明日から将棋にすっか高山」


「……頑なに囲碁だけを避けるわね。貴方達は」



 その時、突然に厨房から、おばさんの怒りの声が響く。



「いや、高山と大木!そういうことじゃないからっ!」



 厨房の中を見れば、怒っていたおばさんとは頭にターバンを巻いた「オセロの女神」であった。



「えぇぇぇ〜‼なんでオセロ師匠が厨房で働いてんの」


「え!この人スか?」



 囲碁部の受難は続きそうである。

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