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第一話 なんやかんやで、どう捉えていいのかよく分からない?

「えっさ。えっさ。もっと声出していけ~!!」



 曇天の下、朝7時の多吹雪高校校庭では、4人の男女が謎の訓練歌を歌いながら2列になって走っていた。訓練歌と言っても、部長が適当に思いついた歌詞を他の部員が復唱しているだけである。



「碁石はマーブルチョコじゃない〜♪そうっれっ!」


「碁石はマーブルチョコじゃない〜♪」


「白黒はっきりつけてやる〜♪はぁいっ」


「白黒はっきりつけてやる〜♪」


「大木さん、なんスかこの歌詞‼モチベーション下がるんスけど」



 ジャージ姿で走る彼らは多吹雪高校の囲碁部員達である。



「つか、なんで朝から校庭でランニングしなきゃなんねんだよ。俺ら囲碁部だぞ〜」



 真っ先にボヤき出したのは、校庭ランニングの言い出しっぺたる大木良忠という男だ。高校2年生になる彼は一応囲碁部の部長である。中背だがなかなか恰幅がよく、それなりにクラスの男子からの人望も厚い男であるのだが、囲碁部部長としては比類なく無能であった。彼が部長になったのも、同級生部員とのジャンケンに負けたからに過ぎない。その彼がボヤき出したことに部員一同からブーイングが飛ぶ。



「いや、部長の大木さんが言い出したんでしょっ!!忘れたんスか」


 大木に意見したのは、一年の小島という男である。小柄な青年であり、囲碁部ただ一人の一年生ということで、先輩達から軽く扱われている節がある。しかしながら、どんな状況でも常に突っ込みを続ける気概は評価してあげたい。



「え?高山じゃねえの」


「いやお前だよお前。お前が囲碁部も朝練やろうって言い出したんだろ。そもそもなんで囲碁の朝練が校庭で持久走なんだよ。てかさっきの歌なんだ!?後で詳しく説明しろ」



 大木の適当な嘘に突っ込むもう一人のジャージ男は副部長の高山恭介である。どちらかと言えば男前だが、大木と同レベルの阿呆であるが故に、誰からも男前とは思われていない。あとは背が高く天然パーマであるということ以外に、彼についてはさして記すこともない。



「でも外の空気っていいじゃん?お前ら見てみろよ、この晴れやかな青空を」


「どうみても曇天なんスけど」


「なんか雨が降ってきそうじゃない?高山くん」



 ここでようやく口を開いたのが囲碁部の紅一点、眼鏡姿のクールビューティーこと姫路亜美だ。彼女は唯一まともな囲碁部員である。いやまともな囲碁部員だった。彼女はもかつては本気で囲碁を極めたいという向上心を持って入部してきた。しかしながら阿呆の大木と高山が同級生であったことが災いの始まり。今では囲碁を精進することを諦め、二人同級生の阿呆ぶりを観察することを目的としてしまっている。2年に進級してからは偶然にも大木、高山と同じクラスになってしまったことで、彼女の囲碁人性はさらに脱線してきている。



「ん?あ、こりゃ降りそうだね姫路。もうやめっか」



 高山は走るスピードを落とし、立ち止まった。大木を除いた他の部員もそれに倣う。



「やめましょう」


「そっスね姫路さん。ポツポツ雨が降ってきましたし」



 三人が雨を避けてさっさと校舎に戻ってしまう中、部長の大木だけがグランドに取り残されていた……。



「おーい。待ってくれみんな〜!俺を一人にしないで。俺が部長だぞ~」



 慌てて皆の後を追いかけた大木が合流。囲碁部の男三人は更衣室で学生服に着替えると、一階の廊下に立った。



「ファ~。眠いけど部室行くか〜」


「ええ!?マジで朝練やんの高山。朝から碁石もってなにすんだよ」


「だから。お前が朝練て言いだしたんだろ?」


「そうだったな!」



 しかし後輩の小島の様子がおかしい。口を押さえて「うえっ」とえづきだす。



「おいおい。大丈夫かよ小島」


「すいません高山さん。僕、なんか走りすぎて気持ち悪くなってきたんで保健室に行ってきます。うえっ。家でラーメン食いすぎた。うぇっ」



 小島はよろけながら保健室へと消えていく。後に残されたのは無能な部長と高山だけであった。



「しょうがねえな。小島抜きで部室に行くか」


「でも小島がいないと、俺は囲碁のルールがよくわかねんんだよ〜高山」


「大丈夫!俺もよく分からねえから」


「じゃあ安心だね!」



 どうやらこの阿呆達は囲碁をやる気はないらしい。こんな二人は部室を目指して階段を登っていく。


 囲碁部の部室は二階にある。中では既に姫路亜美が着席し、碁盤を前にして正座しながら、棋書を片手に一人で碁を打っていた。珍しく朝から部室に入ってきた二人を彼女は怪訝な目でみる。


「本当に来たんだ二人とも。珍しい」



 高山は胸を張って答える。



「そりゃ〜来るよ。だって俺たち囲碁部なんだもん。なあ大木」


「しかも部長だぞ〜俺は!さあ皆で朝練に励もうっ」



 高山と大木の二人は、向き合って胡座をかくと、姫路の隣でパチパチとオセロをはじめる。



「いい加減、囲碁のルール覚えなさいよ大木君」


「まあいいじゃん。どっちも似てるしね」


「似てないわよ!似てるの色だけじゃない」



 高山は頭をかいて、照れるような仕草をした。



「五目並べならルール分かるんだけどね」


「ね〜高山‼」


「はいはい。オセロ頑張ってね」



 呆れた姫路亜美は、再び碁盤に一人向き合った。結局、大木と高山のオセロ対極は高山が勝った。



「いや〜いい勝負だったね」


「マジ熱かったな高山!四隅全部取られるとは思わなかったよ」



 高山に至っては腕を組み、玄人ヅラで語りだす始末である。



「オセロは実にスペクタクルなゲームだ。駒をひっくり返すと黒と白が入れ替わるってのが、こう、なんか人生を感じさせるよね。」


「深いなっ!俺も一字一句同じ事を思ってたぞ」



 姫路亜美は眼鏡をクイッと人差し指で押しあげ、呆れ果てた。



「本当に、なんでこの人達は囲碁部に入部したのかしら」



 その時、突然に囲碁部の戸がガラガラと勢いよく開き、何者かが部室に乱入してきた。



「オセロにかけるその心意気やよしや!」



 3人は闖入者に唖然とする。現れたのは、黒縁メガネをかけ、頭にターバンを巻き、占い師のごときヒラヒラした紫のショールを纏った厚化粧の中年女であった。何故だか左手には古いカセットテープタイプの小型ラジカセを持っている。



「おじゃまします」



 彼女はガラガラと戸を閉める。大木はしばし目を丸くして、中年女を凝視した後、高山に小声で耳打ちした。



「……誰?お前のお袋?」



 高山は首をブンブンと横に振った。



「知らない知らない!」



 彼はまるで伝言ゲームのように、姫路亜美に訊いた。



「姫路、あの人知ってる?先生にあんな人いたかな」


「知らない。二人の知り合いじゃないの?」



 謎の中年女は眼鏡のツルをつまんでクイッと上げる。



「どうも。オセロの女神です」



 想像を絶する彼女の自己紹介を前にして三人は固まった。しばらくして高山だけが辛うじて返事をする。



「お……おおおぅ」



 しばしの間、凍りついてしまった三人。しかし急いで自称女神から背を向けると、小声で囲碁部評定をはじめた。



「怖っ!女神ってなんだよ〜この人!ギリギリでアウトだよ〜」


「何これ!試されてるの俺達?」


「帰ってもらいなさいよ!大木君」


「そうだよ大木、お前が部長なんだから帰ってもらえよ」


「無理無理無理っ!怖いって」



 混乱する囲碁部一同を尻目に、彼女は持っていたラジカセの再生ボタンを押した。するとポール•モーリアの「オリーブの首飾り」が部室に流れ出す。



「はいはいはい、こっちに注目〜。オセロの女神が披露するお手軽神通力‼はいドーンッ!!」



 自称女神は人差し指でオセロ盤を指差すと、大木と高山が使っていたオセロの駒が黒白半分づつに別れ、縦一列に積み上げられた。まるで念力だ。



「え……ええええ⁉何これ!駒が勝手に動いた」


「うわわっ。なんで」


「はいっ!以上、オセロの女神イリュージョンでした。ほら拍手!拍手!」



 3人はしばし呆気に取られた後、大喜びで拍手した。急にテンションが上がる。大木は「ピー!ピー!」と指笛を鳴らす。



「お……おおおお……マジでぇ⁉これどうなってんの?」


「すんげぇ〜!手品師!?」


「いや、これ手品の域じゃないわよ。どうみても」



 ラジカセのテープを止めた謎の中年女はここに来た理由を語り出す。



「ええ皆さん。オセロの女神である私が、今日ここに降臨したのはですね……」



 だが大木が話を遮る。



「もっかい!もっかいやって!オセロ師匠」


「違う違う大木。オセロの女神師匠だって」



 話を聞かない男たちに自称オセロの女神は、目尻を釣り上げて怒った。



「喧しい‼黙って話を聞けポッチャリと天パ!」


「アンコール!アンコール!」


「もう話を聞きなさいよ貴方達。謎が一向に解明されないじゃない」



 2人が落ち着いた後、彼女は囲碁部を訪ねたワケを色々と語ったのであるが長いので割愛する。簡単に説明すると、女神は囲碁部の部室でオセロをしてる二人の熱い戦いに感動したとのことだ。



「そんなの感動することなのかしら……」


「え~人生とはくるくるとひっくり返るオセロの如く諸行無常。男と女もまた同様。オセロとはこれ人生。お前達の熱い戦いに敬意を表してオセロの真髄に触れさせよう。これからもオセロ道に励むがよい。以上で私からの挨拶は終わりにさせてもらう」


「あざーっす。……ってどゆこと高山?」


「いや全くわかんない」



 女神は高山の目の前にあるオセロの駒を掴むと、拳を天に突き上げて突然叫んだ。



「リバース‼なんやかんやで色々とリバース‼」



 そのままオセロの女神が二人をドーンッと指差すと、部室は白煙に包まれた。



「うわぁっ!」


「きゃあっ!」


「なんだよこれ!」



 すぐに白煙は収まったのだが、高山と大木の姿は消え失せてしまった。その事に真っ先に気づいたのは姫路亜美だ。



「高山君!?大木君!?二人がいなくなっちゃった!いったい貴方は何をしたんですか」


 

 姫路亜美は女神に問う。



「ノンノンノン。よく見てみろ姫路亜美。阿保達はちゃんとここにいる」



 高山と大木の代わりに見知らぬ女子高生2人が姫路亜美の隣にいた。一人は天パで、もう一人はポッチャリである。オセロの女神は腕を拡げて、バレエダンサーのようにお辞儀をしてみせる。



「はいっ。オセロの女神の神通力その2でした〜。って、おい。誰か反応しろ」



 だがこの場にいる姫路亜美を含めた3人の女子高生は、驚きのあまり女神を無視して、キョロキョロと互いの顔を見つめる。



「あの……貴方達、誰?」


「え?俺の事を言ってるのか姫路。高山だよ」



 謎の鍵を握る自称オセロの女神はドヤ顔で語り出した。



「何が起きたか理解できないようだね。それじゃあ説明してやろう。驚くなかれ、私の大いなる力で、高山と大木の性別をリバースしたのさ。つまりだね……」



だが3人は頑なに女神の話を聞かない……。



「いや貴方は高山君じゃないでしょ。天然パーマの子は皆が高山君ってわけじゃないから」


「はぁ⁉何を言ってんの姫路」


「もう高山君と大木君はどこに行ったの!?」



 姫路亜美は廊下に出て消えた高山と大木を探しはじめた。彼女を追いかけた天パの女子高生は答える。



「いやいや。待てよ!俺はここにいるでしょ姫路。問題はいなくなった大木と、このぽっちゃり女子だよ」



 これを受けて、二人を追いかけてきたぽっちゃり女子高生も反論する。



「だからぁ!大木は俺なんだけど。何コレ。二人でドッキリしかけてんの?」


「ねえそこの君、大木って奴を知らない?囲碁部の部長なんだけど。恰幅のいい奴なんだ。もうコメディアンみたいな体型の」


「だから俺だってそれ!」



 2人を見てる内に、姫路亜美は徐々に状況が掴めてきた。



「こ……この阿呆な感じ、毎日聞いてるやり取りよね。まさか2人が……」



 そこにガラガラと戸を開けて廊下に出てきたオセロの女神。廊下の壁にもたれ、腕組みしながら、事実に勘付いた姫路に向かって答えた。



「ふっ。そうさ。私が高山と大木を学生服ごと女子高生にしてやったのよ。女になっても、まんまアイツらでしょ?笑えるわよね」


「嘘!なんでそんなことするの?」


 

 彼女はニヤリと笑みを浮かべ、手の平をクルクルと表裏と入れ替えてみせる。



「罰さ。囲碁部の部室でオセロをやるようなバカに、オセロの真の恐ろしさを叩き込んでやるのさ」


「言ってる意味が分からないわ……」


「ようするに反省してもらうわけだね」


「反省するかしら……メッセージがあまりに迂遠すぎると思うけど」



 ようするに謎のポッチャリ女子高生と天パ女子高生の正体は、消えてしまった高山と大木なのであった。しかし花の女子高生になろうと彼らは相変わらず阿呆である。ひたすら不毛な会話を繰り返してみせた。



「だからっ!俺が探してる高山っていう奴は男で天パなの。背が高い天パなの。とにかく天パなの」


「てか俺の特徴、天パの他にないのかよ!」


「なんで君が怒ってんの!君は高山じゃないでしょ」



 まるで進まない会話にオセロの女神は我慢の限界となった。



「この阿呆ども‼いい加減に気づきなさいよ!キリがないから、もう鏡見せるよ!」



 2人は女神が差し出した手鏡を覗き込んだ。



「高山は左の天パ女!大木は右のポッチャリ女!分かったわね」


「お……おおお……?」


「マジでぇ!?」



 ここに至って2人ともようやく理解した。自分達の性別がリバースしてしまったことを。



「じゃあ、お前が大木なの?」


「お……おお。っていうかお前が高山!?」



 大木が自分の顔を触ると、鏡の中のポッチャリ女子高生も自分の顔を触っている。



「おい、マジか?顔が変わってるじゃん俺。あの愛くるしいポッチャリフェイスどこに行ったんだよ。これじゃあまるで超絶可愛いアイドルじゃん!」


 

 だが大木の自己評価は高山的には到底同意しかねるものであった。



「い……いやいやいや〜。お前、そんな変わってないって。愛くるしいポッチャリフェイスのままだ。安心しろ」


「やっぱり?」



 女になったと言えど、両人とも基本はそのままである。単に性別と服装が変わっただけ。しかし二人の髪型だけは大幅に変わっていた。短髪だった大木の髪は長髪となり、さらにとてつもない爆発パーマがかけられている。しかもそれがゴムで二つにまとめられた結果、水分子模型を逆さまにしたようなアクロバティックな髪型となっていた。


 大木は手鏡に映る爆発パーマの自分を見つめた。



「なんで髪型アレンジされてんの俺!?」


「てか俺もだよ。髪伸びてお下げ髪になってる。でも天然パーマだけは変わってねぇってどういうことだよ」


「貴方達、そこが気になるの?もっと他に驚くべきことはありそうなんだけど」


 

 オセロの女神の眼鏡がキラリと光る。



「いい?今日の正午までお前達は女のままだから。これは聖なるオセロを舐めちゃってくれてる罰なのよね。これに懲りたらお前らも永平寺で修行に……」



 しかし例によって3人にスルーされてしまう。



「でもお前が高山なんだな〜。なんかキショッ。ウッカリすげぇ可愛い子だと思っちまった俺を誰か殺してくれ!」


「えええー‼てかお前の方が気持ち悪いよ。大木じゃなかったら、めっっちゃキュートって思った自分を恥じたよ」


「……」


「……」



 しばらく気まずい沈黙が流れる。



「お互い、褒め合うのやめようぜ高山。本当に俺ら気持ち悪いぞ」


「そだな……」



 2人は姫路亜美をみた。



「……まあ似合ってるかな。女漫才コンビにいそう。大木君がボケの方かな」


「ちょ待てよ姫路‼俺はツッコミの方だろ!」


「いや、お前の髪型はどうみてもボケだよ大木」



 時間がなくなったオセロの女神は紫のショールをヒラヒラさせながら廊下を走り去っていった。



「ちっ。もう仕事の時間だ。アディオス!昼までには反省しとけよ阿呆達〜」


「あっ!待てよ、これ元に戻してけって!」


 

 大木が全力で追いかけたものの、全く追いつけない。



「はぁ、はぁ。行っちまいやがった……冗談だろ」



 廊下に残された囲碁部の3人は、この変態的な事態にどう対処したものか途方に暮れる。とりあえず高山は事実確認が必要だと考えた。



「てか姫路。俺ら本当に女になったわけ?まだ騙されてる気分なんだけど」


「貴方達の見た目は、どう見ても女の子よ。でも気になるなら一応、トイレで確かめてきたら?」


「確かめるって何を」



 真顔で尋ね返した高山に、姫路は顔を赤らめて視線をそらした。



「私は知らないわよっ!」


 

 大木と高山はしばらく顔を見合わせると、ようやく姫路の言わんとすることを理解した。2人とも姫路の方を向いて手刀を切るジェスチャーをしてみせた。



「いやいやいや〜。それはいい」


「うん。なんかね。男のプライドがね」



 というわけで『確認しないけどたぶん女の子だろう。てか女でいいや』というアバウトな方針が採用されてしまう。


 ところで高山にはどうしても気になることがあった。



「っていうか大木。お前のそのスカートの短さはなんなんだよ」



 何の視点でものを言ってるのか理解に苦しむが、高山的には女子高生となった大木の露出具合が許せないらしい。



「知らないよ。このファッションは全体的にアイツが勝手にプロデュースしたんだろ。つか言ってるお前のスカートも相当短いぞ」



 大木に指摘され、ハッと気づいた高山は思わず露出する太腿を手で隠そうとした。



「うわっ。俺達かなり恥ずかしいな。これが神罰ってやつかよ〜」


「学生服までウチの女子制服に変えられちゃったのね〜。にしても短いわね」



 ここで一つだけ補足しておかねばならない。それは高山の容姿についてである。彼もまた大木同様、基本的にはさして何も変わってはいない。別人になったわけでもない。


 だが大木、姫路、オセロの女神、そして高山本人含めて全く誰も気づかなかったのだが……実のところ高山はとんでもねぇ美少女になっていた。だからどうということもないのだが、まったく無駄に美少女なのである。


 どのくらい美少女かと言うと、「求愛する権利を求めてハリウッドスター全員が殴り合いするほど」または「一目惚れした石油王が、即刻油田をプレゼントして結婚を申し込むほど」と思って欲しい。しかしながら、なんで四人はそれに気づいてないのかと言うと、高山の阿呆さ加減を良く知っているが故である。どれだけ美しかろうが、元が阿呆の高山だと思うと、彼の面影を残すルックスに美など感じないのである……。



 高山は廊下の傘かけ用の鉄棒にもたれかかった。時計をみれば8時ちょうどだ。



「正午まであと4時間か。こりゃ学校にいても仕方ないな。かといって家にも帰れないし。雨も止んだみたいだから、その辺の公園でも行って時間を潰すか大木」



 高山は無難な提案をしてみせた。



「……う〜ん」



 しかしこの提案に対して、大木は腕組みしながら何やら考え込んでいる。



「大木?」


「大木君どうしたの?」



 彼は……いや彼女は、顔を上げるや突然に拳を天に向けてつきだした。



「よっしゃあああっ!こうなったらクラス中の男を逆ナンしまくってやろうぜ高山」



 何故にその発想に至ったのか常人には理解に苦しむところであるが、大木は女子高生ライフを高山とポジティブに堪能するつもりらしい。



「マジ!?」



 高山も阿呆であるが故に、大木の不毛にして無謀な提案に、テンションがあがる。



「バカ野郎どもを俺達に惚れさせまくって、歪んだ優越感を味わいまくってやるんだよ!」


「うおお!すげえ。そんな恥ずかしいことを迷いなく言える大木がカッコ良く見える!」



 大木は壁に片手をついてポーズを決め、そのまま高山の方へ振り返った。



「だって、こんな美少女2人にかかれば大抵の奴は落ちる。だろ?」


「だよな……。それめっちゃ面白そうだし!」



 姫路亜美は心の底から呆れた。


「それ面白いのかしら?ていうか、この人たちの自信はどこから来るのかしら」

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