8.秘密
濃い紫色に染まった包帯をぺりぺりと剥がすと、遇神さんの緑色の立派なウロコの隙間には、たくさんの蛆が湧いていた。いつものことだけれど、あんまり見てて気持ちのいいものじゃない。
「ちょっとシミるけど、ガマンしてね?」
一言断ってから、かばんから薬液の入ったビンを取り出してフタを回すと、遇神さんの右脚にゆっくりとふりかけた。じゅう・・・という、何かが焦げたみたいな音と一緒に、白いけむりがもくもくとたちのぼる。少しずつビンをかたむけて、蛆を洗い流していく。薬液が半分くらいになったところで蛆はきれいさっぱり流れ落ちて、草の上でのたうった後に、一匹、また一匹と動かなくなった。
きれいになった傷口を覗き込む。
「・・・如何なフランス仕込みの魔法といえど、この傷にかけられた呪いは解けまい?いい加減に諦めてはどうだね、休や?」
遇神さんが、鼻の先から飛び出た二本のヒゲがゆらゆらと揺らしながら、長い首をもたげてわたしを見つめている。彼の切れ長の目は優しくて、どこか悲しげだ。
「そんなワケにいかないよお。フェリシテさんに頼まれちゃったしね」
笑いながらそう言った。
わたしにも、半分はわかってる。この呪いは、わたしの魔法じゃ解けない。呪いをかけた人たちの怒りや憎しみはあまりに強すぎて、わたしでは完全に取り払うことができない。
遇神さんの傷を治療し始めてもう一年になるけれど、呪いは進む一方で、ちっとも良くはならなかった。力が無いことが悔しくて、でも諦め切れなくて、わたしは今でもこうして人目を忍んでは、三日に一度、遇神さんに会いに来る。もちろん、竜の傷を治療してるなんて知れたら、わたしはきっと逮捕されてしまうだろうから、このことは誰にも、とら子ちゃんやヒカリちゃんにも話していなかった。
遇神さんの太い右脚に包帯を巻く。今は真っ白でさらさらの包帯も、三日後にはすっかり紫色の血でかちかちに固まり、包帯の下はたくさんの蛆であふれているだろう。
「ところで休。手紙が届いているだろう、見せてはくれないかね?」
忘れてた。この前コバトさんから受け取った便箋をかばんから取り出して封を切ると、中の折りたたまれた紙片を広げて、遇神さんのほうへ開いてみせる。
遇神さんはしばらく忙しく目をきょろきょろと動かしていたが、やがて読み終わったのか、わたしへ向けて軽くうなずいた。
「フェリシテは、近いうちに事を起こすつもりのようだよ。休や・・・お前もそろそろ、自分のことを考えたほうがいい。黒防省とやらに目をつけられてからでは遅いのだよ?」
優しい遇神さんの言葉が、わたしにはすごく嬉しい。苦しい思いをしている自分のことよりも、わたしを心配してくれる遇神さん。だからこそわたしは、遇神さんを治したい。辛いことから解放してあげたい。
わたしは、せいいっぱいの笑顔を浮かべる。遇神さんが、少しでも安らぐように。遇神さんが、少しでも心休まるように。