6.カレシ
「休さん!」
学校へ行く途中で、うしろからヨシズミくんに声をかけられた。振り返ると、彼は息をきらしてこっちへ走ってくるところだった。
ヨシズミくんはわたしのクラスメートなので、当然これから学校へ行くはずなのだけど、なぜだか彼はいつもの制服姿ではなくて私服だった。
「いやぁ・・・この前、またやっちゃいまして・・・」
頭をかきながら言う。ああ、そっか。またか。
ヨシズミくんは、大昔に竜と一緒に暮らしていた征竜一族とかいうひとたちの子孫で、まだその力をキチンと抑えられないらしい彼は、時々暴走してしまうんだそうだ。
たぶん、この前の16号のときに、戦車の一台や二台素手でこわしてしまったんだろう。
暴走したときのヨシズミくんは、いつもの優しい笑顔からは想像がつかないような怖い顔つきに変わって、まわりのものを見境無くこわしてしまうらしいけど、わたしはその姿を直接見たことはない。
「キンシン?」
「ええ、謹慎。一週間」
ヨシズミくんは苦笑いを浮かべている。今までにも何回か同じようなことはあったから、もう慣れっこなのかも。
それからしばらく他愛の無い話をして、ふと腕時計を見るともう一時限目の授業が始まっている時間だったので、わたしはヨシズミくんにお別れを言って学校へ向かった。ヨシズミくんは、わたしに遅刻をさせてしまったことにちょっと申し訳無さそうな顔をしていた。そんなに気にしなくていいのに。
ヨシズミくんと別れてから、わたしはもうしばらく彼とデートをしていないな、と思った。
わたしがヨシズミくんにコクハクされたのは、たしかわたしがフランス留学から帰ってきた直後だから、もうだいたい一年のお付き合いになる。それなのに、わたしたちはこれまでにあんまり恋人らしい会話とか遊びをしたことがなかった。わたしはそういうのがよくわからないし、ヨシズミくんのほうから誘われることもあんまりない。
これなら、別に友達でもそんなに変わらないのに。どうしてヨシズミくんは、わたしと恋人になりたかったんだろう?
学校へつくまでの間、わたしはずうっと、年下の友達のような恋人のことを考えていた。
あ、こういうふうに考えるのがコイビトドウシってことなのかな?と思った瞬間、一時限目の授業の終わりを知らせるチャイムが鳴った。
わたしは教室のドアを開けようとして、中から出てきたナカムラ先生におこられた。