5.親友その二
雨上がりの教会は、人でいっぱいだった。開け放たれた、横開きの大きな木製のドアの向こうに、頭をさげたたくさんの人。
さらにその向こうから、いつものように、すきとおったガラスみたいなきれいな声が聞こえてきた。
わたしは目をとじた。
生きるためにパンを作りましょう
あなたには手があるのだから
手がないならば困っている人を探しに行きましょう
あなたには足があるのだから
足がないならば歌をうたいましょう
あなたには口があるのだから
口がきけないならば隣人を想いましょう
あなたにはこころがあるのだから
苦しいのはきっとあなたがひとりだから
寒い夜は身を寄せ合って眠りましょう
弱いのはきっとあなたがひとりだから
恐れに震える夜は大好きな人の笑顔を思い浮かべて眠りましょう
「おっはよ、休!まるで台風一過ね。気持ちよく起きれた?」
目をあけると、ヒカリちゃんが目の前に立っていた。彼女の全身は今日もほのかな金色に光っていて、まるで天使みたいだった。
歌を聴きに来ていたひとたちが、次々にヒカリちゃんの光る手の甲へキスをして帰っていく。
「あの歌は、私の願望なんだ」
わたしたち以外に誰もいなくなったあと、ヒカリちゃんは長い髪をなびかせてそう言った。この教会で一人で暮らしているヒカリちゃんは、こう見えてけっこうさみしがり屋だ。
彼女はあまり外へ出たがらない。だからわたしは、毎日のようにここへ歌を聞きにくる。
おみやげに持ってきたカレーパンを見て、ヒカリちゃんは真っ白い歯を見せてにっこりと笑った。文字通りのかがやく笑顔に、わたしは彼女が天使とか聖女とか呼ばれている理由がちょっとだけわかった気がした。