4.16号
お腹に響く低い音で目が覚めた。
自分でもどうしてこんな進路を選んだのか良く分からないけど、今日はお仕事をしなきゃならない日みたいだ。歩兵科の中でもわたしたち女子組は、街の人たちをできるだけ安全な場所に連れて行くのが任務。
身支度をしてアパートのそとに出ると、ざあざあと滝のように雨が降っていた。テレビで、今年十六番目のドラゴンは水竜であると言っていたのを思い出した。
自転車に乗ると、真っ直ぐに学校へ向かう。道路には水がたまっていて、タイヤが滑って何度も転びそうになったけど、なんとかすてんといかずに済んだ。あたりには警報のイヤな音が鳴りひびいていて、とおり過ぎる家々の窓のなかでは、不安そうにからだをくっつけあった人たちの顔が並んでいた。
学校に着くと、グランドにはもう戦車と飛甲艇がキレイに並んでいて、その横ではわたしのクラスの女子たちが点呼を受けていた。あ、遅刻。自転車をグランド脇にとめて駆け込む。
「休、late。こんナ時にー」
「ごめぇー」
とら子ちゃんにおこられた。
点呼はまだわたしの番までまわっていなかったようで、列に並ぶとすぐ名前を呼ばれた。担任のナカムラ先生は返事をしたわたしをちょっとにらんだけど、すぐに何事も無かったみたいに次のひとの名前を呼んだ。
わたしやとら子ちゃん、それにクラスのみんなが着ている、いつもの制服とは違う戦闘服のせいか、なんだかまわりの空気が重たいような気がして、ざわざわして落ち着かない。
「よーし、全員揃ったな。じゃあ行動開始!訓練のとおりに迅速にな!無事を祈る!」
ナカムラ先生が、ちいさい身体をいっぱいに伸ばして空へ向けて突き出した腕を振り回した。先生の頭に乗っかっているパラボラアンテナが、今日はいっそう上を向いている。たすきがけしたベルトにぶら下がっているラジオに、几帳面にも雨を防ぐためのビニルがかけられているのを見て、わたしはちょっとおかしくなった。
クラスのみんなが、いっせいにグランドを飛び出していく。
とら子ちゃんと自分と同じ班の数人の女子にうなずくと、わたしたちもグランドを出た。わたしたちの班は、うめいろ区の百五十軒を回って、避難場所である比良山の上の教会へ連れて行かなければならない。班長はわたしだから、しっかりしなくちゃ。
空を見上げると、水竜16号が、絵の具みたいに鮮やかな水色の身体を翻して、わたしたちの頭のすぐ上を飛んでいくところだった。かみなりみたいな16号の鳴き声が、大粒のしずくといっしょにわたしたちの耳を叩いた。