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おやすみ、ドラゴン  作者: 墨谷幽
おやすみ、ドラゴン
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3.海と坂の街

 ヨーロッパ風のオシャレで背の低い建物が並ぶ街並みを、おきにいりのママさん自転車で駆け上る。道路わきに連なる、てっぺんに昔の帆船のオブジェを乗せた白い電柱が、目の端をながれていく。まだ朝早いせいか、道にはだれもいない。

 鈴比良市には、坂が多い。街にいくつもあるこのような坂を下ると海へ出るけれど、逆に上ると、どの坂も一つの山にたどり着く。それが比良山だ。

 山道の入り口に自転車を止めて、歩いて登る。比良山は背の低い山なので、歩いても十分くらいで頂上へつく。緑のはっぱがおり重なった屋根の隙間から下りてくる、気持ちいい日差しを浴びながら、ゆっくりと歩く。

 やがて、頂上の目印である、濃い青ときいろのかった白色のたてものが見えてきた。教会だ。突き出た塔にはめ込まれたステンドグラスが、日の光を反射して鏡みたいにきらきらと輝いている。

 教会へつくと、入り口の低い階段に腰かけた。教会にはわたしの友達が一人で住んでいるけど、たぶんまだ寝ているだろうから、ドアの横にあるチャイムを鳴らすのはやめておいた。起こしちゃかわいそうだ。

 頂上のあたりの木はまばらで、教会の正面から山のふもとを眺めると、斜面を這うように横たわっている鈴比良市の全景と、その向こうには青い青い海が見渡せる。

 わたしは週に一度、こうして朝早くにここへやってくる。早朝の山の空気を味わうため、なんていうと格好がいいのだけど、本当は手紙を受け取るためだった。

 しばらく待っていると、やがて遠くの空からコバトさんがやってきた。時計を見る。午前7時、時間ぴったり。

 コバトさんは幾度か軽快に羽ばたいたのちに、わたしの肩へふわりとおりた。首のところにくくりつけられている、丸められた紙を取りはずすと、わたしはコバトさんにお礼を言った。

「ありがと。いつもご苦労様ー」

 コバトさんは灰色の羽をすくめる。

「いいってコト。これしきの距離じゃあ俺はへばらねえよ。いい加減ウチの安月給にも慣れて来たしさ・・・」

 わたしは受け取った手紙を肩にかけたかばんにしまいこむと、代わりにビスケットを一つ取り出して手のひらに置いた。コバトさんが手の上におりてきて、それをついばむ。チップの代わりだ。せわしなくビスケットをつつく姿が可愛かったけど、それを言うと決まっておこられるので、黙っていた。彼は仲間うちではクールな伝書バトで通っているらしい。

 コバトさんはビスケットをきれいにたいらげると、少しの間わたしの手のひらの上で毛づくろいをしたのちに、ふわりと飛び立ちフランスへと帰っていった。

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