水の里 カズラ
洞穴は奥に行くにつれ急激に下がってくる。
苔や髭のような地衣類達が密集する空間を抜けるとサラサラと水の音がしてくる。
『リバー』の地下の水源が流れ落ちる音だ。
黒い石と水が勢いよく噴き出している広場に老婆が座っていた。
村長のメイドの重臣、そして巫女としての役目も果たすカズラだ。
浅黒い肌に長い白髪は今は降ろされ床まで届いている。
「おかえりラズ。」
光る器からラズに視線を写す。
文様を目尻に刻んだ目は灰色だ、もう視力はない。
「ただいま帰還いたしました。母たちに捕まってしまって遅くなってしまいました。」
膝をつき胸に腕を交差し頭を下げる。
「私もマウから先ほど帰ってきた所さ。バードも年をとったねえ。ティア達の警告に注意をおこたるとわ。」
達あがり角の小さな釜から陶製の壺を降ろす。
カズラは獣に自分の魂を載せることができる魂を載せているときカズラは昏睡したようになるのでちょうどタイミングが良かったようだ。
「ババ様、お疲れだと思いますが。至急パリス様に伝言をお願いします。」
釜の側に吊るされた袋から茶葉をいれ木のワンを二つ並べる。
「メイド様が、族長会議にいかれた。メイド様にしたほうが良かろう。この老体にはあの男の魂と接するのは疲れるんだよ。」
カズラは王女から使わされたパリスが嫌いなのだ。
よほどのことがないかぎりパリスに気を飛ばして言葉を伝えることはない。
「敵に魔法使いがいます。邪悪な闇の力を持っているようです。禁呪を使えるようです。名は……」
ラクールと指でババ様の手に書いた。
名を呼ぶと肉体も呼んでしまうことがあるからだ。
「この魔法使いの上に指導者がいるようです。彼らは聖獣達の気を集め魔力を強めようとしているようです。ありがとうございます。」
フンワリと甘酸っぱい香りが口に広がる。
まだ冷えていた体の奥があったまった。
「気を集めて何しようとしているんだろうね。ラズ、これはネプチューン王国だけの問題で済まなそうだよ。私は不吉な予感がするいいかいラズ、水の精達はこの星を見捨てるかも知れない。その時はあんたもこの星をでるんだよ。メイド様に伝言しとくよ。」
この星を捨てる、でも母様達を見捨ててはいけない。
いざとなれば精霊を裏切るしかない。
そうならないように祈りたい。
激しく落ちる滝をみながラズは心の中で祈った。
闇にほろばされないようにどうかこの星をお守りください。




