つかの間の時間
「たぶん疲労だからだいじょうぶですよ。ウラヌス様、後は私が見てますから。」
リラの葉の香りがする。
「良かった、私は戦場にすぐに行かなければ。戦いが終わったらゆっくり湯につかりにまた来よう。」
何年かぶりにきく魔法使いのウラヌスの落ちついた声だった。
「お気をつけてウラヌス様。」
着物のスレる音とタペストリーについた鈴の音がチリーンとした。
「ミーシャは炊事場の皆さんのお助けしてきますね。」
ミーシャが出て行く音がした。
目をゆっくり開くと暖かな光でキラキラ輝く天井がぼんやり見えた。
『私もソロソロ帰らなきゃ。仲間達の手助けしないと。ノクターンの話しだと男達は戦いの応援に出発したらしいからきっと大変よ。また戦いが終わって落ち着いたらくるわね。外に出ちゃだめよ。』
ラベンダーの声がする。
「はーい。ラベンダーはここにいさせたら? 」
『そうね、下手に飛んで帰ったら危なそうだし。じゃあ戻るわね。』
ラベンダーの気配がさる。
一瞬、長い髪を結い上げた少女と目があった。
『無理なさらないでくださいね。【風の民】が必ずお守りいたします。今は体を休めてください。』
【風の民】の長の娘、ハナツだ。
『ありがとう。』
優しい風がほほをなでた。
意識だけが『リバー』を飛ぶ。
緑豊かな森を川が囲むように流れている川は一つは『星の草原』から少し離れた湿地帯の中に落ちている。
草原には黒い影がひしめいている。
もう一つ、『タイガーの丘』に落ちる空洞のあたりに銀色の物体があるのが見える。
なんだあれは?
「ワッ、パリス。あれだろあれは敵さんの本拠地ぽいぜ。そのままのりこもうとするなよ。お前が起きるまで俺が破壊してやるからよ。」
龍の姿のヒディーがそういって降下していく。
「気をつけろよ。敵は気を吸い取るらしいからな。」
龍の気を抜き取れると報告はないが。
「心配するな俺は三目一族だぜ。あんな奴らにやられねえよ。お前は自分の肉体に帰れ、敵さんに縛られたら姫が心配するぞ。」
そういいながら思いっきり飛ばして行くあたりがヒディーらしい。
ウラヌスが顔を上げるのが一瞬みえた。
「ワザワザこなくても良かったのに。ミモザありがとう。」
意識が体に戻るとリラの香りとミモザがまとう清めの香の匂いがした。
「ウラヌス様がお見えになっていたのですね。すいません留守にしていて聖獣達の様子を見に行っていたので。」
リバーには王族はいない。ここの長達は各自で地域を納めている。
ミモザは気の谷に古くから住む一族の末裔だ。
聖獣達の癒しや毛皮を与えられた時の言伝をするのが役目だ。
「パリス様がお目覚めになりました。意識飛ばしで無茶しないで下さいね。では私は泉に行って参ります。」
手を胸元にクロスさせお辞儀してシャランと髪についた鈴をゆらしミモザが去って行った。
「良かった。戦いはだいじょうぶよ。ウラヌス様がいらしたから。」
苦笑する、本当に気持ちをよく読んでくれる。
「心配かけたな。ヒディーもいるようだしな。聖獣達の気の回収は急がなきゃいけないな。」
出来る人間は限られているし日数がたつのはまずい。
「ツィリーさん達が来てくれるならだいじょうぶよ。ツィリーさんと龍の兄弟のイリさんは龍の谷で修行して心臓石を持っているのよ。」
『風の民』か、パリスはあんまり接したことはない。 リバーだけでなくネプチューンの星々を自由に旅する民で長はいない、イリのように修行したものがリーダーになり集団を作って暮らしている。
「イリもいてヒディーもいれば少しは安心だな。マウは来てないか?」
密偵達からの知らせはマウという毛の長いネズミのような生き物がもってくる。
「いまのとこはだいじょうぶよ。あっフェニが帰ってきた。どこ飛んでたの?」
開けたタペストリーから入ってきたフェニを見てナオが笑いだす。
ツタだらけなのだ。
「ああどうしたらそうなるんだフェニ。」
笑いながらツタをとるナオの手伝いをする。
「足になんかついてる。これはおババ様からね。」
フェニの足についていた手紙を開くとカズラの魔法文字がならんでいた。
「敵の艦隊が『タイガーの丘』に本拠地を構えている。水路の調査をしているなら事態は変わる。注意せよ。」
ナオの顔が変わる。
「水路があるとこは危険か。うかつに動けなくなったな。そうかそれで水路に異変が起きたのか。」
水の精の力が最悪なじたいをふせいでくれることを祈るしかない。
「ベリー、だいじょうぶかしら?」
おそらく敵の本拠地にぶつかるだろう。
「だいじょうぶあいつは賢いからな。これはサシャの花かこの花は不思議だなこの花が香る所に敵はいないんだ。」
疲れがどっとでてくる。
「サシャは暗黒の地で産まれた少女でした。彼女が育った所は闇の力が強く、発達した科学と力がまぢりあい星は壊れようとしていました。ある時ついに惑星は壊れてしまいました。サシャの魂は石となり広い世界を飛びある惑星に着きました。そこで美しい花となりサシャは産まれ変わりました。サシャと闇をきらった人々の思いは花に宿りました。アフロディーティ様が話してくれたサシャの花の伝説、きれいな話よね。」
サシャの花にそんな話が、政治にとらわれすぎて伝説を知らずにきたことをパリスは思い知らされた。
「そうか。俺は忘れていたな花や木々にも気が宿ること。」
ナオの長い髪にふれる。
「だからパリスには聞こえないのよ。精霊達の声が。」
いたいとこをつかれる。
「そうだな。」
フェニの毛をすいてやる手元を見つめるすいた毛をと集めて小さな袋につめている。
「イリに渡してユンの赤ちゃんのために使って貰おうねフェニ。」
金色がマヂってきたフェニ、もうすぐ会話が出来るようになるだろう。
「ユンに子供できたのか。」
小柄なユンが奮闘しているのが目に浮かぶ。
初めてリバーに来た時にナオにくっついて歩いていた少女ももう立派な『風の乙女』になったようだ。
「ほんとそんなにここにきて月日がたったのね。私と会った時はまだ乙女の印はなかったもの。いい方向に進んでほしいわ、私が住んでた地球みたいに殺しあいが起きる世界にはなってほしくないもの。」
必ず守ろう、ウニバルゾ事態までは守る力はなくても『リバー』は守ってみせる。
パリスはちかった。




