おーっほっほっほ、まさかの新・編・突・入で、す、てぇっ!?
ランキング入りという快挙を成し遂げたので、その勢いに押されて続編投稿してみました。
今後も不定期ですが、短編もしくは連載でコツコツ投稿する予定ですので、よろしくお願いいたします。
その日、アルドア学園高等部では入学式が行われていた。
貴族の令息は自らの領地に更なる発展に繋がる何かを学び、夜会巡りよりも学問に喜びを見出した令嬢は親の反対を押し切り大成する為に学び、平民は将来の就職を更に有利にし身を削ってでも活路を見出す為に学び、それぞれの思惑はともあれ、誰もがこの学園に『学び』に訪れていた。
アドリアナ・ピスタリオ・ロンドベルも、押しも押されぬ公爵家令嬢として高等部への進学、それも首席合格が決定していた。
新入生代表も彼女はこれで三度目と堂の入ったもので、初等部、中等部、そしてこの高等部でも朗々と代表挨拶を行っている。
アドリアナたち新入生、そして高等部所属の学生たちの一部は彼女の姿に見惚れていて、彼女が挨拶を終えるまで口がだらしなく開いていた。
「…これにて、新入生挨拶を終了とさせていただきます。
ノヴァルト暦1245年4月12日、新入生代表、アドリアナ・ピスタリオ・ロンドベル」
演奏会の演奏終了直後でもないのに会場総立ちの事態となった講堂は彼女の挨拶への答辞をする生徒会長が肩身の狭い思いをする事になったのだった。
そして入学式が終わり、新入生たちが保護者席にいた親や従者たちと帰路へと着こうとしている中、新入生代表のアドリアナは呼び止められていた。
「…久しぶりだな、アドリアナ。
覚えているか、俺の事を?」
尊大な物言いの青年は祖国の王族だけが持つとされる白髪を手櫛で整えながらアドリアナに声をかけていた。
「…記憶違いでなければ、ノースエンド王国第二王子、カインズ様でしたか?
こちらの学園に転入されていたのですね、驚きましたわ」
硬い表情を崩さず、淡々と返したアドリアナは軽く礼をとる。
自国の王族にならともかく、他国の王族にそこまで畏まった礼を取りたくなかったアドリアナは表情を変えず、ただカインズの話が終わるのを待った。
季節の挨拶、自国の情勢を理由にこのアルドア学園に編入してきた事を聞きもせずに語るカインズにげんなりとしながらも表情を変えないアドリアナは視界に映った自分の執事、エヴァンスを見つけた。
「―――カインズ様、お話中に申し訳ありませんが、私急いでおりますので、これで…」
最近の趣味を話している途中でアドリアナはカインズに声をかけた。
今日は学園の入学式とあって、時間を作ってくれた父が屋敷に帰っているのである。
先日の茶番劇の『後始末』を全面的に放り投げてしまった手前、最近会っていない父に礼も兼ねて食事に誘っていたのだ。
アドリアナが経営している商会が出資しているレストランで、貴族用の個室も完備していて密談にも使えるという実にアドリアナ好みの設計がされていた。
「…そうか、宰相のアリスト殿によろしく言っておくがいい」
アドリアナの表情に変化が一瞬生じたがカインズは気付かず、なにやら含んだ言い方をするカインズを済ました表情でアドリアナは見やると、現れたエヴァンスを従えてアドリアナはこの場から退散したのだった。
×××
講堂を出てアドリアナは小さくため息をつきエヴァンスと共に公爵家の馬車に向かおうとすると、再び声をかけられた。
「こんにちはアドリアナ嬢。
入学式の挨拶は素晴らしかったね」
「…これは、サウスザスター王国のキシュワード殿下。
5年振りでございます、見違えられましたわね」
褐色の肌とアドリアナと同じく黒髪の鼻梁の整った青年を見上げた。
言葉の端々にどこか冷たいものが見え隠れしているのだが、キシュワードは苦笑するのみだ。
「ああすまない、帰ろうとしていた途中に呼び止めてしまって。
久々に君を一目見て声をかけたくて待っていたんだ。
すぐに講堂から出てこなかったけど…誰かと話していたのかい?」
探るような目つきでキシュワードはアドリアナに尋ねたが、アドリアナは何事もなかったように微笑む。
俺は素晴らしい残念白髪男のカインズの名を一切出さず、『知人と会って軽くお喋りを、おほほほほ』と返したのだった。
その様子にキシュワードは不審な目をアドリアナに向ける。
本人は隠しているつもりでも、アドリアナとエヴァンスからすればバレバレだが。
「そうか、それならいいんだ。
…ああ、呼び止めてすまなかったね、また後日学園で。
そうだ、私と君は同じクラスだったから、これからよろしく」
「殿下と同じクラスになれるだなんて、光栄ですわ。
…それでは、馬車が控えていますので、失礼いたします」
「ああ、宰相のアリスト閣下によろしく」
ついさっき聞いた言葉を耳にしたアドリアナはエヴァンスを先頭に馬車に向かっていくのだった。
×××
アドリアナとエヴァンスが停めていた馬車の元へと行くと、何故かそこには公爵家の馬車はなかった。
その代わり、この国の貴族紋ではない、他国の王族と見られる紋章をつけた馬車が止まっていたのである。
それが2台―――しかも2カ国で、長くからアドリアナのいるエイルネス国を挟んで険悪な仲の国である―――も、アドリアナはあまりの事態に眩暈でも起こしたのか、こめかみを押さえ小さく溜息をついた。
「あれは…」
口を開こうとしたエヴァンスも何かおかしいと気付いたのだろうが、アドリアナは手を上げてそれ以上口にはさせなかった。
口にしてそれが現実になるのを厭ったのである。
「やめてエヴァンス、これ以上の頭痛の種はごめんだわ…」
「…ですがお嬢様、あちらはこちらの思惑を無視して来ましたよ」
正確には無視というよりも蹂躙に等しかったのだが、アドリアナは今日がせっかくの晴れの日が厄日になったのだと観念した。
エヴァンスのトドメの言葉にアドリアナはままよという思いで努めて冷静に、この度重なる茶番劇を終わらせることを決意した。
馬車から降りてきたのは金髪蒼眼の美青年と、赤茶色の髪で褐色の瞳をした逞しい体格を持つ青年だった。
アドリアナは2人がどういう立場の存在なのか予想できたが、自分から声をかけようとはしない。
もしかしたら、自分ではない誰かがきたから降りてきたのでは…と期待したのだ。
「失礼、貴女がロンドベル公爵家のアドリアナ嬢ですか?」
「よう、あんたがアドリアナか?」
だが、同時に声をかけられた以上、その虚しい期待は一瞬で霧散した。
丁寧でどこか緊張を孕んだ美青年と、何の気負いの感じられない荒っぽく配慮に欠けた青年の2人の差に、アドリアナの内心で『早く終わらないかしら』と現実逃避していた。
「はい、そうですが…失礼ですが二方がイストリア王国とウェスタンス王国の王族に連なる方でよろしいでしょうか?」
馬車の紋章を見て、アドリアナは2人がどこの国から来たのを察した。
「ええ、僕の名はイストリア王国第二王子、クラウスといいます。
エイルネスの東、イストリアからこのアルドア学園に転入してきました。
エイルネス王国の筆頭貴族であるロンドベル公爵家のアドリアナ嬢がこの学園の高等部にいると聞いていたので、挨拶を…っ!?」
クラウスの挨拶を逞しい腕で押し飛ばすと、今度はウェスタンス王国の王族の青年が自己紹介した。
「クラウスの挨拶は長いんだよ、こういうのは軽くでいいんだよ、軽くで。
…まぁ、何だ、俺はウェスタンスのコンラートっていう。
第二王子っていう肩書きはあるが、まぁそこの所気にしないでよろしくしてくれや」
あまりにもざっくばらんな自己紹介に、アドリアナはもちろんエヴァンスも固まってしまった。
再起動に10秒の時間を要したが、アドリアナは現実に舞い戻ると講堂や講堂前と出会った2人と同様に、軽く礼をとって挨拶した。
「お初にお目にかかりますわ、私はロンドベル公爵家アリストの娘、アドリアナと申します。
賢王と名高いアスタート2世陛下の御名はよくお聞きしていますわクラウス殿下。
コンラート殿下も、武王と名高いベザリウス陛下の御名、このエイルネス王国に度々耳にしておりますわ」
角の立たない、無難でいて彼らにとって聞き慣れたおべんちゃらをして、アドリアナは2人に何か用があったのか尋ねた。
「ああ、エイルネス3世陛下に挨拶をしたのですが、その時にアドリアナ嬢の話題になりまして。
とても優秀で次期公爵というお立場なのだと聞いて…って、危ないじゃないかコンラート!!
何をするんだ!!」
コンラートの腕が振り上げられた所でクラウスは気付いたのか、慌てて距離をとった。
コンラートはクラウスが離れたことで鼻を鳴らすと、肩を竦めながらこう言った。
「だから、なげーんだってのクラウス。
誰もお前の長話なんて聞きたくもねえんだから、ぱぱっといやいいんだよ」
「王族である僕がそんな粗野な真似が出来るはずがないだろう!?
君みたいな何でも力で押さえつける粗暴で貧相な頭じゃ理解出来ないだろうけどね…」
「言いやがったな、頭でっかちで鈍間なクラウス坊ちゃんが、大体お前は昔から…」
アドリアナを放って、クラウスとコンラートが見るに堪えないケンカを始めた。
お互いがお互いをよく知っているのか、過去の失敗例や性格の短所を挙げては貶しているのだが、アドリアナにとっては好機だった。
後日また話しかけられるにしても、今日はこれ以上面倒を抱えたくはないと思っていたからである。
「…クラウス殿下、コンラート殿下も。
私は急いでおりますので、これで失礼しますわ。
ところで…公爵家の馬車がこの辺りにあった筈なのですが、どこにいったのか御存知でしょうか?」
「毒蛇に咬まれてピーピー泣いていたお前が…って?
あー、確かこの先の方に停めてあるぜ。
宰相の親父さんによろしくな」
「君だって浅瀬の湖で『お、おぼれるっ、助けてくれっ』って泣き喚いていたじゃないか!!
それを…ええ、ロンドベル公爵家の馬車は僕たちがここに止めようとしたのでこの先の方に向かっていきました。
宰相閣下によろしくお伝えください」
誰も彼もがアドリアナの父、宰相アリストに『よろしく』と言い連ねていくのに得も知れぬ不安があったのか、アドリアナは思わず深呼吸して無理矢理自分を落ち着かせた。
「…そうですか、感謝いたしますわ。
それでは、失礼いたします」
アドリアナとエヴァンスはクラウスとコンラートの前から急いで早歩きで退散すると、後方に騒がしい声を残してその場から立ち去ったのだった。
×××
ふ、ふふ、ふふふふふ。
参りましたわ、まさか…まさかこんなことになるなんて。
「…おーっほっほっほ、まさかの新・編・突・入で、す、てぇっ!?」
馬車の中で思わず地団駄という淑女にあるまじき仕草をする私にエヴァンスは同情するような眼で見つめていますが、それすらも気にかける余裕は私にはありませんの。
「…お嬢様、また『モジョ』とやらのお力で何か不愉快な未来でも視られたのですか?」
エヴァンスの問いに、私は悩みながらも答えた。
「…そうよ、困った事に、彼女からとんでもない未来を教えてもらったわ」
実は私には不思議な力があるのです。
それは、どこかの誰か、自らを『モジョ』と名乗る女性の持つ記憶を所持しているという事でした。
モジョの転生体ではなく、所持という所がミソでしてよ。
エヴァンスには限定的にこの事を教えているから勘違いして、彼女の事を『魔女』の親戚に思っているみたい。
いえ…それは今は横に置いておいて…参りましたわねそれにしても。
まさか…まさか、あの『ファン&ラブ(ファンタジー&ラヴァー)』に『続編』があったなんて!?
新入生代表挨拶をしている内に、以前彼女の記憶で見たことのある場面と思っていたら、あの劣化オレ様王子や陰険ヤンデレ王子、そしてトドメに|インテリ(笑)王子と筋肉馬鹿王子が現れて確信しました。
まさか二ヶ月前の茶番劇の続きが…続きがあったなんて。
しかも、私の立ち位置は大変不味いです。
新入生代表には、我が国の男爵令嬢―――おそらくはヒロインと同じような立ち位置にいるのでしょう―――がなっていましたが、その立ち位置には私がいるのです!!
嗚呼、なんと言う事でしょうか。
厄介事の予感しかしませんわ。
せっかく10年かけてあの不愉快な未来を蹴飛ばしてやったのに、厄介事に巻き込まれるなんて…あんまりですわ!!
何か…何か対策を講じなければ。
すでに状況は始まっていると考えなければいけませんわね。
それに加えて、男爵令嬢である彼女と私とでは国内外においても値打ちが違いますし、対応も変わってくるでしょう。
確か…タイトルは『ファン&ラブ(ファンタジー&ラヴァー)season2』でしたっけ。
舞台はこのエイルネス王国のアルドア学園、登場していた人物は周辺国の王族、そして何故か全員が『第二王子』というものでしたわ。
それぞれの国内情勢が面倒に入り組んでいるので、なるべく迅速に整理しなければなりませんわ。
まず分かっている事が一つ。
「…あの状況からして、まさかあの4人が私の婿候補?
しかもお父様が裏で何か関係しているだなんて…エヴァンス、どう思う?」
「…相手は他国の王族ですから、婚約者のいなくなったお嬢様の婿になることで祖国との関係強化を狙っているのではないでしょうか?
その審査をしたのが、旦那様なのでは?」
確かに、他国の王族を婿に入れるというのは考慮していた可能性にはありましたわ。
ですが、それは現在の情勢下では下策中の下策。
それ位お父様でも分かっているでしょうし…ということは、お父様も巻き込まれたと考えるのが自然というものでしょう。
「…けど、お父様の審査も甘いですわね。
アーサー元第一王子の劣化品にしか見えないカインズ、精神が病的なキシュワード、お互いが毛嫌いし合っていて婿入り先になるかもしれない公爵家令嬢の私の目の前で見るに堪えない、耳障りなケンカをするなんて…こんな4人をまず国に入れたのが間違いでしょう?」
「仰るとおりです、あんな連中、お嬢様に相応しくないです!!」
やけに力いっぱい否定するエヴァンスが珍しいけど、まぁそうよね。
いくら年代が合って優秀で―――本当に優秀かどうかはこれから調べるけど―――私の隣に立つ、そしてこのエイルネスという国にどうやっても協力的な人間になれるとは、とてもじゃないけど感じられなかった。
他国からの婿入りなんて、特にそう。
国を跨いでその国の人間に、骨を埋める覚悟で婿という針の筵とも言える立場になろうとしている筈なのに、彼らからはそんな覚悟がまるで見受けられなかった。
大方、将来はと我が公爵領の豊かな資源を祖国に流そうとでも考えているのでしょう、ありえない未来ですが。
そう、絶対にありえませんわ。
認めませんもの、そんな不愉快な未来は、絶対に!!
だって、そうでしょう?
いくら関係強化のために彼等の内1人が私の婿になったとして、その婿のいた先の国との付き合いとしてはお互いに利益が無ければ話になりませんもの。
利益とは、すなわちエイルネス王国に、そして何より我が公爵領に何らかの益がなければいけませんが、周辺国の王族と縁故を持ってまで利益を得るだなんて、そこまで協力以上に厄介なものいりませんもの。
整理していきましょう、まず北のノースエンド王国は8年前にエイルネス王国と戦争がありました。
しかも、発端はノースエンド王国の侵略戦争です。
辛くも我が国が勝利して賠償金もたんまり頂きましたが、その禍根が北の大地には未だ根強く残っています。
そんな原因を作った国の王族と、このエイルネス王国において貴族の中の貴族、準王族と言っても過言でないロンドベル公爵家が血を交えると?
冗談も大概にしてほしいですわ。
東のイストリア王国でも同様です。
我が公爵領は王国の東に位置しています。
広大な土地と豊かな水源、そして国内一の穀倉地帯と称される我が領地の輸出先の一つが彼の国ですが、最近ではその輸出にも問題が発生してきていました。
第一王子と王弟が次期王位を巡って権力争いが発展し、内戦が勃発したのです。
クラウスはその難を逃れてエイルネス王国に避難という形で転入して来たのですが、そんな何時その地位が失ってしまいかねない、血だけしか価値が見出せそうにない『不良債権』を婿入りさせるなんてありえませんもの。
しかも内戦を起こしている第一王子と王弟はどちらも領土拡張主義、簡単に言えば『周辺の国から領土ブン取って栄光掴むぜ』という考えをしている危険人物たちです。
クラウスは第二王子ということで支持者は少ないですが、内戦が続けば担ぎ出す輩が現れないとも限りません。
つまり、現在クラウスのいる我が国にも面倒をかける可能性が高い人物なのです。
そんな厄介事満載の王子を婿入りさせるなんて、ありえませんわ。
父でもあり、現国王であるアスタート2世陛下が病で倒れている以上、輸出は控えなければなりませんわね。
どちらか一方に加担していると見られたくありませんから…今月中に通達しましょうか。
南と西は…正直、あまり良い噂を聞きませんわ。
南のサウスザスター王国は密告制度で有名な国で、以前私の作った商会が新たな店舗、しかも初の国外店舗を設置しましたけど、その街で雇った従業員は事ある毎に商会の技術を国に密告したという最悪な実績がありますの。
幸い実験的なものでしたから、そこまで高価な商品を出していた訳でもないので比較的被害は最小限で済んだのですが、その後の対応が最悪でした。
あの国、なんと商会の店舗の資産を強制徴収しやがったのです!!
ほうほうの態で帰ってきた責任者に話を聞いた限り、資産や商品を分析し自国でも流通させようとした国ぐるみの徴収で、二度とあの国へ店舗は設置しませんし行きません。
そして、そんなふざけた制度を実施している国の王子を私の婿にするというのも全力で拒否しますわ。
密告者を作る制度を推奨して活用する国の王子なんて、国内での私の評価が最悪になりますからね。
ちなみに、現在の私の国内外での評価は『バカな元婚約者の所為で一人となり、婚期が遅れそうな神童』、だそうですわ。
まぁ、前半はその通りなのですが、後半のこれは…これを最初に言い出した者を見つけ次第、必ず闇に葬りますわ…ウフフフフ。
そして西の…あの粗暴で頭の足りていそうにないコンラートのウェスタンス王国ですが、現在最も仮想敵国に相応しい国です。
いえ、基本的にこのエイルネス王国の周辺はきな臭くそのどれもが仮想敵国なのですが、このウェスタンスはその中でも筆頭とも言える国なのです。
何せ彼の国では常に資源不足、そしてつい最近まで内戦が起きていた国でした。
なんというか、常に資源不足なのに、王位継承権争いによる内戦で更に貴重な資源を減らすとか、頭悪いとしか言い様が無いのですが…まぁ、コンラートの育ちの悪さからして根っからの軍事国家なんでしょうと思うしかありません。
そして、魔法も無いこの世界では杖を振れば資源が湧いて出てくるという事もなく、『無ければある場所から奪えば良いじゃない』とでも考えているのか、最近国境付近できな臭い活動をしていると影働きたちからの報告がありましたわ。
おそらくは近い将来、ウェスタンス王国と我が国は戦争となるでしょう。
コンラートには人質になってもらう以外利用価値は…私と婚約して戦争終結とか?
…本来は王族の女性と婚約でもすればいいのでしょうが、残念ながら現在の王族女性は全員が既婚者で、未婚者はいませんの。
となると、準王族と呼ばれている公爵家の私にそのお鉢が回ってきそうなのですが…まずコンラートとまともな会話が出来る気がしませんわ。
なんと言うか、本当に特権階級の者としての教育を受けてきたのか疑いたくなるくらいに乱暴者で、正直生活していても何か気に入らないことがあればすぐ暴力を振るわれるような未来しか見えませんし、彼女の記憶からもよく男爵令嬢が頭をポンポン叩かれるという場面が多々ありましたわ。
…たとえ戦争が起きた場合、賠償金を焦点に交渉してもらうようお父様にお願いしましょう。
それか、秘密裏に葬るしか…まぁ、それは最後の手段でしょう。
「……そうだわ、彼女よ、彼女を探し出せばいいのよ!!」
「お嬢様、彼女とはいったい…?」
「男爵令嬢よ!!
本来私の『新入生代表』という立場にいた彼女を見つけて彼らにぶつければ、面倒事は全て彼女が被ってくれるわ!!」
我ながらなんて酷い策を考えたものだと驚きましたが、公爵領を、そして王国を守る為ですもの。
男爵令嬢には人柱になってもらいましょうか。
けど…エヴァンスの表情があまり芳しく無いわね、何か私の策に問題でもあったのかしら?
別に私がこうした残酷な策を用いるのは何も今日が初めてと言うわけじゃないし、彼も清く正しい人生を送ってきた訳じゃないから、汚い行為にも手を染めるという事に嫌悪感がある訳じゃないはずよね。
それじゃあいったい、何が不満なのかしら?
「お嬢様…その男爵令嬢の名前はご存知なのでしょうか?」
「え…それは…………あら?」
あら、おかしいわね、彼女の記憶からは男爵令嬢の『名前』が見当たりませんわ。
ま、不味いですわね、これでは私の『完全勝利』が離れて…!!
「…加えて特徴だけで探す場合、エイルネス王国に男爵家は優に100を超えています。
その中からたった1人を探すとなりますと…いくら公爵家の影働きたちを総動員しましても難しいかと」
…そういえば、ノースエンドとの戦いで騎士爵位の者たちが大勢陞爵していましたわ。
そして私たちの年代に近い男爵令嬢となれば、少しは絞れるのでしょうが…どうしましょう、彼女の記憶には男爵令嬢の特徴が抽象的過ぎて誰が誰だか分かりません!!
何ですかこの、『儚げな笑顔の似合う、まるで白百合の様な少女』って!!
貴族の令嬢たちは淑女として厳しいマナーを幼い頃から叩きこまれています。
彼女風に言うと、『詰め込み教育の究極系』とでも言えばいいのでしょうか、とにかく笑顔一つに関しても様々なものを会得しますわ。
儚げな笑顔?
その程度、淑女として厳しいマナーを幼い頃から叩きこまれてきた令嬢たちなら、余裕で出来ますわ!!
…不味いですわ、これはまさか…詰み、詰みなんですの?
「…いいえ、男爵令嬢は平行して探すけど、それまでは私がどうにかすればいいのです。
彼女に面倒を全て押し付けるまで、あのダメな4人組との縁を片っ端からへし折って差し上げますわ!!」
「…公爵家使用人一同、アドリアナお嬢様の願いを全力でお手伝いさせていただきます。
……片っ端から地獄に落とせないのが難点ですが、旦那様に将来お嬢様の役に立つ男だと認めてもらうためにも、いい試練ですね…」
「あらエヴァンス、変な事を言うのね?
貴方は常に私の役に立っているじゃないの?
お父様も貴方を認めているわよ?」
エヴァンスが本格的に私の役に立ち始めたのは初等部の中頃になってから、それでも十分にあの茶番劇を見事に終わらせるまでに私の助けとなったのはお父様も認めていたわ。
それに、それまでの期間もエヴァンスの努力は私もお父様もよく注意して見ていたし…けど何か最近様子がおかしいのよね、思いつめた表情をするようになって来たけど。
「…いえ、自分などまだまだ。
ですので、もっともっと、お嬢様のお役に立って見せますので、よろしくお願いしますね?」
またあの意味深な笑みをエヴァンスはした、やはり何か企んでいる様ね。
まぁいいわ、今後の予定は彼女を探し出して面倒ごとを押し付けて回避し、あの4バカを潰し、王国の防衛力強化と商会と領地の発展と言う順番で頑張っていきましょうか。
幸い私にはモジョの彼女を筆頭にお父様、商会、そしてエヴァンスがいるもの。
負ける気なんてしないわ。
「そうと決まれば、お父様と色々と相談しなければならないわね。
……おーっほっほっほ、この程度の未来見事退けて、『完全勝利』を手にしてみせますわぁっ!!」
護身術で鍛えた体幹で馬車の中を器用にも立った私は目標を掲げ、高らかに宣言した。
―――その頃、アルドア学園の正門でとある少女が『逆ハールート目指していたのに、まさか試験に落ちるなんて…運営ありえないでしょうっ』という情けない声が辺りに木霊した事を、私は知らないでいた。
読んで頂き、ありがとうございました。