応援、したつもりになっていました。
以前のタイトルは『応援しています。』です。
内容もがらっと変わってしまいました。折角評価、ブクマ登録して下さった方々、本当に申し訳ありません。
変更の詳細理由を知りたい方は、お手数ですが作者の(2014.9.30)の活動報告と本文をご覧下さい。
僕はこのサイト「小説家になろう」様で投稿を始めさせて頂いてから二ヶ月半になる駆け出し気味の書き手だ。
処女作は未だに完結していない。というか序章を書いている最中だ。しかも20万文字を既に越えている。にも拘らず、ブックマーク登録者数は3、しかも作品のみに触れて登録してくれた人はたったの1人だ。ここまで言えば大体伝わったと思うけれど、つまり不人気作品を精魂込めて編み連ねている最中というわけさ。
自慢じゃないけど、作者本人がアクセスしなきゃPVゼロの日だってある。話数別のアクセス数なんか、新規の読者が示し合わせたように第3話辺りで帰っていくことまで丁寧に教えてくれるんだ。自身が置かれた状況、そのあまりの分かり易さに辟易してしまう。
いや、まあそれでも、ブックマークを付けてくれたその一人の読者を思えば、書いていく価値は十分にある筈なんだ。その見ず知らずの誰かに登録をしてもらった時のことを思い出せば、それこそ今を御の字と思わなきゃいけない。
(そうやって自分に言い聞かせることが多くなっていったことに、気が付いていなかった。)
そんな風にして書き続けているうちに新話を投稿するペースは落ちていった。
横這いのアクセス数だけが理由じゃない。作品の中身そのものが不安要素を抱き始めていたのだ。
多分僕と同じ位の文字数を書いた人であれば知っていると思う。例えば、装飾表現のダブりだとか。登場人物の感情の動き方の重複――例えば内心で泣いているキャラが笑顔を見せたせいで相手がより深刻に受け止めるみたいなパターン、だとか。そういうのを気にし始めたり、周囲の作品と自作のレベルを比べてため息をついたりなんてことも増えだしていたんだ。
その時のキーボードを打つ手の重いことと言ったらなかった。
そうして遂には投稿済みの部分を読み返し、その真っ平な画面から歪に飛び出ている杭を端から叩き込んでいった。勿論、現在における僕のレベルでそうと分かる奴等だけをね。
それは見苦しい行為なようにも思えたし、物語の続きを気にしてくれる読者がいるかもしれないことを考えれば、そっちを書き上げる方を優先すべきだったのかもしれない。
だけど自作に愛着があったから。どちらかというと流行りから取り残されている風味のその設定が好きだったから。
(……まあ、真実はそこまで美しくなかったんだけどね。)
大分前置きが長くなってしまった。
この文章を書こうというきっかけになった出来事が起きたのは、そんな時だ。
下がるモチベーションと改稿を理由に一週間空けてからの新話を投稿したその夜。何とブックマーク数が3から4に増えたのだ。
そりゃ嬉しかったとも。冒頭で挙げた一人目の登録者が現れてくれてからしばらく振りだったし、何より次第に重みを増していく背中の荷物に四苦八苦しながら書き続けてきた中でのことだったんだから。
見ていてくれる人はいるものだ。それにしても長かった。ここまでが長過ぎた。でもそれだけの価値があるものを手にすることが出来た。そして僕はそれだけの代償を払ってきたんだ、ってね。
けれど夢は一晩で醒めた。
3に戻っていたのだ。その登録者数は、翌日の同じ時刻に。
その無表情な数字を目にした直後、顔面を熱らせた血は、行き場を失ったと言わんばかりに頭へ上っていった。
1日で見切りを付けられたのか。というかそんな軽々しい登録と削除をしないでくれ。そんなんだったら最初から素通りしてもらった方がどれだけ良かったか。こっちの技量と苦労をその上澄みだけすくい取って、それを唾にでもして吐き捨てるかのような仕打ちだ。しかも誰にされたかも分からない。理不尽じゃないか、こんなの……!
いや。この時は、本当にそうとしか思えなかったんだ。
元々登録してくれていた人が削除した可能性とか、削除した人が僕のブックマークの内訳を知る筈もないとか、そもそもブックマークの使い方自体決まっていないとか、そういったことへは全然頭が回っていなかった。つまりはまあ、思考回路の中まで逆流してきた血で溢れ返ってしまっていたというわけだ。
失意の翌朝。
起きて、いつもの如く修正作業を再開しようとした。だが重たい。両手の指先も、そして頭も、心も。何もかも。
20万文字もあるんだ。直すのだって容易じゃないんだよ。しかも今直しているところはこないだ手を加えたばかりのところ。新しい種類の修正箇所を認識したのだ。またかよ、と思ってはいたさ。だけど僕はこの作品が『好きなんだから』考え得る限りの修正を尽くすに決まっている。
しかし。どうにも体は動かなかった。キーを叩く手を止めて、パソコンの画面を長いことじっと見ていた。
回し車の中で走り続けるハムスターのような気持ちになっていたのかもしれない。
ただしばらくして、自作に対する思いが湧き上がってきた。
その人にとってはそれだけのものでしかなかったのだろう。けれど、僕にとっては断じて違う。応援してくれる人にとっても。それから多分、1話目から読み続けてくれている人達にとっても。
更には、この作品をより良くしていく為に手を貸してくれた人達のことも思い出していった。アドバイスをくれた人もいれば、感想に質問を書き込んだにも拘らずその質問の文章以上に丁寧に回答を返してくれた人もいる。
そんな風にあちこちへ思いを馳せていたら、灰まみれで燻っている心の奥の方に再び小さな火が見えたような気がした。
そして、今度はさらに能動的に。最近読み始めていた幾つかのエッセイ――執筆者のモチベーションを上げる目的で書かれて投稿された作品へ。もっと正確に言えば、その文章へ感想を寄せていた沢山の作者達へ。
みんなこんな風に葛藤しつつも、それでも負けるものか、まだ書けるぞ、今度の話はどうだ面白いだろうっ……て。そうやって作品を作り続けているのだろうか。
火がまた大きく燃え始める。灰をも焼いて、空へ散らして、勢い良く燃え始める。
ああ、まだやれるさ。やれるとも。次第にそう思えてきた。
(……半分は自分で薪をくべたのだと、気付けなかったんだ。まあいい。話も終盤だ。長くなってすまないけれど、もう少しだけ付き合ってくれ。)
モチベーションを復しつつあった僕は、躓いた石がどうにも癪に障ってきた。何もなかったかのようにまた執筆に戻るのは、その石に勝ち逃げさせてしまうような気がしたのだ。
僕はこんなことじゃへこたれない。へこたれているような作者でありたくない。そう強く思った。そして、周囲でまた違う種類の石に悪戦苦闘している作者達にも、その石ころに勝ち逃げさせないでほしいと思った。
何だかよく分からないって?
けじめを付けておこう。そう言っているんだ。
メッセージを、この躓いた石の横に書き残しておく。
宛先は自分自身と、それから。頑張って書き続けている作者の皆様へ、だ。
僕と同じように人気が出なくて、アクセス数を見る度に心の中でため息をついているみなさん。
今まで書き続けてこられたその努力と苦心に、敬意を表します。
これから書き続けていくであろうその熱意とひたむきさを、応援しています。
* * *
あれから20日位経ったかな。この作品は、投稿した翌日に修正をかけた後は今の今まで何も手を加えてこなかった。括弧書きの中身は今追加したんだ。無論、合わせるようにその前後も足し引きした。どうしてそんなことをしたかって?
昨日、新たに誰かがこの作品へ評価を加えてくれたんだ。嬉しくてね。自分で読み直してみた。
たどたどしくはあるけど、どうにか『僕』の気持ちが上向くような形で締めることが出来ている。元々タイトル通りの願いを込めて書いたわけだから、読んだ人が僅かでも元気付けられるようにしたかったんだ。ただ、不自然さが文章の中に残っていた。どうも、元気付ける対象である『他の作者様達』の登場が少し唐突に思えたんだ。
折角評価を頂いたわけだから、また次の人が訪れる時の為にも、もう少し改良を加えよう。要は、この唐突な登場をもっと自然な形にしてやれば良いだけのことだ。そう考えて『編集』のアイコンボタンをクリックした。
だけど、どう直したら良いかを考えているうちに、ようやく分かったんだ。この方向性のままでは直しようがない、って。
応援したい気持ちがあったのは事実だ。それは今も覚えている。躓いた石ころに『僕』が負けたら、同じような理由で倒れていった他の作者の屍の上に自身のそれを積むことになる。こっち側の敗北を重ねてなるものか、そう思ったのも確かだ。
だけど、その更に奥に隠れていたものがまだあったんだ。その唐突な登場も、作品を書いてきた『僕』の苦労についての記述も、『僕』にとって都合の良い一読者の姿も。それらは皆、そいつから呼び出しをくらった連中だったんだ。ああ、そうとも。
自己愛だよ。
あとはこれらの正と負を、白と黒を、光と闇をどうにか並べ替えてみせていたに過ぎないんだ。
僕は。……僕は謝りようがないな。
評価をしてくれた人達に。ブックマーク登録してくれた人達に。そしてこの作品を読んでちょっとでも勇気付けられた人達に。
俯いた僕は、あの石ころの脇に書いた二行を靴底で消し潰した。
代わりに心の中へ、新たな文字を刻んだ。
どうか、どうかせめて。
――心底から純粋に誰かを応援する為の文章を、書ける日がいつか来ますように。