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32 操り人形の逆襲

 二人が目的のサンセバスティアン基地に到着したのは翌日の昼過ぎだった。パンプローナとペルピニャンの事件が伝わっているせいか、サンセバスティアンの基地の警備は以前よりも厳重になっていた。昨日の臓器売買施設の破壊の情報ももう伝わっているだろう。

 二人は基地が比較的よく見える山の斜面に潜んでいた。木々が生い茂り、向こうからは気づかれにくい。

 見ろよ、とノルベルトが重機の並ぶ方を指差した。ミサイルがある。その周りには多くの人が襲撃に備えて銃を持って立っていた。

「あれ、奪えるんじゃないか」

 アシルは口元に手をあて、少し考えた。

「いや、奪うよりいい方法がある。司令官を殺そう。俺たちが直接命令すればいい。無線を通じてなら声だけだからばれないはずだ。スペイン領ポルトガル自治区をここから攻撃する。……大英連盟グレートブリテン島はどうしたらいいと思う?」

 そうだな、とノルベルトが基地を見たまま呟く。

「イギリスもやっちまえばいいんじゃねえか。きっとドーバーは封鎖されてる。船に潜り込んで忍び込めないってことはないだろうが、少し計画が雑になる可能性がある。危険だ。なら、こっから攻撃すればいい。どうせそのうち俺たちの仕業だって気づくさ」

「賛成だ」

 アシルがノルベルトの顔を見て微笑む。

 基地には一つ、大きな建物がある。旧文明の建築様式の一つで、煉瓦式ゴシック風の重厚なつくりになっている。ここがサンセバスティアン指令本棟だ。監視カメラもあればロボットもいる。

 目を凝らし、ノルベルトが建物をじっくりと眺めた。

「いたぜ、ちょうどいい。あの三階の端の部屋。会議中だろうな、テーブルを囲むように座ってる奴らがいる」

 三階か、とアシルが繰り返す。ノルベルトが言った場所には豪華なステンドグラスがはめ込まれている。

「スペイン軍は襟章にチップをつけて、自軍のロボットに認識させている……このまま行くか」

 アシルの言葉にノルベルトが頷く。あの時、スペインの軍服をそのまま着て来て良かった。

 二人は山を降り、何食わぬ顔で基地に近づいていった。銃を持った警備兵が二人を呼び止める。不審そうな顔で名乗るよう指示された。

「パンプローナ駐屯部隊、歩兵第三一連隊の者です。襲撃事件のことで、伝令に参りました」

 証書を見せ、二人は出来るだけ焦った口調で言う。

「しかし、上層部は今会議中で……」

「緊急なんです、どうか……」

 できるだけ媚びた言い方をしてみた。その時、入れてやれという声がした。警備兵の上官のようだ。彼は敬礼している。

「私が案内しよう。……聞いたよ、あの襲撃事件。大変だっただろう、ここまで来るのも」

 礼を言い、二人はその少尉階級の男性についていった。案内されたのは、やはり先ほど人が集まっていると分かった場所だ。ノックをし、少尉が入る。早口でパンプローナから伝令が来たことを伝える。部屋の中がざわついた。入るよう指示があったのだろう、少尉は戸口で待っていた二人に来るよう言った。

「君たちか……パンプローナから伝言ということだが、何だ」

「はい、実は……」

 ノルベルトが懐に手を突っ込んだ。次の瞬間、ナイフが飛ぶ。数人の将校に命中した。死にきれない彼らが悶絶する。アシルが消音器をつけた銃で、案内した少尉を含めた数人を撃っていく。相手には一発だって撃たせない。

人形ティテーレがサンセバスティアンに向かったようでして」

 微笑んでノルベルトが言う。

「貴様ら……!」

 大将の階級章をつけた男が立ち上がる。彼の背後にノルベルトが回り込み、大将階級の男も血の海の中に倒れ伏した。

 すっかり静かになった部屋で、一人の将校のポケットから覗く無線機を手にとった。

「緊急事態だ!ポルトガル自治区で暴動との情報が入った!マドリード司令部より直ちに爆撃せよとの指令だ!各員、これより指示に従え!」

 声色を変えてノルベルトが無線で喋る。外が少し騒がしくなった。

 その間、アシルは部屋を見ていた。絢爛豪華な装飾、細かな模様のある絨毯と壁紙。飾られている油絵は騎馬部隊が描かれている。テーブルや椅子の角にも金箔で装飾がほどこしてある。こんな時世に、こんな贅沢をしているなんて庶民が知ったらクーデターが起きてしまう。

 ノルベルトの的確な命令に従い、誰も疑うことなく攻撃準備が進められる。指示と共に砲声が響く。ノルベルトが一旦連絡を断ち、アシルを振り返った。

「これでポルトガル自治区とブリテンは少なくとも今日一日は混乱するはずだ。フランスに戻ろう。もう一度、あの場所へ――」

 アシルが無言で頷き返す。二人は大騒ぎになっている外のスペイン兵に目もくれず、その場から姿を消した。

 指示が出ないことを訝しんだ兵が指揮官の部屋を訪れる頃には、もう二人はそこにいなかった。ただ血の海に溺れるように指揮官たちの遺体が横たわっているだけだ。そこでようやく彼らは悟る。この場所に人形ティテーレがいたことを。自分たちがとんでもない引き金を引いてしまったことを。

 サンセバスティアン襲撃の件がフランスに伝わり、国境警備が厳重になりすぎるのを警戒し、二人はその日中にフランスに戻った。軍事専用道路は検問が置かれている。最新式のセンサーやロボットも配備されている。突破するのはリスクが高い。スペイン入国のために越境した時と同様に、二人は軽く山を迂回してフランスに戻った。

 夜、市に出向いた彼らは二人のフランス人男性を拉致した。人気のない場所へ引きずっていき、服を奪う。スペイン軍服は立ち入り禁止区域の適当なところに埋めた。拉致した男たちには悪いが、彼らを裸のまま酒を飲んで酔いつぶれている者が溜まっているところへ投げ捨てた。

 市では夕刊を売っていた。二人で一部を買い、それを見る。サンセバスティアン襲撃事件が載っていた。それと同時にポルトガル自治区と大英連盟グレートブリテン島攻撃の記事があった。随分派手に被害が出たようだ。スペイン側も反撃され、被害が出たらしい。どの紙面も、その話題で持ち切りだった。

 統制系統は不十分だったようで、二人がサンセバスティアン基地を去った後も指揮官が死亡していたことを知らない部下たちが攻撃を継続していたようだ。暴動発生の情報も嘘だったと見抜けなかったようだ。大英連盟に対してもマドリード司令部が宣戦布告したという嘘で操り、ミサイルで爆撃した。スペインと大英連盟、ポルトガル自治区はこれから戦争になるだろう。騙されたと正直に話してみたところで事実は変わりはしない。スペインが攻撃した。それだけだ。他国を狙い続ける世界にとって、これほどおいしいきっかけはない。見逃すことなどありえない。

 新聞を捨て、彼らはフランス陸軍本部パリ基地へ足を向けた。警備が随分厳重になっている。無理もないだろう。人間でないものが人間の姿をして紛れ、いつ攻撃されるか分からないのだから。恐らく軍部もだいたいのこちらの思惑は分かっているはずだ。その最終目的は知られていなくとも、いずれこの国に再び訪れることも予想できているに違いない。おまけに二人に埋め込んであるチップは位置情報が分かるものだ。いつ狙われるか分からない。

 できる限り急いだ方がいい。そう判断し、二人は闇の中をひたすら駆けた。周囲にいる部隊と遭遇しないようルートを選んだ。


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