20 幕間
その日の夜、ギュイオット少将が言った通りに二人は帰ってきた。
「ただいまー!」
仲良く肩を並べている二人の姿に、ポールソン達が驚いた表情を向け、固まる。
「どうしたの?」
ノルベルトが不思議そうに訊く。アレクサンドルがちらちらと瞳を動かし、ピエールを見た。
「お、おかえり。どうだった?」
なんとも言えない質問をピエールがした。椅子に座り、アシルが微笑む。
「どうって言われても……あそこはあんまり行きたくないし。まあ、リミッター外してるからしょうがないけどさ」
いや、そうじゃなくて、とアレクサンドルが遮る。
「デルタと闘った時の傷とか、大丈夫だった?体の調子とかさ」
そんなもん、とノルベルトが笑う。
「大丈夫に決まってんだろー。結局あいつだって俺とアシルで倒したし。誰も死ななかったもんな」
「……は?」
呆気にとられたのはポールソンだけではなかった。他の二人もぽかんとしている。しかし、それと同じくらいにアシルとノルベルトもぽかんとしていた。
「え、少佐達も見てただろ?」
ノルベルトの問いに、ピエールが眉を寄せる。
「そりゃ、見てたけどさ!」
遮ったのはポールソンだった。どうして、と囁くピエールを目だけで黙らせた。
「ああ、そうだったな。思い出してもびっくりだったよ、あれは」
話を合わせろ、とピエールとアレクサンドルに視線だけで強要した。二人は大人しくそれに従う。
「それにしてもお前らって本当に強いよな。ここに来る前はあの研究チームの実験に付き合ってたとかいうが、一体どんな実験だったんだ?」
その質問に、二人は少し黙った。言いたくなければ言わなくってもいんだよ、と優しくアレクサンドルが付け加える。いや、いいよ、とアシルが答えた。
「でも、あんまり覚えてないんだ。なんでかな、見たものは何だって忘れないのに。だからきっと機密事項とかは記憶を消去されてるんだと思う。うーん、覚えてるやつだとね……五0度くらいの部屋に、意識失うまでメシも水もなしで放置されたりとか……逆に氷点下……これも忘れたけど、死にそうなくらい寒い部屋に同じように放置されたな」
「あー、そんなこともあったな」
懐かしそうにノルベルトが笑う。
「あとさ、アッシュ、あれやったじゃん。どれだけ傷の再生速度が上げられるかっていうので、体中刺されたりとかさ。撃たれたりとか」
「ああ、あれは嫌いだな。痛いし。今でも結構よくやるけどな」
思い出話を懐かしそうに語る二人を見る三人は青ざめていた。
「そんなの、ありか?」
ポールソンが呟く。ありなんだよ、と答えたのはノルベルトだった。
「でも、そういう実験をしなきゃ分からないんだ。おかげで俺達も自分の体のことが分かる。まあ、ちょっとだけだけどね。例えばさ、その実験で分かったことの一つなんだけど、俺達に生殖能力はない。だから、使い捨てなんだよね。能力を誰かに引き継ぐことができないから……。ま、仮に好きな人ができたって、心配せずにやれるってわけ」
呑気に彼らは笑っている。
「そもそも人を好きになるっていう感情自体が理解できないけどね」
悲しそうに響いた呟きはアシルのものだった。どうしようもない空気が部屋に流れる。
「痛みに慣れてくると傷口の再生速度が上がるとか言われてさ。何回も切られたよ」
静寂を切り裂いたのはノルベルトだ。切られたって、どこを、とすっかり血の気の失せた顔でポールソンが尋ねる。
「腕とか足とか腹とか、とにかく全身だね。同じように撃たれたり、とかしたし。でもやっぱ慣れねえよ」
さも当たり前のごとく答えは返ってくる。
「でもお前らはその気になりゃあ、暴れて逃げることも出来るんじゃねえのか」
ポールソンが真剣な口調で言うと、無理無理、と二人は笑った。
「命令に従えって言われてたらそうするしかないし、寝台に縛り付けられてるし。それに、逃げたところで俺達は行くあてもないからどうしようもないんだよね。そりゃあ自給自足の生活は出来ると思うよ。でも、研究所から、軍の施設から出る前に殺されるのがオチだろうし。おまけにメンテナンスが出来ないと、どんな影響があるかも分からない。多分、狂うんだろうけど」
アシルが笑う。当然とでも言いたげだ。実際、どうしようもないことだ。彼らは永遠にここから逃れることは許されない。
現在は世界各国が競って戦闘用ロボットや人形の開発に力を入れている。二人は世界的に見ても珍しいほどの成功例の一つだ。二人の体については未だ解明されていないことも多い。軍が手放すわけがない。
それに、あの「生き返る」システムは何だ。考えながら、ポールソンは額の傷痕に触れた。
もしあれが永遠に繰り返されるとしたら、この二人はどうなる。生きることも死ぬことも、全てを軍に縛られてしまうのか。
少佐、と呼ぶ声がして、ポールソンは引き戻された。心配そうなノルベルトと目が合う。
「なんでもない、ちょっと考え事してただけだ」
ため息が出そうなのを押し殺して答える。
「そうじゃなくて、メシの時間」
呑気な答えに、押し殺していたため息が出てしまう。
考えるだけ無駄だ。ポールソンはそう思った。どれだけ考えたって、結局何の手助けもできない。なら、最初から力になってやろうとか考えるな。期待するだけ、期待させるだけ無駄だ。
それから数日して、米西独仏は急に休戦を表明した。言い出したのはアメリカだ。戦力的に無理があったのだろう。スペインは小規模の戦闘でも喘いでいるような状況だ。戦闘を終わらせるに越したことはなかったのだろう。快諾だった。そして、アメリカが戦わないとなるとフランスもドイツも戦う理由がない。両国もこれからの戦力を温存することを優先し、しぶしぶ承諾した。しかし、終戦ではない。ただの休戦だ。
休戦が表明されると、ギュイオット少将からアシルとノルベルトに渡日命令が出た。またか、と二人は再び日本へ行く準備をした。しかし、今回の渡日は比較的短期間の予定だという。なぜかは聞いても教えてもらえなかった。またすぐ戦争になる可能性があるのだろう。火種はそこらじゅうに散らばっている。




