疲弊するファンタジー世界
この世界は疲弊し始めていた。
霧のように広がるその魔法の脅威は、思わぬ形で冒険者に牙を向いた。
ある者は剣の目測を誤り、死んだ。
刃こぼれした愛剣を同様の品と買い替えたのだと、ロレンスはそう勘違いしていた。
実際は、以前の品より刃先が数cm短く、その差が命とりとなった。
体に馴染むほどに使い込んだ剣と似て非なるものを振るい、瀬戸際でロレンスの剣先は届かなかった。
「我が友、ロレンスを返せ!」
冒険者ロレンスの友は叫ぶ。
またある者は、防具の質が低下した煽りを食った。
ロレンスが購入した剣とは異なり、ルーベリーが購入した防具の見た目は以前と何ら変わりない――これがなお質が悪かった。
その防具は純正な金属製品ではなく、混ぜ物入りの防具。
見た目は同じといえど、硬度が下がっていたのだ。
「我が友、ルーベリーも返せ!」
冒険者ルーベリーの友は叫ぶ。
防具が砕け、亡くなった友の無念を胸に。
またまたある者は、ポーションに殺された。
あの日から、水で薄められ、内容量をかさ増した粗悪品のポーションが市場にはあふれている。
それを知らずに、回復量を見誤った者たちは、数多の命を散らした。
「我が友、ジェファーも」
「我が友、マルティーニも」
「我が友、ガウディも」
――返せ、と冒険者は喉を振り絞り叫ぶ。
冒険者は列を成し、重なる足音を大地に打ち響かせる。
商人を締め上げても無駄だと悟った行軍は、一路北へ。
諸悪の根源はそこだと、疑いのない足並みが揃う。
毒霧のように人をむしばむ魔法。
その目に見えない毒に、国民が喘ぎ苦しんでいる。
それがなぜ国にはわからないのか。
毒が蔓延するほどに、冒険者の混迷は深まる。
わからない。わからない。
ただ、そのなかで一つだけわかることがあるとすれば。
――かつて国の支柱であった王の城は堕ちた。
実態のない魔王と化したソレを擁護する城は、王城にあらず。
もはやその城は冒険者にとって魔王城だった。
「志を同じくする有志たちよ。諸悪の根源は、あの城だ」
先頭を征く者の声に、集団は腕を上げて応える。
掲げた剣は白銀の森。
掲げた松明は群れをなす闘争の炎。
迷宮で鍛え上げた屈強な集団は止まらない。
怒号で空を震わせ、大群を持って地を揺らす。
「魔王を、討ち滅ぼせえええええええええ――ッ!」
討ち滅ぼすべき魔王の名は――消費税。
商人「だって値上げしたら文句言うじゃん」