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流刑地に冷たい雨が降る 【短編集】

シャンプーハット

作者: 野鶴善明

 

 シャンプーハットが、きゅっ、きゅっ、きゅっ。


 正太、こうやっておまじないをかけるとうまくかぶれるんだよ。

 お兄ちゃんとおまじないをかけてみようね。


 シャンプーハットが、きゅっ、きゅっ、きゅっ。


 そう、ちゃんとおまじないができたね。

 それじゃ、あたまにおゆをかけよう。ぬらしたら、シャンプーハットをかぶりやすくなるから。だいじょうぶだよ。ただのおゆだもん。シャンプーじゃないから。

 よいしょ。

 おゆはこれくらいでいいよな。ぬらすだけだもん。

 はい、お目めをつむって。

 ざあああー。


 これでじゅんびはよし。

 お目めをあけていいよ。

 お兄ちゃんも、さいしょはこわかったんだよ。

 だって、シャンプーが目に入ったら、いたいじゃない。でもね、だいじょうぶ。お兄ちゃんがちゃんとやってあげるから。

 じっとしたままだよ。

 シャンプーハットは、まっすぐかぶらなきゃいけないんだ。

 かぶせるよ。そろりそろり、ゆっくりと。

 あ、正太、うごいちゃだめ。

 いやいやしたらだめ。

 シャンプーハットがゆがんじゃったじゃない。せっかくうまくいってたのにさあ。これじゃあ、シャンプーハットがやくに立たないよ。

 あ、そうだ。おまじないをわすれてた。

 おまじないをしなかったからしくじっちゃったんだな。

 お兄ちゃんといっしょにおまじないをかけながら、もういっかい、やりなおそうね。


 シャンプーハットが、きゅっ、きゅっ、きゅっ。


 もういちど。


 シャンプーハットが、きゅっ、きゅっ、きゅっ。


 ふう、うまくいったね。

 おまえはしあわせだよ。

 こうやってお兄ちゃんにめんどうをみてもらえるんだもん。ぼくなんか、いつもお母さんにじぶんでやりなさいって言われるだけだもの。お母さんは、かじとか、おまえのせわとかでいそがしいしさ。

 ほら、ちゃんとすわって。立ち上がらないで。まだおわってないんだもん。

 なに?

 あたまをあらうのはきらいなの?

 お兄ちゃんもそうだったけどね。でも、あらわなかったらかゆくなるし、くさいままなんだよ。正太のかみはにおうなあ。くさいよ。ちょーくさいよ。こんなにくさかったら、おまえのすきなケイちゃんにきらわれちゃうよ。あそんでくれなくなるよ。それでもいいの?

 そうだろ。

 よくないだろ。

 だったら、お兄ちゃんのいうことをちゃんときくんだよ。


 シャンプーをつけるよ。

 正太のかみはほそいなあ。もっとのりを食べたほうがいいよ。のりを食べたら、おとうさんみたいに黒くて太いかみになるんだよ。こんどお母さんとスーパーへ行ったときにかってもらいなよ。

 手をひざのうえにおいて。じっとするんだよ。シャンプーハットがずれたら、シャンプーがかおにながれて、お目めに入っちゃうよ。いいね。

 前のかみをごしごし。

 あたまのてっぺんをごしごしごし。

 よこのかみもごしごしごしごし。

 シャンプーハットの下のかみの毛も、ごしごしごし。

 ごしごし、ごしごしごしっと。

 だいたいこれくらいかな。

 もうちょっとごしごししたほうがいいかな。

 正太、かゆくない?

 だいじょうぶだね。

 かおにシャンプーがながれてないから、これでよし。

 それじゃ、おゆでながそう。

 いきを大きくすって。お目めをしっかりつむって。こわくない。

 はい、かけるよ。

 ざあああー。

 ほら、だいじょうぶだろ。

 こわがることなんて、なんにもないんだよ。

 もういっかい、おゆをかけるよ。

 ざあああー。

 さあ、シャンプーハットをとろう。

 おまじないをいっしょにとなえるんだよ。


 シャンプーハットが、きゅっ、きゅっ、きゅっ。


 正太、もういちどお目めをつむって、みみをふさいで。

 うしろにおゆをかけるよ。

 はい、できあがり。

 ちょろいね。


 ゆぶねにつかろうね。

 お兄ちゃんがあひるさんであそんであげるから。

 おふろはたのしいよね。お兄ちゃんもおふろは大好きだよ。

 えっ?

 おしりをおさえてどうしたの?

 うんち?

 うんちがしたいの?

 そういえば、お兄ちゃんもおふろに入ったときはよくうんちがしたくなったなあ。どうしてなんだろう?

 こまったな。

 どうしよう?

 おかあさーん。




 了

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  最後の一文が秀逸。声に出して笑ってしまいました。ほほえましいですね。読んでいる間も、小さいころの追憶のようなものがよみがえってきて大変でした(笑)。オノマトペも効果的で分かりやすく、勉強…
[一言] シャンプーハットが、きゅっ、きゅっ、きゅっ。という繰り返しがこの作品を楽しいものにしていますね。兄弟のやりとりもいかにもありそうで、小さな子供たちに読んであげたい作品だと思います。
[良い点] 擬音が素敵なアクセントになっていると思います。 ひらがなが多く用いられ、より一層、雰囲気を醸し出していますね。 [一言] 小さいころ、妹とお風呂に入って頭を洗っていたことを思い出しました。…
2013/02/09 15:42 退会済み
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