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八雲立つ  作者: 雷神
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第八話

---


美保殿をお見送りしたのち、おれと静香は道場に向かった。


「あの時以来行ってなかったなー。一回位行っとけば良かった。」


「色々あったから仕方なかったわよ。とは言っても私も心配かけただろうし、謝りに行けば良かった…。」


「しかし考えてみれば十日位しか経ってないんだよなー。もう、何年もたった気がするんだが。」


道場を飛び出して、現人神になって、妖を倒して、伯耆国造殿を迎えて……。色々有りすぎなような…。


「忙しかったからねー。でもこれからさらに忙しくなると思うし、早く慣れないと大変そうね。」


「そうだな。これからは政の仕事も増えていくしな。頑張るか。」


そんな話をしながら歩いていると…


「あ、玉だ。」


大通りの店と店の間の路地から玉が出てきた。


何か元気がなさそうだな。


「ほんとだ。おーい!」


静香が玉に声を掛けると玉はそれに気付いたようでこっちに走って来て静香に飛び付いた。


「おっとと。久し振りね、玉。」


「……」


玉は静香に顔を埋めたままだっだ。


「あれ?えっと、最近来れなくてごめんね。」


「……」


「あ。」


静香は何か気付いたようで、そっと玉を抱き締めていた。


「……なさい。」


「…」


おれもようやく気付いた。


「ごめ…ん…なさい」


泣いていた。泣きながら謝っていた。


「う、うう。」


「大丈夫。大丈夫だよ。」


静香は抱きしめながらそっと撫でていた。


---


「成る程。自分のせいで静香が怪我をしてしまったと思ってたんだな。」


「うん。」


玉が泣き止んだ後、おれ達は近くの茶店に腰掛けていた。


「私が山に行きたいって言っちゃったから……。」


あの時、玉は入り口までなら大丈夫と言って山の麓まで行ったらしい。そしたら近くにいた妖に見つかってしまった。それで静香は玉に助けを呼ぶように行って山に妖を誘い込んだ。


「私のせいで…うぅ…」


「け、けど私も大丈夫だったし。だから気にしないで。玉のせいじゃないよ。」


また玉が泣きそうになり、静香が慰めていた。

十日会っていなかった。安倍殿から無事だとは聞いていたみたいだか、それでもこの十日間玉は不安だったんだろう。


「そうだぞ、玉。お前のせいじゃないよ。止めなかった静香も悪いしな。」


「うっ」


「それにその内、妖は町に降りてたと思うぞ。」


「え?」


「どうしてよ?」


「だってお前ら山の外で見つかったんだろ。だったら町に来るまで時間の問題だったと思うぞ。」


「あ、成る程。」


「あの蜘蛛はおれが倒した。静香もこの通り元気だ。だからそう悲しそうにするな。」


「……」


「玉、本当にごめんね。会いに来てあげられなくて。不安にしてごめんね。」


「………いなくならない?」


「えっ?」


「お母さんみたいにいなくならない?」


「……」


安倍殿の奥さん、玉の母親は何年か前に病気でなくなったと聞いたことがあった。玉はもしかしたらあの時の静香を母親に重ねていたのかもしれない。


「大丈夫よ。いなくならない。いつでも会えるよ。」


「ほんと?」


「ほんと。会いたかったら呼んで。私も八雲もすぐ会いに来るから」


「…ありがとう。お姉ちゃん!」


玉は静香に抱きつき、静香が優しく受け止めた。


「けど、よく考えたら八雲も悪いわよね。」


「は?」


「だって私が玉に会いに来れなかったのって八雲が道場サボってたせいじゃん。」


「いや、お前。最近の忙しさ見てただろ。」


道場に通う暇なかったぞ。


「え、お兄ちゃんのせいなの?」


「うっ」


玉よ、そんな悲しそうな目で見るんじゃない。


「ひどいよねー。」


「ねー。」


あー、勝てる気しねー。


「はあ、分かったよ。好きなもん頼んでいいから許してくれ。」


「ほんと?」


「ああ。頼め、頼め。」


「やった。すみませーん。白玉ぜんざい、二つくださーい。」


躊躇ねーな、おい。まあ、玉も元気になったみたいだし、いいか。


「……母親か。」


---


さて茶店を出て、改めて道場へ向かう。

しかし、さっき玉が出てきたのは杵築の町の店と店の間の路地からだった。玉は出雲の一軍を率いる安倍殿の一人娘、言わばお嬢様だった。それにまだ十つ。路地裏の方に何か用事があるようには 思えないんだが。


「うーん。」


まあ、安倍殿は玉が静香と山で遊んでも、この前みたいに妖が出なければとやかく言わないから路地裏で遊んでたかもしれないか。それに普段は思わんが静香も立派なお嬢様。


「意外とお嬢様ってこんなんなのかもな。」


そう考えると何か納得できた。何か激しく間違ってる気がするが気にしないようにしよう。


「何してるの、八雲。」


「あー、すまん。今行く。」


いつの間にか二人と離れていた。急いで静香と玉の元に向かおうとし


「っ!?」


何か急に視線を感じた。一瞬で現れ、一瞬で消えた。急いで辺りを見渡すが人が通って行くだけだった。


「どうしたの、のぶ…あれ、さっきお姉ちゃん…」


「ん?ああ、名前ね。この前から八雲ってなったの。」


「名前変わったの? 何で?」


「え、えーと」


静香はどう答えるか困ったみたいだ。まあ、一応おれが現人神なのは秘密だしな。

おれは玉の耳元に近づいて


「神様になったから。」


「え、お兄ちゃん」


「しー、秘密な。」


「う、うん。」


「いいの、八雲?」


「大丈夫だろ。千代さんや松さんにも教えてんだし。仮に周りに知られても問題にはならんよ。」


因みに教えてるのは現人神になったことだけ。大神の神威や王の事は教えてない。


「……」


「ん、どうした、玉?」


「……ううん、何でもない。」


何か一瞬戸惑ったように見えたが。まあ、千代さん達も驚いていたし、当たり前か。


「玉も困った事や叶えたい事があったら八雲に頼むといいわよ。」


「おう、できる限り助けるし、叶えるぞ。」


「う、うん。」


そうこうしている内に道場に着いた。


「ただいまー。」


「失礼します。」


道場は稽古で賑やかだった。安倍殿は奥で指導をしていたがおれ達に気付いたようでこちらに向かってきた。


「お久しぶりです。」


「ご足労すみません。こちらから向かうつもりでしたが幸隆殿が、向かわせると仰られて。」


「はは、おれはここの門弟ですからね。こちらから足を運ぶのは当然ですよ。」


「…ありがとうございます。ここでは話しにくいですし部屋に行きましょう。」


「はい。」


---


さて、道場の離れにある部屋におれと静香、あと玉も連れてこられた。ちなみに安倍殿は大社での宣言を聞いていた。


「まずは妖退治、お見事でございました。 」


「この道場の教えのお陰です。安倍殿の教えがなければ危なかったですよ。ありがとうございます。」


ここでの鍛練のお陰であれだけ動けたのだ。ほんと、感謝してもしたれない。

……もしかしたら幸隆殿はそれを見越して

おれを道場に?…ありそうだ。


「有り難きお言葉。しかし、我らが取りのがしてしまい、静香殿にもお怪我を負わさしてしまい、申し訳ございません。」


「え、あっ。気にしないでくだい。大した怪我してませんし、もう治りましたから。」


静香はいきなり自分にふられ慌てたようだ。もちろん、玉を不安にさせないようにしようとした。


「此度の事より、王に一人護衛を付けたいと思うのですが。」


「護衛、ですか。」


「はい。万一の事が合ってはなりませんし、今の内からてを打っておいた方が良いかと。」


「たしかに。」


「ですがなるべく内密にしたいと思われるので、我が道場から信頼出来る者を護衛に当てたいと思います。無論腕の方も。」


「武士で知ってる人は少ないですからね。安倍殿の推薦なら腕も大丈夫でしょうし。お願いします。」


「ありがとうございます。では。入ってこい。」


安倍殿が呼ぶと一人の男性が入ってきた。


「重忠殿。」


東郷重忠。道場でも一、二を争う腕の持ち主だった。


「東郷重忠と申します。よろしくお願い致します。」


「王も知っておられると思いますが重忠は我が道場一と言っても過言ではない腕の持ち主です。それに年も近いですしな。」


確か二十歳だっけ。重忠殿、口数少ないからあんまし話したことないんだよなー。


「よろしくお願いします。重忠殿。」


重忠殿は一礼をしただけだった。


「私としても重忠には更なる経験を積んでもらい道場を継いでほしいですからな。どうかこきつかってください。」


「重忠、頑張ってねー。」


玉の言葉にも重忠殿は頷くだけだった。うーむ、上手くやっていけるだろうか。


「因みに重忠殿は今まで実戦は?」


「私の元で妖退治が数回ですかな。実戦自体が少なくなってるので、そこはご容赦の程を。」


「申し訳ございません。」


「いえ、気になっただけなので。それに重忠殿のお力は良く知っております。頼りにさして貰います。」


実際おれより腕は上だろうし。勝とうと思ったら神威使わんと無理だろうなー。


「ところで安倍殿。」


「はい。」


「何か出雲守殿についてご存知ないでしょうか?何とか味方につけるなりしたいと思いまして。」


「……」


「…安倍殿?」


おれが問うと安倍殿は黙ってしまった。いや、どちらかというと悩んでいるように見えた。


「…静香殿。」


「え、はい。」


「すまないけど玉を連れてちょっと道場を見てきてくれませんか。ちゃんとやっているかを 。」


「はい。いいですけど」


「玉も良いな?」


「……。はい。」


「じゃあ、行こうか玉。」


静香が玉の手を引いて部屋から出て行くのを見てからおれは安倍殿に尋ねた。


「玉に聞かれたくないことですか?」


「はい。実は数月前に出雲守殿の家から玉に縁談の話が来まして。」


「玉に縁談が?」


「と言っても相手は出雲守殿の弟君ですが。」


「弟というと広春殿ですか。」


「はい。おそらく国造様が現人神になられたのに危機感を感じて、武家と軍を自分の元に置きたかったのでしょう。」


「成る程。その話、玉には…」


「伝えておりません。無論受けるつもりもありません。王と国造様に無断でその様なことは致しません。」


「良かった。お伝えくださりありがとうございました。」


しかし思ったより出雲守殿の動きが活発だな。もしかしたら他の人にも同じような話が来てるかもしれないな。


その後、暫く近況を教えてもらった。さてどうしようかなー。

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