カラン
「水道の蛇口からは邪が出るよ
夜は近付いてはいけない」
子供の頃から祖母にも母にも
言われ続けた言葉
友達に言ったら笑われた
どうやら私の家だけのようだ
考えてみれば
夜でも普通に蛇口を捻る人なんて
いくらでもいる
そんなことを思い続けて
大人になって実家から離れた今も時々
「水道の蛇口からは邪が出るよ
夜は近付いてはいけない」
祖母や母の言葉を思い出す
何年振りだろうか
久々に実家に帰ることにした
地元の駅につく
見慣れない店を目で追いながら
実家へ向かって歩く
あたりは少し暗くなっていた
家に近づくたびに
段々と
見慣れた風景
見慣れた場所
変わらない実家があった
家の前は相変わらずの土
前日降った雨のせいでぬかるんでいる
グチャ、グチャ、グチャ
靴を汚しながら玄関に向かう
「おかえり」
出迎える母
「ただいま、相変わらずだなここ
靴ぐっちゃぐっちゃ」
「そうね、お父さんの靴も
ぐっちゃぐっちゃよ」
玄関手前のコンクリートに
足跡が付いていた
「変わんないね」
「そうね、早く上がりなさい」
「ああ」
家の中に戻る母
私は汚れた靴のまま
玄関脇に向かう
グチャ、グチャ、グチャ
靴の汚れを落とそうと
キュッキュッ
外水栓の蛇口を捻る
…
「うん?」
水が出ない
キュッキュッ
蛇口を逆に捻る
キュッキュッ
もう一度蛇口を捻る
….
「壊れてる?」
キュッキュッキュッキュッ
さらに蛇口を捻る
「…だめか」
ゴポ…ゴポゴポゴポ
「…おっ?」
ゴポゴポゴポ
…
ゴポゴポゴポ
一瞬のうちに辺りが真っ暗になる
家の明かりすらも見えない
ゴポゴポゴポ
何かの音だけが聞こえている
ゴポゴポゴポ
「水道の蛇口からは邪が出るよ
夜は近付いてはいけない」
祖母と母の言葉を思い出す
…
「いま…夜だ」




