表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リストラされたので底辺ダンジョンでひっそり配信してたら、なぜか世界中にバレた  作者: 凪乃


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/11

世界が見ている

 竜を倒した配信の再生数が、三日で一千万回を超えた。


 掲示板は祭りだった。ニュースサイトにも取り上げられた。「底辺ダンジョンの超深層で竜を討伐した元企業探索者」として、俺の名前が出ていた。実名。顔写真はなかったが、スフィアの社内報の集合写真を切り抜いたやつがXに出回っていた。後列の端っこで目を閉じている俺。


 面倒くさい。


「篠塚さん、取材の依頼が十二件来てます」


 真凛がスマホとノートパソコンを広げて、台所のテーブルで仕事をしている。テーブルは小さいので、ノートパソコンの端が落ちかけている。


「全部断って」


「三件はテレビです。ゴールデンタイムの特番」


「全部断って」


「……分かりました」


 真凛が電話を掛けまくっている横で、俺は卵かけご飯を食べた。卵を割って白飯にかけて、醤油を垂らす。箸でざっくり混ぜて、口に運ぶ。黄身のとろっとした甘さ。毎朝食べても飽きない。


 真凛の声が背後で聞こえる。「申し訳ございません、現時点ではお受けできません——はい、はい、ええ——」丁寧だが隙がない断り方。さすが企画室。


     *


 午後。管理局から電話が来た。


 真凛がスピーカーにして、テーブルの上に置いた。村瀬の声が部屋に響く。


「C-087の一時制限を正式に解除します。探索権はそのまま篠塚さんに帰属します」


「凍結の話は?」


「……撤回されました」


 村瀬の声が少しだけ硬い。言いたくないことを言っている声だ。


「どなたが撤回を?」


 三秒ほど沈黙があった。


「世論です。管理局の判断に対して、かなりの数の意見が寄せられまして。メールだけで一万件以上、電話も——対応が追いつかない状況で」


 掲示板とXの署名運動のことだろう。「おっさんのダンジョンを守れ」みたいなハッシュタグ。見た。少しだけ。


「管理局としては、深層の調査に協力をお願いしたいと考えています。データの共有と、定期的な報告を」


「分かりました。協力はします。探索は続けますけど」


「ぜひ。よろしくお願いいたします」


 電話が切れた。真凛が小さく息を吐いた。肩が下がった。緊張していたのだ。


「よかった」


「ん。助かったな。書類関係、全部お前がやってくれたから」


「仕事ですから」


 素っ気ない返事だが、口の端がわずかに上がっていた。


     *


 同じ日の夕方。スフィア・コーポレーションが声明を出した。


 企業サイトのニュースリリース欄。短い文章。


『弊社は、元社員・篠塚遥一氏の個人探索権について、権利返還の申請を撤回いたします。今後の対応につきましては、ダンジョン管理局と協議の上、適切に対応してまいります』


 園田がスマホで見つけて、吉田食堂のカウンターで見せてくれた。画面の上に「スフィア・コーポレーション ニュースリリース」のヘッダー。フォントが小さくて、読みにくい。


「篠塚さん、見ました?」


「今見た。短いな」


「短すぎますよ。自分たちが仕掛けたことなのに」


 園田が珍しく語気を強めた。この人が感情を見せるのは珍しい。ツールボックスを整理しているときと同じ手つきで箸を握っている。力が入りすぎて、箸先が震えている。


「まあ、終わったならいいよ」


「……篠塚さんは、怒らないんですか」


「怒ってもしょうがないだろ。飯が冷める」


 掲示板はスフィアに辛辣だった。


```

【悲報】スフィア・コーポレーション、全面撤退


512: 名無しの探索者

スフィアが探索権の返還申請を取り下げたぞ


515: 名無しの探索者

世論に負けたか 当然だが


518: 名無しの探索者

リストラした元社員が竜を倒して国民的英雄になりかけてるのに

そいつのダンジョンを取り上げるとかイメージ最悪すぎてな

広報部が頭抱えてるだろ


522: 名無しの探索者

声明が他人事すぎて笑う

「今後の対応につきましては適切に対応してまいります」

適切に対応リストラ→適切に対応(取り返そうとする)→適切に対応(撤退)


526: 名無しの探索者

>>522

適切に対応(株価下落)


530: 名無しの探索者

スフィアの株価マジで下がってて草草草


533: 名無しの探索者

おっさんはこの声明読んでないだろうな


536: 名無しの探索者

>>533

卵かけご飯食ってるよ多分


540: 名無しの探索者

>>536

正解だった模様(配信アーカイブで確認済)


543: 名無しの探索者

それでいい

おっさんはおっさんのままでいてくれ

俺たちはそれを見ていたい

```


 見てるよ。たまに。


 でも、応援されてるとかそういうことは、あんまり考えないようにしている。考え始めると面倒くさいし、何より——配信のときに変に意識してしまいそうだから。


     *


 翌日。吉田食堂の朝定食を食べながら、俺は切り出した。


「チームの話なんだけど」


 真凛と園田が箸を止めた。


「正式に、チームとして登録しようと思う。管理局の探索チーム登録。三人だとギリギリだけど、最低人数は満たしてるだろ」


 真凛の目がわずかに大きくなった。箸を持ったまま、手が止まっている。園田は焼き鮭の皮を箸でつまんだまま、静かに頷いた。


「名前は——」


「篠塚さんが決めてください」


「……考えてなかった。何でもいいよ」


「何でもよくないです。チーム名は大事です。配信でも使いますし、管理局の書類にも載ります」


 しばらく考えた。味噌汁を一口啜った。白味噌。出汁が濃い。うまい。


 味噌汁の椀を置いた。


「……『C-087探索班』で」


「ダンジョンの管理番号をそのまま使うんですか」


「分かりやすいだろ。何のチームか一発で分かる」


 真凛が笑った。口元を手で隠したけど、目が笑っていた。園田も笑った。焼き鮭の皮をまだ持ったまま。


「篠塚さんらしい」


「それ、何回目だ」


「数えてません」


 管理局に書類を出した。チーム名は「C-087探索班」。代表者は篠塚遥一。メンバーは久我真凛、園田修一。


 カウンターの上の登録用紙に三人分の名前を並べて書いた。真凛の字が一番きれいで、園田の字が一番小さくて、俺の字が一番汚かった。


 フォロワー数は十五万を超えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ