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第二話 柊班の日常

向坂(こうさか)!そっちに向かった!」

「了解しました!!夏樹さん、フォローお願いします!」

「は、はい!」

「私がアイツの動きを止めるから、二人は銃で撃ちこんで!」


 深夜に行われる、魔物との戦闘。今回相手にしている魔物はどうやら幻術を使えるらしい。陰陽師の山田さんと田中さんが必死に結界を張り、魔物の術を無力化してくれているが、幻術を相殺する形になるため結界は長くもたないだろうと作戦会議の際に言われていた。先陣切って向かった別の隊は、幻術に翻弄されてとどめを刺すことができず、現在後方で簡易的な治療を受けている。魔物の能力が判明した時点で一般の退魔師部隊では難しいという判断が下り、私たち永山隊の柊班が出動することになった。永山隊長が束ねる部隊は他とは異なり、霊力の高い人材が多く所属している。そのため今回のように癖の強い魔物を相手にすることが多いのだ。

 明石(あかし)さんからこちらに魔物が向かっていることを伝えられ、向坂さんと一緒に臨戦態勢を取る。速水(はやみ)さんの言葉と共に彼女が術式を展開し、魔物の動きを封じた。それを確認した私たちは上空へ飛び、それぞれの得物である銃を構える。霊力を込めて作戦通り頭部に目掛けて光線を放つと、相手はこちらへ突進していた勢いを失い倒れ込んだ。だが消滅するまでには至らない。


「おっらあぁ!」


 風を感じたと思ったときには、すでに柊先輩が私の隣を駆け抜けていった後で。魔物の少し手前で踏み込んで飛び上がった先輩は、自身の相棒である日本刀を頭上に構え一気に振り下ろす。その霊力の込められた一太刀は、人間の倍の大きさもある魔物を一刀両断した。煙になって天に昇っていく様子をぼんやりと眺めながら、まるで浄化された魂のようだななんて考える。私たちの戦っている魔物という存在は、解明されていないことの方が多い。人型のものは今のところ存在せず全て獣のような姿かたちをしており、進化の過程で生まれた人間の天敵と考える霊媒師も多くいるが、それもあくまで一説止まりである。解明される日が来るのか、そしてその時世界はどうなるのか。早く来て欲しいようで、来てほしくないとも思う。自分が倒している人間に害を為す存在が、情をかけるべき相手だったなどとなったら自分の心が壊れてしまうかもしれない。


「全員無事かー?」


 すべてが消滅し煙すら夜の空気に溶け込んだ頃、柊先輩が勢いよく振り返って私たち班員たちの状況を確認する。先陣部隊のお陰で情報を得ることが出来ていたため、私たちに負傷者はいない。後方に避難していた隊員たちを見ても重傷者はいないようで、戦闘を終えた今は楽しそうに談笑していた。


「夏樹、怪我はないか?」

「あ、はい!大丈夫です。」

「よし、うちの班は全員負傷なし!帰って報告書でも書くとしますかー!」

「とか言って、結局いつも夏樹さんに泣きついてるじゃないですか。」

「今回は一人で書類作成できるのかなぁ?」

「お前ら、好き勝手言いやがって……!」


 班長の仕事のひとつに、報告書の作成がある。対峙した魔物についてや、どういった作戦を立てて実行したかなど、事実をフォーマットに沿って書いていけばいいのだが、どうやら柊先輩は書類を作成する作業が苦手みたいだ。確かに作戦を立てて魔物に挑んではいるが、状況に応じて臨機応変に対応することが特に求められる部隊ではあるから、いちいちどういった行動を班員が取ったか、全てを覚えている方が難しいだろう。近距離武器である日本刀を扱う柊先輩と、後方支援に向いている遠距離武器の銃を扱う私は、お互いに把握している景色が異なるためお互いの情報を持ち寄り補完することができた。何度か二人で作業をしているうちに、それは当たり前の光景となり今に至っている。


「夏樹も手伝うのはいいけど、他にも仕事があるんだからほどほどにね。」

「ご心配ありがとうございます。でも全然負担ではないので大丈夫ですよ。」


 明石さんはこの班の中で最年長ということもあり、私たちのことをよく見ていてくれている。もちろん柊先輩だって一人ひとりに向き合ってくれているが、先輩だけでは手が届かない部分をそっとフォローしてくれている、そんなお兄さんみたいな存在だ。


「そろそろ本部に帰りましょう?僕、お腹すきました。」

「書類片付ける前に、腹ごしらえでもしちゃおっか!」

「書類片付けるのは俺だけだろ、お前ら手伝わねぇくせに!」


 向坂くんは沙庭院からの付き合いで、一緒に退魔師になってこの部隊へ配属になった同期だ。のんびりした話し方をするため優しい印象を受けるが、思ったことはオブラートに包まず言うタイプで、本人曰く今まで苦労してきたらしい。でもこの班ではそのギャップに笑いが起こることもしばしば。向坂くんも沙庭院の頃よりのびのびしているように見えて、私は心の中でこっそりにこにこしている。

 速水さんは私たち柊班のムードメーカーのような存在だ。華があって、彼女がいる場所はぱっと明るくなる。誰とも仲良く話すことができる、頼れるお姉さんだ。柊班には女性が速水さんと私しかいないこともあり、よく気にかけてもらっていると思う。ただ恋バナが好きで、定期的に柊先輩とのことを聞いてくるのは勘弁してほしい。そういう関係じゃないって言っても信じてもらえないのだ。


「しょうがねぇ。全員で食堂行くぞー!俺のおごりだ!」


 柊先輩は退魔師四年目にして、永山隊の班長としての役目を担うこととなった、若手のエース。ずっと憧れている、目標として先に立ち続けてくれている人だ。私はこの人のようにはきっとなれない。でもなれないのであれば、この人をずっと支えていきたい。眩しいこの人に抱くこの感情は、恋い慕っているというものではなくて、もしかしたら信仰といった方が正しいのかもしれない。


 命を救ってもらったあの日から、柊先輩は私にとって唯一の存在で居続けているのだ。

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