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勇者タイム!  作者: 森田ミヤジ
「最後の夜をあなたと」篇
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Groupe d'eccentrics (チャル視点)

 私はお客様をお部屋にご案内した後、ロビーに戻ってきて「ふう」と一つ溜息を吐く。

 そのまま受付カウンターにもたれかかって、頬杖。


 「えーと……次はどないしよ……」


 あかん、そもそも接客自体が久しぶりすぎてよう頭回らへんわ……

 普段は絶対に使わへん顔面の筋肉も使ったから、まー、顔も引きつりますよ、そりゃ。


 「まず、何や……アレか?夕食の支度!あ、でも早い?早いやんな?」


 テンパるテンパる……当り前や。久々の客……しかも団体客やで!

 なんか可愛らしい娘がゴツく値切ってきよったけど、ま、しゃーない。損して得取れ言うやつやん。

 とにかくここは満足度MAXで帰ってもらって口コミで評判広げてもらうしかないで!ファイトや!チャル!


「っしゃ!ま、早くて悪いことないわ。とりあえず厨房に行ってみよ!」


 と、立ち上がったところで。

 エントランスのドアがズバァン!と勢いよく開いた。

 びっくりして振り返ると――


「赤いちょっかい革袴……」


 そこには全身に油でもまぶしつけたんかと思うほどテラテラと輝いている、裸同然の男が……!


「うぇ!?な、何っ!?」

「驚くなかれ」


 いや、驚くに決まってるやん……

 黒髪オールバック、アゴ鬚、そして彫りの深い顔立ち。

 普通にしてればナイスミドルに見えなくもないのに……なんでパンイチ(=海パン一丁)やねん!?


「素晴らしき日々。青春の旅立ち」


 その不審者――というか変態――は意味不明の言葉を呟きながらクネクネと腰をくねらせながら近づいてくる!ひぃ!キモい!

 私は受付カウンターの下に据え付けられている護身用の木刀にそっと手を伸ばした。


「な、何の用ですかぁ……」

「宿をお願いしたいのだよ、リトルガール……」

「や、宿?」

「おや?ここは旅館ではないのかね?私の見たところココがそうだ……まさにそうだ」

「あ、も、もしかしてお客様ですか?では、お名前を……」

「問うならば答えよう。私の名は『ロレンス』……愛と美の伝道師!」


 そう言うと海パン男は両手で自分の乳首をつまみながら、高速で舌をレロレロ動かす。

 ひぃぃ!めっさキモいぃ!


「へ!へ!変態やぁ!」

「そう、蛹も蝶へと変態する。私もまさにその麗しき蝶の――」

「どっせぃ!」

「へぶっ」


 私の振るった木刀が、見事に変態のアゴを捉えた。

 その渾身の一撃で、変態はグルンと白目を剥き、力無く床に倒れこむ。

 でも、うつ伏せに倒れたせいで、海パンの食いこんだ尻を見ることになったのはショック…… 


「な、な、何やったん……?こいつ……」 


 通りすがりの変態?

 その正体を確かめるべく、恐る恐るカウンターを出てきた私の前に――


「ヤヤ――ッ!?萌ゆるの気配コレアリ!」


 また一つ、人影が飛び出してきて、私の前に立ちはだかった。


「どわぁ!こ、今度は何やっ!?」

「マイネーム・イズ『ジーザス』!孤高のLOVEサバイバーにて候!」


 そいつはさっきの露出狂と違って、ガリッガリに痩せ細った眼鏡の男やった。

 そのレンズの奥の目が異常に据わっているうえに、こっちを見てハァハァ息を荒げているのも文句無しにキモい!貞操の危機を感じる!


「生メイドですとな?フホッ!フホゥ!このような秘境にてまさに僥倖の眼福ナリ!」

「な、何?さっきの人の仲間?」

「……フーやれやれ。『仲間』などと、そのような平たい呼び名はナシにして頂きたいものですナ」

「?」

「『同志』……であるゆえに」


 ど、どうでもええわ……!


「ハイ!ここでいきなり!メイド適正度チェ――ック!」

「は?」

「第一問!デーデッ!『朝、ご主人様がお寝坊さん!どうやって起こす?』」

「へ?」

「チッ、チッ、チッ……」


 うわぁ!口をすぼめて秒針のマネしてる!キモっ!

 でも、答えなかったら何されるか分からへんし……


「えーとえーと……『朝ですよ~』って、揺さぶって起こす、とか?」

「ほほう……」


 せ、正解なん?

 いや、油断は禁物や。ただ、ジーザスと名乗った男は腕を組んでニヤニヤしてる。本当にキモい。


「あくまでも主従関係を逸脱しない、模範的な回答ですナ。なかなかのメイドポテンシャルと見た……」

「……」

「安易に『馬乗りになって首を絞める』や『中華鍋を叩いて大きな音を出す』といったバイオレンス系に走らなかった点も評価したい」


 もう、何言ってるか、全っ然分からへん……

 とりあえずさっきのに輪をかけて変な奴だということだけは分かったわ。

 悪は即で斬が賢明や!

 私はぐっと木刀を握りこんだ。


「第二問!デーデッ!『ご主人様に夜伽に呼ばれちゃった!下着の色――』」

「真っ向唐竹割――ッ!」

「あぎょわっ」


 っしゃ!決まった!

 眼鏡がパリン!と割れる音と共に、変態二号はもんどりうって倒れ、二、三度痙攣した後、そのまま動かなくなる。

 

「もー、なんだったの……こいつら」


 エントランスにまた一つ屍が増えてもーた……

 また掃除せなあかんやん……

 こんな地獄絵図、お客様に見せられへん。

 横たわる二つの屍を外に放り出そうと、屈みこんだ時――


「見事な殺人剣の腕前ね!」


 女の声がしたかと思うと突然入口のガラスが割れて、女の子が一人飛び込んできた!


「ぱんつぁーふぉーー!」

「どしぇぇぇ!?こ、こ、今度は何やぁ!?」


 二回、三回と床を転がった後、すっくと立ち上がったのは息を呑むほど可愛らしい女の子やった。

 綺麗な銀髪のツインテール、白いブラウスとチェック柄のプリーツスカート。

 手には何故か、抱き枕のような白くて大きいものを抱えている。

 割れたガラスを踏みしめ、その女の子が高らかに叫ぶ。


「『シルク・撫子』!参ッッッッ上!」(ドバァ―――――ン!)←効果音

「し、しるく……?いや、どうしてガラスを割っ」

「そして、この子はダビドフ!謎の生命体!」(スババ――――ン!)←効果音


 その抱き枕みたいなのが……?


「な、謎の……?」

「謎の生命体!」(シュバ―――――ン!)←効果音

「結局何なん……っていうか、どっから鳴ってんの!?この効果音!」

「未知の時空よ」

「そんな壮大なところから!?」

「嘘だと思うならやってごらんなさい。『彼ら』に気に入られれば五次元の彼方から効果音が出るわ」

「『彼ら』って……?」

「時空の番人よ!または超空の覇者とも!さぁ!高らかに己の名を叫ぶがいいわっ!」

「え、ええ~……?」

「さぁ!」

「……」

「さぁ!」


 気ぃ進まへんけど……


「ネ、ネルランチャール・シルバネレッタ~……」(ぶしょわっ……)←効果音


 ……え……?


「ほらね?」

「いやっ!待ってっ!なんかキモイ音だった!シュークリーム握りつぶしたみたいな!」

「いいじゃん。出たんだから」

「よくなーいっ!せっかくならいい音出してほしいやん!?出てこい!時空の番人!しばいたるーっ!」

「その意気やよし」


 本気で悔しがる私を見て、彼女はウンウンと一人で頷きはじめた。

 おっと、いけない……

 私はここで我に返って、そそくさと受付カウンターへ。そして接客スマイル。


「あの、えーっと――お客様……ですか?」

「お客ですって?私たちが?おーほほほ!」

「え?違うんですか……?」

「違うっ!私たちは!」


 ここで彼女は謎の生命体を小脇に抱えて大きくジャンプ!

 宙でくるくると華麗に回転!


「『世界を()愉快にする()シルク撫子()、の、団』ッ!!』ッ!!」(ドッバァァァァァァァァァァン!)←効果音


 そしてシュタッ!と着地。

 呆然とする私の前に、仁王立ちになるシルク・撫子さん。


「分かった?」

「分かりませんよ!」

「それよ!ツッコミって大事だと思うよ!」

「は?」

「ツッコミって大事だと思うよ!大事だから二回言いました」

「は、はぁ……」

「あなた、名前は?」

「ネ、ネルランチャール・シルバネレッタ……」

「長い!」

「ひぃ!チ、チャルでいいです」

「それじゃあチャル。ツッコミ要員として私たちのSYS団に入らない?」

「な、なんなんですか?それ……」

「世界を愉快にする楽しいお仕事です。交通費は自己負担で労災も各種手当も退職金も無しだけど」

「めちゃくちゃブラックですやん!?」

「ナイスツッコミ!ますます欲しい!」

「ちょ、待っ、欲しいと言われましても……」

「ヤレヤレ、とんだ困ったチャンだぁ」


 そう言うと、シルク・撫子さんはカウンターから身を離してロビーの真ん中に立つ。

 どこから取り出したのか、その手にはマイクが……


「そんな困ったチャンには新曲を捧げます。聞いてください。『バナナはおやつに入るの?』」





『バナナはおやつに入るの?』     作詞・作曲 シルク・撫子


 また言う すぐ言う いつも言う

 クラスで一番の ひょうきん者

 それいい もういい 言わんでいい

 誰も本気で 心配してない


 近場の公園に いくだけなのに

 なんでそんなに 浮かれたテンションになれるの


※いつも言うでしょ バナナはおやつに入るんですか

 いつも言うけど それは先生の価値観しだいでしょ


 駄菓子を食べたら 胃もたれするようになってきた


※くりかえし


 近所のおばさんが また 手相を見たがってきた




「……」


 あんぐりと口を開けて立ち尽くす私の肩に、彼女がポン、と手を乗せる。

 気持ちよく一曲歌い上げた後の高揚感?

 とにかく、すごくいい笑顔……


「ふう、素晴らしいGIGだったわね?なんと、団員になれば毎月新曲が聞けちゃいます」

「いや……結構です……」

「よし!決まりね!履歴書、証明写真、職務経歴書を持参のこと!あ、それ、部屋の鍵?もらいっ!」


 そう言うと、シルク・撫子は突然カウンターに身を乗り出してきて、強引に客室の鍵をひったくった!

 なんちゅう早業!


「な、何すんねん!?」

「行くわよっ!ダビたん!とうっ!カワバンガ!」


 彼女は謎の生命体を抱えて、一目散に客室に向かって走り出す。足メッチャ早っ!


「あ!ちょ!この変態二人は……!」

「磔刑にでも処しておきなさい!」

「こ、困ります!」

「大丈夫!私は大丈夫!」


 それだけ言うと、その姿はあっという間に消えた。

 残されたのは変態二人の屍と、呆然とする私、そして砕け散ったガラスの破片。

 本当になんやねん、この状況……

 っていうか、あの人、ちゃんとお金払うんか?ガラス代も込みで。


「今日は千客万来や……」


 なのに、全然嬉しくない。



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