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勇者タイム!  作者: 森田ミヤジ
「孤島のデスゲーム」篇
89/109

勇者の辿る道 ファイナル

 秘境の村、ショジャイの保存集落。

 その中で一軒しか無い酒場のテーブルで、俺は懐かしいメンバー――美少女魔法使い、美女魔法使い、美少女格闘家、色欲老人、美青年の殺し屋、ポンコツロボ――に向かって自分が異次元島で体験したことを全て語って聞かせた。

 しかし、改めて考えるとなんつー個性的なメンツなんだ……


「……と、いうことがあったんだ」


 全員が俺の話を黙って聞いていた。

 そして、全てを語り終えたとき、メイヘレンはアリィシャをいたわるように優しくその肩を抱く。


「アリィシャ、心配いらないよ。父上はきっと帰ってくるだろう。そんなところで五年間も心折れなかった強い人なのだから」

「うん……ボク、大丈夫だよっ」


 アリィシャは気丈に笑顔で応えた。


「へぇ……そんな面白そうなゲームしてたんですか」


 いきなり不謹慎なことを言うのはイグナツィオの野郎だ。

 言葉とは裏腹に、さして興味も無さそうな様子だが。


「面白くねーよっ!本当にデスゲームだったんだぞ」

「最初の段階でガキから鉈をひったくって四肢を切断してやればよかったんですよ」

「おっそろし……!お前の発想って猟奇殺人犯のそれだぞ」

「女は筋肉が少なくて脂肪が多いから切断しやすいですよ」

「おまわりさんコイツです!手錠ジャラジャラつけられてコン・エアーにでも乗ってろよ!もう!」

「じゃが、水着ギャル三人とのハーレムを捨ててまでわざわざ帰ってくるとはのぉ……奇特な奴め。わしゃ、ハーレムを選ぶがの」


 俺は老師の言葉を聞いて、暗い気持ちになった。

 色欲にまみれているボケ老人には分からないだろうが、異次元世界に一人で残るというのは非常に勇気のいる決断だったはず。

 シゲハルさんの示してくれた自己犠牲と献身の精神に、俺は心から感謝と敬意を捧げたいと思う。

 俺がこうして帰って来れたのは――いや、生きているのは、彼のおかげだ。


「……帰って来たのは、やることがあるからだ」

「ほう?それは何じゃ?」

「自分の人生を自分で決めて生きていく。そう約束したんだ」

「お父さんと……?」

「ああ」


 アリィシャに向かって、俺は頷く。


「シゲハルさんがチャンスをくれた。本当の意味で、生きていく為のチャンスを」


 以前の俺なら臭いセリフだと思って笑い飛ばしていたかもしれない。

 だが、今は違う。

 一人の偉大な男に未来を託された。

 もう自分一人の命じゃないんだ。


「だから、ジャパティ寺院へ行く。何があっても、この旅のゴールまでたどり着きたいんだ」


 決意であり、覚悟であり、そして、使命でもある。

 この自分の決断を信じて、絶対に後悔しない。


「……」


 俺の言葉の後、しばらく全員が何も言わなかった。 

 一番最初に口を開いたのは、今までずっと黙って俺の話を聞いていたプルミエルだ。


「ま、もともと手錠をつけてでも寺院には連れてくつもりだったし。今さら所信表明されてもね」

「お、おう……」


 たしかに君はそういう女だったよネ!


「でも、なんていうか……雰囲気変わったわねー」


 彼女はじっと俺の顔を見つめた。


「ど、どう変わったかな?」

「なかなか男らしい顔になったかもね。一皮むけたんじゃない?」


 ちょ、何だ、その笑顔ォ……

 うっかり好きになるだろ!


「プルミエルサン……マスターハ一皮ムケテ何ニナッタンデスカ?」

「一つ上の男」

「やめろっ!お下品だぞぉーっ!」


 ちょっといい話になったと思ったらすぐコレだ……

 愉快な仲間なのは結構だが、こっちはおちおち感傷に浸っている暇も無い。


「では、すぐに『ジャパティ寺院』へ向かうかね?」


 メイヘレンが腕組みをしながら言う。


「そりゃそうだわ。何か他にやることある?」

「いや……まぁ、何も無いな」

「ちょっと何よー。言いたいことがあるなら言いなさいよ」

「……これは自分でも意外に思うんだがね」


 彼女は椅子に大きくもたれかかって、溜息を吐いた。


「私は少し寂しいよ」

「寂しい?」

「この旅が終わってしまうのが」


 俺たちはまた黙りこむ。

 本当だ。寂しい。

 ここにいる連中はクセ者ぞろいだが、最高の仲間たちだから。

 生まれが違う。身分が違う。ロボットまでいる。

 だけど――こうして今、ここにいる。

 この出会いは『勇者タイム』の制約に苦しむ俺に、神様が与えてくれた奇跡なのかもしれない。


「そんなこといったってしょうがないじゃないの」


 えなり……?

 いや、違う。あくまでも現実主義を貫くプルミエルの言葉だ。


「もともと明確な目的があって集まった仲間じゃないでしょ。全てが偶然の出会いってことよ。私はケンイチに対して希少生物としての学術的興味しかないし、アンタも最初は自分の妹を助けるための打算からだったじゃない。アリィシャだってお父さんを探すため、R-18はケンイチを『マスター』だと勘違いしてるだけ、イグナツィオは彼を猟奇的に殺したいだけ」


 なんて冷たいんだ……と、これも以前の俺ならふてくされていただろう。

 だが、そうじゃない。

 プルミエルはこんな感じで、仲間たちに未練が残らないようにしてるだけだ。

 俺が情にほだされて、正確な判断を誤らないように。

 そう、意外と気を使ってくれる娘なのだ。

 旅を続けてきて、それは良く分かっている。

 俺だけは分かっているからな!


「私は一刻も早く『ジャパティ寺院』に行きたいしね」


 わ、分かってるから……な……?


「あーあ、とりあえず目的地に着く前に殺さないとなぁ」


 そして、隣でイグナツィオが不穏な発言を。

 こいつに関してはもう本当にここでおさらばしたい。


「……なぁ、プルミエル。イグナツィオだけこの村に置いていかないか?」

「ケンイチさん、安心して下さい。普通に殺したいだけですから」

「殺意を隠そうともしない奴を相手に何を安心しろってんだよ……」

「ま、それはともかくじゃ」


 老師は、懐からパイプを取り出して火を灯す。


「メイヘレンよ。プルミエルの言う通りじゃな。ワシらはケンイチがもとの世界に帰るまでの見届け人に過ぎん。余計な感傷は不必要じゃ……ビジネスライクな距離感を保つのが吉じゃて」

「ああ……分かっているよ。いつかは終わる旅だということは」


 旅の終わり。

 それを予感して重い空気に沈む卓上を、老師の口から吐き出された紫煙がゆったりと漂う。


「ボク……ボクも寂しいよ……でも、ケンイチがもとの世界に帰れるんなら仕方無いよね……」

「アリィシャ……」

「私も寂しいよ、ケンイチ。だが、笑顔で見送るつもりだ」

「メイヘレン……」

「それは、まぁ……皆が同じ気持ちじゃろう……あ、わしゃ、別に何とも思ってないけどな!」

「老師……ツンデレっぽくて気持ち悪……」

「そろそろ本気で仕掛けにいかないと間に合わない気がしてきたんですよね」

「イグナツィオ……それ以上俺に近づくな」

「マスター……ワタシモ寂シクナリマスヨ」

「R-18……」

「ア、『勇者タイム』チャージノ時間デス」

「へ?」


 そう言うとR-18は手首をドリルのように高速回転させながら立ち上がり、カウンターの向こうでグラスを拭いている酒場の親父に向かって突進していく。

 ヤバい!

 俺は慌ててその後を追いかけた。


「ま、待て待てっ!」

「酒場ノ親父……捕捉。攻撃開始シマス」

「んぁ?何ズラ?おかわりズラ?」


 ノー天気な声と共に顔を上げた酒場の親父に、キルマシーンの無慈悲な一撃がッ……!


「だ、駄目だぁぁっ!やめろぉぉぉぉっ!」


 俺は慌てて二人の間に身体を割りこんで入り、その強烈なドリルクローを眉間で受け止めた。


「ぐああああああっ!」


 不死身とはいえ、ガリガリと脳天を削られる感覚はキツイのである!

 さらに、R-18は痛烈なパンチを俺の脇腹にドスドス打ち込んでいく。

 一撃もらうたびに体が浮き上がり、カウンターの上のグラスが音を立てて震えた。

 そして、酒場の親父は蒼ざめた顔でこの狂気の殺戮ショーを見ている。

 さすが勇者ボディー、痛みは無い。

 だが、このクレイジーマシーン、なぜここまで執拗に……?

 

「ぐぶぉっ!ま、待てっ!げふっ!も、もうチャージされたから!うぶっ!ほらっ!げはっ!」


 俺はR-18に手首の『勇者タイマー』を見せた。


『58:01』


 ここでようやく、キルマシーンの暴走が停止した。


「ヨカッタデス」

「ああ……軽く二分以上も無駄に殴られたがな……本当に……この野郎」


 俺は地面に膝をついて、なんとか呼吸を整える。

 その前を、仲間たちが次々と横切って行った。


「先に行ってるねっ」

「ナイス人命救助だったぞ、ケンイチ」

「情けないのぅ、不死身のくせに」

「あれでも死なないのかぁ……もっと考えようっと」

「マスター、トイレハ忘レズニ」


 そして、最後に。


「ぼやぼやしてんじゃないわよ。まだ先はあるんだから」


 と、プルミエル。


「そう……だな……」


 そう。

 先はまだあるんだ。

 旅の終わりを考えてしんみりするには早すぎる。

 一瞬一瞬を、仲間たちと大事に生きようじゃないか。


 いよいよ、次は勇者の目指す場所……『ジャパティ寺院跡』だ!


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