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勇者タイム!  作者: 森田ミヤジ
「孤島のデスゲーム」篇
86/109

水着ギャルとデスゲーム

 テーブルについた俺に、三人の水着ギャルが身を乗り出して口々におねだりをしてくる。


「で、誰を選ぶんだ?オレだよな?」

「当然、わたくしですわよね?」

「ずるいぉ!あたちだぉ!」


 これがもしも別の場所、別のシチュエーションで行われていたならば……

 俺の荒ぶるマグナム(?)が天に向かってその銃口をもたげていただろう。

 いや、あるいは暴発すらしていたかもしれない。


 だが。


 これはそうしたエロティックな感情が湧き起こるような場面ではない。

 これから始まる勇者の試練……その対戦相手を決める大事な場面なのだ!

 試練に失敗することはこの異次元世界への永久的な幽閉を意味する。

 絶対に負けられない戦いがそこにはある……

 当然、その対戦相手のチョイスは慎重に行わなければならない。


「……」


 俺は腕を組み、真剣な眼差しで三人を交互に見つめた。

 そして――考える。


(小麦はナシだな……)


 ポニーテールに小麦色の肌。

 そして、若々しく健康的な肢体。

 陸上部に所属していた俺だから分かるが、これは運動神経の良い人間特有の体つきだ。

 スピードと反射神経が要求されるゲームにおいて、これほど対戦に不利を感じる相手はいないだろう。

 というわけで、小麦はパスだ。


(ロリ子か……)


 そう、対戦相手の第一候補は彼女だ。

 ツインテールは幼女の証。

 なんといっても、まだ子供。色々な部分が未成熟だ。

 だが、油断は禁物と見た。

 確かに身体は小さいが、その身軽さと俊敏性には目を見張るものがある。

 先程からピョコピョコと跳ねまわりながらも息切れ一つしていないのは、その若さゆえの体力か。

 この娘も危険……


(では、プラチナはどうだ……)


 俺は一番女性らしいプロポーションをした色白のプラチナブロンドの美少女を見つめる。

 ウホッ、いい女。

 ……ではなくて、彼女なら対戦相手としてどうか?

 超個性的な他の二人のギャルの手綱をしっかりと握っているリーダーシップはお見事だが、その運動能力に関しては未知数だ。

 女性的、ということはそれだけ膂力や腕力において男よりも劣るのではないだろうか?

 加えて、『叩いてかぶってじゃんけんポン』は知的な駆け引きの少ない、反射神経と瞬発力がものを言う単純なゲームだ。

 それならば、プラチナが最も対戦相手としてはやりやすいのではないだろうか。


「俺の対戦相手は……プラチナ!君だ!」


 俺はビシッと指をさしてその女性を指名する。


「……プラチナって誰ですの?」


 おう!そういえば!


「すまん……まだ君たちの名前を聞いてなかった……」

「わたくしの名前は『リォーラ』。冥土の土産になさいませ」

「オレは『クォーラ』」

「『ネォーラ』だぉ」


 ここまでずっとアダ名で呼んできたのに、今ごろ名乗られても……

 だが、まぁいい。


「じゃあ、リォーラ!君に決めたっ!」

「ふふっ。お目が高い」


 プラチナ……こと、リォーラは椅子を引いて、腰掛ける。

 俺と彼女は、小さな机をはさんで向かい合う形になった。

 小麦――クォーラが机の前に立った。

 どうやらレフェリーを務めるつもりのようだ。


「ルールはさっきシゲハルが解説したとおりに進めるぜ。まずはじゃんけん。それに勝った方がハンマーで相手をぶっ叩く。負けた方はヘルメットで頭部をガードする。ガードが間に合わずにハンマーを喰らったほうの負け。それでいいな?」


 うむ。

 非常にメジャーな『叩いてかぶってじゃんけんポン』のルールだ。

 俺は頷き、リォーラも頷く。


「これがヘルメット」


 テーブルの上に、黒光りする頑丈そうなヘルメットが置かれる。

 米軍横流しの品かと思うほど本格的だ。 

 普通は工事現場とかにある安全帽みたいなのを使うんだけどな。

 大袈裟じゃないか?


「で、これがハンマー」


 ごとっ。

 と、鈍い音と共にそれがテーブルに置かれる。


「――ッ!」

 

 俺は驚きと恐怖と共にその剣呑な代物を見つめた。


「これって……!?」


 鋼鉄製の長い柄にこれも鋼鉄製の大きなヘッド。

 こ、これは俗に言う『スレッジハンマー』というやつでは……? 

 

「お、おいおいっ!待て待て待てっ!」

「なんだよ?」

「こ、こんなの『叩いてかぶってじゃんけんポン』に使うもんじゃねーぞっ!?」


 俺は必死で抗議した。

 もっと、こう……ピコピコハンマーとかハリセンとかでしょ!?

 

「はぁ?これで思いっきりぶっ叩くんだろ?」

「違う違う!だって、これ……これは凶器だろ!死亡遊戯になるぞ!?」

「あら?怖じ気づきましたの?」

「こいつ、あほなうえにビビリだぉ!」

「い、いやいや……だって、逆に考えようぜ!?俺がじゃんけんに勝ったらコレでリォーラさんがぶっ叩かれるんだぞ!?真っ赤な花が咲くぞ!ヤバいだろ!」


 そう、自分がぶっ叩かれるのもイヤだってのに、目の前に座っている美少女の頭をこんな物騒なものでぶっ叩くなんて狂気の沙汰だ。

 この可愛らしい部屋が血に染まるぞ……!

 うう、考えただけで肛門が窄まる!


「画面にモザイクがかかるようなスプラッターは避けようぜ?な?BPOの審査の対象になるぞ?」

「あら、わたくしは降りませんわ。絶対に負けませんもの」


 そ、その自信はどこから……?


「危険が大きければ大きいほど、生命の鼓動は研ぎ澄まされますわ……そうでしょう?」


 『そうでしょう?』と言われましても……甚だ同意しかねるよ!

 そんなにスリルが味わいたいなら諏訪大社の御柱祭りにでも参加すればいいのに……!


「じゃあ、始めるぞ!」


 こっちの抗議を完全に無視したクォーラの声と共に、リォーラはぐっと前のめりの姿勢になる。


(……!?)


 俺の目はテーブルに圧しつけられた彼女の胸の谷間に吸い寄せられてしまいそうになる……

 だが。


(あれは脂肪の塊……あれは脂肪の塊……)


 言うなればラクダのコブみたいなもんだ……!

 そう強く自分に言い聞かせて、俺はエロスの罠に耐えた。

 緊張と恐怖と使命感で頭がいっぱいだってのに、このうえ煩悩まで詰め込む余地は無いのだ。


「……」

「……」


 互いに睨みあい、隙を窺う。

 だが、いつもでもこのままではいられない。


「いきますわよ!」


 リォーラが叫び、ぐっと拳を握りこむ。


「叩いて!」

「か、かぶって!」

「じゃん!」

「けん!」

「「ぽん!」」


 俺は渾身の力で拳を突き出した。

 つまりグーだ!

 どうだ!?

 リォーラさんは――グーだ!


「――ッ!」

「……!」


 互いにびくっと動きかけて、止まる。

 そして自分の手を睨み、そこで一瞬の沈黙が流れた。

 あいこだ。

 つまり――仕切り直しだ。


「ぶ……はぁぁぁぁっ!」


 俺は肺に溜めこんだ空気を、勢いよく息を吐く。

 額を手で拭うと、ぐっしょりと汗で濡れた。

 なんだ、この凄まじい緊張感は……


「ケンイチ君。まずいぞ。動きが一瞬、リォーラより遅かった。緊張してるのは分かるが、もっと早く動くんだ」


 俺の耳元にシゲハルさんが囁きかけてくる。


「今のじゃんけんで、もし彼女が勝っていたら――君は脳漿をまき散らしていたぞ」

「マ、マジッすか……」

「もっと素早く……脳と筋肉を直結させるんだ。いいな?」

「できるんですか……そんなことが……?」

「できる。君ならできる」


 シゲハルさんを押しのけるように、再びクォーラが前に立った。


「んじゃ、もう一回だな。二人とも始めるぞ!」


 俺とリォーラは再びテーブルを挟んで前のめりになる。

 もっと、早く……

 早く……!


「叩いて!」

「かぶって!」

「じゃん!

「けん!」

「「ぽん!」」


 俺の選択は全てを包み込む梅花の型……つまりパーだ!

 だが、リォーラは――

 その花を裁ち切るもの!すなわちチョキなり!


「っうふぇ!?」


 じゃんけんに負けた!ってことはやべっ!

 リォーラと俺の動きはほぼ同時だった。

 だが、俺は首をテーブルすれすれまで低くして、なんとか一瞬だけ早く鉄帽をかぶることに成功した。

 そして。


 ドッゴォォォォォォン!


「うぼぁ!」


 強烈!

 鉄同士のぶつかり合う衝突音が室内に轟き、天地が崩壊したかというほどの凄まじい衝撃がヘルメット越しに俺の脳を揺らした。


「あはぁっ!?」


 なんて衝撃だ!?

 ちゃんとガードしたはずなのに!

 奥歯が強制的に強く噛みあわされ、軋んで砕けそうになる。

 何よりも脳が頭蓋の内部で揺れ、意識が遠くなった。


「くふぅっ……」


 俺は椅子から滑り落ち、床に倒れこむ。

 即死を免れはしたが、脳細胞のいくつかが死に絶えたに違いない。

 ぐったりと脱力する俺の身体を、シゲハルさんが抱き起した。


「大丈夫か!しっかりしろ!」

「や、ヤバいッスよ……このゲームはヤバいッス……」


 フヘヘ……と、自分でも意味の分からない笑いが漏れた。


「あと二回も食らったらヘルメットの中で脳出血を起こして死ぬ確率大っスよ……」

「そんなにヤバいのか……」

「じゃんけんに負け続けたらヤバいッス。じわじわ死ぬか、一瞬で死ぬかの違いで……」


 俺は何とか立ち上がり、椅子にもたれかかるように座る。

 目の前の光景が少しばかりぐんにゃりと歪んで見えた。

 目の前のヘルメットが痛々しくぼっこり凹んでいるのも、そのせいだと思いたい。

 なんて力でぶっ叩いたんだ?くそ。


「命拾いしましたわね、ケンイチ」


 テーブルの向こうでリォーラが勝ち誇った笑みを浮かべる。


「次は必ず頭を砕きますわ」


 おっそろし……!

 今すぐ立ち上がって逃げ出したい感情に駆られるが、そうはいかない。


「それじゃあ、次、いくぞ」


 クォーラが二回戦の開始を宣言した。

 俺とリォーラはぐっと身がまえる。


「叩いて!」

「かぶって!」

「じゃん!」

「けん!」

「「ぽん!」」


 渾身のパー!まさかの二回連続!

 相手は……グーだ!

 ってことは……えーと……


「ハッ!」


 こっちがまごついている間に、素早くリォーラはヘルメットをかぶる。

 それを見て、ようやく俺は自分が叩く側だったんだと理解した。


「あ……」


 のろのろとハンマーの柄を掴んだが、もう遅い。

 痛恨……ッ!


「ああっ……!もうっ……!」


 俺は悔しさのあまり、頭を掻き毟った。

 チャンスだったのに!

 さっき思いっきりぶっ叩かれた衝撃で、頭が満足に機能していなかったんだ!


「大丈夫……次のチャンスを待て」


 シゲハルさんの優しいアドバイスが心に沁みる。

 そうだ。落ち着け。冷静になれ。

 俺は大きく呼吸をしてから、リォーラに向き直った。

 次の戦いだ。


「叩いて!」

「かぶって!」

「じゃん!」

「けん!」

「「ぽん!」」


 まさかの三回連続パー!

 予想外だったろ!?

 だが、リォーラは……チョキだ!ぐっひぃ!

 俺はヘルメットに手を伸ばす。

 だが、どう見ても相手の手の動きのほうが早い!

 俺がヘルメットを目の高さまで持って来た時には、スレッジハンマーが振り下ろされる直前だった。

 もう、ダメだ……関西風に言うと、もうアカン…… 

 もう……終わりだね――有名なあの歌が脳内で流れた。

 だが。


「きゃっ!?」


 奇跡が起きた。

 なんと、リォーラのビキニが――大きく振りかぶったことによって、胸元でぱつん!と弾けたのだ!

 彼女は咄嗟に胸元を押さえて、大事な部分を隠した。

 そこで、一瞬の隙が生まれた。

 まさに奇跡だ! 

 俺はヘルメットを急いで装着した。

 よかった!間に合った!

 だが……


 ドッゴォォォォォォン!!


 「ぐへっ……!」


 なんという衝撃!頭に隕石でも衝突したのか!?


「……~っ」


 俺はヘルメットをかぶったまま、ばったりとテーブルに突っ伏した。


「な、な、なんと破廉恥な……!」


 頭上から動揺したリォーレの声が聞こえてくる。

 俺は八つ当たりでぶっ叩かれたのか……?


 ビキニなんて着てるからじゃん……


 という、当然の抗議をする気力も無い。


 平気でプレイメイトみたいなカッコしてるくせに、羞恥心はあるのか……


 そんな事を考えながら暗黒の深淵へと沈みゆく俺の意識。

 それを、シゲハルさんは頬への平手打ちで呼び戻す。


「しっかりしろ!まだ生きてるぞ!」

「フヘヘ……もうダメっす……死神が鎌を振り上げて立ってるのが見えますよ……」

「気をしっかり持て!」

「シゲハルさん……俺は次を食らったらマジで逝きます……ガードできる自信はありません……」

「ケンイチ君!」

「俺の頭の中身がパッと彼岸花みたいに咲いて……へへ、綺麗ですぜ……」


 意味不明なことを口走る俺の頭から、クォーラが無理矢理ヘルメットをむしり取る。  


「おい、何してんだ?次だぞ」


 こいつは阿修羅か?

 冷徹な水着ギャルに怨念のこもった視線を送りながら、俺はのろのろと対戦相手に向き直った。

 いつの間にか、リォーレは上半身に無地の白Tシャツを身に着けていた。

 なるほど、それならどれほど激しく動いても、さっきのようなラッキーハプニングは起こらない。

 もはや万事休すだ。

 次のじゃんけんで負ければ、待っているのは死のみ。

 だが、もうじゃんけんですら勝てる気がしない……


 その時。


 不安と恐怖から小刻みに震える俺の肩を、シゲハルさんの手が力強く掴んだ。

 痛いほどに。

 俺は慌てて振り返った。


「痛ッ……シ、シゲハルさん?」

「ケンイチ君。さっきも言ったが、じゃんけんは観察だ」

「観察……?」

「よく見るんだ。相手の動きを。次に何を出すかを」

「そ、そんなの分かりませんよ……!」


 そう、分かるワケがない。

 だって、まだじゃんけん自体は三回しかしていないんだから!

 癖を見抜くとか、そういう次元の問題じゃない!


「だったら……」

「だ、だったら?」

「自分を信じて動け」

「じ、自分を……?」

「じゃんけんで絶対に勝つと信じて、リォーレよりも先に動くんだ」

「そ、それってフライングってことっスか?」

「違う」


 シゲハルさんは澄んだ瞳でこちらを見つめてくる。

 それを見て、俺の心も不思議と落ち着いてきた。


「ケンイチ君。気合で勝ちを引き寄せるんだ。君が『勝つ』と思えば必ず『勝つ』。そう考えるんだ」

「……」


 結局は単純な精神論だ。

 根性とかヤル気とか――そんなもので状況が好転するはずがない。

 だけど……


「勝てますか……?」

「勝てる。少なくとも、俺は信じている」

「……」

「君が勝つ」


 シゲハルさんに迷いはない。

 強がりではなく、気休めでもなく、誇張でもない。

 俺を本当に信じてくれているのだ。

  

(勝つ……)


 俺は再びテーブルに向き直る。


(絶対に勝つ!)


 自信ではない。

 確信を持って勝負に挑むのだ!


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