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勇者タイム!  作者: 森田ミヤジ
「孤島のデスゲーム」篇
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ドントストップ・悪あがき

 視界が明滅を繰り返し、強制的に追い出された意識が肉体を出たり入ったりする。

 その感覚をしばらく繰り返して、ようやく自分が自分であるということを思い出した時。

 靄のかかった意識の中で、俺は自分の置かれている状況を理解した。

 そうだ……強烈な一撃を後頭部に受けて……

 で、今はこうして、椅子に縛りつけられている、と……

 つまり虜囚の身に堕ちたということだ。

 強烈な虚脱感と無力感に襲われて、俺はがっくりと肩を落とす。

 もう、なんていうか……俺はこっちの世界に来てから捕まってばっかりだ。

 その度にぶん殴られたり吊るされたり酷い目にあわされてきたが、今回は少し勝手が違う。

 今、俺の前に立っているのは、三人の水着のギャルだってこと。

 水着ギャル……そう、水着ギャルだ……

 おっ……今思った?

 『リア充はよ氏ねw』とか思ったでしょ?

 残念でした。

 その水着ギャルたちはそれぞれ手に恐ろしい凶器を持って、口元に涼しげな笑みを浮かべているのだ。

 生命の危機、ここに極まれり……

 部屋の中は暖かいのに、俺の額には冷や汗が伝った。

 まあ落ち着け、冷静になれ、と自らに言い聞かせながら俺はその室内を見回してみる。

 そこはリビングのようだった。

 いかにも女の子らしい花柄の壁紙、ラベンダーのような甘い香り、食い散らかしたポテチの残骸が散らばっている大きなソファ、点いたままのテレビの中では、痩せぎすの男が『すっとこどっこいだよ~ん』とバカ丸出しのコントをやって会場の笑いをとっている。何だアレ?


「お前はアレだな。シゲハルと違ってアホっぽいな」


 小麦が俺の顔を覗きこんで笑う。


「よくそんなのでここまでたどり着けたもんだ。運が良いんだな」


 確かに、自分でもそう思う。俺は運が良い。

 一人では無理だった。

 良き仲間たちにめぐりあい、支えられて、ここまで来た。

 そう、俺の旅はいつも誰かに助けられてきたのだ。

 だから今も誰かに助けてほしい。そう、たとえばシゲハルさんとかに。

 そして、できれば今すぐに助けてほしい。

 玄関のドアの向こうで待機してくれているはずだ。

 よし、ここは俺が囮になって注意をひこう。


「フッ……まったく、おめでたいな……」

「あん?」

「俺一人を捕まえて調子に乗るなよ……」

「どういうことですの?」

「たとえ俺は捕まっても……この島にはもう一人勇者がいる!」

「あ!あいつのことだぉ!」

「そう……シゲハルさんだ!」


 俺は出来得る限りのドヤ顔を三人に向けた。


「俺は確かに単なる雑魚だ……だが、あの人は一筋縄じゃ倒せねぇ!諦めろ!」

「んぬぬ……」


 さぁ、シゲハルさん。彼女達が怯んでいる今がチャンスですよ!

 自慢のブーメランで俺を助けてくれ!


「すまん、ケンイチ君……」

「……」


 あれ?

 気のせいかな?

 すごく近いところでシゲハルさんの声が聞こえた気がする。


「期待に応えられなくて申し訳ないと思っている……」

「……」


 まさか……そんな……

 俺は声のした方に目をやった。

 自分の足元に。

 そして、そこに彼はいた。

 体をロープでグルグル巻きにされた状態で床に転がされていたのだ。

 俺は思わず叫んだ。


「嘘ぉっ!?シ、シゲハルさん!?どうしちゃったんですか!?」

「うむ。失神している君を人質にとられてな……武器を奪われて、ご覧の有様だ」


 お、俺のせいか……マジでゴメン。

 だが、これで状況は圧倒的不利に!


「で?どうしてほしい?」


 釘バットを手にした健康的美少女の小麦が、俺の顔を覗きこんでくる。


「ど、どうしてほしいか……と言いますと?」

「誰に、何で、殺して欲しいか選ばせてやるって言ってんの」

「いや……どれも……」

「オレの釘バットなら痛みと衝撃を同時に感じられるよ?」

「あはは……頼もしいかぎり……」

「あらあら、野蛮ですこと。ねぇ?新米勇者さん。わたくしのバールのようなものでしたら、一瞬で頭蓋が割れて楽に逝けますことよ?」


 プラチナが俺の耳元で囁く。

 え?それってバールじゃないのか……?

 バール以外の『バールのようなもの』って結局何なんだろう……

 いやいや、そんなことを考えている場合じゃないのは確かだ。


「ずるいぉ!あたちもこのなたでばらばらにするぉ!」

「こ、こらこらっ……め、目の前でひゅんひゅん振り回したら危なっ……」


 軽口を叩きながらも、俺は内心で超焦っていた。

 冷や汗が背筋を滑り落ち、膀胱が緊張して過活動している。ようは失禁寸前ってこと。

 何とかしろ……何とかしなきゃ……

 えーと、そうだ、あれはどうだ?

 情に訴えかけるってのは?

 とりあえずやってみろGO!


「びょ、病気の妹がいるんだぁっ!」

「へぇ」

「ふぅん」

「こいつばかだぉ」


 にべもない!

 無念……

 もう駄目だ……万策尽きた。


「あーっ!くそーっ!」


 俺は天に向かって失意の雄叫びをあげる。

 それをギャルたちはニヤニヤと優越感に満ちた笑みを浮かべながら見ていた。


「へへっ、ついに観念したか?」

「本当にもう……!だいたい、何故だ!?君たちはなんでそんなに勇者をKILLしたがるんだ!?なんかイヤな思い出でもあるのか?それともレイシストなのか!?」

「なんでと言われましても……それがわたくしたちの使命ですから」

「何の使命だよ!」

「ゆうしゃにしれんをあたえるのがしめいだぉ。きまってるろ」

「試練ったって……だって、これじゃ一方的な虐殺だろ!悪鬼羅刹の所業だよ!こんなのってないよ!」

「じゃあ、お前がルールを決めろよ」

「……は?」


 小麦の口から飛び出した意外な言葉。

 その言葉に、俺は奇妙な引っかかりを覚えた。


(……今、なんて言った?)


 『ルールはお前が決めろ』と言った。

 どういう意味だ?

 何の意味がある?

 その言葉には生き延びるためのヒントがあるのでは?

 つまり、一筋の活路が。

 確認してみる価値は十分に……ある。


「ちょ!待ってくれ!今、なんだって?なんて言った?」

「あ、いっけね……やっぱすぐ殺そう」


 ペロッと舌を出した小麦が大きく釘バットを振りかぶる。


「おわぁ!?、ま、待てよ!聞いたぞ!俺がルールを決めるって?どういうことだ!」

「ふう。ま、別に隠す必要はありませんわね」


 プラチナは俺に向かい合うようにソファに腰掛けて、その美しい髪を掻き上げた。


「この島は『ぱらいそ』。試練の島。試練はルールに則って進行します」

「ルール?」

「そう。ルール。この島ではルールが全てですわ」

「今のルールは『鬼ごっこ』だ。うすうすは気付いてたんだろ?」


 プラチナの隣に小麦がどかっと腰を下ろす。


「鬼に追いつかれて殺されたら負け。そのルールは何百年も前に『次元の狭間で遊ぶ猫』が定めたルールさ」

「だからおまえらをみつけたら、おっかけてころすぉ。なんのふしぜんもないぉ」


 小麦の膝の上に、ちょこんとロリ子が飛び乗った。


「それがるーるだから」

「えーと、ちょっと待てよ……」


 俺は頭の中で情報を整理する。


「じゃあ……つまり、俺たちが新しいルールを提案すれば、それで勝負してくれるんだな?」


 このチャンスにすがるしかない。

 俺はじっと彼女たちの答えを待った。

 すると、小麦がぐっとこちらに身を乗り出して口を開く。


「勝負の内容は?」


 よし!乗ってきた!

 だが……なんてことだ、何も決めてなかった。


「えーと、アレだ……うーん、どうすっかな……」


 こっちが簡単に勝てそうで、なおかつ誰も流血しないような、いたって平和でシンプルな競技……

 うおお……!なかなか思いつかん!

 その時だった。


「『叩いてかぶってじゃんけんポン』……」

「シ、シゲハルさん!?」

「『叩いてかぶってじゃんけんポン』で勝負だ!」


 なんと、今まで無言で転がっていたシゲハルさんが、高らかに勝負の方法を宣言する。

 その言葉には強い自信が満ちていた。

 でも、『叩いてかぶってじゃんけんポン』って……!

 関西の大御所師匠が開発したという、アレのこと!?


「シゲハル。ルールを教えて下さいまし」

「簡単だ。一対一でじゃんけんをする。勝者は敗者の頭を叩く。敗者は勝者よりも素早く動いて頭部をガードする。ガードが間に合わずに頭を叩かれた方の負けだ!」


 はーん!マジで『叩いてかぶってじゃんけんポン』だ!

 勇者の試練だってのに、緊張感の無い戦いになりそう!いいのか!?


「どうだ!?受けるか!?」


 シゲハルさんの問いに対して、ギャルたちは顔を寄せ合ってこそこそと話し合う。


「どうする?鬼ごっこも飽きてきたしな……」

「こっちもおもしろそうだぉ」

「そうですわね……決まりですわね」


 そして、プラチナはその顔に強気な笑みを浮かべて立ち上がった。


「勇者よ!その勝負、お受けいたしますわ!」


 こうして、ルールを大胆に変更した勇者の試練が幕を開けようとしていた。

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