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勇者タイム!  作者: 森田ミヤジ
「不穏な影」篇
55/109

幸運の女神よ!

 誰もいなくなった。


 手足を縛られ、無様に首を吊られて、文字通りの蓑虫状態になった俺。

 蓑虫ぶらりんしゃんだ。

 そんな哀れな人間を一人、林の中に残して、本当に誰もいなくなった。

 周囲には人影さえ無い。

 夕方の風が木々の葉を揺らし、吹き抜けていくだけだ。


 静寂。

 沈黙。

 孤独。


 世界にはもう、俺一人だけなんじゃないかと思うほどの寂寥感だった。


(ここで一巻の終わり……なのか)


 やれることはやり尽くした。


 最初は、この手足を縛る忌々しいロープが少しでも緩まないかと、あちこちに力を入れ、手足をこすりあわせ、体をひねったり曲げたりを繰り返した。

 だが、ダメだ。

 麻布を寄り合わせたような太いロープはとても頑丈だった。

 こいつはちょっとやそっとでは緩みもしないだろうし、切るにはチェーンソーが必要なんじゃないかというほどに固く縛り上げられている。


 次に、この首が吊されている枝が折れて、何とか地上に帰還できはしないかと俺は全身を振り子のように揺らした。

 ぶん!と大きく遠心力がついて、まるでブランコのように俺の体が宙に弧を描く。

 しかし、これもダメだった。

 とりわけ太い幹に引っかけられているせいで、俺の全体重を駆使しても、木はしなりもしていない。

 俺の体は、風に翻弄される木の葉のように、ぶらんぶらんと大きく揺れるだけだった。

 うえっぷ。

 しかもちょっと酔ってきた……


 最後に、大声で叫んでみた。


「誰かぁ!助けて下さいぃぃ!」


 セカチューも真っ青の命がけのシャウト。

 恥も外聞も捨て、何度も何度も叫んでみるが、林の中はシンと静まり返っているだけだった。


(ちくしょう……)


 あと、他にどうしようがある?

 無い。

 何も思いつかない。

 万策尽きた。

 もうお手上げ。打つ手無し。

 完全にドツボにはまっちまった。

 ゲームオーバーだ。

 リセットボタンがあるなら今がそいつを押すタイミングだ。


 手足が自由にならない、地上にも降りられない。

 となると、もうあとは通りすがりの親切な第三者に命乞いをするしかない。

 だが、それに関しても、人通りの全く無いこの林の中は絶望的なシチュエーションといえる。


 周囲の事象すべてが、俺の確実な死を暗示していた。


(死ぬ……のか……)


 そう、もう死を待つのみだ。

 俺が勇者である以上、何もしないで一時間を過ごせば、確実に死ぬ。

 勇者タイムなんていう馬鹿げたシステムの犠牲になって、何の意味も無く、死ぬ、のだ。


(い、いやだ……)


 大声を出して泣きたい気分だった。

 そもそも、俺はあとどれくらい生きていられるんだろう?

 ラーズ達がいなくなってから、どれくらいの時間が経ったのか?

 10分しか経ってないような気もするし、20分、30分・・・いや、あるいはもう59分59秒経ってしまっているかもしれない。

 後ろ手にきっちりと縛られてしまっている今の状態では、勇者タイムの残り時間を確認することなどもちろんできない。

 時間の感覚も、実にあやふやだった。

 冷や汗が、額を伝う。


『一秒一秒の命の重みを、しっかりと味わってくれ……』


 脳裏に、去り際のラーズの言葉が何度も蘇った。

 あいつの考えたこの拷問は、実に効果的だ。

 スリルがある、なんてもんじゃない。

 確実に来る死。

 そいつを、指をくわえて待つというのは、全く未知の恐怖だった。


 あと五分はあるか?

 いや、一分ほど?

 ひょっとしたら、次の瞬間にも……?


 だが、確実にそれは来る。

 死ぬ。


(マジか……)


 抑えようとしても、動悸が早くなる。

 堪えようとしても、息が荒くなる。


(ううっ、やめろ……うろたえるな……クールになれ、ケンイチ……)


 俺はぎゅっと目を閉じて、迫りくる恐怖との戦いを開始した。

 せめて、無様な死に方だけはしたくない。

 どうせ死ぬならば豪の者らしく、凛然とした、実に穏やかな顔で死にたい。

 そうだ。

 それが日本男児の死に様だ。

 武士道といふは死ぬことと見つけたり。

 そうして、後で俺の亡骸を確認しに来たラーズに、こう言わせてやれ。


『バカな……笑って死んでいるだと……』


 うん、それがいい。

 奴の驚いた顔が目に浮かぶぜ。

 俺はその光景を夢想して、無理やり、ほくそ笑んだ。

 ネガティブなんだかポジティブなんだか自分でも良く分からないが、もうどうだっていいや。

 俺はとりあえず事態が何か好転しちゃいないかと、もう一度、目をうっすら開けてみる。


「……」


 来た……急展開……


 少年誌のようなご都合主義的好転。

 俺は唖然としてしまう。


 なんと、ぶら下がっている俺の目の前で、手を組んで、静かに祈りを捧げている人影があったのだ。

 あまりの急展開に喉がひきつって声が出なかった。


 ん?待てよ……

 この娘、見たことがあるぞ……

 どこかで……


「お!おおっ!お、お、思い出した!」

「ひゃぁっ!」

「ア、アリィシャッ!!」


 そう、昼間に大蛇に食われそうになっていた俺を助けてくれた、あの超力美少女だ!

 だが、彼女は俺が死んでいたと思ってたらしい。

 俺が声を上げた途端に、ひっくり返って尻餅をついてしまった。


「び、び、びっくりしたぁ……生きてたの……」

「アリィシャ!頼む、助けてくれ……!」

「へ?なんでボクの名前知ってるの?」

「お、俺だ、ほれ、あの、川であのでっかい蛇から助けてもらった、あの、ケンイチだ」

「ケンイチ……?」


 おっと、そういや俺はこの娘にちゃんと名乗ってなかったかもしれない。

 だが、アリィシャはポン、と手を叩いて、無事に思い出してくれたようだった。


「あーあー、はいはい!思い出した!」

「そうそう!それ!多分!」

「で、キミは何をしてるの?」

「かいつまんで話すと、悪い奴らに縛られてこんな目にあってるんだ……」

「ええー?それは災難だったねぇ」

「助けてくれると超嬉しい。できれば、すぐに」

「いいよ。待ってて」


 天使のように、にっこり笑ってそう言うと、アリィシャは俺を繋いでいる木の幹へと歩いて行って、縄を解く作業を始めてくれた。

 それを見て、俺は叫びたくなる衝動に駆られた。


 た、助かったぞォォォォォォ!JOJOォォォォーーーッ!(?)


(や、やった……!俺、もってる(、、、、)!)


 もともと俺は強運の持ち主というわけでもない。

 現世では宝くじが当たったことも無いし、ビンゴゲームでもリーチは出しても、一番最初に「ビンゴゥ!」と叫んでドヤ顔をしたことも無い。

 だが、こっちの世界ではどうだ。

 行く先々で困った時には、こうして必ず何とかなっちまう。


(どうだ、ラーズ!俺はとにかく!最強に!ツイてるんだぜ!)


 う、お、お、お、お!テンション上がってきたぜ!

 さぁ、早いとこ勇者タイムをチャージして、奴の驚く顔を見に行ってやるぞ!

 そんでもって、ルイーゼさんを助けてみせる。

 俺はやるぜ!

 俺は男だ!

 イェイ!


 ……


 …………


 ………………?


「……あー、アリィシャちゃん?」

「ん?なに?」

「……まだかな?」


 ず、ずいぶん時間かかってないか?

 俺はちょっと焦って、足元のアリィシャに声をかける。

 彼女は指先でカリカリと縄の結び目と格闘していた。


「それがさー、玉結びになっちゃっててさー」


 のんきな声が返ってくる。


「誰がこんな雑な結び方したんだろうねぇ?もう、ボク嫌いだな、こういうの」

「……解くのは諦めて、ロープを切るとかなんとか、そういう風にしたらどうだろうか」

「ダメダメ、ボクは物を大事にする主義なのさ」


 待て待て、俺の命も大事にしてくれ!


「すまんアリィシャ、本っ当に申し訳ないんだが、できるだけ急いでくれないか……」

「慌てない、慌てない」

「いや、頼む、本当に急いでくれ……」

「えー?キミ、ひょっとして、せっかちさん?」

「話すと長くなるけど、時間制限があるんだよ!それを過ぎると、なんと、僕は死んでしまいます」

「わ、それは大変だ」

「だから、頼む!」


 メガ級の焦燥感に思わず声が大きくなる。

 こんな風に話している最中にも死んでしまうかもしれないのだから、気が気ではない。

 いやだぞ、こんなゴール目前で息絶えるようなのは!


「うーん、じゃあ、不本意だけど……」


 そう言うと、アリイシャは幹の前で軽く構えて、息を長く吸う。

 そして――


「せっ」


 短い掛け声とともに、拳を打ち出した。


 ズドン!


 と大きな音が林の中に響いた。


「おおっ?」


 だが、不思議なことに、その音の大きさに反して、木にぶら下がっている俺の身体も、木そのものも全く揺れなかった。

 葉っぱ一枚落ちてこない。


「……?」


 どういうことだ?と、俺が様子を確認しようと首を傾けた時だ。

 ふっ、と一瞬の落下感があって、気がつくと俺は地面に頭から着地していた。


「うべぇっ!?ぺっ、ぺっ……」


 俺はなんとか仰向けになって、口に入った落葉やら土を吐き出した。


「ほいほい、動かない動かない」

「おおっ?」


 アリイシャが俺の身体の上にひょい、と飛び乗る。

 不思議なことに、全く体重を感じないほど軽い。

 しかし、一体、何を……


「じっとしてて」


 言うとアリィシャは拳を握りしめ……


「はっ」


 その拳を俺の身体に打ちつけた!


「うへぇぇぇぇぇっ!」


 とりあえず目を閉じて、悲鳴は上げてみる俺。

 再びズバァン!と大きな音が林に響いた。


(……)


 幸い、痛みも衝撃も感じなかった。

 しかし、あんな強烈な音のするパンチを食らってたら粉々になってたんじゃなかろうか。

 こういう時には本当に不死身でよかったと思う。

 問題は地中に何メートルほど埋まったかということだな。

 俺は恐る恐る目を開いて見る。


「……お?」


 すると、あらびっくり。

 俺の身体はそのままで、俺を縛っていた荒縄だけが弾け飛んでいたではないか!

 手も足も、自由に動く!


「お?おおっ!?」

「はい、一丁上がり」

「すげぇ!何、今の!?」

「周囲を傷つけず、対象のみを破壊する……すなわち『不壊点芯功』ってね。キミ、いいもの見たね」

「すげぇ……ふかいてんしんこう……?北斗……いや、蛙を『メメタァ!』ってやった時のツェペリさんみたいなもん?」

「あっは、何それ?ありゃー、中途半端な長さになっちゃったね。勿体無いなぁ、凄く丈夫でいいロープなのになぁ」


 いかにも残念そうに呟きながら、ロープの残骸を回収するアリイシャ。

 俺は跳ね起きて、その背中を拝んだ。


「あ、ありがとう、アリィシャ!君は命の恩人だ」

「いやだなー、もう。照れくさいよ、そんな風に言われちゃうと」


 言いながらも恥ずかしそうに頬を染めるその可愛らしさに、俺は婚姻届の用意すら考えた。

 プルミエルともメイヘレンとも違う萌えがここにある……


 っと、そんな場合じゃねぇ!


 俺は慌てて勇者タイムを確認する。


『02:02』


 ひあああああああああっ!?

 レッドゾーンだッ!!

 カップ麺の完成を待たずして死ねる、恐怖のデッドリミットに突入だッ!!!


「ア、ア、アリィシャ!君!何か困ってないか!?」

「え?困ってたのはキミじゃないの?」

「困ったことが無いと困ったことになるから困ってるんだ!」

「えー……?よく分かんないなぁ」


『01:48』


「ほら、靴紐が解けたとか肩揉んでほしいとか!」

「ボクはだらしないの嫌いなの。ほら、靴紐もしっかり結んでるでしょ。肩もこったことないしなぁ」

「特別な道具を使わない範囲で、俺を牛馬の如く使ってもいいんだぞ!」

「ええー?なんか変な人だねぇ、キミ」

「そ、そんな目で見るなッ!変なこと言ってるのは自分でも分かってる!」


『01:36』


「頼むッ!何でもいいから!」

「うーん……」

「……」

「……」


『01:22』


「ッ……!(汗)」

「あ、そうだ。キミ、お裁縫得意?」

「おおっ!得意!得意!俺、将来はお針子さんになろうと思ってたんだヨ!」

「昨日さー、寝袋の端に穴があいちゃってさー。そういえば直すの忘れてたなぁって……」

「俺に任せろぉぉぉッ!あ、裁縫セットは取り上げられちまったんだった……」

「あ、あるよー。待っててね、えーと……」


『01:10』


 俺は、アリイシャがゴソゴソとナップザックから引っ張り出した寝袋と裁縫セットを山賊めいた動きでひったくると、神懸かり的なスピードで針に糸を通す。


『01:01』


 そして、寝袋チェック。

 こっ、これがアリィシャの……

 あーっと、女の子の香りだぜぇー……なんてやってる場合かー!

 あ、うむ、ココだな!

 穴のあいている個所を見つけて、運針開始だ。


『00:49』


 俺は人間ミシンと化した。

 おそらく今の俺をポラロイド写真で撮ったならば、体から発散される強烈なオーラのせいでピントがぶれまくるだろう。


 チクチクチク……


「うおぉぉぉぉぉ!まつり縫いだ!おらぁ!」


 豪快にフィニッシュ!

 俺はそれと同時にドサッと仰向けに地面に倒れ込んだ。

 ああ……なんて広い空だ……

 夕焼けが雲に反射して……ふっ……綺麗だぜ……


「おおーっ!すごいっ!ちゃんと直ってる!」


 アリィシャは仕上がりを見て歓喜の声をあげてくれた。

 俺は横になったまま勇者タイムを確認する。


『59:52』


 俺は大きく息を吐いた。


(どうだ……ラーズ……生き延びたぞ……)


 ふへへ、と思わず笑いが漏れた。


「うわぁ、何か気持ち悪い笑い方してるね」

「おっと、すまん、つい……」


 ここで俺はハッと気が付く。


 待てよ……

 さっきのでギリギリ一時間だったってことは……


「ル、ルイーゼさんがヤバい!」


 俺は慌てて跳ね起きた。


「ん?どうしたの?」

「貿易都市の広場はどっちだ!?」

「えーっと、広場は……この道をまーっすぐ歩いて行って、右に曲がって……ここからだと四十分くらいかなぁ?」

「よ、四十分!?」


 やべぇ、やべぇぞ!


「くそっ!」


 俺は大慌てで走り出した。

 何てこった……間に合ってくれ!


「ね、何かあったの?」


 一心不乱に全力疾走する俺の隣を、涼しい顔でアリィシャが並走している。

 お、俺、一応陸上部なのにぃ……!


「事情を聞かせてよ。何か力になれるかもしれないでしょ」

「は、話すと長くなるんだけど……走りながらでもいいかい?」

「いいよ」


 俺は息も切れ切れになりながら、何とか事態をアリィシャに説明した。

広場での奴隷の売り買いの事、ラーズの館からの脱出劇、そして、この理不尽な『走れメロス』ゲーム……


「ひどいヤツだね、ラーズ!ボクも腹が立ってきたよ」

「はひぃ……はひぃ……」


 俺は息が切れてきた……

 会話しながら全力疾走すれば、まぁ、こうなる。

 気がつくと、もうほとんど歩いてるのと変わらないくらいの速度になってしまっていた。


「……だが、諦めるわけにはいかないんだ……」

「そうだね。一泡吹かせてやろうよ!」

「おう……」

「あ、待って」


 よれ~っと再び走り出す俺の手を、アリィシャが掴んだ。


「な、なんだ……?」

「ボクの『術戦車』使おう。広場までひとっ飛びだよ」

「じゅ、術戦車……!?」


 俺は驚いて目を見張る。


「き、君、魔道貴族だったのか……?」


 たしか、プルミエルは術戦車が貴族の乗り物だと言ってたはずだ。

 だが、アリィシャはぶんぶん首を振って否定する。


「違うよぉ、ボクの家に代々伝わるものだよ。お祖父ちゃんから貰ったんだ」

「そ、そうか……しかし、それを今から取りに行くのか?時間が……」

「え?ここに入ってるよ」

「ここ、に……?」


 入ってる(、、、、)って……どういうことだ?

 俺はさすがに怪訝な表情を浮かべてしまう。


「これこれ」


 そう言うと、アリィシャはナップザックを降ろし、それを取り出した。


「ロ、ローラーブレード……?」


 そう、それはどう見てもローラーブレードだった。

 黒地のフレームに何やら異世界の文字がレタリングされていて、結構ナウい印象だ。

 だが、プルミエルのアメリカンバイク型術戦車『ブオナパルト』やメイヘレンのジェットスキー型術戦車『テトラクテュス』といった物とはまるで違う。


「そ、それが術戦車……?」

「そうだよ。『ファディ・デサイ』って言うんだよ。カッコイイでしょ」


 言いながら、アリィシャは屈みこんで靴を脱ぎ、それを装着する。

 脱いだ靴はきちんと靴紐の両端を結び合わせてナップザックの中へ。

 いや、確かにカッコいいけど……それが術戦車?


「よっ、と。じゃーん、装着完了」

「し、しかし、ここは魔法の使えない土地なんだろ……術戦車も使えないんじゃ?」

「あ、ボクの魔法は精霊の力を使わないから大丈夫」

「精霊の力を使わない?」

「ま、あまり知られてないから分からないかもね。魔法は魔道貴族の使うような精霊魔術だけじゃないんだ。ボクのは太古の魔法で『内功魔術』っていう、術者の潜在魔力だけで使う魔法なのさ」

「へぇ……」

「今ではあまり使い手がいないらしいけどね」


 分かったような、分からないような……


「あ、ほら、こんなこと話してる場合じゃないんじゃない?」

「おおっ!そうだ!」

「じゃあ、はい、ボクの腰に掴まってて」

「おう!……って、駄目だ、俺は女の子の身体に触れるのは御法度なんだ」

「えー?そんなこと言ってる場合なの?」

「いや、これにはいろいろワケが……」

「もう!まどろっこしいなぁ!」


 じれったくなった様子でそう言うと、アリイシャは俺の手を掴んで、引き寄せる。


「うお」

「そんじゃ、行くよ」


 アリィシャがぐっと腰を屈めて力を込めた、その瞬間。

 チュイィィィィィィィィィーーーーーン!!という甲高い金属音と共に、『ファディ・デサイ』のローラーが盛大に火花を散らして高速回転を始めた。


「おおおおおおおおおおっ!!」

「それっ!ジャーーーーーンプッ!」


 威勢のいい掛け声とともに、アリィシャの足が宙を蹴る。

 そして、俺達は空高く舞い上がった。



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