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勇者タイム!  作者: 森田ミヤジ
「哀・姉妹」篇
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ジャスト・スタンドアップ!勇者


「見えるか……?」


 骨ばった、というか骨そのものの指が、廊下の奥を示す。


「光ってる?何だ、アレ……」


 永久に続くかと思われた暗黒の回廊の、その最奥部に光が見えた。

 もちろん、これは不思議だ。

 朝には早すぎる。

 おまけにこの遺跡は長いこと封印されていたはずだ。

 では、何の光なのか?

 不思議ではあるが、想像は難しくない。

 メイヘレンの声が興奮で上ずった。


「もしや?」

「そうだ……『深閑の霊薬』……この宝物庫の一番の宝だ……」

「ワオ……アレが噂の……」

「ケンイチ、急ごう」

「おっと、待て待て、さっきみたいに焦ってトラップを踏んじゃマズい。俺が先に行くから、離れてついてきてくれ」

「しかし……!」

「言う通りにしてくれ。フェルミナが元気になっても、あんたが怪我人になっちゃ本末転倒だろ」

「……」


 不満そうなメイヘレンをぐっと後ろへ押しのけて、俺は前進する。

 彼女はそれでも、言われた通りに俺の三歩ほど後ろからついてきた。

 しかし、あの光。

 なんだかそら恐ろしいほど眩い。

 近づけば近づくほど、その光は輝きを増していくようだ。

 しかしそれは太陽のように燃えるようなものではなく、白く、冷たい光だった。

 わかりやすく言うと、電球色でなくて昼光色といった感じ。

 いや、わかりづらいか……?

 とにかく、その光を頼りにしばらく進むと、大人二人くらいで両手を広げて歩けるほど回廊の道幅が広くなる。

 そして、その姿が見えた。


「玉座……?」


 それはまさに玉座だった。

 壮麗で、荘重で、豪勢な金ぴかの台座。

 翡翠色の美しい瓶が、まるでこの宝物庫の主であるかのように、その立派な玉座に鎮座し、眩い光を放ち続けているのだ。

 あの瓶こそが、『深閑の霊薬』に間違いない。


「生意気な薬だな。よっぽどアルヴァンの野郎に甘やかされてたようだ」

「ここからはお前が一人で行け……」

「ええっ?」

「馬鹿な!私も行く」

「それは無理だ……見ろ……」


 そう言うと、ガイコツ騎士は足元の小石を拾い上げ、目の前の空間に放り投げた。

 すると俺の眼の前で、バチン!と音を立てて、その小石が突然粉々になって弾け飛んだ。


「うおおっ!危なッ!なに今の!?」

「これこそは『拒絶の輝壁』……」

「何だと!?アルヴァンは暗黒魔道の使い手だろう!?光輝魔道の上位結界を創り出せるはずが……」

「アルヴァンは魔道研究の大家……その潤沢なる潜在魔力をもってすれば、魔道属性などは些細な問題にすぎん……」

「馬鹿な……」


 メイヘレンはごくりと息を呑んだ。


「それゆえに挑戦者には不死身の身体が必要だったのか……スハラム・アルヴァン……なんという恐ろしい魔道師だ……」

「えーと、話が見えないんだが、ようはとんでもなく強力なバリアが目の前にあるってことだな?」

「しかり……」

「ケンイチ……ここから先は君以外、踏み込めない領域のようだ……」


 メイヘレンが口惜しそうに下を向いて、歯噛みする。

 俺は彼女の肩をポン、と叩いた。


「なぁに、見たところ30mかそこらの距離さ。スキップしながらでも行っちゃうぜ」

「すまん。頼りにしているぞ……」

「おう」

「待て……」


 ここで、ガイコツ騎士が俺の前に出た。


「挑戦者にルールを説明しておこう……」

「ル、ルール?」

「このゲームのルールだ……一度しか言わぬぞ……」

「お、おう」

「お前はここから一人で玉座に向かい、あの瓶を取ってこなければならない……」

「ああ、『一人で』だな」

「しかり……そして、ここが大事なところだが……このゲームは一度きりだ……」

「え?」

「この宝物庫には強力な呪いが掛けられている……お前が一度でも負けを認めたり、秘宝を手にせず、手ぶらでこの結界を再びくぐれば、この場所自体が永久に封印される……」

「な、なんだって?」


 一発勝負ってことか?

 なんだよ、ケチ!

 大一番を前に、とんでもないプレッシャーが掛けられちまった。

 俺はきゅう、と胃が収縮するのを感じた。


「負けを認めるときは大声でそう叫ぶことだ……だが、挑戦は一度きりだ……いいな……」

「わ、わかった。そう何度も言わないでくれ……」


 しかし、ここまで念を押すということはこのほぼ30mの距離の間に何かしらの罠が仕掛けられているとみてよさそうだ。

 だが、ポジティブに考えようぜ、ケンイチ。

 火あぶりだの水責めだの、想定され得る様々な罠を思い浮かべてみるが、どれも俺はこの世界で味わった経験があるし、その度に無傷で生還できたじゃないか?

 不死身の身体で何を恐れる事がある?

 ようはあの小さな瓶を取って引き返してくるだけのことだ。

 なんなら走ってもいい。

 陸上部出身の俺の脚なら、往復で15秒はカタいはず。

 俺は出来るだけ物事をシンプルに考えて、自分を奮い立たせた。


「よっしゃ、行くぜ!……っと、その前に……」


 俺は尻のポケットから革のケースを取りだした。


「メイヘレン、コートを貸してくれ」

「?」

「いや、何が起こるか分からないから勇者タイムを稼いでから行こうと思って」


 さっき矢の雨を浴びたときに、彼女のコートに少し穴があいてしまったのを、俺は見逃さなかった。

 もう何度も針仕事には命を救われているので、慣れたもんだ。

 これは孤児院でもらった裁縫セット。

 大小の針が三本ずつと、十二色の糸がケースの中に入っているので、様々な裁縫仕事に対応可能だ。

 俺は手際よく革のコートに針を通して行き、破れた部分を縫い合わせて補修した。

 こういう厚手の生地は運針が大変だが、ごまかしはききやすい。


「……っと、できた!」


 完璧な手際に、自分でも満足だ。

 もとの世界に帰ったらお針子に転身というのもアリか?

 異世界で職業訓練を積む俺……

 勇者としてはなかなか斬新な存在なのではなかろうか。


「……すまんな。ありがとう」

「あー、いや、どういたしまして……」


 うーむ、仕方ないこととはいえ、何だか調子が狂っちまうな……

 いつもの傲岸不遜な彼女が恋しくなる。


「まぁいいや、よし、気を取り直して行くぜ!やってやるぜ!俺はできる!イエス・ウィ・キャン!」


 俺はセルフでハイテンションを注入する。

 一人で盛り上がっているようで傍目には痛々しいだろうが、知ったことか。

 そんな俺を、ガイコツ騎士が呼びとめる。


「勇者よ……」

「お、おうよ!」

「一つ忠告を授けよう……」

「おう!アドバイスは大歓迎だ!」

「勇者たるもの、勇猛さだけではその価値があるとは言えん……よく観察し、よく考えることだ……思慮深さも勇者には不可欠なものなのだ……」

「思慮深さ……」


 うーむ、それに関しては、はなはだ自信が無い。

 前向きに検討するとだけ言っておこう。


「まぁ、分かった、よし、やるぜ!」

「うむ……では、行くがいい……」

「頼んだぞ……ケンイチ!」

「ああ」


 俺は二人に向けてピースサインを見せて、結界の中へ飛び込んだ。

 バチン!という静電気が炸裂するような音がしたが、痛みは皆無。

 勇者の不死身をバカにしちゃいかんぜ、魔道師アルヴァン!


(だが、落とし穴やらでタイムロスを食らうのはご勘弁だな……)


 そこから這いあがっているうちにタイムアップ、なんてこともあり得る。

 俺は全速力で往復する、という当初のプランを捨てて、とりあえずは慎重に回廊を進むことにした。

 足元にボタンが無いかどうか、確認しながらゆっくりと足を踏み出していく。

 『思慮深さ』ってこういうことかな?

 無闇にガツガツ秘宝に飛びつかないのは分別のある証。

 静かに、一歩ずつ。

 泥棒気分の行進を続ける。


 抜き足。

 差し足。

 忍び足。


(おお、だいぶ近づいてきたぞ……)


 なおも慎重に歩を進め、今や眩く輝く小瓶まで、ほぼ15m。

 あの中にフェルミナの明日が……メイヘレンの希望が……全てが詰まっているんだ。

 肺に溜めこんだ空気を吐き出して、もう一度吸う。

 そうして俺が一歩を踏み出した、その時だった。


「侵入者アリ」

「侵入者アリ」


 どこかで聞いたような機械じみた音声が、回廊に響いた。


 これは……

 たしか……


 俺が思い出すのと、そいつらが姿を現したのはほぼ同時だ。


「魔芯兵器!」


 そう。

 パルミネの尖塔内部で俺達を追い回した、恐ろしく頑丈で、恐ろしく執念深い、あの殺人マシーンだ!

 覚えていない読者はバックナンバー参照をオススメする。

 とにかく以前に現れたヤツと同様、そいつは剣呑なオーラを放っていた。

 錆かけた埃まみれの巨体と、その手に輝く長大な鉈。

 おまけに、それが二体!


(くそ、イヤな展開だな……)


 事態に輪をかけて最悪なのが、その二体に前後を挟まれちまっていることだ。


「魔芯ナンバー028……『バチカル』臨戦態勢移行、迎撃用意完了」


 俺の眼の前のマシーンが言う。


「魔芯ナンバー033……『ホリゾン』臨戦態勢移行、迎撃用意完了」


 俺の背後のマシーンが言う。

 ご丁寧な自己紹介とともに、それぞれの目がギン!と光り、二体は明らかな戦闘態勢の構えを取った。


(おおっと!)


 俺も身構える。

 さて、どうしたものか?

 不死身とはいえ、それ以外の特殊な力を持っていない俺にとって、こいつらの破壊はまず不可能だろう。

 魔芯兵器の頑丈さは折り紙つきだ。

 では、選択肢は一つ。


(うまいこと攻撃をかわして、その隙にお宝ゲット……)


 安直この上ないが、それ以外のプランを思いつかない以上はそれで行くしかない。

 なんにせよ、計画が無いよりはずっとマシだ。


「攻撃開始」


 目の前の魔芯兵器――バチカルが、大きく鉈を振りかぶる。


 さぁ、来るぞ!


 間を置かず、ゴッ!という音とともに、それが凄まじいスピードで振り下ろされた。


「うぉ!」


 その一撃はかわすのが精一杯だった。

 ドカン!という凄まじい衝撃音が回廊に響く。

 俺の鼻先をかすめて地面に叩きつけられた鉈は、床に大きなクレーターを造った。

 予想以上の威力を持つその一撃に、背筋を戦慄が走る。


 う、お、お、お……こんなものをくらったら――


「攻撃開始」


 背後でヒュッと風を切る音がしたと思うと、唐突に俺は横薙ぎに吹っ飛ばされた。


「ぬお!」


 パチンコ玉のように勢いよく身体が宙を飛び、全身がめり込みそうなほど強烈に壁面に打ちつけられる。


「くおお……」


 何が起きたのかは一瞬理解できなかったが、一秒後には、背後にいたホリゾンが俺に凄絶な一太刀を浴びせたのだということが分かった。

 くそ!

 思っていたよりもこのチャレンジは容易ではない。

 まさに前門の虎、後門の狼というヤツだ。


「でーい、だからって何だってんだ!」


 萎みかけた闘志を、俺は大声を出して奮い起す。

 俺は不死身だろう?

 ほら、どこも怪我していないじゃないか!

 気を取り直してもう一度、間合いを詰めてきた二体と対峙する。

 今度はホリゾンが先に仕掛けてきた。

 ヤツは大きく腰をひねって――


「っとぉ!」


 ブン!と何の躊躇いも無いフルスイング。

 その太刀を、今度は屈んでかわす。

 あと一瞬遅ければ、そして俺が不死身でなければ、頭が削り取られていただろう。

 すると、今度は頭上から、先程と全く同じブン!という音が聞こえた。


「うおおっ!」


 俺は反射神経を総動員して、それを慌てて前転でかわす。

 ほんの0,2秒ほど前まで俺の身体があった場所に、容赦ない一撃が降ってきて、再び地面を揺らした。

 よし、この隙に!

 と思った瞬間。


 ブン!


「ごあ!」


 再び身体が吹き飛ばされる。

 衝撃!

 衝突!

 今度はさっきとは反対の壁面に、大きなクレーターができた。


「っあ……!」


 不死身の身体に痛みは無いが、内臓が揺さぶられる感触はある。

 もちろん、背中を強く打ちつけられれば肺から空気が押し出されて、息も止まる。

 それでも気を取り直して顔を上げると、すでに後ろから間合いを詰めていたホリゾンが、二撃目を加えんと大きく腰をひねっていた。


「うおおっ!」


 俺は慌てて身を屈める。

 だが、斬撃は襲ってこない。

 かわりに頭上でヒュッと風を切る音がして、今度はモロにバチカルの凄絶な一刀が脳天に降ってきた。


「うぶ!」


 なんたる衝撃!

 俺は頭が半分埋まるほど痛烈に床に叩きつけられ、それとは逆に下半身が大きく宙にはね上がる。

 まるでシャチホコのような、無様な体勢になっているその横っ腹を、間髪入れずにホリゾンの横薙ぎが襲った。


「うごぁ!」


 再び身体が壁面に叩きつけられる。

 そして、重力が俺の身体を地面に引き戻す前に……頭上でまたあの風を切る音が聞こえた。


「ぶふ!」


 来るのが分かっていても、その攻撃をかわすことができない。

 俺は再び床に叩きつけられる。

 こいつら……チームワークが抜群だ。

 そこからは完全にワンサイドな展開になった。


 ブン!


 バキン!


 再び壁。


 ゴッ!


 ズドン!


 再び床。


 ヒュッ!


 ドカン!


 またまた壁。


 俺の身体は、文字通り縦横無尽に繰り出される二対の斬撃の嵐に、木の葉のように翻弄され、蹂躙され、床と壁にいくつものクレーターを造り続けた。


 くそ……


 なんとかしねぇと……


 俺は打開策を見つけるべく、様々な体勢でその斬撃をかわそうとした。

 

 攻撃の間隙を縫うように跳躍したり。

 刃風を身近に感じながら這いつくばったり。

 距離を置くために転がり回ったり。


 だが……


 ダメだ……


 どうしようもない……


 事態は好転しない。

 何とか一撃二撃はかわせても、その先が続かない。

 魔芯兵器どもは飽きもせず鉈を振るい、俺の身体に盗掘者への教訓を刻みこもうとする。

 俺は俺で不死身なので、このゲームは膠着状態に陥りつつあった。

 いや、膠着ではない。

 俺にとっては、状況は悪化する一方だった。

 相手は何年、何十年、いや、ことによると何百年もの間、この遺跡を守ってきた番人だ。

 電池や燃料で動いていない限り、そのスタミナは無尽蔵と考えてもいいだろう。

 一方の俺は不死身とはいえ超人ではない。

 走る、転ぶ、かわす、這う、飛ぶといった行動を繰り返していくうちに、身体の筋肉は徐々に疲弊し、スムーズな回避行動をすることが困難になってきた。

 やがて、俺は完全に、一方的に相手に叩きのめされるがままになった。


 おい、俺はドツボにハマっちまったぜ、と思った。


 格闘ゲームなんかでよくあるだろう?

 画面端に相手を追い込んで、体力が無くなるまで一方的に攻撃し続ける、アレだ。

 ゲームなら多くの友達を失うリスクを恐れて、多少は気を遣うが、当然このマシーンどもにそんな躊躇は無い。


(無理だ……)


 そう思った。






 どれくらいの時間が経っただろう?


 俺は精も根も尽き果て、まるで餅つきの餅のように、その暴力の嵐の吹き荒れるがままに身を任せてしまっていた。

 叩きのめされ、打ちのめされるたびに全身から力が抜けていく。


 床に埋まりながら疲労感が押し寄せる。

 壁に埋まりながら倦怠感がこみあげる。

 何よりも心の中で大きくなっていたのは無力感だった。


 不死身だというだけで何ができると思ってたんだ?

 死にづらいというならクマムシだってそうだ。

 俺はなんて無力なんだろう。

 あれほど姉妹を助けたいと思っていたのに、何もできない。


 心の中で、弱い俺がブツブツと言い訳を始めた。


『もういいだろ?一生懸命やったんだから……』


 そうだ。確かに一生懸命やってる……


『無理なものは無理だ。お前にはこの二体を倒せない……』


 ああ。俺もそう思う……


『見ろよ、勇者タイムを……』


『06:19』


『マズいぞ、あと6分しかない(、、、、、、)んだぞ……』


 ああ。確かにマズイな……


 俺はこのゲームで何を証明したかったんだろう?

 自分の正義感?勇者としての適性?この世界での存在意義か?

 だが、何もかもがもうどうでもいい。

 そんなものより、生き残ることが大事だ。

 ほら、「人一人の命は地球よりも重い」って言うだろう?

 フェルミナを助ける方法だって他にまた見つかるかもしれない。

 でも、このままだと俺は時間切れで死んじまうかもしれないんだ。

 大人になるってのは、諦めを知ることだ。

 しょうがないさ……

 まぁ、メイヘレンには責められるだろうが……


 完全に心が折れかけた、その時だった。

 彼女の声が聞こえた。


「ケンイチ!」


 メイヘレンだ。


「時間が無い!」


 だからもっと頑張れってか?


もういい(、、、、)戻ってくるんだ(、、、、、、、)!」

「え……?」

「ありがとう、もう十分だ。もう……いいんだ……」


 絞り出すような声で、彼女は言う。


「……」

「他にフェルミナを助ける方法はある。きっと、あるだろう。だから、もう戻ってくるんだ!」

「……ッ!」


 俺は……

 俺は何を思ったか……

 俺は気がつくと……立ち上がって……そして、叫んでいた。


「駄目だッ!」


 襲ってきたホリゾンの横薙ぎをジャンプしてかわす。

 空中で壁を蹴って、振り下ろされるバチカルの一刀を宙でかわす。

 そして、着地と同時に反対の壁際へ転がって、二体と間合いを取ることに成功した。

 過度の運動で乳酸の溜まった足を地面に突き刺すようにして、立つ。

 俺は口の中に入った土を、弱い自分と一緒に床に吐き捨てて、靴でそれを踏みにじった。

 脳裏には、二つの影がよぎる。


「ずっと、二人で苦しんできたんだろ……?」


 妹の為に、世界を駆けまわっていた姉がいる。


「ずっと、二人で悲しんできたんだろ……?」


 姉の為に、気丈に微笑み続けた妹がいる。


「ずっと、二人で一緒にいたいんだろ!?だったら、諦めちゃ駄目だ!」


 そんな二人が、いつまでも幸せに暮らす未来。

 それが今、何よりも欲しい。

 『もしも』はいらない。


「俺も、もう諦めない……ちくしょう!諦めないぞ!」


 さっきまで床を舐めていたフヌケでマヌケな弱い俺。

 あいつは5分ほど前倒しで死んだ。

 今立っているのは、紛れもなく俺自身だ。

 こうなったら、何が何でも、このゲームに勝つ!


なんと、時間はまだ5分もある(、、、、、)のだ!




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