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勇者タイム!  作者: 森田ミヤジ
「決戦の序章」篇
106/109

飛べ!決戦の地へ

「あなたの悲壮な決意は分かったけどさ」


 プルミエルが舌打ち交じりに言う。

 どうやら俺の一世一代の決断に対して、彼女はまだ不服そうだった。


「問題はここからどうやって魔王のいるパルミネまで戻るかってことよ。どんだけ離れてると思ってるの」

「おう……」


 俺は思わず弱気な呻きを漏らしてしまう。

 確かに、ここまでの道程を遡って行くとなると相当に時間がかかるだろう。

 その間にも、ラーズの野郎が人質になった人たちに律儀に水や食料を与えるという保証はどこにもないので、やはり事態は一刻を争うことになる。

 だが、今までの道程を遡る以外に方法があるのだろうか?


「……誰か、何かいい案があるか?あるなら今すぐ出してくれ」


 俺の問いに対して全員が首を振る。


「無い」

「無いな」

「無いよ」

「無いわい」

「無いですね」


 全員がそろって否定の言葉を口にしたが、奇妙なことにR-18だけが黙っていた。

 ついに故障したか?だが、いちいちそれを気にかけている暇はない。


「となれば、時は金なり、善は急げだ!今すぐ出発しようぜ!」


 とにかくテンションを上げて叫ぶ。

 こういうのは勢いがあってこそだ。

 だが、ここで意気揚々と馬車に飛び乗りかける俺にR-18が声をかけてくる。


「マスター」


 それと同時に、襟首を背後から唐突に掴まれた。


「げっはぁ!?」


 当然、首だけがその場に留まるわけだから、慣性の法則の定めるところに従って俺の身体は捻じれるように地面に引きずり倒された。

 すげぇ力だ。

 自分が不死身でなかったらと思うとゾッとする。

 たぶん、首がねじ曲がった奇怪で無惨な死体になっていただろう。

 俺は地面をのたうち、咳きこみながら、R―18を睨みつけた。


「マジでもう……何なんだお前は?俺を殺すために造られたマシーンなのか?」

「マスター、一ツ、質問ヲサセテクダサイ」

「質問?」


 こいつはロボットなだけに表情が無い。

 だが、今、語りかけてくる機械音声にはどことなく神妙で真摯な響きがある。

 ふざけている様子ではない。


「なんだ?手短に頼むぞ。場合が場合だからな」

「……マスターハ魔王ト戦ウノデスカ?」

「ああ」

「本当ニ?」

「そうだ。聞いてただろ」

「命賭ケノ戦イニナリマスヨ?」

「だろうな」

「マスターガ勝ツ確率ハ、率直ニ言ッテ、トテモ低イデス」

「率直すぎるよな……もっとオブラートに包めよ」


 いきなり縁起の悪いことを言う……

 機械仕掛けの頭脳が弾き出したまぎれもなき現実ってやつだろうか?


「マスター、ソレデモ戦イマスカ?」


 さんざん不安材料を出したうえに、やたらと念を押してくるじゃないか?

 まさか、俺の覚悟を試しているのか?

 だが、覚悟はすでに決まっている。


「戦う。何度脅されても答えはイエスだ。どんな条件だろうと戦う」

「ソウデスカ」


 俺の言葉を聞いて、R-18はしばらく黙ってこちらを見つめていた。

 何を考えている?

 その電子の頭脳で少しは心配してくれているんだろうか?

 それとも、バカな奴だと呆れているのか?


「そんなに心配すんなって。頼もしい仲間たちがついてるんだ。お前も含めてな」


 決して避けられない戦いが待っている。

 そして、決して負けられない戦いだ。

 文字通り、命を賭けて戦い、必ず勝たなければならない。


「……」


 R-18の目がペカペカとせわしなく明滅する。

 それはどういう感情なんだ?俺には理解できない。


「マスター……」

「え?」

「ヤッパリ、アナタハワタシノマスターダッタ……」


 R-18は何かに納得したように呟くと、背筋を伸ばし、直立の姿勢になる。


「私ハマスタートトモニ往ク……ソノ翼トナリ、盾トナル……」

「ど、ど、どうした……?」


 やっぱり故障か?

 ロボットのくせに急に厨二病にでも感染したのだろうか?

 ただ、その姿に尋常ならざる様子を感じて、俺は息を呑んだ。


「……リミッター解除シマス」

「!?」


 瞬間、R-18の目がひときわ強い光を放った。

 かと思うと、背面や胸部のダクトがガバッと開き、そこから大量の白い蒸気を噴き出し始める。

 徐々にその体が宙でゆっくりとホバリングし、地表から3mほど浮き上がったところでR-18はガチャガチャと音を立てて変形していく。


「へ、変形だと!?」


 俺と仲間たちはバカみたいにあんぐりと口を開け、それを見守ることしかできない。

 まず胴がグンと長く伸び、頭部がその中に収納される。

 脚部は短く折り畳まれ、ふくらはぎにあたる部分からは何かの噴射口の様な管が六本、せり出してきた。

 腕は長く伸び、そこから虹色の光が噴出して翼を形成する。

 質量保存の法則を無視したかのように、その体積は元のR-18の四、五倍にまで膨張している。

 だが、何よりも異様なのはそのフォルムだ。


「せ、戦闘機……!?」


 そう。

 R-18が変形したのは、金色に輝く戦闘機だったのだ! 


「お前、戦闘機だったのかっ!?」


 思わず声が裏返る。

 もしかして、こいつは古代の英知とかオーパーツとかそんな類のものなのか?


「それこそがR-18の真の姿」


 ひたすら驚く俺に、次元猫が語りかけてきた。


「正式な名称は『ラビュラスローム18』」

「し、知ってんのか!?」

「うむ。タキオンエンジンを搭載した亜空間航行の可能な勇者専用の術戦車だ」

「あ、亜空間航行……!」

「そうだ」

「ゆ、勇者専用の……!」

「そうだ」

「術戦車だとォ!?」

「めんどくさいな、お前」


 そんな都合のいい話があるだろうか?

 ただのできそこないのトランスフォ……もとい、パチモンのトランスモーファーだと思っていたのに!

 いや、それよりも重要なのは、これが勇者専用だということだ。

 R-18と出会ったのは本当に偶然でしかなかったのに!


「マジか……R-18……そんな偶然ってあるのか……?」

「全てはお前の結んだ因果だ。運命はいつもそうしたものだ。偶然とは俯瞰すれば大いなる必然なのだ」


 猫は滔々と淀みなくしゃべる。


「そして今、R-18はお前を正式にマスターと認めた。それゆえにリミッターを解除した。これも必然。さあ、この術戦車で塔へ急ぐがいい」

「お、おう……」


 俺専用の術戦車……

 その言葉に、感動すら覚える。

 ここにきてようやく主人公らしい活躍の場を与えられたんじゃないか?

 戦闘機で魔法塔にのりこみ、魔王に対峙する。

 まさにクライマックスだ。

 アニメでいうところの最終回の一歩手前だ。挿入歌が入るところ。

 俺は俺専用術戦車ラビュ……ラブラル……えーと、うむ、とにかくR-18に近づき、その金色のボディーに触れてみた。

 ひんやりしていて、頑丈そうで、何よりも格好いい。


「すごいぜ……R-18……」


 感心していると、圧縮した空気が抜けるような、プシュッ!という軽快な音とともに、コックピット部分のキャノピーが開いた。


「すげえ……」


 吸い寄せられるように、俺はそこへ歩み寄った。

 そして、機首の側面に突き出している排気管を足がかりにして、コックピットへとよじ登る。

 操縦席は思ったよりも広く、足を伸ばせるほどのスペースがあった。

 シートもちょうどいいクッション性があって快適な乗り心地だ。

 だが、目の前の計器類ははっきり言ってどのメーターが何の数値を表しているのか皆目見当もつかない。

 お手上げだ……

 英語で言えばハンズアップだが……英語で言う意味は特に無い。

 

「えーと、どうやって動かすんだ……?どっかに説明書とか無いの?」

「うつけめ。お前はどこに乗っておる」


 次元猫が宙を泳ぐように前脚をかいて、ゆるゆるふわりと俺の頭上まで飛んできた。

 空を飛ぶ姿も気持ち悪い生き物だ。


「それは魔力のある者にしか動かせん」

「え?」


 なんだそりゃ!

 俺の疑念に満ちた視線をよそに、猫は言葉を続ける。


「お前のような無能力者の雑魚野郎には動かせん」


 無能力……辛辣この上もない表現だ。おまけに雑魚がついたらもう悪口でしかない。


「じゃ、じゃあ、どうすればいいんだよ?」

「お前の連れには何人も強い魔力を持った者がおるだろう?」


 猫は俺の仲間たちに視線を送った。

 おっとそうさ、僕の仲間には確かに魔道貴族が二人もいるよね。

 頼もしい仲間さ。


「あれ……?」


 でも、一つ疑問が残るだろう?


「で、俺はどこに乗ればいいの?」


 冷静に考えてくれよ、俺専用の戦闘機なのにコックピットに俺が乗らなくてどうするんだ?

 カレーライスなのにカレーが別売りみたいな?

 とにかく、それほどあり得ないってことだ。


「安心しろ。勇者には指定席がある」


 猫の言葉とともに……どこから現れたものか、ジャラリという不穏な金属音を立てて、金色に光る頑丈そうな鎖が膝の上に落ちてきた。

 く、鎖……?


「な……こ、これは……?」


 鎖の先端には頑丈そうな輪っかがついている。

 その輪っかは手首にはめてちょうどいいような……

 っていうか、これは間違いなくアレだよね。


「えーと、これは……つまり、手錠?」

「そうだ」


 うおぅ!

 くそ!嫌な予感がするぞ!


「こ、これをどう使うんだ?」

「まず、お前の手首にはめる」

「お、おう……」

「そして、もう片方の枷を尾翼の下にあるラッチにはめる」

「ということは……」

「術戦車に曳航される形になるな。ふはは愉快愉快」


 うん、ちっとも愉快じゃねえな!ちくしょう!

 プルミエルの術戦車ブオナパルトで空中を引きずり回された記憶が呼び起される。

 あの、身を切り裂くような恐るべき風圧。

 内臓すべてが下半身に押し下げられていくようなG。

 それらをまた味わうというのか……

 っていうか、これって本当に勇者専用の乗物なのか?

 僕、騙されてませんよね?

 

「さあ、行け。とっとと行け」


 苦い顔の俺を無視して、猫の奴はどこまでも冷淡だ。

 まったく、世界を救うってのも楽じゃないぜ。

 俺は渋々ながらも手錠を手首にはめ、コックピットから飛び降りた。

 もうこうなったら何でもこいだ。


「皆ぁ、聞いてくれよぉ。この術戦車は魔力のある人間にしか動かせないんだってよぉ」


 まったく気は進まないが、この悲報を伝えるしかない。


「ほほう」


 女たちの目が、ギラリと光る。

 そこに遠慮や同情や困惑といった人間らしい複雑な感情は存在せず、まるでお楽しみが始まったといわんばかりの好奇の視線が送られてきた。


「で?」

「魔力の無い俺はこの鎖で空の虜囚にならざるを得ない……だから、誰か――」

「はいはいはい!私が操縦するっ!」


 予想通りプルミエルがいち早く挙手し、全員が頷いた。


(やっぱりそうなるか……)


 俺はうなだれた。

 彼女の運転技術には筆舌に尽くしがたいワイルドさがある。

 が、この際、やむを得ない。なんといっても世界の危機だから。

 

「お、おう、頼むぜぇ……だが、あくまでも離着陸は優しくな」

「任しとき!」


 目をランランと輝かせながら、プルミエルは獣めいた素早い動きで機体によじ登り、あっという間に操縦席に滑り込んだ。


「ふむふむ……へぇー!これはすごいわ!やったね!ヒュウー!」


 やったね!ヒュウー!じゃねーよ!

 驚嘆と興奮の入り混じった声を聞いて、俺はなおさら沈んだ気持ちになる。

 あかん。これはあかんやつやで……

 これから自らの身に起こる惨劇を思って遠い目をする俺の横をすり抜けて、メイヘレン、アリィシャもコックピットを覗きこむ。


「ほうほう、これは確かにすごいな……」

「あ、座席の後ろにけっこうスペースがあるよっ」

「これなら私たちも乗れそうだな。よいしょ」

「……へ?」


 身をよじらせながらR-18に乗り込んでいく女たち。


「あーん、もう!狭くなるじゃない!」

「大丈夫さ」

「入る入る!あ、もうちょっと詰めて!」


 なんだかんだで、女三人はすっぽりコックピット内に収まってしまった。

 俺はそれと自分の手首にはめられている手錠を交互に見つつ、妙な気分になる。

 待てよ……そんなスペースがあるんなら俺がそこでもよくないか……?

 

「わしはどうするんじゃ?」


 老師が俺の隣りまでやってきて、不満そうな声を出す。

 そうか、すっかり忘れていた。

 

「えーと、じゃあ、俺の手錠に一緒に掴まってもらって空の旅……」

「どあほぅ!わしゃ不死身でバカでスケベなお前さんと違って繊細でデリケートで紳士な生き物なんじゃ!術戦車の後部に鎖で括りつけられるなんて拷問みたいなもんじゃ」


 俺は今までにもその拷問を経験し、そして今まさにそれを追体験しようとしているのだがな。


「予備ベルトがある。あそこに」


 次元猫は宙を漂いながら愉快そうな声で言う。

 その視線の先を追うと、機体の下部、車輪のそばに確かに人が潜り込めそうなスペースがあった。

 あそこにコバンザメのように張り付いて……ということなのだろうか。


「あ、あんなところに……」


 老師が怯えた声を出した。


「ベルトでしっかり体を固定して背筋を伸ばしていれば、生身の人間でも耐えられるだろう。ふはは愉快」

「わ、わしゃ嫌じゃ、あんなところ……正気の沙汰ではないぞ……」

「でも、他に方法が……」

「嫌なもんは嫌じゃ!」


 顔面を蒼白にした老師が子供じみた態度でゴネ始めた、その時。

 イグナツィオが気配を消してその背後に立ったかと思うと、ぱっと素早く組み付いて、首を締めあげた。


「ぇぐっ……!?」


 車に潰された蛙の様な声をあげ、老師は一瞬で白目を剥いて倒れ込む。

 目の前で起きた突然の惨劇に、俺はちょっと動揺してしまった。


「イ、イグナツィオ……お前、ろ、老師をジェノサイドしたのか……?」

「まさか。絞め落としただけですよ。僕は話が先に進まないのが嫌いなんです」

「そ、そうか……」


 やはり危険な奴……!これから魔王をジェノサイドしなければならない俺たちにとっては頼もしいというべきなのか?いずれにしてもヤバい奴には違いない。

 だが、老師を黙らせたのはグッジョブだ。

 イグナツィオは無造作に老師の足首を掴んで戦闘機へ引きずっていき、その身体を手際よく機体下部に縛りつけた。

 だらりと脱力した腕だけが地に向かって下がっているのが実に気持ち悪い。

 しかし、このシュールな絵面は勇者の乗り物としてどうなのよ?


「これでよしと」

「お、お前はどこに乗るんだ?」

「僕はどこか適当に掴まってます」

「どこかって……」

「手錠はもう一本ある」


 猫の声とともに金鎖の手錠がもう一本降ってきて、ドスッ!という鈍い音とともに地に落ちた。

 俺とイグナツィオはしばらく無言でそれを見つめる。

 猫め、なんて残酷な生き物なんだ……


「イグナツィオ……はっきり言うが、この方法はお勧めしないね。プルミエルはあんなカワイイ見てくれをしてはいるが、その中身は空の走り屋で超空の覇王だ。鎖でつながれている人間のことなんか、これっぽっちも考えやしない。着地の時なんか俺のように不死身じゃなければ、もう、挽肉になっちまうぞ」

「へえ」

「へえ、じゃねぇよ!俺だって隣で鎖につながれてたお前の肉片を浴びるようなことにはなりたくない……だから、最善の策としては役に立たなさそうな老師はここに捨てていって、お前があのベルトに」

「大丈夫ですよ。受け身は得意なんで」


 う、受け身……だと?

 こういうのって受け身とかでなんとかなるもの?

 呆気にとられる俺をよそに、イグナツィオは淡々と手錠を自らの手首にはめた。


「高そうだなぁ、この鎖。後でもらおうっと」

「この場面で値踏みだとぉ!?……あー、もう知らんぞ!ちゃんと受け身をとれよ!受け身!」

「そうします」


 このガキャ本当に……どこまでクールなんだ?

 ここまで言うからにはきっとすげぇ受け身テクがあるんだろうか。

 教えてほしいよ、本当に。


「勇者よ」


 猫がふよふよと宙を漂って、俺の前に降りてきた。


「餞別をやろう」


 そう言って、のっそりとした動作で前足をこちらに差し出し、肉球を向けてきた。

 え?何かくれるの?ラッキー!


「……?」


 一瞬でも喜んだ自分が馬鹿みたいだ。

 餞別というわりに、そこには何もなかった。

 猫の柔らかそうな肉球があるだけだ。

 その意味を図りかねて、俺は首をひねった。


「……な、なんだ?お手?」

「殺すぞ」


 落ち着き払った声による恫喝は、よけいに恐ろしい響きがある。

 俺はドキドキしながら、肉球を見つめて必死に正解を探る。

 えーとえーと、お手ではないとすれば、なんだ?

 俺をからかってるのか?

 それともバカには見えない武器とか?

 いや、それだと見えてない俺はバカってことか?そんなのってないよ!

 俺はしばらく冷や汗をかきながら猫のふっくらとした肉球を見つめた。

 だが、答えは出ない。


「え、えーと、うん。な、なんでしょう?」

「愚か者め。勇者タイムを稼がせてやろうというのだ」

「へ?」

「さっき、地面に降りたときにな。棘が刺さってな。メッチャ痛い。抜いてくれ」


 勇者タイム!

 そうだ!それ大事!

 俺は勇者タイムを確認する。


『01:02』


 おう!もうそんなにやばかったんだ!

 せっかく戦闘機を手に入れても、目的地に着く前に死んでしまっては元も子もない。

 俺は肉球の親指の付け根に刺さっている小さな棘を見つけ、それを優しい手つきで抜いてやった。

 そして勇者タイマーを見る。


『59:58』


 ほっ、無事にチャージできたようだ。


「準備できたぁ?」


 今度はコックピットから嬉々としてプルミエルが声を投げかけてくる。

 そんなに待ち遠しいか?俺を空中でぶんまわすのが?


「ちくしょうオッケーだちくしょう!お手柔らかに頼むよマジで!」


 俺が悲哀に満ちた声を上げてサムズアップすると、コックピットのキャノピーが閉まり、ラビュラル……ラブリャ……もとい戦闘機R18のブースターがゴッと火を噴いた!


「あひょっ!?」


 不運にもその噴射口の前に立っていた俺は、バズーカで撃ちだされたかのような速度で後方に吹き飛ばされる。

 凄まじい熱波が全身を包んだ。

 しかし、手首が金鎖の手錠に繋ぎとめられているせいで、機体から離れられない。


「おおおわぁぁぁぁぁぁあ!」


 俺は悲鳴を上げながらも、その噴射を浴び続けるしかなかった。

 しかし、不死身で本当に良かった……

 不死身でなかったらこの酷烈な噴気によって体中の水分が蒸発して哀れな干物になっていただろう。

 と、そうこうしているうちにR18戦闘機がゆっくりと機首を転回させ、空へ向ける。

 いざ、決戦の地へ。

 俺は噴煙に包まれながら、最後に次元猫を見た。

 なんだかんだで世話にはなったからな。

 感謝の言葉だけは述べておこう。

 猛烈な排気音にかき消されないよう、俺は大声で叫ぶ。


「サンキュー、猫!ちゃっちゃと魔王を倒してくるぜ!戻ってきたら——」


 俺の言葉は途中で終わった。

 驚きのあまり、言葉が続かなかったのだ。

 なんと、猫が……

 あの気味の悪い生き物が……


「『ちゃっちゃと魔王を倒す』か……」


 猫はもう猫ではなかった。

 なんと、その姿が——人間に変化していたのだ!

 しかも、黒髪の美少女!


「お前もアリアスと同じことを言う……」


 え!?

 な、なんで!?転生!?

 アホみたいにあんぐりと口を開けている俺に、少女は語りかける。

 ジェットエンジンがたてる轟音の中でも、その声は不思議と良く透った。


「先ほどの覚悟は見事じゃった。そんなお前ならば認めても良い……」

「ね、猫……?」

「真の勇者になるのじゃ……な……?」


 寂しげに微笑んで、そう言った。

 その憂いを含んだ瞳には見覚えがある。

 あれは、どこで……?

 そうか、R18を見つけたときに……?

 だが、明確にそれを思い出すには時間が——


『ラビュラスローム、スタンバイ』


 機械音声による最後の警告が発せられる。


『――テイクオフ』


 次の瞬間。

 グン!とすさまじい速度と強さで手首が引かれた。 


「あひょおおおおおおおぉぉぉぉっぅ!!」


 無様な悲鳴を後に残し、俺は空の人になった。

 

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