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1-2:ベルを鳴らす

ハーフリングはアリスを馬車の中に乗せて、ユニコーンの馬車を走らせながら自己紹介を行った。


「おっと、紹介が遅れました……俺はハーフリングのベル、気軽にベルって呼んでもらって構わないですよ」

「私は金益アリスと申します。アリスを呼んでください」

「カネモリ・アリスさんですね……この町を尋ねるのは初めてですか?」

「ええ、そうなんですよ……町の名前も生憎分からなくて……」

「成程、あまり詮索はしませんが……町の出入口になっている正門には複数の警備兵がいましてね……色々と検査しているんですよ」

「検査……?」

「盗賊がいないか確かめるために、積み荷や人も調べているんです」

「それって検問……なのですか?」

「まぁ、検問というより大半は賄賂目的の兵士でねぇ……色々と理由を付けて金をせびるんですよ」

「それはちょっと……嫌ですね……」


アリスは顔をしかめる。


ついさっき、父親が贈賄の疑いで警察に逮捕されたばかりだったこともあり、お金絡みの要求をしてくる兵士の話を聞いて心の奥から嫌悪感が沸き起こってくるほどだ。


さらにベルは話の続きとして、アリスに事前に賄賂用の硬貨を用意するように伝えた。


「門の警備をしている兵士のうち、大半は俺と顔見知りなので金をせびるような事はないんですが……一つ例外的な輩に当たってしまったら何時でも払えるようにしてください」

「例外的な輩……誰なんです?」

「正門の警備を取り仕切っている隊長です」

「隊長?まさか、警備隊長が賄賂を取り仕切っているのですか?」

「そのまさかですよ、もし彼に当たったら賄賂のお金を事前に用意したほうが身のためですよ……」


アリスは驚愕した。


町の正門を守っている兵士が賄賂を要求してくることがあるという事を……。


しかも、それを取り仕切っているのは警備隊長であるという事も、アリスは信じられないといった顔をしながらベルの話を聞いていた。


有料道路の料金所みたく、通行料などを徴収してくる事であればアリスでも分かる。


だが、それとは別に賄賂を要求してくるというのがアリスの感覚からしたら、二重に金銭を徴収している扱いになっている。


これが不当なやり方ではないかと憤りを感じているのだ。


「それって……相手に通行料ではなく誠意の為に、お金を渡すって事ですか?」

「そうです、不本意かもしれないですけど……」

「通行料を徴収するならまだしも、賄賂まで渡さないといけないなんて……」

「でもアリスさんの場合は特に()()()みたいですからね……そういった人でお金を出すのを渋る対応を行うと、不当に逮捕されて拘留されることもあるんですよ」

「そんな……」

「嘘じゃないですよ。あの隊長は良くも悪くも金に関してはハイエナのように嗅ぎ分けてくるんです。金貨1……いや2枚あれば問題なく通してくれるかと……」

「はぁ……厄介な方ですわね……町の方々は納得しているんですか?」

「いえ、納得はしちゃいませんよ……」

「では、どうして……」


アリスの問いに、ベルはゆっくりと話した。


「この町の当主が世間知らずのボンボンだからですよ」

「世間知らず……?」

「ええ、先代が見たら泣く程ですよ……とにかくワガママで短気で……子供を大人にしたような人間です」

「そこまで仰るのであれば、相当な人のようですね……」

「全くです。先代が生きていればこんな事には……」


ベルは先代の事をアリスに話した。


この町の正式名称はスプリタであり、代々レビン伯爵家が統治をしていた。


レビン伯爵家は町を大切にしておりスプリタの民から好かれていたが、3年前に悲劇が起こる。


レビン一家が住んでいた屋敷が大火災に見舞われて当主であるレビン4世と、その息子たちが死亡してしまう。


唯一火災から生き延びたのは一族の末っ子の14歳の次女であった。


このままでは、伯爵家の存続ができないと判断した国の王は、レビン家の外縁であるノレト家の息子であるダンパがやってきて統治を任せたのだ。


ダンパはレビン家の次女が有していた伯爵継承権を譲渡するように要求。


この時に、私兵を次女の仮住まいに送り込んでおり彼女に剣を突き立てたという。


次女を保護していた召使いは泣く泣くそれに従い、レビン家の持っていた地位や財産などをダンパが掌握。


結果、レビン家の功績はノトレ家によって簒奪され、スプリタの町は乗っ取られてしまったという。


それからというもの、町を出入りする際に賄賂を要求する警備兵が常駐するようになり、治安も悪くなった。


一度民衆が反発して抗議活動をしたが、次の日には抗議活動を主導した複数の人物が広場で首を吊るされた状態で発見された。


いずれも暴行された跡があり、ダンパの私兵がやった事に間違いはなかった。


私兵を恐れて声を上げなくなり、彼や私兵の行為を咎めるものは誰もいない。


「この町を警備している兵士も、ダンパがこき使っている私兵です……トラブルになったら俺でも助けられません」

「そうですね……問題を起こさないように、彼の私兵や警備隊長に会ったら、当たり障りのない感じで受け流しておきますわ」

「それでいい。入場料を取られそうになったら素直に渡してください」

「はい、わかりましたベルさん」

「よしっ……町の正門が見えてきた。アリスさん、準備をしてください」


アリスは巾着袋から金貨を2枚、ポケットの中に入れていつでも賄賂を渡せるように準備をするのであった。

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