4-6:反撃の狼煙
ベルが戻ってきた際に、大盛況であったことを報告するアリス。
それを聞いたベルは安心した様子で報告を聞いていた。
「これだけの利益があれば問題ないですわ!」
「そうですね……金貨10枚相当の利益なんて早々出るもんじゃないですよ」
「なので……これを彼らに対して交渉の材料としてチラつかせるのはどうでしょうか?」
アリスとて、このまま黙って風紀保安隊のメンバーにやられるわけにはいかない。
何なら、ダンパと直談判して話合いで解決する手立ても考えているのだ。
商品の仕入れから、売り上げを上げるために必要な方法まで……。
現代で培ってきたノウハウを総動員するつもりであった。
「ですがアリスさん、相手はあのダンパたちですよ?」
「アリスさんが呼び出されているとしたら、きっと脅しを仕掛けてくるに違いありませんわ」
「ええ、恐らく相手はそう言う事をするのが十八番であることは重々承知しております。ですので、彼らとて手ぶらで何も成果を挙げられないよりは成果を出したと思わせることが重要なのです」
「と……いいますと?」
「それはこちらを使うのです!!!」
アリスが取り出したのはグラフであった。
一日の予想売り上げと、それに関するデータ。
今回利益がかなり出たこともあるが、この景品などをホテルで使えるものだけでなく、別の景品交換所にて現金ないし買い取るサービスを始める旨が掛かれているのだ。
現金と買取サービスは、賭博にあたるため表立って行動することが出来なかった。
しかし、アリスとしてはダンパたちの私兵を巻き込んだ上で、彼らにも利益の甘い汁を少しだけ吸わせた上で、働かせようとする魂胆が現れたのである。
「場所によっては、その日限りの引換券を買い取るサービスを実施しようと思うのです。買い取り価格は正規品の8割程度……つまり、2割ほど利益が得られるのです」
「つまり、銀貨10枚相当の引換券を景品交換所で持っていくと、銀貨8枚で交換してくれるって事ですかい?」
「その通りです!これを繰り返しやっていけば景品交換所の物品を買い取って商品や引換券を回収しますので、それを再利用という形で我々が独占することができるのです」
「独占……つまり、現金で買い取る部門を彼らが牛耳ることがあっても、トータルでは我々に利益が出るのでプラスになるということでしょうか?」
「そういうことです!ベルさん……私のいた国では、こうしたやり方を三点方式というやり方で、利益を回収していたものです」
アリスの参考にしたのはパチンコの三点方式である。
ただし、ここで違う点を挙げれば三点方式には景品交換所で客が売った景品を買い取る際に卸売業者が仲介するシステムになっている。
卸売業が買い取った景品をパチンコ店に売り渡す……所謂循環型システムを採用しているため、警察などではパチンコ店が直接客から景品を買い取るという形で現金を渡すと賭博になるため禁止にしている。
……が、パチンコ店内にある景品交換所で客がパチンコの景品を売る際に、現金を渡すことは「合法」としているのだ。
これは、表向きは『パチンコ店に間借りしている別の企業が行っている事業』として見なされているからだ。
パチンコ店で渡した景品を、景品交換所で交換し、さらにその景品を卸売業者が買い取る……。
このシステムによって本当は賭博行為であることを『適度に息抜きしながら遊ぶ遊技』として日本の警察は黙認しているのだ。
つまるところ、アリスとしては風紀保安隊に利益をかませてあげる代わりに、事業拡大の際には協力を取り付ける算段を立てているのだ。
事業を拡大すれば利益が出る。
そして、その利益に関するノウハウはアリスがこの異世界で独占状態であることを鑑みれば、風紀保安隊の面々にとっても決して悪い話ではないのだ。
みかじめ料として、数名の風紀保安隊のメンバーが働くことによりスマートボールの利益の一部が抜かれてしまうが、それでも莫大な利益からおこぼれを貰う形で収益を確保できる。
少なくともマイナスにはならない。
こうしたことから景品交換所で買い取った収益の数%を提示し、それを治めるという形であれば、向こうの面子としても保つことができる。
お互いに損のないWIN-WINな状態となるのだ。
「無論、風紀保安隊のメンバーとの関わりを密接にすることは致しません、あくまでも利益の一部を税として納めるという名目ですので、必要以上に金銭を要求するようであれば、彼らの雇い主に直接抗議をするだけですよ」
「抗議って……それダンパに言うつもりっスか?」
「勿論、部下をしっかりと躾けておかないと、純金の卵を産むニワトリを殺すようなものですからね……」
アリスは本気であった。
少なくとも、これ以上仲間に対して恫喝をするような事をするような人間に対しては徹底して戦うつもりであった。
スマートボールという金の卵を如何にして利用するか、アリスは策をめぐらせながら風紀保安隊のメンバーと対峙することを決意するのであった。




