4-3:乗って出る
アリスはベルの話を真剣に聞いてくれた。
脅された上で、明日アリスをベルが利用したことのある高級キャバレーに連れてくるように指示があった事。
相手は顔を見せなかった為、素性がわからない事。
これまでの事から風紀保安隊のメンバーが行動している可能性が高い事。
そして何よりも、ベルの妹たちの事を把握していて人質にしている事。
ベルは全てを話した上で、今まで黙っていたことをアリスに直接謝ったのだ。
「本当にごめんなさいアリスさん……お話しようにも足がすくんでしまって……もっと早く言うべきでした」
「いえ、誰だって脅された状態で行うなんて、怖くて相談できませんよね……」
アリスはベルに同情した。
刃物をチラつかせて、相手を一週間後に呼び出して来いと言ってくる相手の事を説明するなんて、どうしたらいいのか分からなくなるだろう。
相手に相談しようにも、妹の事が相手に伝わっているのであれば相談も難しくなる。
それを踏まえて、アリスは思考をして相手の出方を伺うことにする。
(私が目的であれば、この前の風紀保安隊のメンバーの間であったひと悶着に関する事かしら……?でも、呼び出しという事は、脅しを含めて私に金銭などをせびることを目標にしている事で間違いないですわね……?)
風紀保安隊が行動しているのであれば、それに応じた対策も欠かせない。
ただ、それは先ずは今日の仕事を終えてからパトリシアやアムールを含めた上で相談する案件だ。
今は先ずは仕事を最優先にしなければならない。
「ベルさん、正直に話してくれてありがとうございます。また、仕事が終わり次第、パトリシアさんやアムールさんを交えた上でその件に関して相談しましょう。一人よりも大勢で話せば解決方法も見つかるはずです」
「すみません、本当にありがとうございます……!では、私はこれから仕事に行ってきますので、イライを頼みます」
「はい、ベルさんもお仕事頑張ってください!」
アリスはベルを元気づける。
きっと今までベルは不安だったのだ。
抱え込んだ不安を吐きだしたことで、ベルの表情も最後は明るいように見えた。
これで少なくともベルは仕事に専念できるようになるだろう。
アリスにとっても、異世界に来てから初めて出会った相手だ。
彼女への恩義をここで返すためにも、仕事を終えてから策を練ることにする。
そしてまずは仕事を執り行うことが目下の課題だ。
「では、あと10分で店を開きます。準備はいいですか?」
「ええ、何時でもいいですよ!」
「が、頑張ります!」
「では皆さん、手を合わせてください」
アリスの掛け声で、アムールとイライは手を合わせる。
「今日一日、頑張りましょう!」
「「はい!」」
仕事まえに気合いを入れる。
やる気があれば十分……。
というわけではないが、気持ちを整えることが大事だ。
アリスの店は正式名を「アリス・エンターテイメント」にした。
営業時間は午前8時から午後8時まで。
途中従業員はトイレ休憩であったり、昼食休憩を挟むので2時間ほど休憩がある。
そしてイライは8歳という年齢を考慮して休憩時間も多めにし、午後6時には上がらせる。
これからしばらくの間はこの時間帯だが、利益率なども考慮して時間がずれ込む可能性もある。
まずはこの時間帯から、そして3人で頑張る。
互いにフォローし合いながら行う。
「では、私は現金の受け取り業務を、アムールさんは当選した数字を報告し、イライさんはその数字の券をお渡しするようにお願いします」
「ええ、任せてください!アリスさんとの特訓の成果を見せてあげます!」
「よ、よろしくお願いいたします!」
「どうしてもわからないことがあったら遠慮なく言ってくださいね。分からないまま放置するのではなく、聞くのも仕事のうちですから」
「はいっ!」
「それでは、仕事を始めますよ」
午前8時……。
「では、これよりアリス・エンターテイメントは正式に開店いたします!」
アリス・エンターテイメントは正式に開店した。
開店と同時に記念すべき最初の客がやってきた。
最初の客はマンデルであった。




