3-10:モフモフ
今回作中で入浴シーンがありますが、あくまでも小説家になろうにおけるR15のガイドラインに従って記載しております。
たぶん問題はないと思いますので初投稿です。
(アムールさんと一緒に寝る????一体どういうつもりなの???)
今日出会ったばかりの、それも一度盗みを働いた相手を雇うどころか、一緒に寝るとはどんな神経をしているんだと思わずパトリシアは突っ込みをいれたくなった。
だが、アリスとしてはアムールが金を持ち逃げしたりしない絶対的な自信があった。
それに、今はアリスの部屋にアムールがいた方がいい理由がある。
一度、アリスの耳元で考え直すようにパトリシアはつぶやく。
「アリスさん……いくら何でも一緒に寝るなんて……」
「ダメですか?」
「ダメも何も、一度盗まれたんですよ?最低でも別室で寝るようにしなくては……」
「いえ、今はアムールさんとは一緒に寝たほうがいいんです。一から説明したほうがいいですか?」
「……あー、お願いします」
「まず、風紀保安隊のメンバーが襲ってくる可能性があります」
「……?!」
アリスが心配しているのは、風紀保安隊による襲撃だ。
次はないと脅しを仕掛けてきた相手が、みすみすそれを見逃すはずがない。
油断した隙を狙って攻撃してくる可能性を否定できないのだ。
特に、アリスはスキンヘッドの男に対して喧嘩を売るような発言をしている。
隊長格の男が間に割って入って静止をしていたが、実際には何時でも襲撃できる機会を伺うように指示を出していた可能性もある。
当然、アリスとしてもスフレに来るまでに幾つかの宿屋に入ってラーマ、アムールと共に転々としながら、入って宿泊するフリをして、風紀保安隊がいないか探りを入れたのだ。
結果として、複数の場所を巡った際に風紀保安隊のメンバーらしき男が見張っていた。
「考え過ぎかもしれませんが……幾つかの場所を巡った際に、彼らが私とラーマさんを監視していました」
「それは……本当なのですか?ラーマさん……」
「間違いないよ。仕立屋に入った時から風紀保安隊のメンバーが物陰で監視していたのさ……」
「……よく、分かりましたね……」
「気が付いたのはアムールだよ。彼女が指摘したことで発覚したのさ」
「私の目と鼻は良いからな……ニオイで分かる。あの領主と同じニオイをしていたから……」
最初に尾行されていることに気が付いたのはアムールであった。
彼女の嗅覚は、人間種の数十倍も利く。
ダンパと同じニオイをしていたことで発覚し、指摘したことで分かったのだ。
「あのゴロツキ連中……アリスさんを店の出入口で待ち構えていたのです……」
「私たちは店員に裏口から逃げるように言われて事無きを得ましたが……」
「ここに来るまでの間だけで、3人ほどいたな……」
間違いなく、アリスは目を付けられてしまっている。
ただ、エルフの研ぎ澄まされた聴力と、アムールの鋭い目から逃れられない。
何度か追手を巻いた上で、スフレに入った。
そのためパトリシアはアリスの事を心配してか別室で分けるようにアドバイスをするも、アリスとしては一人で就寝中に襲われるリスクを鑑みて、アムールと一緒に寝る事が現時点で一番安全だと判断したのである。
アムールもラーマも、アリスの意見に同意していた。
「現状としては、風紀保安隊のメンバーが逆恨みで襲うことも考えられますわ」
「襲わなくても、嫌がらせをしてくるかもしれんからな……だから、私がアリスさんを守るんだ」
「……そこまで仰るのであれば、止めはしませんわ……それから、ラーマさんは今夜はどうするおつもりで?もう暗いので夜道は危ないですよ」
「……そうですね、今夜は遅いですし……銀貨5枚で泊まれる部屋はあるかしら?」
「5枚の部屋は満室だけど……いいわ、今日だけ特別料金で銀貨10枚の部屋を貸してあげますよ」
「ありがとう。助かるわ」
ラーマも用心を越した上で、スフレに泊まることになる。
……午後11時。
「パトリシア……まだやっている?」
「やっているわよ。お疲れ様」
「久々に堪えたわね……エール酒一杯頂けるかしら?」
「……分かったわ。ちょっと待ってね」
隣町に冒険者を運び終えたベルがスフレに戻ってきた。
一仕事終えたということもあって、早速スフレに入るなりエール酒を注文する。
すでに食堂の方は晩酌を嗜んで酔っぱらった冒険者以外の客はおらず、疎らであった。
残りの冒険者も、酔い覚ましの水を飲んで帰路についている。
宿泊をする者はベットの中で眠っているか、異性と一緒に防音魔法を敷いてから夜の遊びに夢中になっている頃合いだ。
その頃、アリスとアムールは一緒にシャワーを浴びていた。
アリスにとってアムールは大きな猫みたいなものだ。
アムールの髪が汚れていたのもあるが、優しく洗ってあげたい一心でシャワーで身体を洗っている。
アムールも、アリスからの厚意を無碍にすることは出来ず、成されるがままに洗っているのだ。
シャンプーとして使われている石鹸が泡立ち、アムールの髪の毛を包み込んでいる。
マッサージをするようにアリスが髪の毛を洗っているのだ。
「アムールさんの髪の毛……すごいモフモフしていますねぇ……」
「あまり髪の毛は洗わないんだが……その、髪の毛がフワフワしているとやりずらいんです……」
「でも、私としてはフワフワでモフモフしているのが好きですけどねぇ……」
アリスは鼻歌を歌いながらアムールの髪の毛を洗い、そして身体にも手を伸ばした。
ティーガーは体毛で覆われていることもあってか、モフモフなのだ。
石鹸で泡立てると、体毛も泡立つ。
優しく、撫でるようにアリスはアムールの体毛を洗っている。
やや困惑した表情でアムールが言う。
「あの……私みたいなティーガーを洗っても、気持ちよくないんじゃ?」
「そんなことはないですよ!こうっ!モフモフしていて……ッ!!!大きな猫ちゃんみたいで、私は大好きなんですよォ!!!」
「な、なんだから嬉しいようで悲しいような……」
「アムールさんも、今はリラックスしていてください……色々と大変だったことですし、休むことも仕事のうちですよ」
「そう……ですね……」
成されるがまま、アムールはアリスによって身体を綺麗さっぱり汚れを洗い流す。
アリスの洗い方がうまかったのか、髪の毛も洗った直後にボサボサしていた箇所もなくなり、虎柄を意識したような美しい髪が靡いていた。
また、ティーガーの特徴的な体毛も、アリスによって念入りに洗って綺麗になった。
夜の仕事で異性に見られたり触れられたりしたため、抵抗はあったものの同性であったアリスによって優しく身体を洗われたことで、アムールとしても不思議と嫌な気持ちは起きなかった。
「どうでしたか?」
「すごく……髪の毛が軽くなったような気がします」
「良かった……アムールさん、今のアムールさんとっても綺麗ですよ」
「ほ、本当ですか……?う、嬉しいです」
アムールの見た目は入浴前と入浴後ではだいぶ見た目も異なる。
それまでの怪しい雰囲気は一掃されて、清潔感のある綺麗な女性として映えも良くなっているのだ。
「それじゃあ、一緒に寝ましょうか……」
「そうですね……そうしましょう……」
アリスとアムールは服を着替えてから一緒のベットで就寝することにした。
毛布を被り、アリスはアムールの鼓動を聴きながら眠りについた。
「おやすみなさい、アムールさん」
「おやすみなさい、アリスさん……」
寝相が少し悪いのか、アムールに抱き寄せられる形でアリスは眠ったのだ。
モフモフの体毛に抱きしめられて眠るのは気持ちよかったのか、幸せそうな顔をしていた。
そして、アムールはそんなアリスの横顔を眺めて目を閉じる。
(本当に……いい人に拾われてよかったなぁ……)
心の奥でアリスに対してドキドキと胸の奥が鼓動していくのを感じ取ったのであった。




