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★ ☆ ★


「えぇっ?!それは本当ですか?!」


パトリシアは驚いた様子でアリスに言った。


無理もない。


風紀保安隊とトラブルになっただけではなく、ボディーガードとしてティーガーの女性であるアムールを雇ったと言い出したからだ。


これにはパトリシアですら青天の霹靂であった。


「驚くのも無理はありません。ですが、彼女がいなければ出来ない仕事ですので雇うことにしたのです」

「う……うーん、アリスさんのお考えからして、そうした判断もやむを得ないのでしょうけど……」

「やはりティーガーは駄目でしょうか……?」

「ちょ、ちょっと仕事を終えてからじっくり話をしたいので、その人を裏口経由で連れてきて部屋で待機してもらってもいいでしょうか?」

「わかりました」


何を考えてそんなことをしたのかと問いただしたくなったが、カウンターで受付の仕事をしていたため、一先ずアムールを裏口から通して部屋で待機するように指示を出した。


アリスは裏口でフードを被って待っていたアムールを呼び出し、部屋に連れ込んだ。


流石に、一枚布でボロボロの服装では一目についてしまう。


そこで、亜人種用の仕立屋で服を購入して目立たないように服装も変えたのだ。


白色の清潔感のある服装を選んだのはラーマであった。


彼女曰く、白色の服装であればそこまで大きく目立たないのと、ボロボロの服装であれば反って目立ってしまう事などを理由に挙げて選んだのだ。


「亜人種向けの仕立屋で、白色の服装を選んで正解でしたわね……」

「そうだな……殆どこちらに目を向ける人はいなかった……」

「ありがとうございますラーマさん、お陰で助かりました」

「あのままの服装だったら確実に人目についていたからな……礼を言うよラーマ……ありがとう」

「お礼はいいですわよ。それよりも、パトリシアさんにしっかりと事の詳細を話してもらいますからね」

「ああ、分かっている。宿屋の女主人にはしっかりと伝えるよ……」

「大丈夫、きっとパトリシアさんなら分かってくださいますよ。アムールさん、大丈夫ですからね」

「はい……ありがとう、ございます……アリスさん」


今はもうすっかりアリスの部下としての契約が成立し、誓いの儀と共に正式に社員となるわけだ。


アムールにとってアリスは命の恩人。


アリスに対しては敬語を使って話をするように心がけるようだ。


部屋で待機すること10分後……。


パトリシアが部屋に入ってきた。


作業服を着たままだが、椅子に座っているアムールを見て驚いた様子で見ていた。


「ティーガー……!アリスさん、彼女が?……泊まりたいと?」

「ええ、アムールさんと言います。アムールさん、この宿屋スフレの女主人であるパトリシアさんです。ご挨拶をお願い致します」

「は、はい……アムールといいます……よろしくお願いします」

「あ、はい……こちらこそ……」


アリスに言われるがままに挨拶をしてペコリとお辞儀をするアムール。


それにつられて職業柄お辞儀などをしているパトリシアもお辞儀を交わす。


それから、パトリシアも椅子に座って事の経緯などを直接聞くことになったのである。


「……では、最初にドワーフの青果店で恫喝していた風紀保安隊のメンバーがアリスさんに喧嘩を吹っかけて、ひと悶着したと……」

「そうなのです。ドワーフのお店で上質なレモンを買っただけなのに……」

「それが亜人種専門店だったことも、相手が気に食わなかったのでしょうね……」

「ええ、それにしてもドワーフの店主も酷い扱いを受けましてね……レモンを地面に叩きつけて踏みつけられたのです。それが許せなかった……」

「本当に、人間種の女性でも容赦しないと恫喝を繰り返しておりましたからね……あれは隣で見ていて肝を冷やしましたよ……」


アリスにとって、ドワーフの青果店で売っていたレモンを気に入ったので買っただけだ。


それを、亜人種専門店で購入するとは何事かと因縁を付けて恫喝をしてきた風紀保安隊の構成員。


そのうちの一人が食ってかかってきたため、アリスは堂々と言い返して相手のリーダーが止めに入り、今回は見逃すが次はないと警告を受けた。


その説明を受けたパトリシアは驚きつつも、暴力沙汰にならなかっただけ儲けものだと言った。


「風紀保安隊は悪名高いことで知られていますからね……アリスさんに怪我がなくて良かった……」

「心配をおかけして申し訳ありませんでした」

「本当に、彼らは女性でも容赦なく手を出しますからね……」

「そんなに……」

「ですから、アリスさんは幸運でしたよ……それと、アムールさんですが……」

「ああ、出会いでしたらちょっと衝撃的でしたけど」

「衝撃的って……?」

「彼女、私のレモンの入った籠を素早く盗ったのです」

「え、と……盗ったァ?!アリスさんの私物ヲォ?!」


アムールが、アリスのレモンの入った籠をひったくったと知り、思わず目が飛び出そうになった。


「ちょっと!それって泥棒じゃないですか!!!一体何を考えているんですか!!!」


パトリシアは突っ込まずにはいられなかった。


泥棒……強いて言えばひったくり犯のアムールを助けようとするなんてお人好しすぎると。


パトリシアが抗議をしようとした際に、アリスが待ったをかけて話を続ける。


「話し合って彼女の境遇を知って……どうにか助けてあげたいと思ったのです」

「……続けてください」

「アムールさんは、ここの領主様に教育という名目で暴行を受けたのです」

「ちょ……暴行って……」

「アムールさん、説明をお願いできますか?」

「はい……これを見てください……」

「うっ……これは……」

「領主に暴行を受けた痕です……何度も躾けと称して殴ってきたのです」


フードを取って、アムールはありのままの顔を見せた。


痛々しい傷跡が残っており、痣や傷の腫れが引いていないのだ。


ラーマが治療魔法を施して痛みを和らげるようにはしたものの、完全に傷を修復するには専門医に見てもらわないといけない。


また、歯が折れていた箇所もラーマが治癒魔法を使って応急処置として軽く治してあげたのだ。


無論、応急処置であるためしっかりと治すには医者の所に行って欠損した歯の箇所を補強しなければならない。


これもまた、誓いの儀と反乱防止用の生体魔術を執り行う直前に、蒼茫の安らぎによる治療を行う布石となるのだ。


痛々しい傷跡を見て、パトリシアはしばらく絶句し、ゆっくりと感想を述べた。


「これは……酷いですね……」

「ええ、アムールさんに対する行いはいくら何でも過剰すぎます。それに、このまま飢えたまま放置すれば餓死してしまうか、より大きな犯罪に走ってしまうリスクのほうが高かったのです……ドワーフの青果店で起こった出来事が頭の中で重なって……それで……アムールさんをボディーガードとして雇うのはどうかと思ったのです」

「ボディーガードですか……確かにティーガーがいればちょっかいを掛ける輩はいないと思いますが……」

「スマートボールはあくまでも景品を獲得できるゲームではありますが、賭博性があるゲームです。賭け事によってはトラブルに発展する可能性もあるため、腕っぷしの強い方に受付とトラブルになった際の対応をお任せしたかったのです」


アリスとしては、ティーガーのような腕っぷしの強い女性がいるだけでも、抑止力になると考えている。


現に、アリスに対して因縁を吹っかけてきた風紀保安隊の一件もある。


「分かりました……では、今回はアリスさんの件に免じてアムールさんの宿泊を許可しましょう」

「ありがとうございます……!」


パトリシアとしても、アリスが正規の手段で契約を結んだと知り、スフレに危害などを加えないという条件付きで滞在することを許した。


「それで、彼女が泊まる部屋ですが……」


そしてアムールの泊まる部屋の話題になった際に、アリスはパトリシアに尋ねた……。


「パトリシアさん、この部屋のベットってアムールさんでも寝ることができますよね?」

「ティーガー向けではないですが、このランクの部屋のベットでしたらどの種族の方でも寝ることができるようになっていますけど……」

「なら、今日からしばらくの間はアムールさんと一緒に寝る事にします」

「えええええっ?!」


パトリシアはアリスの発言に仰天したのである。

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