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0-3:転移特典

「やぁ、意識が目覚めたかね?」

「えっ……あ、はい」

「ふむ……肉体は正常じゃな……問題もなさそうだ」


アリスは周囲をキョロキョロと見渡す。


老人以外、何も見当たらない空間。


真っ白なキャンパスを眺めているみたいであった。


さっきまで母親と一緒に車に乗っていたはずだ。


アリスは目の前の老人にここは何処か尋ねた。


「あの……ここは何処ですか?」

「ここは現世と来世を繋ぎとめる場所じゃな……」

「現世……?来世……?」

「天国に近い場所と言えば分かるかね?」

「えっと……言っている事がよくわからないですわ……」

「君は奇跡的な確率で生きている状態で、この場所にきてしまったのじゃ」

「奇跡……?生きている……?」

「君がさっきまで乗っていた車は……こうなっているのじゃ」


老人は手からスマートフォンを取り出す。


スマートフォンを起動してアリスに見せる。


「ひぃっ」

「残念じゃが……君のお母さんはこの車の中で息絶えていたのじゃ」


一瞬でアリスの顔が引き攣っていた。


ぐしゃぐしゃにトラックにめり込むように潰された車体。


周囲にはバイクの残骸と、大量の血が流れ出た跡が残っている。


彼女を大切にしてくれた母親。


そして、いつも学校の送り迎えをしてくれていた運転手は、トラックにめり込んでぐしゃぐしゃに潰された車の中で息絶えていたのである。


あまりにもツライ現実であった。


だが、アリスを目を背けることなく続けて老人に尋ねる。


「じゃ、じゃあ……私も死んでしまったのですか?」

「いや、さっきも言ったが君はまだ死んではおらん」

「私は死んでいない……?」

「そうじゃ、死んだら魂がこの場所にやってきて天国か地獄に送られることになっている」

「つまり……私はまだ生きているって事ですか?」

「そうじゃ、君は生きている。しかも無傷でだ……」


アリスはあの事故から()()している。


肉体も魂も無事だが、何かの手違いで魂が選別される場所にやってきているのだ。


老人は興味深そうにアリスを見つめて言った。


「こんな事は滅多にない。10、いや15年ぶりじゃな」

「15年ぶり……」

「最後の時は高校生だったかのう……自転車ごとやってきたのを思い出すわい……」

「あの……ここから元に戻る方法はありますか?」


その質問に、老人は首を横に振る。


「残念ながら、それは出来ぬ……」

「えっ、どうしてですか?!」

「現世を離れた魂と肉体が戻る事は無い。それを破ってしまうと摂理が壊れてしまうからな……」

「せ、摂理……?」

「生者の世で決められたルールなのだ」

「ルール?」

「ルールを破れば秩序が崩壊する、生と死が曖昧になって世が滅ぶ」


アリスは生きたまま選別所に紛れ込んでしまったのだ。


厳密に言えば生者であり、死者ではない。


死者ではない者の魂や肉体が入り込んでしまうと、摂理のシステムが崩壊して「生」と「死」が入り乱れてしまう。


これを破れば、たちまち数十億人もの人間が「不老不死」になってしまう。


それを意味することは「死」の概念が無くなった世界だ。


そうなったら取り返しのつかない恐ろしい事態になる。


老人としても、アリスを現世に戻すわけにはいかなかったのである。


「ということは……もう、私は死んだ扱いになるってことですか……?」

「いや、君は死んではおらん。ただ、このままでは天国にも地獄にもいけないのじゃ」


老人はそう説明した上で、アリスにとある提案をした。


「そこでだ……君に一つワシから提案がある」

「て、提案ですか……?」

「そうじゃ、君は生者として別の世界で生きることになる……」

「別の世界……それって、異世界転生のお話ですか?」

「転生ではないな、正しくは異世界転移系の物語に近い」

「わ、私が異世界に転移……現世に戻れない代案というわけですね?」

「そうじゃ、現世に戻れぬ以上は、別世界で生きて辻褄を合わせることで君の存在を『異物』ではなく『正常』とするようになるのじゃ」


アリスの魂も肉体も生きている。


一度現世に戻ることは出来ない代わりに、別の世界に移動する。


これにより『アリスの肉体と魂に辻褄を合わせる』事で、天国と地獄、そして生者の世のバランスを取ることができるのだ。


助かる道がそれしかない以上、アリスは老人の言う事を聞き入れた。


「分かりました……異世界に転移(?)をお願いします」

「こちらとしても、せめてものお詫びとして……君に幾つか能力を付与しよう」

「能力……?」

「異世界は君たちの住んでいた世とは言語も風習も何もかもが違う。まず君の住んでいた日本語で会話や執筆ができるようにしておこう」


老人がスマートフォンを操作すると、アリスの目の前には複雑なプログラミング言語が映し出される。


そのプログラムの一部を【日本語】に変更される。


これで、アリスは異世界語を喋れるようになった。


次に、老人が用意したのは資金であった。


「次に、必要なのはお金じゃな……」

「お金……?」

「少女を無一文で放り出すわけにはいかんからな……ほれ」


老人はそう言って、巾着袋をアリスに渡した。


アリスは巾着袋を開けると、そこには金貨が沢山詰まっていたのである。


「これは異世界における共通金貨じゃ。何処に行っても使える」

「あの……こんなに沢山いいのですか?」

「無論じゃ、これだけあれば当面は足りるじゃろ」

「あ、ありがとうございます!」

「それから最後に、これを持っていきなさい」


老人が最後に渡したのは冒険者用のリュックサックであった。


革製であり年季の入ったものだ。


「これは……?」

「異世界で必要なものを揃えたものじゃ。開けてみなさい」


リュックサックを開けると、そこには衣類や保存食、医薬品の類が入っていた。


少なくとも、異世界転移直後に野垂死に……なんて事態にはならないだろう。


アリスは異世界に転移する準備が整ったのだ。


アリスはリュックサックを背中に担ぐと、老人にお礼を述べた。


「すみません、何から何まで用意してくださって……」

「いやいや、ワシにはこれぐらいしか用意できんよ……すまなかった」


老人は頭を下げる。


元の世界には戻れず、異世界に転移させなければならない。


アリスの気持ちを思えば、この措置はやむを得ないのだ。


「ではこれから……異世界転移を行うが、準備はよいか?」

「はい、お願いします」

「分かった……それっ!」


老人が杖を一振り。


その瞬間に、アリスの肉体は一瞬で別の場所に飛ばされる。


瞬きをする一瞬で白塗りのキャンパスから、未舗装道路の脇に佇んでいたのである。

明日から18時投稿になります。よろしくお願いいたします。

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