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2-8:警報装置

ティオースは一枚の羊皮紙を取り出す。


不正行為防止の魔法陣が施された羊皮紙。


サンプル品である。


表面には複雑な魔法陣が描かれており、アリスが手をかざすと青白く光る。


アリスにとって、この世界にやってきて初めて見る魔法であった。


これにはアリスが目を輝かせて言った。


「すごい……綺麗ですね……」

「でしょう、余裕の輝きだ。純度が違いますよ」

「純度……?」

「この魔法には高純度のクリスタル溶解液を使用しております。高純度であればあるほど魔法陣が明確に反応できるのです」

「なるほど……では、この青白く光ったのは適性者であるという事でしょうか?」

「その通りです!これは対象者を読み取って『問題のある人物か否か』を判断する指標となるのです」

「問題のある人が手をかざすと、どうなるのですか?」

「赤く光って、周囲に警告音が鳴り響きます」

「すごい……警報システムも完備しているのですね……!」


不正防止魔法は、実のところアリスのいた世界の警報装置システムに等しい。


アリスとしても、現代の遊技台などに使われているような警報装置がある事に感動していた。


これらの不正防止魔法に匹敵する警報装置は既に実用化されている。


主にパチンコやパチスロであったり、ゲームセンターのゲーム機の筐体きょうたいに搭載されている。


これらの警報装置が作動する条件は大まかに四つに分けられる。


まず台を強く叩いたり、蹴り飛ばすといった衝撃・破壊行為。


メダル口などに道具を差し込んで工作したり、台こじ開けて内部のコンピューターのメモリを弄るといったパチンコ玉やメダルを多く獲得するために行われる書き換え行為(専門用語では『注射』と呼ばれている)。


遊技台や筐体の中でもパチンコを使用している場合は、中央部のチェッカーに入りやすくするために、パチンコ玉そのものに工作をする磁石不正。


そして2000年代になると、電磁波を発する装置を使って意図的に誤作動させて、多くのパチンコ玉やスロットのメダルが導入されたと機械に認識させる電磁波不正が挙げられる。


これらの違反行為を感知すると、周囲に警報が鳴るシステムになっている。


こうした不正行為に遊技台を製作しているメーカーも対策をしているが、近年ではパチンコ店のセキュリティーシステムを遠隔操作して台をハッキングして、意図的に当たりを引かせる行為もあり、いたちごっこ状態となっているのだ。


この世界では、瞬時に問題のある人物か否かまで見抜ける魔法陣がある。


その魔法陣をスマートボールの台に組み入れる。


「問題がある人物を見抜くというと……不正行為を行おうとしている人も含まれるのですか?」

「その通りです。細工をしたりしようとすれば瞬時に魔法陣が判断します」

「すごいですね……よくそういった事が分かりますね……」

「魔法陣の中に入れば、人間の考えは分かってしまいますからね……それで判断するのです」


故に、台そのものに魔法陣を敷いて不正を行おうとする行為を探知できればいいのだ。


ただ、そうした不正行為を防止する魔法陣というのは、技術が無ければできない。


特に、魔術師の資格のある者でなければならない理由があるのだ。


「不正行為に関する防止魔術の書かれた魔法陣は、魔術師の資格が無ければ取り扱いができません」

「資格が必要なのですね……」

「はい、ガラスなどに付与するのであれば、より繊細な技術が必要になります」

「それだけ知識と資格のある者でなければ魔法陣の取り扱いができない……というわけですね」

「その通りです。無資格者が行った魔術の場合は保証対象にはなりませんので、お金をケチって頼んだ魔術師の魔術が駄目だった場合でも、無資格者への責任には問われないのですよ」


裏通りにある非合法の魔術師が減らない理由も、ティオースの説明で明らかになる。


高額でも正規品として販売している店舗で買えば品質は確かなものである。


一方で、怪しげな店で効力はあれど、ジャンク品扱いで保障が効かないのであれば、安かろう悪かろうで済ませる人の需要を満たすのだ。


「御詳しいですね……私はまだ魔術や魔法に関しての知識が無いので助かります」

「大丈夫ですよアリスさん、少しずつ理解できるようにお話しをしますので、分からない事がありましたら遠慮なくお申し付けください」

「ありがとうございます。私は魔術に疎いので、説明もなさって下さると有り難いですわ」

「ええ、お任せください!プロですから!」


ティオースは誇らしげにアリスに魔術の説明を丁寧にする。


魔術師に関してはこの町では誰でも知っている当たり前のことだ。


だが、事前に魔術に関する話をする前に、彼女が極東の異国からやってきたと告げられる。


今まで、魔術や魔法を見ずに過ごしてきた者は珍しい。


だが、決して魔術師をバカにするような態度ではなく、しっかりと説明を聞き入れている。


ティオースにとって、教えるのにうってつけの相手だ。


「不正防止魔法として描く魔法陣は、主に台本体とガラス面をお願いいたします」

「ではガラス面であれば、表示が見えにくくならないように透明化塗料を塗る必要がありますね」

「透明化塗料……それはどういったものですか?」

「魔法陣を見えにくくする塗料です。クリスタル溶解液であっても透明になるのです」

「透明に……?!完全に見えなくなるのですか?!」

「いえ、特殊な光を当てなければ目で見えないようにすることができます」


特殊な光を当てないと見れない塗料。


その事にアリスは元居た世界で刑事ドラマで登場したある物を思い出した。


「それはスゴイですね……!まるでALSライトみたいですわ!」

「ALS……?それは一体?」

「私のいた国では犯人の指紋や血痕などを探す道具として警察で使用されていたものです!」

「……そのALSライトについて詳しく話してもらってもいいですか?」

「はい!私も技術者ではないので大雑把な説明でしか出来ませんが……」


今度はアリスからALSライトの説明をした。


ALSライトは、捜査や鑑識などで使われる特殊なライトだ。


ゴーグルを使用した状態でライトの光が当たると、その部分から血液や指紋が浮かび上がる。


ただし、ALSライトを使用するのは夜間であったり暗くならないと使用できない。


そのため、鑑識班は夜間に事件現場での検証行動することが多い理由でもあるのだ。


「……と、こんな感じですね」

「なるほど……特殊な眼鏡を掛けないと見れないライト……ふむ、今後の魔法陣研究でも活かせそうなアイディアですね……」


アリスの説明にティオースは感嘆としている。


話がいのある相手だ……。


ティオースはそう感じた。


一方でアリスの両脇にいるパトリシアとベルは、開いた口が塞がらない状態であった。


(ちょっと!アリスさんのいた日本って国、魔法と魔術が使えないって言っても十分に匹敵する技術を持っているじゃない!)

(ティオースさんが感嘆しているけど、やはりアリスさんのいた国ってスゴイのでは……?)


極東の日本からやってきたことは知っていても、技術水準までは知らなかったのだ。


魔法や魔術が無くても、アリスのいた国では万人が魔法や魔術に匹敵する道具を扱えているという点だ。


その点を加味すれば、アリスが「あれは○○の原理で動いている」とか「□□と似た感じね」という具合に魔法陣に関する仕組みを「理解できる」のだ。


これは、何の知識もない人間では成し得ることはできないことであった。


そして、スマートボール台で付与する具体的な内容に話を詰めていく。


そのために、アリスは図面をティオースに見せる。


「このスマートボールの台で使われるのは通常のガラスですか?」

「はい、予定では通常の平面ガラスを使用する予定です」

「……通常のガラスであれば、塗料もそこまで多くなくても大丈夫です。費用も抑えられますよ」

「本当ですか?!ありがとうございます」

「不正防止用の魔法陣をスマートボールの裏側で描けば更に魔法陣を強化できますが、大きさはどのくらいになりそうですか?」

「そうですね……おおよそ横400cm、縦が850cmの台になります」

「ほぅ……少し、大きい遊技台ですね……」

「はい、遊技台をプレイする際には、ガラス面はそれより少し小さくなりますが、大きいサイズのほうが分かりやすく、周囲にも視認できるので良いと思った次第です」

「成程……では、必要な費用の計算を致しましょう」


図面を見ながら、ティオースは紙に必要なクリスタル溶解液の量や、魔法陣を描く際に掛かる費用などを計算する。


筆を3分ほど動かして、用紙に次々と描き込んでいく。


そして、計算で出た結果をアリスに伝える。


「アリスさん、必要な費用ですが金貨10枚になります」

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