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1-10:6人姉妹

★ ★ ★


ベルは自分の住んでいる場所に戻ってきた。


ここは貧民層が多く住んでいるエリアで、ボロボロの住宅が立ち並んでいる。


すぐ近くの安酒場では、男たちが乱闘騒ぎを起こしていた。


「なんだてめぇ!表にでろ!」

「ふざけんな馬鹿野郎!殺すぞ!」

「やれるもんならやってみろ!」

「キーッ!!死ねやぁ!!!」

「あー……また安酒場で喧嘩やっているよ……懲りないねぇ」


ベルは近くで聞こえる罵声にため息交じりで反応する。


ここでは喧嘩や暴力なども後を絶たない。


早く部屋の中に入ってしまおう。


階段を駆け上がり、ベルが住んでいる部屋のドアを開ける。


「ただいまー」


ベルの声を聞きつけて、ぞろぞろと子供が出てきた。


一人、二人、三人……。


ざっと5人だ。


「お姉ちゃんおかえり!」

「おかえりー」

「ただいま、いい子にしていたかい?」

「うん、今日お隣のおばさんがパンを焼いてくれたよ」

「メンデルさんね……明日お礼言っておくわね」

「お姉ちゃん、今日の夕ご飯食べた?」

「うん、皆は食べた?」

「食べたよ」

「そう、良かった……それじゃあ、今日はもう寝ましょうか」

「やったー!」

「お姉ちゃんと一緒に寝るー!」


ベルの事を「お姉ちゃん」と呼んでいる。


子供たちはベルとは年の離れた妹たち。


それも、全員腹違いの妹だ。


ベルが5歳の時に母親が最初の離婚をして以降、これまでに4回ほど再婚を繰り返した。


結果、連れ子も含めて5人の妹が出来たのだ。


しかし、3年前に5人目の父親が母親と喧嘩の末に刃物で殺し、その直後に自殺した。


ベルに残されたのはボロボロの借家と妹たちだけであった。


ベルは血は違っていても妹たちを見捨てることはしなかった。


今では長女であるベルが全員の面倒を見ているのだ。


ユニコーンの辻馬車運転手となってから、必死になって稼いでいる。


一日12時間……。


朝起きて妹たちの世話をしてからユニコーンに乗って送迎の仕事を続ける。


昼食を挟んで時には夜の10時まで掛かることもある。


そうして汗水垂らして頑張って稼いだ金額でも、ユニコーンの餌代であったり辻馬車のリース契約で支払うロイヤリティで引かれていく。


今日の収益は最初に隣町まで客を乗せ、その隣町で6件の仕事をこなし、最後にアリスを乗せてスフレに行かせた。


合計8件の仕事。


料金はせしめて銀貨24枚。


ここでユニコーンの餌代が銀貨2枚。


リース契約料として銀貨6枚。


ユニコーンの駐場料金が銀貨1枚。


今日の純利益が銀貨15枚だ。


これでも収益が多い方であり、雨の日や風の強い日は利用客も少ないので赤字になる事のほうが多い。


月の総合収益は多い月で金貨2枚、少ない月だと金貨1枚と銀貨30枚程度となる。


家賃が銀貨30枚、食費で金貨1枚ほど消費していくため、貯蓄をしていても妹が風邪などを引けば、その時点でお金が足りない状況になってしまう。


家賃の支払いは勿論のこと、食費に関しても妹を養うために多く稼がないといけない。


どうしてもお金が足りない時は、ベルは奥の手を使う。


それは夜の仕事を掛け持ちしてお酒などを提供するサービスを行うキャバレーで働いたり、時にはキャバレーの客からの指名で自らの身体を使って働くことをしたりもした。


この町では当たり前のことだ。


お金に困ったら、自分自身で奉公を行ってお金を貰う。


特に、ダンパの治世になってからそうした行為が加速度的に広がってしまったのだ。


町の保全という名目で税金を多く搾取するため、必然的に家賃や食費も高くなってしまう。


そのため、ベルのように女手一つで育てる世帯ではお金は死活問題であった。


若い女性を中心に、パートナーや配偶者ではない別の人に身体を好き勝手にされる人は多い。


特にハーフリングは人間種と比べても身長や体重が小さめであり、パッと見ただけでは大人かどうか分からない。


そのため、そういった()()を好む人間との相手をするのは、ベルとしても苦痛であった。


ベルはそうした苦痛から逃れるために、その時間だけは強いお酒を飲んでなるべく嫌な思いをしないようにして働くのだ。


そうやって頑張って稼いだお金を貯めて、妹たちが自立して巣立つことを願っている。


とはいえ、今日は良い事が沢山あった。


()()()であるアリスから、多めにお金を貰ったのである。


細かい銀貨を持っていなかったアリスの為に、パトリシアに頼んで両替をしてもらい銀貨3枚を受け取るつもりであった。


しかし、アリスが「色々と紹介してくださったベルさんの為にも、多めに出しますので受け取ってください」と、なんと銀貨6枚も出してくれたのだ。


実質的に倍の料金を支払ってくれたのである。


その分のお金を、アリスは妹たちのために使うことに決めたのだ。


「おっ、そうだ……おやつのビスケットを貰ってきたんだ。明日食べようか」

「えーっ!!ビスケット?!いいの?!」

「勿論、お姉ちゃんは明日は仕事で朝から行くから、ちゃんと皆で分けて食べるんだよ」

「「「はーい!!」」」


妹たちは素直だ。


喧嘩もせずにみんなで協力しあって生活をしており、ベルはその事を誇りに想っている。


明日はアリスが行う事業の手伝いとして一日中駆り出される。


妹たちを寝かしつけてから、ベルは帳簿の記入を行う。


記入を終えてから、ようやくベルは眠りにつける。


(明日はアリスさんに付きっきりだからねぇ……パトリシアも付き添いでくるし、忙しくなりそうだわ)


ベルは明日を楽しみにしながら、目を閉じて眠りについた。

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