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1-7:スマートボール

アリスはスイスイとノートに具体的な方法を描きだした。


それは、初期投資がそれなりに必要なものの、少なくとも確実に流行しそうなものであった。


イラストで描かれたものは、横に設置した台に複数の穴と釘が描かれている。


穴にはそれぞれ得点が描かれており、最高で「5」の数字、最低で下部に「入賞」とある。


残りは「1」もしくは「3」とそれぞれ穴に描かれていて、一種の遊技ゆうぎ道具の一種であった。


パトリシアは不思議そうな顔でアリスに尋ねた。


「アリスさん……これは一体……?」

「これはスマートボールと呼ばれている遊技台の一種ですわ。私の国では既に数は少なくなっていますが、これで遊んで一定数得点を獲得すれば商品が貰える仕組みとなっております」

「……つまり、この遊技台で遊んでもらって……そのお金を割り当てるという事ですね?」

「そうです。スマートボールはあくまでも景品を獲得できる遊技ではありますが、この景品をこのお店で『食券』や『宿泊券』に変えて遊ばせるのです」


スマートボール……。


これは昭和時代に流行した遊技台である。


ピンボールのようにボールを飛ばして、穴に入ればメダルであったりボールが補充される仕組みとなっている。


このスマートボールには特徴があり、ボールの数が多ければその分豪華な景品に交換することも出来る。


メダルゲームコーナーで設置されているものは未成年でもプレイできる。


しかし、そうではなく景品と交換するタイプのものは『パチンコ』と同じ扱いとなっているため、景品と交換できるスマートボールを遊ぶ場合は18歳以上でないといけない。


というのも昭和時代では子供でも遊べるゲームとして流行していたが、パチンコが規制対象となって未成年者が遊ぶことができなくなった。


スマートボールも例外ではなくメダルゲームはともかく、景品交換できるものは「パチンコ機」として認定された歴史があるのだ。


アリスは、このスマートボールに着目して勝てば食券や宿泊券と交換できるようにして、集客を図ることを提案したのだ。


「一回の遊ぶ料金は銀貨1枚で1発……連続で遊ぶ場合にはボールを打ち出す数だけ入金する必要がありますわ」

「銀貨1枚なら、暇つぶし程度にはやっていくかもしれないですね」

「それに、入賞が5回入るとエール酒一杯分の無料券と引き換えるようにすればいいのです。そうすれば「0」点と書くよりも、銀貨5枚を消費しても最低でもエール酒が一杯飲めるようにすれば損をした気分にはならないのです」

「成程……0点扱いにすると損をした気分になりますからね」

「さらに、参加すればエール酒を一杯無料で振る舞える券を渡せば、銀貨1枚だけではなく銀貨5枚で打ち込めばお得と宣伝すればいいのです」

「なるほど……そうすればエール酒が2本無料で手に入った錯覚になるわけですね」


エール酒の値段は銅貨50枚。


銀1枚の半分で一杯の値段だ。


つまり、本来であれば銀貨1枚で2杯分飲めるエール酒の値段が5倍になっている。


ただ、これでもギャンブルとしてみればかなり良心的な扱いでもある。


パチンコでは約160分の1の確立で大当たりであり、競馬ではレースにもよりけりだが18分の1で単勝が当たる。


ここでは最低でも5回やれば入賞判定なのだ。


客側としても損した気分になることは殆どない。


だがらこそ、そこにアリスは着目したのだ。


つまるところ、スマートボールで銀貨5枚を使用してエール酒一杯無料券を獲得すれば、参加した時に貰えるエール酒無料券と合わせて、大当たりはしなくても少し得をした気分になるかもしれない。


……が、実際のところ店側は8杯分のエール酒の利益が獲得できる。


この入賞に沢山入るように設定すれば、あるプレイヤーが一番高い宿泊券で銀貨10枚の部屋を当てたとしても、損はないのだ。


仮に10人のプレイヤーがスマートボールをプレイし、6人がエール酒無料券を獲得すれば、その時点で店は黒字なのだ。


プレイ料金で6人分の銀貨は36枚……。


そこからエール酒の無料券を差し引けば銀貨24枚が利益として出る。


残りが銀貨1枚分の食事券であれば利益分は減らない上に、銀貨5枚分のフルコース料理セットを当てたとしても支出は銀貨20枚なので、銀貨4枚の収益が出る。


もし一番高い部屋の銀貨10枚相当の宿泊券を獲得しても、10人中2名までなら黒字なのだ。


銀貨5枚で5個のボールを受け取れって遊べば必ず入賞できると宣伝するだけでもいい。


つまるところ、スマートボールをプレイする人が多ければ多いほど、利益が出るのだ。


パトリシアは驚きつつも、遊んでもらってから集客を狙うのは良いと思った。


「スマートボール……確かに、この遊技台があれば集客は見込めますわね……」

「だけど、これだけでどうやって景品として食券や宿泊券を渡すのですか?ただ、お店側が食券や宿泊券を一々渡していたら手間が掛かりますよ」

「それも考えがあります。このお店の中に【景品などを交換するもう一つのお店】を構えることが出来れば問題ないですわ」

「えっ」

「もう一つのお店……?」


アリスは、あくまでもスフレ側の負担を増やすことなくできる方法として、スフレの店内にゲームで得られた券を【食券や宿泊券として交換させる店】を併設することで、負担を減らせるのだ。


早い話が、パチンコの三店方式に近いものだ。


あくまでもスフレの店内に間借りをして出店している別のお店がエール酒無料券や宿泊券を買い取って、客に提供している扱いにする。


つまるところ、景品交換所だ。


スマートボールで得られたエール酒無料券や食事券、それに宿泊券などをスフレで利用できるようにするのであれば、あくまでも直接的なお金のやり取りは景品交換所だけで済む。


景品交換所では得られたお金の中から、エール酒無料券や食事券分の料金をスフレに支払い、また間借りしている分のロイヤリティを支払えば、お互いに損はしないWIN-WINな関係となる。


客にとっても、勝てば食事や宿泊が割安で出来る上に、ゲームとして遊ぶため娯楽の面も補うことができるのである。


こうするだけで、ギャンブル性を低くする上に違法であると指摘されることも少なくなるのだ。


アリスの提案したスマートボールは、まさに金のなる木でもあった。


「スマートボール……確かに収益が出そうですね……!」

「ただ、このスマートボールを作るにはお金も掛かりますし、台を作るために木工店などと協力して作らなければなりません」

「それなら任せてください。木工店でしたら伝手を紹介できますよ」

「ありがとうございますベルさん」

「それにボールを不正できないようにガラスに防術魔法を掛ける必要もあるわね。魔術師の方にルーンを描いて貰いましょう。そちらも紹介出来る人がいます」

「では、パトリシアさんは魔術師の方に紹介をお願い致します……!」

「……それで、お店はどうするんですか?」

「お店に関しては私が出てみます。食事処の一部を間借りしますが……よろしいでしょうか?」

「ええ、かまりませんよ。自由に使ってください」

「ありがとうございます」


とんとん拍子で話が進んでいった。


話の結果、アリスが景品交換所の店長として店の一部を間借りして働くことになった。


スフレ側にはロイヤリティとして収益の2割を提供する事になり、簡単ながら契約書も交わした。


これでアリスも収入源を確保し、あとはスマートボールの台が完成するのを待つだけとなった。


「それじゃ、契約成立を祝って乾杯しましょう」

「エール酒は飲めないので紅茶でもいいですか?」

「勿論!ベルもほら……乾杯しましょう」

「しょうがないなぁ……ほらっ、せーの!」

「「「乾杯!!!」」」


契約成立によって、異世界で打ち解けあっていく。


アリスが異世界に来てから僅か9時間後の事であった。

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