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私はあなたと異世界で  作者: 山田太郎
【一章】三人の神子達
15/18

15部

 再び俺が訪れたあの何も無い空間は、やはり最初に来た時と違い、天井が抜け、床には瓦礫が溜まっている、さっき確認に来た時と何も変わらない光景だった。

 そんな状態の床を物ともせずにシロコはスタスタと扉へと向かっていく。


「さーて、こっからはある意味地道な作業だぜ。条件が何にしろ魔法陣はこの部屋の何処かに描かれてるはずだ」


 そう言いながら、扉をあちこち触りまくるシロコにマホが質問を投げかける。


「で、でもこれだけ崩れてたら魔法陣も無くなってるんじゃ」

「いーや。まだこの扉はしまったままだ。無くなってない。俺はこの扉調べるから二人は他の場所を調べてくれ」


 こっちを見ずに答えるシロコを背に俺も部屋の探索を始める。月明かりだけが頼りのこの空間ではあるが、壁や床を見るだけなら事足りる明るさだ。

 慎重に瓦礫を登ったり降りたり退かせたりしながら探してみる。

 しかし、これと言って魔法陣のようなものはない。


「マホ。そっちはどうだ?」

「だめです。見つかりません」


 時にはマホと情報交換をしながら互いの探し場所を交換して行く。

 体感で三十分程経っただろうか。

 少し腰が痛くなって立ち上がって腰を叩きながら扉にいるシロコを見てみれば、普段からは想像もできないような真面目な顔で開かずの扉を睨みつけている。

 彼女は粗暴で口も悪いが、勉強や謎に対してはきっと真摯な人なのだろう。

 そんな彼女の胸元にあるのは、誰の所有物であるのかを示す紋章だ。

 亜人の、特に獣人などは差別されているとつい最近聞いた。

 モフテリアでも亜人解放戦線とか言う集団がそれっぽい事を言っていた。

 奴隷の身分だ。あの虎の様に地下牢に閉じ込められているのかは定かではないが、少なくとも学ぶことのできるマトモな環境に身を置いていないのは確かだろう。


「モモさん。あんまり女性をジロジロ見るのはどうかと思いますよ?」

「ん?あ、あぁ………。そうだな」


 そんな事を考えていると、マホに声をかけられて俺はシロコから視線をそらして再び壁や地面を見る。

 

「どうかしたんですか?」


 俺がシロコをじっと見ていたことが不思議だったのか、俺の瓦礫の撤去を手伝いがてらマホが聞いてきた。

 瓦礫を退かせ、魔法陣が無いのを確認してから俺は身体を伸ばして口を開く。


「虎も、アイツも、これが終わればまた自由の無い生活に戻るのかなって思ってさ」

「………………」


 俺の返答にマホは苦虫を潰したような顔を浮かべる。


「何とかしてやりたいとは思うけどさ、国が認めてる以上無理だろうし。できたとしても当の本人達も他所者がしたんじゃ納得なんてしないだろうし」


 そう呟いていると、何だか怒りが湧いてきた。

 何かを成せるような力を持っていなかった元の世界じゃこんなに悩むこともなかったと言うのに。

 なまじそんな力を持ってしまったばっかりに、伸ばせる腕が長くなってしまったばかりに、俺はずっと悩み続けてしまっている。


「モモさん?」

「………!悪い。ちょっと考え事してた」

「シロコさん、呼んでますよ?」

「え?」


 マホの指差す方を見てみれば、確かに少し怒り顔のシロコがこちらをじっと睨んでいる。

 急いで彼女の方に向かうと飛んできた第一声は案の定お叱りの言葉だった。


「おらぁテメェ!なーにボーっとしてやがんだ!戦じゃそう言う奴から死んで行くんだぞ!」

「いや、俺死なねーし」

「御託はいい。ちょっと手伝え」


 呆れたようにため息を吐きながらシロコは何かに指を指す。

 彼女の指先を目で追うと、そこは何もない壁だった。


「何もなさそうだけど………」

「見えないだけだ。ちょっとだけ試してみたが、どうやら熱で浮かび上がる仕掛けらしい」

 

 熱、と言うワードは当たりだったようでワードを出した俺も少しだけ安堵する。

 だが、少しだけ疑問も残る。


「で、俺は何をすれば良いんだよ?魔法陣があそこにあるならお前が起動させればいいだろ?」

「あぁ、そうだな。魔法陣が二つなけりゃ俺もそうしてた」

「二つ?」


 俺が聞き返せば、シロコは踵を返して扉を真ん中に丁度対照に位置する壁を指差す。


「コイツはどうやら同時に熱を感知させて起動させる代物らしい。魔法陣を浮かび上がらせれば自動で魔力を扉に流す。つまり、あの紙の目的は火力の上乗せじゃなくてそれに生じる熱を部屋全体に行き渡らせることだった訳だ」


 魔法を同時に撃てない奴が開けられるように、と付け加えてシロコが詠唱を始める。

 それに合わせて急いで俺も詠唱を始めながらチラリとマホを見てみれば、彼女も杖を両手に持って何かを呟いている。


「「我、シロコ(フジサキ・モモ)の名においてかの物を燃やせ!ファイヤーボール!」」

「我、ウサミ・マホの名においてあらゆる障害を跳ね返せ!鏡の如き湖を今こそここに顕現せよ!リバーシブルバリア!」


 感覚的にはほぼ同時だったと思う。

 コンマ数秒とか言われてしまえばそれまでだが、どうやら心配は無かったようで二つのファイヤーボールが当たった場所に瞬く間に魔法陣が浮かび上がり開かずの扉が音を上げる。

 前回は油断して開いた瞬間に伸びてきた腕にやられてしまった。

 しかし、それがあるかもしれないと分かっているなら何とでも避けられる。


「ッ!来たぞ!」


 猫耳がぴくりと動くと同時にシロコが叫ぶ。

 さっきまでゆっくりと開き始めていた扉が中から一気に押し開かれて腕が飛び出してくる。

 だがしかし、その腕は俺たち向かってくることなく何かに押し返されたのだ。


「腕の攻撃は私が全部跳ね返します!今の内に中に突入してください!」


 後ろで待機していたマホが叫ぶと同時に俺たち三人は部屋の中へと駆け込む。

 何本もの腕が襲ってくるがその悉くが跳ね返っていく。

 部屋に全員入れば作戦通りに俺が一番前でターゲットであるキメラを睨みつける。


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」


 悲鳴にも聞こえるような叫び声を発し、首とも分からぬ首にには何度も引っ掻いたのであろう爪痕が残る痛々しい姿。

 後ろからマホのえずく声が聞こえて来る。

 振り向いて様子を見たいが、目を離せばキメラは襲いかかってくるだろう。

 作戦、と言っても決めたのは基本的な陣形と動きだけであり倒し方なんて言うのは未だに未知だ。

 それを見極める為にも俺は走る。

 キメラにでは無い。

 奴の足元あたりにあるまだ新しい白骨死体………。その腰に携えられた二つの刃物に向かってだ。

 勿論、その間もキメラの攻撃が病む事はない。

 全身から腕が何本も伸びて、俺を捉えようと迫ってくる。


「………!」


 上から来た一本目を身体を屈めて避ける。次に真正面から来た腕をジャンプして避ける。

 今度は左と右から順番に伸びてくる。それを右に左に身体を逸らして避けたと同時だった。

 俺の死角だった真後ろから腕が迫ってきていたのだ。


「しまっ………!」


 しかし、その腕が俺を掴むことはなかった。

 やはり、跳ね返っていったのだ。


「もう………大丈夫です。モモさん、シロコさん」


 えずいていた、マホが復活して護ってくれたらしい。

 そのまま俺は死体の刃物を二本抜く。


「おかえり」


 不意にそんな言葉が出てきた。

 この二つの刃物とそれを持っていた首無しの白骨死体が着る服には見覚えがある。

 これは俺の死体だ。

 どうやら新しい身体が出来れば古い方は即骨になるらしい。

 首だけの時には、身体の感覚があってまだ残っているのは分かっていた。

 それがまさかキメラの足下なのは予想外だったが。


「ボケっとすんな!」


 死体の荷物漁りを終わらせて少しほっとしていると、シロコの喝で俺は現実へと引き戻される。

 腕が目の前に迫っていた。


「結界魔法の射程圏外です!」

「何とか避けろモモ!」


 避ける?この距離で?無理だ。

 だけども、俺だってこの異世界でずっと呑気にスライム退治をしていたわけじゃない。

 ナトス様直々のトレーニングを積んでいるのだ。

 剣を握る手と地面を踏む足に力が入る。

 刃を合わせた二つの剣を振り上げて腕が迫ってきたと同時に振り下ろす。

 勢いよく迫っていた腕は捌かれる魚の様に綺麗に二つに裂けていく。


「ザマーみやがれ!」


 肘まで斬れた所で剣が腕から離れ、その隙に俺は定位置へと戻る。


「モモお前………戦えたんだな」

「おう、喧嘩ならこれ終わった後にでも買ってやるぞ?」


 シロコと軽口を叩きながらキメラの次の動きに注目する。

 斬られた腕を見ながら何やら考えているようだ。


「さっきから、腕を伸ばしてくるばかりで動きませんね」

「足が全身の体重を支えられてないんだ」


 確かに、シロコの言うようにあの饅頭のような身体の下に足があれば歩く事は不可能だろう。


「アア!アアア!!!」


 不快な叫び声がこだましたかと思えば俺が斬った腕が元のようにくっ付いて再び伸びた腕が襲いかかってくる。

 俺はその腕を迎えうとうと構えるが、腕は俺の傍を通り過ぎていく。

 そう奴の狙いは一人だった。


「!?」

「マホ!」


 奴は標的を結界を貼るマホへと切り替えたのだ。

 マホが再び呪文の詠唱を始めるが腕のスピードからして間に合いそうにない。

 急いで戻ろうとして、俺は足を止める。

 腕とマホの間でバチバチと稲妻が走ったのだ。


「こっち狙ってくるたぁいい度胸だぜテメェ!」


 そこにいたのは手首から先が虎になって、爪からは電気が出ているシロコだった。

 シロコがその手を思いっきり振り下ろせば腕は五つに裂けて痙攣を始める。


「すっげぇ………」


 明らかにさっきの結構本気だった俺と比べても何倍も上の力だろう。


「マホ、大丈夫か?」

「は、はい!」

「よし!」


 マホの無事を確認したシロコが今度は俺に向き直る。


「モモ!お前はキメラに集中しろ!マホには俺が指一本触れさせねぇ!」

「りょ、了解!」


 再びキメラ本体に視線を向けれると、今度は腹の辺りの肉がまるでマグマのようにボコボコと音を上げて泡を出しては消していく。

 何だ?と思って見ていると、泡の中から人影が現れた。


「イ、ダイ………」

「!?」


 徐々に見えてきた人影の正体に俺は息を飲んだ。

 硬そうな鱗が180はあるであろう全身を守り、特徴的なトカゲの尻尾と顔を持つ種族。

 その顔に生気は感じることができないが、あれは確かにセントラルでもよく見るリザードマンと言う種族の男だ。


「ゴロ、ジデ………」


 あれは、本当に生きた人間なのだろうか?

 確かに生きていると言えるような顔ではない。

 あのキメラのように唸っているのならまだしも、はたして死体が言葉を喋るものなのだろうか?

 あれは………彼は、いったい何なんだ?


「迷うな!あれは死体だ!」

「!?」


 足が動かない俺の耳にシロコの叫び声が聞こえてくる。


「で、でも………喋ってる」

「なら尚更斬れ!そいつは死にたがってんだ!」

「……………!」


 悲鳴のような雄叫びを上げて目を閉じながら俺は右手の剣を振り下ろす。

 手ごたえを覚えて目を開らくと真っ赤血に染まった剣と腕に目の前には動きそうに無い名もなきリザードマンが倒れている。

 それを見た瞬間、嫌なものが背中を流れる。

 初めて生き物を殺したのはスライム退治の時だった。

 その時はまだゲームに出てくるモンスターを退治してやったくらいの感覚だった。

 次に殺したのはゴブリンだ。

 痛みでアドレナリンが出まくっていたとは言え、後から少しだけ胸にしこりが残った。

 その次はマウンテンウルフだ。

 この時点でもうゲーム感覚は無かったし、何とかコイツらは野犬と言い訳して保っていた。

 だが、今目の前にいるのは明らかに俺が止めをさした俺と全く同じ存在だ。

 俺は初めて()()を殺した。

「は、はは………」


 乾いた笑みが溢れる。

 言い訳のしようがない。


「ダヅ、ゲデ………」

「ボサッとしてんじゃ………!」


 リザードマンの死体を眺めている俺にキメラから出てきた新手が襲いかかってくる。

 体躯はリザードマンの二回りほどあるライオンの亜人だ。

 俺では勝てないと見たシロコがフォローに入ろうと地面を蹴って掛ける。

 だが既にライオンの亜人の爪は俺の首数センチに達している。

 今からではマホの結界も間に合わない。


「………は?」


 しかし、次の瞬間シロコの顔が強張る。

 ライオンの亜人の手によって俺の首が飛んだから? 違う。

 彼女の視線の先にあったのは先ほどまであった首を無くしたライオンの亜人が首から噴水のように血を吹き出させて倒れる姿。

 なら首は何処に行ったのか?その場にいる誰もその疑問を感じることが無かった。

 ライオンの亜人の血を全身に浴びた俺が右手に持つ剣のその上にそれがあったのだから。

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