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私はあなたと異世界で  作者: 山田太郎
【一章】三人の神子達
14/18

14部

 ………正直に言ってしまえば、俺は今、非常に困惑している。

 マホがあんな感じで怒ったと言うのもあるが、二日間しか一緒に居なかった相手に対してあそこまで言えることにも驚いた。

 俺と違って死ぬかもしれないと言うのに何が彼女をそこまで突き動かすのだろうか。

 服や下着を着ながら考えたって、今の俺にその答えが出せる道理もない。あるのは俺が彼女達の共闘を認めたというその一点だ。


「さて、作戦会議といこうか」


 マホにシロコと呼ばれていた女が俺の服同様何処からか取り出したあの研究日誌を開いて胡座をかきながら床へと置く。

 血塗れなのだからもっと別の場所もあるだろなどと思いながら俺は中腰になる。


「まずは、敵の正体だ。俺の聞いた話じゃ案外デカそうなんだよな?」

「はい。日誌によれば全長はゆうに十メートルを越すみたいです」


 マホが軽やかに日誌のページをめくっていき、その手がピタリと止まればそのページには怪物の全容が描かれていた。

 第一印象を言ってしまえば、それは丸い肉の塊のようで、しかしながら所々に被害者である亜人達の痕跡も見える。


「何枚にも重なって大きくなったエルフの羽、まるで鎧かのように身体にあるリザードマンの鱗、なんでも引き裂きそうな獣人の爪」

「……………」


 指を刺しながら画を解説していく俺に、シロコは苦虫を潰した様な顔を見せる。


「………今更ながら、アンタも一緒に戦うって事でいいんだよな?」

「オレはな、この戦いは仲間の弔いだと心得てるつもりだ。今更変わんねーよ」

「それは悪かった」


 どうやら彼女の方もマホと同じく意志は硬いらしい。

 俺は改めて画に視線を移す。大抵はこの怪物の成長日記ではあったが、一部分に関しては攻略に有用そうな情報も載っていた。


「話を戻すけど、コイツに魔法は通じない」

「怪物達の周りに魔力反射の結界が貼られてるんですよね」

「?それってマホは戦えるのか?魔法以外からっきしだろ」

「あぁ。だからマホには回復・支援をしてもらいたい」


 確かにマホは怪物に攻撃できないかもしれないが、彼女の魔力があればちょっとの傷ならすぐに直せてしまうだろう。

 更に、それに………、と付け加えながら俺はマホを見る。


「これは俺が捕まって感じた事なんだけど、怪物は恐らく魔力を餌にして動いてる」


 つまり、戦いになれば最も危険なのは一番魔力が多いマホという訳だ。

 それを二人に説明すれば、真っ先にシロコが手を挙げる。


「なら、オレはマホの護衛に回っていいか?はなから一人でやるつもりだったなら一人でもどうにでもなるんだろ?」

「そうだな。頼む。あ、後………」

「……………」


 俺とシロコが話を進めていると、マホが何やらじーっとこちらを眺めてくる。


「どうした?」


 何気なしに聞いてみれば、マホは慌てながらも答える。


「い、いえ!その………モモさんシロコさんに対して敬語使わなくなったなって」


 そう言われてハッとする。確かに昼前辺りまでは敬語で話していた覚えがある。喧嘩をして緊張が解れたのだろうか、タメ口で話していた。


「まぁ、オレからしたらコイツに敬語で話される方が気色悪かったからいいんだけどよ」


 シロコはそう言いながら近くの四つの小石を拾い集めると真ん中に撒き散らす。

 一番大きな小石と三つの小石には少しだけ距離がある。


「んじゃあ、布陣はこんな感じだな」


 彼女がまず指差したのは一番大きな小石だった。


「コイツが今回のターゲット。名称が無いから今からコイツはキメラと言う事で」


 大きな小石、キメラを手に取りながら三つの小石のうちの一つの横に置く。


「先ずはモモとキメラのサシだ。適宜俺とマホで魔法による補助を入れる」


 シロコの説明に俺とマホは頷き返す。


「んで、外の状況を見る限り奴さんのリーチは相当なモンだ。もしモモを無視してこっちを狙ってきたなら俺がマホを護ってやる」

「よ、よろしくお願いします」

「おう」


◇◆◇◆


 次第に作戦が纏まっていき、俺は最後の調整として身体を動かしながら頭の中でキメラの情報を反芻させる。

 身体の方はまだ少し重いものの、戦えないと言う程でもない。

 戦に赴く武士の気持ちと言うのはこんなものだったのだろうか?


「緊張するか?」


 ふと、シロコが話しかけて来た。

 その手には日誌が置かれていて、まるで高名な学者の様だ。

 

「俺もよくそんな風になる。戦いの前の晩は眠れずによく星を眺めた」


 ゆっくりと、シロコは俺に近づいて、隣に胡座をかいて座ってくる。


「そりゃそうだろうな。生きるか死ぬかの大勝負。その結果さえ大勢に影響するんだ」

「お前、まるで戦慣れしてるような言い草だな」


 俺の軽口にシロコはあぁ………、と自嘲気味に笑い飛ばす。


「奴隷になる前はな、よく戦をやってたよ。相手は魔物だったけどな」


 戦相手が魔物?

 言っている意味はよく分からないが、彼女は戦いに慣れているのは間違いない。


「………そうだな」


 だから俺は、戦いの先輩に心中を打ち明けてしまった。


「正直に言って、俺は戦いが怖いんだよ。痛いのも嫌だ。今も平気そうにしてるけどさ、気を抜いたら多分俺はこの場から一目散に逃げると思う。いや、絶対に逃げる」


 なんで情けの無い宣言だろうか。

 だけども、それが俺だ。この数ヶ月、毎日毎日戦ってきたが、一度たりともそれを楽しいと思ったことはなかったし神子の仕事を放棄してのんびり過ごしたいなんてしょっちゅう思っていた。

 でも、それを辞めても異世界じゃ行き場なんてない。


「それでいいだろ別に」

「え………?」


 まさかの言葉だった。

 何当たり前の事言ってんだ、と言うような顔を向けてくるシロコ。


「いや、命掛かってんだから当たり前だろ。なんだお前?敵前逃亡は死罪とかそんな古い価値観の持ち主だったのか?」

「え?え?逃げるの?」

「俺の親父の故郷の近くにある島国じゃあな、三十六計逃げるに如かずだの逃げるが勝ちだの言う言葉がある。意味は今の状況とは結構違うが、時には命欲しさに逃げるのも大事って事だよ」


 シロコの論った諺に聞き覚えはあるものの、今はスルーして俺は目の前にぶら下がった選択肢に向き直る。

 戦うか、逃げるか。

 ここで俺が逃げの一手を打ったとしてもきっと二人は責めないだろう。

 後味が悪いと言う理由だけで勢いよく来てしまったが、はたして正しかったのか、ずっと迷っている。


「うん。やっぱ俺戦うわ。ここで逃げても奥にいるキメラを見逃しても後味悪そうだ」


 それでも結局、俺は何処までも後味が悪いと言うよくわからない理由で動いてしまう。

 昔からの悪い癖だとは分かっていても、今の今まで帰ることができなかったのだ。


「………ま、それがお前の選択ならそれで良いんじゃねーの?あ、でも俺とマホに黙ってやらかそうとしたのは許してねーからな?それとモフテリアで暴れた弁償代と慰謝料」

「慰謝料の方は宮廷魔導士団につけるか亜人ナンタラ戦線の自業自得と言うことでケリつけてくれよ。飲み食いした分の料金は払ったぜ?」

「テメーのケツくらいテメーで持てってんだ」


 悪態をつきならがシロコが立ち上がり、俺の肩を掴む。

 何事かと思っていると、シロコが右手の人差し指でマホを指す。


「互いにこれが最後の雑談かもしれねーんだから話に行ってこい」


 ふざけてる様子も見れないシロコに気圧されて、俺はマホに近付いて行く。

 何度も命を掛けて来たシロコだからこそ、思うこともあるのかもしれない。

 戦場では別れが突然に来ることがあるのは素人の俺だって知っていることだ。

 予想ではあるが、きっとその前に別れをすませておけと言う意味もあるのだろう。


「ま、マホ………?」

「………随分、シロコさんと楽しそうにお話してましたね。一人寂しくしてる私にも聞こえてくる大声でした」


 拗ねてる?もしかして拗ねていらっしゃる?

 頬を膨らませるような分かりやすい態度ではないものの、眺めていればつーん、と聞こえてきそうなくらいには拗ねているマホを見てとりあえず俺は解決法を考える。

 解決法その一、取り繕う。


『そ、そんな事ないよぉ。俺にとってはマホもシロコ大事だし!』


 ………辞めておこう。二股を掛けるクズ男が開き直ってるみたいでなんか嫌だ。

 解決法その二、話題を変える。


『そ、そう言えばぁ!今話すべきじゃないかもだけど女子校ってどんな感じだったのかな?聞いてみたいなー!』


 ………却下。向こうが乗ってこなかったら意味がない。

 解決法その三、褒める。

 ………よし、これで行こう。


「凄いなマホは!結構離れてるのによく聞こえたな!耳がいいのか?」

「二人が大声だっただけです。別に聞き耳を立てていた訳じゃないですから勘違いしないで下さい」

「………………」


 うん。失敗。

 え?本当に何で拗ねてんの?さっきまで普通だったじゃん。俺なんかした?シロコと話してただけだよね?


「えーっとね、話はめちゃくちゃ変わるんだけど、マホって恩恵のおかげで魔力が無尽蔵なんだろ?いやー!羨ましいなぁ!」

「魔法、暴発しますけどね」

「………………」


 どうしよ。マジで原因が分からない。こうなってしまえば、もう正直に聞いてしまうのが得策だろう。


「何か、俺気に障ることした?」


 俺の質問にマホは頭を横に振る。


「じゃあ、何で拗ねてるの?」

「さっき大見得切ってモモさんの事を友達って言ったのに、私はモモさんの胸の内を全く知らなくて………」


 ………さっきの話聞こえてたのか。

 ポツリポツリと出てくる言葉に俺は疑問符を頭に浮かべる。


「友達ってさ、知らない事があっちゃいけないの?」

「………え?」

「いやさ、そりゃ人間なんだから隠し事の一つや二つや三つや四つ、あって然るべきとモモさん思うわけね?俺だってマホの事全部知ってる訳じゃないし」


 この二日寝食を共にしたから友達、と言うのは大分極端な気もするがそこは黙っておく事にする。

 とにかく、俺はマホの頭にポンと手を置いて笑って見せる。


「シロコには別れの挨拶をしとけって言われたけどよ、俺、死なないし。二人をむざむざと殺させるつもりもないし?だからマホも安心してドーンと支援魔法やってくれや」


 自分で言っていて少し恥ずかしくなって来た。

 後ろからは笑いを我慢しながらも堪えきれずにたまに吹き出すシロコの声も聞こえてくる。

 後ろの馬鹿は後で一発ぶん殴るとして俺は俯くばかりのマホを見る。


「………分かりました。支援は任せてください!」


 顔を上げて元気を取り戻したマホを見て、俺もキャラじゃないことやったなー、なんて思いつつ、小石を拾って未だ笑いを堪えているシロコへと投げつける。

 見事に頭に直撃すれば、今度はシロコが小石を三個投げつけてくる。

 これが、やられたらやり返す、倍返しだ!と言う物なのだろう。


「話は終わったか?」


 満足したのか、シロコは満面の笑みを浮かべながら俺の頭を鷲掴みにする。


「んで、お前あの扉どうやって開けた?」


 あの扉、とはキメラの居る部屋に続く扉の事だろう。


「正直俺にもよく分かんないんだけどさ、多分本棚にあった本を塵にして燃やして蒔いたら開いた」

「何だそれ?」

「何か壁に晴れの日とか書いてあったから炎技の威力が上がりそうな感じにやったんだよ」

「訳わがんね」


 とにかく、だ。

 扉を開けるにはそれで良いはずだ。

 しかし………。


「あの………。本棚も本もメチャクチャで使えそうに無いですけど………」


 最早希望は断たれてしまったのだ。


「だよなぁ。本は全部俺の血でシナシナで燃えそうにないし。さっき身体動かしがてら扉見に行ったらまたしまって開かなさそうだったし」

「………いや、裏技があるかもしれないぞ?」


 俺とマホが萎びた本の塵を眺めながら呆然としていると、ふとシロコがそう言った。


「あ!?」

「ど、どう言うことですか?」


 俺たちが驚いてシロコに振り替えたれば顎に手を当てながらシロコが淡々と言葉を返す。


「そもそもだ、それが扉を開ける手順だったとして、どうやってそれを判断してるんだ?見た感じ動きを見て扉を開ける使い魔みたいなのもいねーしよ」


 言われてみれば、確かにその通りだ。

 何となくで扉を開けることは出来たものの、その原理については全く気にしていなかった。


「えっと、モモさんは本を塵にして、燃やして蒔いたんですよね?」

「あぁ、そうだな。自分ながらぶっ飛びすぎてて何がどうなってるかは分からんけどな」

「問題はたぶん、その燃やして蒔いたって所だな」

「どう言う事だ?」

「たまにこう言う遺跡にはあるんだよ。水に濡らしたり暗闇にしたりする限定発動の魔法陣が。今じゃ再現不可能なオーパーツなんだぜ?」


 少し興奮気味のシロコを抑えながら俺は今でも帰りを待っているであろう虎の顔を思い出す。


「でもそうか………。そんな珍しい奴なら虎にも見せてやりたかったなぁ」

「も、モモさん?それ、まだ本気で思ってます?」


 信じられない物を見るような顔つきのマホに疑問符を浮かべているとシロコの咳払いが聞こえてもう一度向き直る。


「まぁ、二人と一緒に来た虎の事は置いといて、だ。問題はその燃える塵の何処に魔法陣が反応したかだ」

「や、やっぱり炎なんじゃないですか?」

「うーん、塵がちょっと燃えたくらいじゃ大した炎にもならないと思うけどな。モモはどうだ?その場にいた当事者だ。何か思いつくもの」


 手を挙げたマホの意見を聞いて、やんわりと否定しながら今度は俺に向いてくる。

 

「そうだなぁ………」


 俺は扉を開けた時のことを思い出す。

 本を塵にして使うところまでは漕ぎ着けたが、そこからどうしていいのかわからない。

 だから、晴れから炎の威力アップを思い立ち、予備の本はまだあるし、試しにやってみることにした。

 塵を空中に投げつけて、ファイヤーボールで放つ。

 魔法の火球が空を奔れば、それによって塵が燃え広がっていく。

 次第に部屋がゆらゆらと揺れ動くように見え、炎天下のように暑くなったと思えば、扉が開き俺はあの腕に襲われて、首だけで一つ前の部屋に取り残されてしまったのだ。

 そこまで思い浮かべて、その時に感じたある違和感と共に俺は一つの答えに達する。


「………熱」

「熱?」

「あの時使ったファイヤーボールがいつものより熱く感じたんだ。普通燃え広がったってあんなにはならない」


 普段から武器に魔法を付与させている俺が間違える訳がない。

 確かにあれは初級魔法のファイヤーボールにしては異常なほどの熱だった。


「だとするなら、仕掛けは一定以上の熱を感知すると作動する魔法陣か。だとするなら、塵は火力が足りない時の為の燃料ってとこか?恐らくは二人のような神子の為の」

「私達のための?」


 シロコの言葉にマホが首を傾げると、再びシロコが日誌を開き最後のページを見せる。

 そこに書いてあるのは壁のヒントの存在を示したあの日本語だった。


「この文字、古い文献にちょくちょく出てはくるものの未だ解読されていない。各地で文字が形として残っているところもあるが、分かっているのはこれが歴代の神子が書いた文字と言うことだけ。そんなもんでヒントを残すってことはこの字の持ち主は神子で未来の神子が扉を開けるに足る熱を持っていない時の補助としたんだろう」


 真剣に考察を続けるシロコに俺もマホも呆然となる。


「………とにかく、試してみる価値はありそうだ。どうした?」

「あ!い、いえ!気にしないでください」

「そうそう。ちょっとボーッとしちまっただけだから」


 俺たちの弁明にシロコは明らかに呆れたような顔を見せる。


「んだよ。弛んでんなぁ。直に戦闘なんだから気ィ引き締めろよな!」


 一人で先に手前の部屋へと向かうシロコの背を見て、俺は両頬を両手でバシンと叩く。


「行こう、マホ」

「は、はい!」


 ジンジンとなる頬の痛みを感じながら、俺はマホと共にシロコを追って歩き出した。

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