表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
推しと愛犬とフィナンシェと  作者: 灯 とみい
6/16

晴治の孫、剣太朗

「あ、あのぉ、剣太朗です」

と名乗った晴治の孫は…

「そうそう。剣太朗君!生まれた時ご実家に会いに行ったのよ。わぁこんな大きくなってびっくりだわぁ~」


 新橋(しんばし)(けん)太郎(たろう)、晴治の娘の桃枝の息子、今年で二十五歳になる。誕生時に会ったきりなので二十五年ぶりの再会。それは剣太朗からすると見知らぬおばさんでしかないのだが、剣太朗は愛想良く微笑んでくれていた。


 剣太朗は昼過ぎにこっちに着いて、晴治の病院へ行って来たらしい。打撲の程度は酷くないようで、元気な様子だったと聞き花子も安心した。

 花子は長髪の男があまり好きではない。所謂チャラい男だと思い込んでいるので、剣太朗が丁寧に受け答えしてまた爽やかな笑顔を見せ、晴治の事も心配する思いやりを感じ、すっかり長髪の事は気にならなくなっていた。


リビングの奥で出番はまだかと待っているゆきが(ちょっと!)とワンワン吠えソワソワし出した。

「花ちゃんゆきちゃんがバタバタしてるよ」と磨り硝子の戸を少し開け若葉が呼んだ。花子はゆきの事をすっかり忘れて剣太朗と話し込んでしまっている。

「ごめんごめん、ゆきちゃん連れてきて」

花子は剣太朗にちょっと待っててと言い、リビングの方へ向かう。若葉が同時にこっちへ来て「ゆきちゃんお兄ちゃんがお迎えに来てくれたよ」と若葉と共に剣太朗の方へ戻った。

「お待たせしました」と花子が剣太朗へゆきを抱き渡すと同時に若葉が


「えぇ~~~~~~~~~~‼」


と大声を出した。


えっ?と全員があまりの大きな声に驚く。

勿論ゆきもびっくりして、抱き渡された剣太朗の左手親指の付け根にガブリッと咄嗟に噛みついてしまった。


「ウワァ‼」


に似た文字に表すのが難しいくらいの言葉を剣太朗が発して思わず腰を床に落とす。慌てて花子がゆきを引き離すと、剣太朗の親指から血が流れ出ていた。


 カウンター越しにゆきを若葉にまた預ける。しゃがんだままの剣太朗が立ち上がろうとすると、フラッと立ちくらみがして再び座り込んだ。一気に出血して血圧が下がったのだろう。花子が落ち着いてそのまま床に座らせ、出血している箇所に近い血管をもう片方の手で押さえるように促す。

「手は心臓より上にあげて」

手際よく支持をして落ち着かせた。

「痛てぇ」と、ちょっと涙ぐみ顔を歪め剣太朗は耐えていた。

(か、可愛い)花子の頭にふと過ぎる、が慌てて我に帰り、

「大丈夫?」とコットンで傷口を抑え出血の具合を見る。普段から噛まれた時の応急処置は頭に入っているし、噛まれることは無いわけではない。

「とにかく一回洗い流さないと。黴菌が入ると化膿するから。」とゆっくり剣太朗を支えて立ち上がらせ奥のドッグバスの方へ連れて行く。


犬の口腔内の細菌と人のそれは種類も数も違い、人に有害なこともある。とにかく噛まれたら水道水で洗い流すのが先決だ。花子は剣太朗の左腕を掴んだ。

ジャーと水道の蛇口から傷口めがけて水を当てると「うぐぅ」と剣太朗は傷口に沁みる痛さをグッと耐え、歯を食いしばり唇をむっと結んだ。

水で洗い流されていると血が再び流れる。

「痛い?大丈夫?」

と花子が剣太朗の顔を見上げる。背が高い剣太朗の顔は花子のやや右斜め上にある。傷口が沁みて思わず痛っと呟いて顔を下げた一瞬、花子が見上げた顔に急接近した。

(近っ!)花子の心の声が漏れそうだった。

 グッと耐えている目には長い黒い睫毛、顔を下げた瞬間に耳にかけていた黒い長い髪がはらりと降り、花子の目の前をかする。

 思わずドキッとして花子が一歩後ずさった。慌てて後方に離れて立ち尽くしていた若葉に声をかけた。


「若葉ちゃん大きな声どうしたの?」

話しながら水道を止めタオルで剣太朗の手を拭って若葉の方を振り向くと涙をいっぱい溜めゆきを抱えたまま立ち竦んでした。

「どうした?」

「ごめんなさい。私のせいで剣君に怪我させて…」

若葉はえらく落ち込んでいた。腕の中にいるゆきもバツが悪そうに静かにしている。

「若葉ちゃんのせいじゃないわよ。でもワンコに大きな声は駄目っていつも言ってるでしょ。ていうか、剣君って?知り合いなの?」

と、若葉と剣太朗の顔を交互に見る。剣太朗は違う違う、と首を振っているし、花子は少々理解できないでいた。


「花ちゃん、まさか気付いてないの?」と、今度は若葉が目を丸くして言う。

「剣君よ。KNIGHTの剣君。わかってないの?」

 花子はまた剣太朗の方を見て、数秒・・・。あっ!と息を呑み両手で口を覆って固まる。桃枝ちゃんの息子、晴治さんの孫、雑誌で見たことのあるKNIGHTの剣、頭の中で矢印を繋げる。


 まさか!と、目を見開いて動けないでいると今まで痛さで顔を歪めていた剣太朗がニコッと微笑んだ。若葉がゆきをリビングのケージに戻し、鞄に入れておいた雑誌を花子の目の前に出す。KNIGHTの三人がポーズを決め最高のイケメン具合をこちらに見せつけていた。

 晴治さんの孫、要するに桃枝の一人息子新橋剣太朗は、若葉が大ファンの新人アイドルKNIGHTのメンバーの一人、剣だったわけだ。本名を伏せて活動しているので名前では察することは出来なかったし、増して赤ん坊の記憶から二十代になった今の姿を結びつけることなんて思いもしない。雑誌のKNIGHT剣と目の前にいる新橋剣太朗を花子は交互に見て「はぁ・・・」と言葉にならない音を発するしか出来なかった。


 剣太朗も若葉に君のせいじゃないからと優しい言葉をかけ、若葉も少し安堵していた。そして気持ちが落ち着いたらちゃっかり

「デビュー前からファンで応援してます!」

と、握手までして貰っている。

傷のある左手は心臓より上に上げ、右手で握手する一見妙な恰好だけど、

「ありがとう」

と手を差し伸べて微笑むその姿は、さっきよりもオーラが湧き出てきて、一瞬にしてアイドルの顔になった。

(カ、カッコイイ…)またもや花子の心の声が漏れそうになりつい見惚れてしまう。

(何だろう、今胸の奥でキュンと音が鳴った気がする・・・)遠い昔に忘れていたその音が一体何なのか、少しぼんやりしていたら、剣太朗の心臓より上に上げた手からまだ血が少し流れ出ているのが目に入って我に返った。

「血が止まってないし、取り敢えず病院行っておきましょう」

 若葉にゆきとサクのことを頼んで、花子は剣太朗を病院まで連れて行くことにした。

「菖蒲ちゃんには連絡しておいて。遅くなるって」

「はぁ~い」





 

 普段乗っている花子のオレンジ色の軽自動車に、二人して乗る。185センチもある剣太朗には少々窮屈な助手席だった。運転席と助手席の間はベンチ椅子タイプだったので区切りはなく、長い脚の右膝は少し運転席側に近づく。花子は愛犬のサクか若葉くらいしか普段乗せていない助手席が、いつもと違いかなりくっついている感じがしていた。さっきまで知り合いの息子だったのに、急にアイドルのイケメンだと思うと緊張する。この狭い空間に二人だと変に意識してしまい、冬なのに急に暑くて顔が火照る。その緊張を紛らわす為に、花子は色々話し始める。


 若葉の日頃の推し活の様子、勧められたデビューイベントを見損ねたこと、デビュー曲の感想、挙句の果てにそのデビュー曲は普通すぎるとかいつの間にか情報番組のコメンテーターかのように、あることないこと一方的に批評してしまい「ドギマギ」という言葉が当てはまるほど何を言っているのか花子自身も訳が分からなくなっていた。


「あ、あの、信号・・・」

剣太朗の声ではっとする。

花子の車は交差点直前で急停止。目の前は赤信号だった。


「・・・ごめん」

信号の向こうが丁度目指していた地元のアオイ病院だ。内科、外科、整形、地元の人間は困った時は皆ここへ来る。小さいと(ちゅう)くらいの中間の規模の個人病院になる。夕方五時を過ぎていたのですっかり暗くなり、田舎の店は閉店の準備をする所も多く、駅周辺以外はひっそりしている。待合も午後診察はさほど混んでいず、すんなり剣太朗も診察室に呼ばれ治療して貰えた。白い髭を蓄えた六十代の葵先生は「飼い犬に噛まれたか、ハハハ」と笑いながら、傷口を塞ぐと化膿するからこのままでガーゼだけ当てて、抗生剤の飲み薬を念の為飲むようにと処方してくれた。幸い出血も止まって来たので、二人も一安心する。


「すみません、お世話になって」

剣太朗が花子に頭を下げると、慌てて

「こっちが大事な手に怪我させて・・・」

と花子も直ぐに頭を下げる。両者ともが頭を下げあう妙な場面で

「新橋さん」と受付で清算を呼ばれる。

二人は顔を見合わせフフッと笑い、支払いは私が、いや僕自分で、とまた二人がやりあって受付の中年の女性が面倒臭そうに待っていた。花子が強引に清算を済ませ、また二人でギュッとなる軽自動車で帰って行った。


 しーんとなる車内。

「とにかくビックリしたわ。桃枝ちゃんの息子さんがアイドルになってたなんて」

車中の沈黙が気まずく花子が話し出した。

「いやそんな」

剣太朗は謙虚に答えた。雑誌のグラビアで見るワイルドさやセクシーさとは雰囲気が全く違い、真面目そうな爽やかな好青年に見える。

「雑誌とかのイメージと少し違うから最初気付かなくてごめんね」

「いえ、そんな」

剣太朗は口数も少ない。

それ程知らないおばさんと話すのを困っているのだろうか。


 冬の日の入りは早いので空はすっかり暗くなっていた。

「あのぉ、娘さん一人で大丈夫ですか?」

今度は剣太朗が話しかけてくる。

「娘?」

花子は何の事か分からず少し考えて聞き返す。

「家に残してきた彼女です」

どうやら剣太朗は若葉のことを花子の娘だと思っているらしい。

「あぁ~あははははは。」

花子は思わず笑ってしまう。それは仕方ない。普通に考えて五十歳の女性と中学生の女の子が一緒に家に居たら親子に見えるはず。今まででも独身だとは思われず、「お子さんは?」とか「ご主人は?」なんて聞かれることもある。保険の手続きの時なんか「ご家族は?」と必要事項の質問で「いません、ひとりです」って言うと「すみません」なんてなぜか謝られることもあった。この年で独身というのは気の毒なことなのか?と思ったこともある。一般的に気の毒なのだろう。

世の中結婚率が下がっていると言われていても、この年齢なら結婚しているという概念は変わらない。花子からしたら、同年代でも未婚でいるものも多くいる。しかし案外この人も、こっちの人もやっぱり既婚者だと気づくこともあるから、人の常識なんて自分の見えている狭い世界のことなのかもしれない。


「あの子ね、若葉ちゃん。友達の娘さん。学校の通学途中に毎日くらい寄り道してるの。一人っ子だから両親が働いてるし、家に居るよりうちに寄る方が話し相手もいるから。ふふふ。私はね、独身。残念ながら逃しました、結婚は、はははは。」

笑いながら気を使われないように花子は剣太朗に説明する。

ここで普通なら保険手続きの時と同じく「すみません」と言われるのだが

「あぁそうなんですか?めっちゃ仲良し親子に見えました。仲いいんですね」

とニコニコしながら剣太朗は話を続けていた。

花子はちょっと嬉しくなる。

(何かめちゃくちゃいい子じゃないの‼気を使った?いや気にしていないってこと?)この何でもない会話の流れが花子をニヤニヤさせてしまった。

「どうかしました?」

剣太朗がちょっと気になって顔を覗き込む。いやいや、と首を横にふって花子は顔を真顔に戻して車を走らせた。正直、心の中ではニヤニヤしていたけど。





 ヘッドライトを点けた花子の車が家に着くと、中から若葉が飛び出してきた。

「おかえり!大丈夫だった?」

心配していたのだろう。待ちきれなかったという表情をしている。

「大丈夫、大丈夫。ほら寒いから家に入ろう」

 花子は若葉を促し、剣太朗も家に招き入れる。剣太朗は恐縮しながらゆきも待っているので、一緒にリビングまで上がって行った。リビングにはゆきは勿論、サクも帰りを待っていた。


「おやえり~」

もう一人キッチンの方から声がし、こちらに顔をだすのは若葉の母、菖蒲(あやめ)が居た。

 若葉からの連絡で事情を把握し、夕飯の支度も出来ないだろうと惣菜を持って来てくれたらしい。

「ありがとうぉ」

花子は気の利く菖蒲に感謝して、取り敢えずみんなで夕飯を食べることにした。

改めて菖蒲と若葉のことを剣太朗に紹介する。菖蒲は剣太朗に愛想を振りまき、まじまじと整った顔を見ていた。剣太朗はちょっと困った様子で気の毒だった。

「いやぁ~実物はイケメン過ぎて見とれちゃうわぁ~」

 剣太朗のすぐ横に座りテンションも高め。

「お母さん、そんなくっつかない!顔も見過ぎ!」

と若葉に叱られ、菖蒲は舌を出す。

「おばさんに囲まれて困るよね、ふふふ」

花子は剣太朗のことを気遣い飲み物を出す。

菖蒲は呆気らかんとしている性格で悪気はないのだけど、タジタジする剣太朗を見て楽しんでいるようだった。アイドルになったきっかけは?とか今どんな仕事してるの?とか矢継ぎ早に質問して、皆で食事しながら和気あいあいという感じにはなっていた。剣太朗もその内おばさんパワーに慣れて来たのかもしれない。



 剣太朗がアイドルになったキッカケは意外に晴治が係っていた。

 デパートでバイヤーをして居た頃の知り合いのアパレル会社の社長から新しいブランドの披露パーティーに招待された晴治は当時高校生の孫、剣太朗を一緒に連れて行った。

幾らかファッションに興味を持っていた剣太朗も華やかなそのパーティーに圧倒されていた。有名人や芸能事務所関係なども出席していた会場で、今の事務所の現在の会長と社長に出会い、簡単に言えばスカウトされた。特に現社長の千葉勝也が気に入ってくれたとか。

 アイドルという目標は特になかったらしいが、その後のメンバーとの出会いで今の形になったのだそうだ。ただ若葉も心配している通り、デビュー曲の反響が予想外に良くなかったので、今は歌番組よりバラエティー番組か雑誌の仕事が多くなっていて、たまたまこの三日はオフだったらしい。

「最近はナレーションの仕事が結構あります。この前も少しやってて・・・」

「あ!」

花子はふと思い出した。

「ちょっと!ちょっとこれ言ってみて。

『今日はホワイトデー特集です!』って」

困惑しながら剣太朗がそのまま言ってみる。

「今日はホワイトデー特集です」

花子はやっぱりという顔をする。遅くなったお昼の休憩時に点けた情報番組でやっていたホワイトデー特集のナレーションの声。剣太朗の声を聞いて、どこか聞き覚えがあると思っていたのはそのせいだったようだ。

「やってたよね。この前『おヒルなんですよ~だ!』でホワイトデー特集のナレーション。すごいいい声だなって思ってて。」

「あ、はい」

 若葉に聞かせてもらったKNIGHTの曲でも剣太朗の声がとても耳心地良く、花子の耳は剣太朗の声をすぐにキャッチするようだ。 

 花子は少し興奮気味に剣太朗の声を褒めちぎり、菖蒲も若葉も笑っていた。

「花ちゃん、それ剣君の声にハマったてことじゃん」

若葉がからかい気味にニヤニヤして言う。

花子は少し顔が赤くなる。

「花ちゃんは剣君の声落ちってことだね」

と菖蒲も輪をかけてからかう。

親子にからかわれて慌てる花子を見てニコニコ剣太朗は笑っている。

「ありがとうございます、褒めて頂けるのは嬉しいです」とゆきを膝に抱っこしながら剣太朗は会釈し、三人のキャッキャした様子を見守っていた。









 それから二日後。晴治は桃枝の迎えで退院した。帰宅するとゆきが待ち遠しかったと喜びを全身で表し、晴治にお腹を出す仕草を何度も見せる。晴治も愛おしそうにゆきを抱き上げ「悪かったなぁ、留守番させて」と大きな手でゆきの顔をくしゃくしゃ撫でた。

「ほらほらお父さん、まだ無理しちゃ駄目よ」と、玄関で愛犬とじゃれあってる晴治のお尻を叩き、ハイハイと晴治が奥の間へヨイショヨイショと歩いていく。

「じいちゃんお帰り。大丈夫?」

と剣太朗が心配そうに手を貸す。二人の足元をチョロチョロゆきが付いて大喜びの様子だ。

「剣太朗、あんたその手どうしたの?」

桃枝は親指に包帯でガーゼが巻かれているのに気付き、寒い寒いと手を摩りながら聞いた。

 

 ゆきを迎えに行ってからのこと。花子や若葉、菖蒲に世話になったことを二人に話した。「はっはっはっ」晴治は治療してくれた葵先生と同じように「飼い犬に手を噛まれたか」と大きな声で笑った。

「いくら驚いたからとは言え、信頼してない証拠じゃな」と眉を上げ剣太朗を見る。

剣太朗は、自分が犬を飼いたいと言い出したけど、遠方に住むから年に数回遊びに来るだけだったし、日頃の食事やトイレ、散歩の世話などしていないのだから、飼い犬と言われても飼い主じゃないし、なんてちょっと不満もあって、唇を尖らせてムスッとした顔になっている。が、実際欲しいと言って晴治に押し付けた後ろめたさもあったので、ここは何も言えないでいた。


「人間関係も、愛犬とも何でも信頼関係あってこそ。信頼されることも大事だが、信頼できる人との出会いも大事にしなさい」

横でうんうん、と桃枝も頷いていた。

今一つ剣太朗が仕事で伸び悩んでいることは桃枝も気にしていた。芸能界に入るまでサッカーしかしていなかった少年だったから、突然大人たちに囲まれる知らない世界でやっていけるか心配だった。結局デビューできたからと言ってその先が約束されることもなく、更に試練が待っている世界。明るい性格の桃枝もその心配も表には出さず、ただ見守っている。あまり口を出したりするのは、自分の経験からもしたくなかった。


「まだ売れてないとは言え、そんな休んでられないし、じいちゃん俺今日は東京に帰るから、大事にしてよ」

剣太朗はその後、帰り支度をして東京に戻った。怪我の具合は抗生剤を呑み切って腫れが酷くならなかったら自然に傷口が塞ぎ治るだろう。

「花ちゃんには明日お礼に行っておくわ」

剣太朗を見送ってきた桃枝は晴治にそう言い、台所で片づけを始めた。




お読みいただきありがとうございます。

ご想像通りの晴治の孫でしたが、ここからどうなるのかこの先もお読みいただければ嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ