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推しと愛犬とフィナンシェと  作者: 灯 とみい
4/16

晴治さん大変!

それぞれの転機です。

 悩める四人の男たちはウダウダ言いながらあぁでもないこうでも無いと話し合っていた。

「あ!」千葉優介が大きな声を出す。

「また優介さんビックリする」駿が鬱陶(うっとう)しそうな顔をする。

「三人ていえば昔から決まってるよな!」

千葉優介が閃いたようにこう話し出す。

「昭和の時代から三人組と言ったら、赤、青、黄のメンバーカラーだよ。これこれ!」

メンバー三人は

「で?」と何がこれなのか分からずにいた。

「いや~だから」と話を続ける千葉優介。

「インパクトが今回足りなかったから、原色のこの三色でバリバリに踊るってのはどう?」

三人は「は?」という顔をしながら想像してみた。原色赤青黄を着た自分達が、ノリノリに踊っている姿を・・・。

「却下‼」

三人は声を揃えて言った。想像したらただただ怖くなった。が、千葉優介だけがなんで?という顔をして固まっていた。


 廊下で様子を伺っている人影がある。悩める四人の男達はひとまず赤青黄案は却下とし、デビュー曲の売り上げアップと二曲目をどうするか話し合いを続けていた。イメージチェンジは少なからず必要かと意見は合致したので、二曲目をしっとりバラードにしてはと駿が提案した。剣の歌声はバラード向きで人の心に響くと駿は推していた。幾つかある候補曲を取り敢えず三人が聞いて選曲することで一つ案が定まる。

「CDの時代じゃないんだよな・・・」慎がまだブツクサ言っている。


トントン


ドアをノックする音と同時に「いいかな?」と声をかけ、様子を伺っていた男が部屋へ入って来た。

千葉(ちば)勝也(かつや)、事務所の社長、マネージャー優介の兄だ。

「社長!」

四人が慌てて席を立ってお辞儀をする。

「お疲れ様です!」と駿が一番に挨拶すると、順に慎も剣も挨拶して、優介が「社長ぉ~」と泣きついて言った。


 勝也は黒に近いグレーの細身のスーツをスラッと着こなしビシッと決まっている。胸元の薄いグレーのシャツに細めの黒いネクタイを締め一見モデルのようだ。同じ兄弟でも小柄の優介は茶色のスーツの中にベージュの毛糸のベストを着てネクタイはえんじ色。こちらの方が年上のような装いだった。

「皆、煮詰まっているようだね」

微笑みながら各自が手にしている不調な売り上げ資料に目をやり言った。

「少し視点を変えてみないか?」

勝也は空いている椅子に腰かけ話を始めた。


「ドラマの話がある。CDの話とは別だが、悪い話じゃないと思う。ただ、グループでの仕事ではない」

メンバー三人は「え?」と社長の顔を見た。

「駿、ドラマやってみないか?」

「え?俺?ですか・・・」

駿は急な名指しで戸惑ったが、内容はこうだった。


 勝也の知人のテレビ局の人間から、あるドラマの重要な役になる俳優を探していると聞き、KNIGHTの話をしたそうだ。三人の内、そのドラマのイメージに合うのがリーダーの駿だという。とりあえず一度会えないかとのことだった。

「どうだ、来週一度会って話をしてこないか?」「は、はい、勿論!」駿は喜びで前のめりに返事して、ふと他のメンバーを気にし二人に目をやった。

「すげーじゃん!」慎が自分のように喜んでくれている。「頑張って来いよ!」剣は親指を立てグッドのポーズで微笑んでいた。

「じゃ、話を進めておく」そう言って勝也は椅子から立ち上がり、ニコッと笑い部屋を出て行った。少しこの悩める四人の男達に光が差したようだ。

その頃には窓の外にやっぱり白い雪がチラチラ降りだしていた。









二月下旬、花子は朝から店の前を雪かきしていた。今年はもう何回目になるだろう。

「腰、イタッ」ついついそんな言葉が出てしまう。

「おはよう、花ちゃん」

声をかけてきたのは愛犬ゆきを抱いた晴治だった。

「あぁ、ちょっと早かったかな?」

「あ、おはようございます。大丈夫ですよ。今日ゆきちゃんのシャンプーでしたね。ちょっとお待ち下さい」花子は雪かきの道具を軒下に立てかけ、長靴を脱ぎに家の玄関へ回る。


「お待たせしました。」

ゆきを抱っこして唇を尖らせながら赤ん坊をあやす様にしている晴治に花子は店の扉を開けながら声をかけた。おぉ、と気付いた晴治は、花子に促されながら店に入る。

「随分雪降りましたね。お家の方雪かき大変でしょ?」ゆきを預かりながら花子は晴治と話を続けて、ゆきの体調やシャンプーの希望、予定時間を確認する。

「ゆきちゃん、今日も綺麗にしてもらっといで」

晴治がゆきに話しかけ、お迎えの昼十二時までに来ると約束し店を出て行った。扉を出てもう一度振り返りゆきに手を振る。

「足元気を付けて下さいね」

今回もまた足首辺りまで積もった雪に、ズボズボ長靴が埋まる晴治の様子を見て、声をかけた。八十代ともなるとこんな雪の日の外出は億劫なはず。花子が歩いて十分程とは言え、晴治にはもう少し時間がかかりそうなものだ。


「晴治さん元気だけど、こんな雪だと心配ね、ゆきちゃん」

花子はゆきに話しかけながら、耳掃除を始めた。案の定、奥のリビングではゆきちゃん大好きサクが察して、バタバタ落ち着きがない。(ゆきちゃん、一目見たいやん)尻尾を振りながらいつもの様に磨り硝子の向こうでウロウロしていた。




お昼十二時過ぎ。いつも早めに来るゆきのお迎えに晴治の姿はまだ無い。ゆきはケージの中でスヤスヤ眠っている。シニア犬になると何事もマイペースになるものだ。特にゆきは女王気質というか肝が据わっているというか、あまり動じない。サクはいつもちょっかいを出すけど相手にされていないのに、ゆきのことが好きで堪らないらしい。

「ゆきちゃん、晴治さんどうしたのかな?忙しいのかしら」ゆきに話しかけながら花子は店の入り口の方を眺めていた。そんな最中、電話が鳴った。



ルルルルル♪



「はい、ドッグサロン花屋です」花子が電話口に出ると、晴治の声がした。

「もしもし、花ちゃん。すまん」と申し訳なさそうに言う。

「ゆきの迎えが遅くなって。早く連絡しようと思ってたんだが・・・イテテ・・・。」

電話の向こうの晴治の様子がおかしい。

「え?晴治さんどうかされました?」花子が慌てて聞き返すと「今、ちょっと病院でね、あのぉ、ゆきを送って行った後にね・・・」

と晴治は困った様子で答える。「実は・・・」と話し出した内容はこうだ。


 どうやら晴治はゆきを花子の店に連れて行った後、自宅に戻り玄関前の雪かきをしていた。車の通りの少ない住宅街の道は少し凍りかけていたので、雪かきをしている内に晴治が滑って仰向けにこけてしまったとか。たまたま近所の同年代のご婦人が倒れている晴治に気付き、救急車を呼んでくれ病院まで運んで貰えたらしい。平日の日中は学校や仕事で家族が出払って誰にも見つけられないことも最悪あったかもしれず、そのご婦人のおかげで早くに病院へ運ばれ不幸中の幸いだった。ただ腰と頭を打っていたので念の為、あちこち検査をして、連絡が昼を過ぎた今になってしまったと、花子に申し訳ないと詫びていた。


「え~それは大変じゃないですか」

花子はびっくりしたが、一先ず病院で治療出来たことに安堵していた。

「花ちゃん、悪いがゆきを少し預かってくれないか?」


検査結果としては大きな問題は無いらしいが、腰を打った所の痛みは残っているので、年齢も年齢だから数日入院し経過観察をすべしと医師から言われたらしい。娘に連絡したので今日明日にでも来てくれるから、それまでゆきを頼むと懇願された。


「ゆきちゃんならサクとも顔見知りだし心配ないですよ。取り敢えず一晩は家で預かりますね。今もお昼寝中です、ふふ」

花子は晴治が心配しないよう笑って答えた。「どうぞお大事に」と電話を切って、ゆきの方を見る。

やっぱり何事もないかのようにお昼寝中だった。

「さてと、一先ずお昼ご飯でも食べようっかな」と花子はリビングへと向かった。

リビングではゆきの様子が気になるサクが相変わらずバタバタしていた。(ゆきちゃんと遊ばせてくれへんかなぁ)花子の顔を見て訴えてみたが、花子はただ微笑み、

「ゆきちゃん今日お泊りだって」

とポツリと言いながらサクを見ると、え!という顔をして(ヒャッホ~)とクルクル回りながら喜びの舞を舞っていた。


「分かってるの?ホントに」

花子はサクの様子を見て笑いながら、昨夜の残りの肉じゃがをレンジに入れボタンを押した。

 テレビのリモコンを付け、ソファーにどさっと腰を下ろす。すかさずサクが花子の膝にゴロンとすり寄って甘える。

テレビからはお馴染みのコマーシャルが流れ、午後の情報番組のホワイトデー特集が始まる。穏やかなナレーションに合わせお洒落なお菓子やデートグルメプランが紹介されていた。

「お腹すいた・・・」

 







お読みいただきありがとうございます。

晴治さん大丈夫かな…

この先もお読みいただけると幸いです。

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