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推しと愛犬とフィナンシェと  作者: 灯 とみい
16/16

約束の未来

最終話です。

最初からお読みいただいていた方には大変感謝いたします。

 また桜が咲き、散り、青葉が茂り、花子の好きな五月がやって来た。青い匂いがするこの季節。いつもの散歩コースの神社の境内は変わりなく、人が行き交い、花子の傍にもサクが歩みを合わせていてくれた。

散歩の帰りに惣菜屋へ寄り道をすると、葵先生が居た。手には見覚えのあるエコバック。

「おはようございます。先生そのエコバック…」と花子が話しかけると「あぁ、コレ晴治さんが娘さんの所へ行く前にくれたんだよ。お孫さんのグッズだとか」晴治は先月桃枝の所で暮らすことにして越していった。

「あ、KNIGHTのコンサートグッズ!」

「あぁそれなら、ワシの所にもあるぞ」と惣菜屋の店主も晴治に貰ったと見せてくれた。

「晴治さん・・・ふふ」花子は微笑んで肉団子と筍の焚き付けを買って帰った。

一年が過ぎることはただ時間が経つのではなく、色んな出来事が移り行き、心が動き、命が輝き、そして年老いても行く。

ただ年を重ねていくと良いこともある。他人の人生の背景を想像することもできるようになる。単純に生きているわけでは皆ないのだ。

平凡に過ぎて行くように見える月日も、その中に細やかな喜びや楽しみを見つければ、つまらないなんて思わないかも知れない。悩んだりしても、どう生きるかは自分次第なのかも。

普通の中の普通だって上等だ。自分の好きなものを大切にして前だけ見ていたら幾つになってもキラキラして居られる。独身のおばさんだってもう少し楽しく頑張ってもいい。


 花子の部屋は剣の表紙の雑誌が並び、朝その笑顔を見てパワーチャージをする。勿論無人レジでなくても堂々と購入していた。こんなおばさんイタイと思われるのなんか怖くない。若葉の友人の若い子たちとも同じように推し活の話をして、好きなことを堂々と好きと言い、楽しむ日々を送っていた。



 鶯が今年も鳴く声がする。

♪ホーホケキョ♪

 空はどこまでも広く青かった。





 数年後。

 花子の姉、美子(よしこ)は元旦那とよりを戻し、またオーストラリアで暮らしていた。その息子、(あさ)()は世界をまたいで活躍するモデルとなって雑誌の表紙を飾る度に、美子がオーマイガーと書店で買い漁っているそうだ。

 若葉は大学まで進学して心理学を学んでいたが、卒業後トリマーの専門学校へ行き結局トリマーになった。花子の両親は趣味の旅行も行き尽くし、優雅な介護付きマンションへ夫婦で入り終活を始めている。何処にそんなお金を隠し持っていたのか、花子にも美子にも分からないのだが、子へ迷惑をかけないようにと離れの住まいの荷物も整理し空けて行った。今はそこへ若葉が居候し花子の店を継いでいる。花子は若葉の指導をしつつ、トリマーを細々と続けていた。

 菖蒲の二人目、若葉の弟の()(づき)は、今小学校へ通っていて時折花子の所へ遊びに来ていた。


そして花子は変わらず独身で、この日還暦を迎えた。

「自分に還暦なんて言葉が目の前に立ちはだかるとは」花子はつい苦笑いしてしまう。

 そんな時、宅配で荷物が届く。送り主は新橋剣太朗。毎年誕生日にはフィナンシェを欠かさず送ってくれていた。

「今年は何か箱が違うわ。まさか赤いちゃんちゃんこが入ってるとか⁈」と少々眉間に皺を寄せながら箱を開けてみると、赤いガーベラとカスミ草の花束とフィナンシェ、そしてカードが入っていた。


『還暦おめでとうございます。

  俺の大好きな推し、花子さんへ

  また千年後の惑星のパレード一緒に見たいですね。

    未来の約束守りますから楽しみにね。剣太朗』


カードを読んで花子はフフッと微笑んだ。

「また次の世界で見ようね」

 

KNIGHTの三人はその後躍進的な活躍でトップアイドルの座をキープし、駿が三十五歳の時、島根のワイナリーを手伝うと故郷へ戻った。解散にはならず、駿は地元テレビで番組を持ち実業家とタレントを兼業している。慎も剣も映画やドラマ、そして二人で歌ったりそれぞれソロでコンサートしたり多岐にわたり活躍し続けていた。慎は唯一既婚者になっていた。

 年に一度は三人揃ってのコンサートをして、花子は欠かさず見に行っていた。





窓から暖かな陽射しが顔を照らしている午後。ソファーですっかり転寝(うたたね)したようだ。

愛犬が鼻先をぺろりと舐める温もりでぼんやり目が覚める。

キッチンからコーヒーを淹れる香ばしい香り。そこには見覚えのある背が高く広い背中が見える気がする。

10センチほど開けていた窓の隙間から風がヒューっと入り込み、手に持っていた読みかけの雑誌をペラペラめくった。

寝ぼけた目をパチパチしてテーブルの方へ目をやると、そこには赤いガーベラとフィナンシェがある。


「花ちゃん、コーヒー飲む?」

風と共に聞き覚えのある耳心地のいい声がした気がして、目を擦りながら開けると、爽やかな愛くるしいキミの笑顔が目の前にあった。

 

ひゃっと飛び起きると

「今日は特別だから来ちゃった」と剣太朗が微笑んだ。

転寝から目が覚めていないのかと花子は何度も目をパチパチさせ、そっとその笑顔に手を伸ばす。

「剣太朗君・・・」頬を両手で包み見つめる。

「さぁ起きて、一緒にフィナンシェ食べよ」

そう言って花子の手を引き寄せ立ち上がる。愛犬が尻尾を振って二人を追っていく。

 剣太朗は花子の手を引きながらテーブルへ導き、椅子にどうぞと花子を腰掛けさせる。

「私の大好きが全部あるわ!」

花子が振り返りながらキラキラ目を輝かせ言うと、剣太朗は花子の後ろから顔を覗き込み、ふふふと微笑み返した。

「違うよ、俺の大好きもあるよ」

「え?」

「推しの愛犬と好物のフィナンシェとが揃えば花ちゃん嬉しいでしょ?それ!」


ふふふ、と二人は笑い合って、外から吹く風が雑誌をめくり続けていた。






              








いつかの未来。


「こんばんは~(えみ)()ぁ迎えに来たぞ~」

「は~い」お母さんケンサクの散歩に行ってくるね、と玄関をバタバタ大学一年生の咲花が愛犬にリードをつけ出てく。その玄関先には同級生の七生斗(ないと)が待っていた。

「おまたせ~」と愛犬ケンサクと二人で出掛ける。

夜八時。夜の散歩は危ないからと幼馴染の七生斗が咲花に付き合ってくれていた。

「今日満月らしいなぁ」

「へぇ。じゃぁあの丘の公園行こうよ」

「おぉ」七生斗が微笑みながら返事をする。

二人し学校の話やら友達の話をして歩く。軽々とケンサクが先頭を切って石段を上がり公園に着いた。山を背にベンチに座り、ケンサクも二人の足元にお座りする。目の前にはマンションや住宅が見え、灯りは人が生活している証の様にオレンジに点っていた。

夏の夜でも風が吹くと心地よく、空を眺めるのにちょうどいい。空には満月がこちらを見ているように高く照らしていた。

「私達幼稚園から大学まで一緒だとは思わなかったよね」咲花が言うと「腐れ縁かな。いつもファスナー開いてないかチェックしないと開けっ放しだからな、お前」と七生斗(ないと)が笑う。

「いつもじゃないもん」咲花は口を尖らせている。

「あ、そうだ来週、(うち)にワンコ来るんだぜ。可愛い女の子」

「え!ホントに?楽しみだね。あ、名前私が決めてあげる」

「なんで、お前が」と七生斗が頭を人差し指でつっつくと「いいじゃん、何にしよう、アイ?ハル?アキ?モモ?あ、ふゆ?あ~ん、ゆき、ゆきの!」と咲花が両手をぽんと叩いて嬉しそうに七生斗を見る。「まぁ可愛いかもな」

と、二人が楽しそうに話していると、バタンと言う音がしたと同時に目の前の住宅の灯りが全部消えた。


「停電?」

「・・・」

暫く二人とも沈黙して前方に見える灰色の街を眺める。

「なんかさ、この景色昔見たことある気が」

「うん、何か知ってるかも」

「遠い昔・・・」

「デジャヴっていうんじゃない?」

「知ってる?デジャヴって前世の記憶が残ってるって」

「え?前世で見たってこと?」

「ふふ、っていう説があるらしいって」

「…説、ね、でも本当に知ってる気がする、こんな感じ…」

暫く月明かりだけに照らされた二人と一匹は時間が止まったかのような灰色の景色を眺めていた。

「約束忘れたか?」愛犬のケンサクが呟いた。


空からあの日の月が見ていた。


「あのさ、咲花・・・」

「ん?」

二人が見つめ合って、ぷぷっと吹き出す。

「もう笑わないで!咲花、俺の彼女になってください」


「うん、待ってた」


咲花は満面の笑みで答えた。



最後までお読みいただきありがとうございました。

ど素人が書き始めた物語ですが、いかがだったでしょうか?

ダメ出しとかあれば是非。でもガラスの心なのでお手柔らかにだと幸いです。


私にも推しが居て色んな時心の拠り所として助けられます。

花子はきっと推しが出来たことで心をかき乱されたけど、行きつくところは好きなものに囲まれる楽しさを知ったと思います。誰しも年を取るからおばさんだって楽しく生きればいいとの願いも込めています。

剣太朗が花子を推しと表現したのは剣太朗のアイドルとして生きる覚悟なんですが、最後の最後まで花子を翻弄させてしまいました。そんな剣太朗が結構好きで、他、個人的に花子の姉、美子のキャラが気に入ってます。


そもそもドラマが好きで推しにこんなドラマやって欲しいな~という妄想から始まって居るので、それぞれ私の頭の中で配役はあります。読んで想像して頂けたらそれも嬉しいです。


つたない文章を読んでいただけて本当に感謝しています。ありがとうございました。

また機会あれば別の物語も書ければなと思います。

そんな、いつか、にまたお会いしましょう。

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