56話 やっぱり…
―私の目の前に立っていたのは、ルイアでした。
140年ぶりでしょうか。
私は…
久しぶりを通り越して、何とも言えない気持ちになっていました。
まさか、また、また、また会えるなんて…
夢にも思いませんでしたから。
― 今だ!! ―
「「「!!」」」(私)
「「「パアアアアアアアアアアアアアアア―!!」」」
突然、頭の中で声が聞こえる。
その直後、私の首に掛かっていたネックレスが光を放つ!!
このネックレスは、指輪をネックレスにしたものです。最初から私の首に掛かっていたもので、特に気にしていなかったのですが…思い出すと、これは身代わりの指輪という魔法具でしたね!!
(どうやら、その身代わりの指輪が発動したみたいですが…)
でも何故、このタイミングで発動を―!?
只の誤作動でしょうか。
そして、更に私は…
辺りの時間が、完全に止まっている様な不思議な感覚になる!!
(私以外、動いていない…!!)
(この感覚は…)
「ブウウウウウウウウウ~ン!!」
(んっ…?)
私の胸元で、蝿が飛んでいる様な羽音が聞こえる。
私は、胸元を見てみますと…
「「「!!」」」(私)
身代わりの指輪に小さな翼が生えて、ハチドリみたいに飛んでいる!!
えっ、どうゆう事―!?
私は、訳が分からずにいると…指輪はネックレスを引き千切り、私の近くを素早く飛び回ります。まるで、指輪が本当に生きているみたいです。
しばらく飛び回った後、動きが停止したルイアの方に飛んでいく。
そして…
ルイアの近くまで行ったら、指輪は消えてしまいました。
「…」(私)
指輪が、消えると普通の感覚に戻っていた。
辺りにも、特に変化とかは起きていない様ですが…
(今のは、一体…!?)
いや、そんな事よりも!!
(ウルウルウルウル…)
私はルイアを見て、自然と涙ぐむ。
だか、しかし―
「君は、私の名前を知っているのか!?」
ルイアは、首を傾げて言う。
「「「!!」」」(私)
ル、ルイアは、私の事を忘れているのか―
私が抱いていた不安は、的中してしまいました。
「「ルイアっ、私よ!!」」
「「イブ、イブよ―!!」」
私は、繰り返しルイアに訴えるが―
「君の名前は、イブと言うのか…」
「子供が、こんな所にいたら危険だぞ!!」
(((カチンっ―!!)))
私の中の時間は、またしばらく止まる。
いや…今は、記憶を失っているから仕方がないぞ!!(怒)
「!!」(私)
(ゾロゾロゾロゾロ…)
私達の周りには、またゾロゾロとゴーレム兵やサラマンダーが集まり出していました。しかし…
サルジャールの姿は、消えています。
「アイツは魔術には長けているが、それ以外は軟弱な奴だからな…」
「私に恐れをなして、逃げたんだろう!!」
ルイアは、言う。
更に聞きますと、いつも闘うルイアを陰ながら妨害してくる面倒臭い奴との事です。
「少し、待っていてくれ…!!」
ルイアはそう言うと、迫り来るゴーレム兵とサラマンダーの群れに、剣を握り締めて向かっていく。
まさか、1人で相手にするのか―
そのまさかであった。
「ル、ルイア、待っ…」
「「「!!」」」(私)
ルイアの剣は、淀んだマグマの如く―
赤黒い不気味な光を放つ。
その不気味な光は…
引き留めようとした、私を躊躇させた。
「「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオ―!!」」」」」
「「「ズバン―!!」」」 「「「ズバン―!!」」」
「「「ズバン―!!」」」 「「「ズバン―!!」」」
「「「ズバアアアアアアアアアアアア~ン!!」」」
「「「!!」」」(私)
ルイアが、剣を振るうとゴーレム兵や巨大サラマンダーは、軽々と切り裂かれていきます!!
文献によりますと…
ゴーレム兵は攻撃力と頑丈さを重視した分、そのデメリットとして動きが鈍くなったそうですが。因みに…サラマンダーのスペックもそんな感じとか。しかし、その自慢の頑丈さも全く意味が無い様で…動きが鈍いデメリットだけが残り、ゴーレム兵やサラマンダーは反撃の隙も無く、スパスパと切られていく。
「凄い、ルイア…」
(メチャクチャ…)
(メチャクチャ…)
(((メチャクチャ、強いじゃん!!)))
私は、呆然として見ていた。
○
「「ハァハァハァハァ…」」
「「こっちだ、こっちに来い!!」」
「「は、はい…」」
「「わかりましたアアアア!!」」
その後ー
私とルイアは、ひたすらに町を駆けていた。
「「「ピカアアアアアアアアアアア―ン!!」」」
「「「「「「「ドゴオオオオオオオオオオオオーン!!」」」」」」」
私のすぐ横をゴーレム兵のビームが通過する!!
「「「オラアアアアアアアアアアアアアアア―!!」」」
「「「ズバン―!!」」」 「「「ズバン―!!」」」
「「「ズバン―!!」」」 「「「ズバン―!!」」」
「「「ズバン―!!」」」
駆けている間にもー
ルイアは、幾度となく襲い来る、ゴーレム兵やサラマンダーを迎撃していきます。ルイア曰く『敵を全て倒すまで、私から離れるな!!』との事ですが。
一体、いつになったら敵を倒し尽くすのでしょうか…?
何か、無限に沸いてくる様な気もしますけど…
ルイアは、この場所でずっと闘っているのでしょうか。
「この人が、ルイアなんだね~!!」
「呪具の事とか聞かないとね!!」
「あっ、ゼニィー…」
(そ、そうです!!)
ルイアに、呪具の事を聞かないといけません!!
そして、何故…この場所で闘い続けている理由についても。まぁ、ルイアの記憶が戻らないままですけど…とりあえず、本題に入りましょうか。
私は、早速ルイアに聞きますと―
「「私は大切な人との約束で、この町の中心にある魔法陣を敵から守っているのだ。それは、この王国を…いや、この世界を平和にしてくれるという魔法陣なのだ!!」」
「「だから…」」
「「魔法陣を壊そうとする奴らを全て倒しているのだ!!」」
「そ、そうなの…」
「「「そうだよオオオオ!!」」」
「「「オラアアアアアアアアアアアアアア―!!」」」
「「「「「ヴアアアアアアアアアアアアアア―ン!!」」」」」
ルイアは、巨大サラマンダーの攻撃を跳ね返しながら答える。
「…」(思考)
大切な人って、多分私の事ですよね…
この王国を平和にするとか、そんな約束もしていましたから。
「その魔法陣って…」
「多分、カコシを発生させる魔法陣だよね~!!」
「イブって、そんな約束をしてたの~!?」
「じゃあ、黒幕はイブなんじゃ…」
「…」(私)
「「んな訳あるかっ!!」」
私は、気まずそうに言うゼニィーに啖呵をきる。
これは―
私の約束が、得体の知れない誰かとの約束にすり替わっている!?
ルイアは、悪魔とでも約束をしたのでしょうか。
「「ルイアっ!!」」
「「貴方が約束した相手は、誰なの!?」」
「「その平和にしてくれる魔法陣は、具体的にどんな効果なの!?」」
私は、ルイアに詰め寄る。
「それは、勿論…」
「勿論…」
「えっと…」
「何だっけ…???」
「「「何でだ、何で…思い出せないのだアアアア!!」」」
「「「私は、一体何でこんな事を―」」」
ルイアは、急に頭を抱えて自問自答をしている。
今まで何も考えずに、ずっと闘ってきたのでしょうか。
私は咄嗟に提案を交えて、ルイアに教える。
「「ルイアっ!!」」
「「貴方が約束したのは、悪魔で…貴方が守っているその魔法陣は、パーシャの町の呪いの元凶となっている恐ろしい魔法陣よ!!」」
「「今すぐに、私とその魔法陣を壊し―」」
【壊すだと…】
「「「!!」」」(私)
ルイアが禍々しい声で言った、その瞬間ー
「「「ヴアアアアアアアアアアアアアアアアーン!!」」」
「「ギャアアアアっ!!」」
ルイアから熱風が発せられる。
私は熱風に吹かれて、尻餅をついていた。
そして…
ルイアは急に鬼の様な顔になり、私を見下ろしながら言う。
【あの魔法陣を壊そうとするのか―】
【お前も、敵だったのか…?】
【二度と私の前に、姿を見せるな…】
【【【【【次に会ったら、殺す!!】】】】】
そう言って、ルイアは背を向けて炎の中に消えていきました。
「ル、ルイア…??」
私は…力が抜けてヘロヘロになり、地べたに座り込んだまま動けないでいました。
「まぁ、こんな事だろうと思ったけどね~!!」
ゼニィーは、私の隣で言います。
「ゼ、ゼニィー…」
「それは、一体どうゆう事なの…?」
私は、力無く言う。
「呪具の所有者はね~」
「…」(私)
ゼニィー曰く…
呪具の所有者はその代償として、大切な記憶や正常な思考が闇の魔力に侵食されて、奪われていくとの事です。
「でもでも、さっきのイブの発動させた指輪の魔法で、思い出す可能性も期待していたんだけどね~!!」
「えっ、指輪…!?」
「只の身代わりの指輪だと、思っていたけど…」
「まさか、ここでこんな魔法具をお目にかかれるなんて、感動を通り超して、背筋が凍ちゃったよ~!!」
「ホラっ、これこれ!!」
「さっき、役目を終えてルイアの身体から出てきたよ~!!」
ゼニィーは、真っ黒になった指輪を私に見せる。
「…」(私)
これは、さっきルイアの近くで消えた身代わりの指輪でしょうか。
でも、あれっ…最初は、青白い綺麗な指輪でしたけど。
「これは、身代わりの指輪DX+α(安心設計で使いやすさが更にUP!!これで、どんな人でも楽々お助け可能!!)と言う魔法具だね~!!」
「「「身代わりの指輪DX+α(安心設計で使いやすさが更にUP!!これで、どんな人でも楽々お助け可能!!)!?」」」
「…」(私)
(なんか、変な名前になっているしっ!?)
(てか何なの、そのキャッチコピーみたいなのは…!?)
「この指輪はね―」
ゼニィー曰くー
この指輪は、身代わりをしてくれる魔法具の中では、最上位の性能と効果があるそうです。それは、あらゆるダメージ…傷、病気、状態異常、呪具を使っている代償(例えるならば、重度の精神疾患みたいな感じ?)でさえ、肩代わりをしてくれるとか。悪人が、この魔法を喰らった場合は、あらゆる負の精神状態が改善されて、生まれ変わった様な善人になるらしい。
まぁ、ザックリな表現ですけどね!!
呪具の所有者ならば…
今までの事を悔い改めて、自ら呪具の使用を放棄するそうです。
地球で言うならば、悪人が自首する感じでしょうか。
そして、肩代わりしたダメージは…
普通の身代わりの指輪の様に、自身の身体で肩代わりするのでは無く、指輪自体が肩代わりをしてくれるみたいです。
「おお…」
(安心設計で、使いやすさがUPしている…)
いや、それは最早、身代わりなのか―
肩代わりをされる方からしたら、どんな心身の状態も回復する事が出来る、究極の回復魔法と同義である。この世界には、あらゆる魔法があるらしいが…この様な呪具の所有者を倒さずに、使用を止めさせる事が出来る魔法は、指で数える程しか無いらしい。
更に―
「悪人に使う時は、指輪が悪人の体内に転移で、潜り込んでから発動させま~す。それは指輪との距離が近い程、効率良く肩代わりが出来るみたいだからで~す!!」
「…」(私)
(ふ~ん、そうなのね…)
素直に、頷くだけの私。
とりあえず、悪人を善人に変えてしまうチートな魔法具という事でしょうか。因みに…指輪の魔法を発動させた術者は、時間が止まった様な不思議な感覚になるらしいです。
「じゃあ、この指輪が黒くなったのは…?」
「これは、カコシの呪具の代償を指輪が吸収したからだね~!!」
「そ、そうなんだ…」
(代償って、あぶらとり紙みたいな感じで吸い取れるんだ…)
「だけど、それでも無理だったけどね~!!」
「それ程に、カコシの呪具の力が大きいって事だよね~!!」
「そ、そうなんだ…」
ゼニィー曰く…
普通の呪具の所有者に使えば、一発で善人にさせる位の力はあるとか。
「ルイアって人は…もう完全に、心が闇に呑まれてしまっているよ」
「もう、どんな手を使っても、記憶を取り戻す事は出来ないね~!!」
「残念だけどね!!」
「「で、でも…また(指輪を)使えないの!?」」
「もう上限ギリギリまで、ダメージを吸収しているからね~!!」
「まぁ…多少の物理的なダメージならば、まだ吸収する事が出来ると思うけど、ルイアを改心させる様な力は、もう残って無いね~!!」
「…」(私)
「そ、そうなのね…」
「パキ―」
(あっ、何か割れた…)
私は指輪を手に持って、呆然と眺めていると…
指輪は、パキっと真っ二つに割れてしまう。
私は慌てて、セロハンテープでくっつけます。
「そう、だから…」
「ルイアを元に戻す事はもう諦めて、呪具の所有者であるルイアを殺して、魔法陣を破壊する方向で考えよう!!」
「…」(私)
そんな、ゼニィーの考えた作戦はこうです。
ルイアを殺すと言っても…ルイアは見た感じで、とても手強い。なので、正面から行っても一掃されるだけでしょう。ここは、ルイアから姿が見えないゼニィーと…まだルイアに知られていないバリアを使って、ルイアの虚を衝いて、仕留め―
いやいやいやいや、ちょっと待ったアアアア!!
「「ルイア…」」
「「折角、会えたのに!!」」
「「「私は、絶対に諦めないわ!!」」」
「イブ…」
「でも、次に会ったら殺されるんでしょ~!!」
「それに、指輪はもう使えないし…」
「「ゼニィー!!」」
「「貴方のバリアは、高性能なんでしょ!!」」
「「殺されたって、死なないのならば、ルイアが思い出すまで…私は、何回でもルイアの所に行くわ!!」」
「「「指輪なんて、関係無いわ!!」」」
本当に何回でも―
その回数が、たとえ数百、数千…いや、それ以上になろうとも
「イブ…」
「ハァ…じゃあ、やるだけやってみれば~!!」
ゼニィーは、ため息をついて言いました。
「ありがとう、ゼニィー…」
(ではではでは…)
という訳で、ルイアを目覚めさせに、いざ出発で~す!!




