83話 草原に消える彼
「大丈夫だったか、カリーナ…」
「カリーナさん、無事で良かった」
カマンヴェールさんが、巨大ゴブリンを吹き飛ばした後…
カリーナさんの所へ駆け寄るモッチ村長とベン君。
「ええ、足を少し捻ってしまったけど、大丈夫よ…」
安堵と恐怖が混じった顔で言うカリーナさん。
まぁ、無事で良かった。とりあえず、手当てをしないと…
「これは回復薬と…気持ちを落ち着かせる魔法薬よ」
「この程度の傷ならば、すぐに治るわ♪」
私がそう思っていると…
カマンヴェールさんは、せっせと手当てを始める。
懐から魔法薬や包帯とかを取り出して…
まるで、お医者さんですね。
「「「ウゴオオオオオオオオオオオオ~!!」」」
「「「えええ!!」」」(皆)
安堵の中に、突然の咆哮が聞こえる―
倒れていた巨大ゴブリンは、また起き上がっていた。
「「ギャアアアアアアアアアア~!!」」
「「まだ、生きてる~!!」」
私以外の4人は、高々に叫ぶ。
まるで…叩いて仕留めたはずのゴキブリが、まだ生きていた時の様な良い叫び声です。
「ハァ…」
あのパンチでも、倒しきれてなかったとは。
もう良いよアンタ…私は今度は、巨大ゴブリンをバリアで覆います。
「ウゴゴゴ…?」
「「ウゴゴオオオオオオオ―!?」」
(何じゃ、こりゃアアアアアアアア~!?)
バリアの中に閉じ込められた巨大ゴブリンは…『何じゃ、こりゃアアアアアアアア~!!』と言っている気がしました。そして混乱して、バリアの中で暴れている。とりあえず、ここから先はどうしましょうか…?
カマンヴェールさんも、魔法薬の効果が切れたのかタジタジしていますし。
「イブ、イブ~!!」
「そのバリアの使い方は、あんまり宜しくはないよ~!!」
パタパタと飛んでいるゼニィーは、言う。
「…」(私)
あっ、そうでした…私が今、巨大ゴブリンを覆っている任意バリアは使用時間に応じての追加料金なのです。その料金は…1秒単位で、どんどんと上がっていくとの事で、この様にバリアの中に敵を閉じ込める方法は、控えた方が良いのでした。
バリアの中に敵を閉じ込めて、その動きを封じる…
まぁ、戦略的には、とても良いと思うんですけどね。
ですが…このままですと折角、カマンヴェールさんに貰った5,000Gも無くなってしまいます。
本当に、どうしましょう…?
「「ウオオオオオオオ―!!」」
「「あとは、俺達に任せろオオオオオオオ~!!」」
「あっ!!」(私)
畑の向こうの方から、雄叫びが聞こえる。
ちょうど、ニックさん達パチ四天王が森から戻って来たみたいです!!
そして、四天王の1人が魔法を発動させたー
「「「「ズボオオオオオオオオオオ~ン!!」」」」
巨大ゴブリンの真下の地面が陥没する―
巨大ゴブリンの下半身は、陥没した穴にスッポリと嵌まってしまった。
これは、土の魔法 “地形操作 陥没” です!!
巨大ゴブリンは、穴に嵌まり動けないでいる。
凄い、簡単に動きを封じた!!
「イブちゃん―」
「もうバリアを解いて良いわよ!!」
「は、はい!!」
カマンヴェールさんは、言う。私は言われた通りに、すぐにバリアを解除します。そして、少し離れた場所には―
研ぎ澄まされた魔力を身に纏った
ニックがいた。
「「バチバチ!!」」 「「バチバチ!!」」 「「バチバチ!!」」
「「バチバチ!!」」 「「バチバチ!!」」
「「バチバチ!!」」 「「バチバチ!!」」
ニックさんはー
大きな弓矢を構えて、一直線に巨大ゴブリンを見る。
そして、その矢は電気を帯びているのでしょうか。
眩い青白い光を放ちながら、火花をバチバチと散らしている。
狙いを定めたその瞳には…煮えたぎる怒りなどの感情は一切無く、巨大ゴブリンだけを淡々と映している様であった。その極限まで意識を集中させた…彼の凛とした顔は、まるで―
これから、彼を主人公とする別の物語が始まりそうな雰囲気でした。
(か、格好良い…)
「よくも、俺の家族を―」
「俺の残りの魔力を全てこの矢に注ぎ込む!!」
「「「帯電の魔法 奥義 “迅雷の矢”」」」
「「ビリビリビリビリビリビリビリビリ~!!」」
「「ウゴオオオオオオオオオオオオオ―!!」」
放たれた矢は、空を切り裂く稲光の如く、物凄い速さで巨大ゴブリンに突き刺さる。巨大ゴブリンは、盛大に痺れていた。
「「このまま、一気に畳み掛けるぞ!!」」
「「了解だ―!!」」
(オオオオ…)
そして、残りの四天王による一斉攻撃ですね。
穴に嵌まったままの巨大ゴブリンは、そこから抜け出す体力も残っていない様でした。反撃をする間も無く、一方的に攻撃を受けている。
「…」(私)
ん~、流石は四天王ですね。
騎士より強いかどうかは、置いといて…この人達、とても手際が良い。
もし、私が巨大スライム討伐に同行していたら、彼らの足を引っ張るだけでしたね。あ~、良かった、良かった。
「ハァ…」
情けなく、ため息をはく私であった。
○
「ボロボロボロボロ…」
「ボロボロボロボロ…」
「「よし、倒したぞオオオオオオオオ―!!」」
「「ワアアアアアアアアアアア―」」(5人?の歓声)
その後…
何だかんだあって、巨大ゴブリンを完璧に討伐した四天王でした。巨大ゴブリンの身体は、ボロボロに崩れ去り、跡形も無く消えていきます。
ニックさん達…四天王は、ヘトヘトに疲れながら勝利宣言をしていました。
やはり、C2の害獣との連戦は消耗が激しいのでしょう。その身体には、スライムの液体がベトベトについている。恐らく、巨大スライムと闘った後でしょうし。
そして、巨大ゴブリンも…やはり凄いタフで、四天王が繰り返し攻撃をして、やっと倒した感じでした。カマンヴェールさんによる最初の一撃で、体力を削ってなければ…もっと、しんどい闘いになっていた事でしょう。
(う~ん…)
首を傾げる私。
と言いますか…
カマンヴェールさんが使った魔法薬って、まさか―
「でも、凄いですね…」
「もしかして、カマンヴェールさんが飲んだ魔法薬って…昨日、私にくれた魔法薬(身体強化薬DX+α)と同じものですか?」
私は、カリーナさんの手当てをしているカマンヴェールさんに言う。
「フフフ…」
「まぁ、そんな感じよ♪」
「はぁ、やっぱりですか…」
効果は、凄いですけどね。
改めて『この魔法薬は、使えないな…』と思う私。
「それより、イブちゃんの方が凄かったわよ♪」
「防壁の魔法が無かったら、カリーナさんを助ける事は出来なかったわ…」
「「えっ、なんと、防壁の魔法ですか!!」」
会話を聞いていたモッチ村長は、言う。
「ええ、そうよ♪」
「イブちゃんの防壁の魔法で、巨大ゴブリンの攻撃からカリーナさんを守ったのよ!!」
「ほうほう、イブさん…防壁の魔法が使えるんですね!!」
「流石は、騎士様ですね。本当に有難うございます」
モッチ村長は、とても驚いている。
そして、他の皆も驚いている様ですが…
「!!」(私)
あ~…そうでした。
これも思い出しましたが…防壁の魔法は、使える人が少ないので、レアな魔法とされていましたね。更に、敵の攻撃を楽々と防ぐ事が出来るので、他の魔法よりも有能な魔法としても、格付けされているのでした。
防壁の魔法が使えるだけで…なんと世間からは羨望の眼差しで、見られるのです。…まぁ、これは少し極端な表現になりますが。
(でも、この様子だと、今も大体そんな感じなんですね)
因みに…
騎士団でも『防壁の魔法が使える人』は貴重な人材として、優遇されていましたね。例えば…入団する際も、入団試験の内容が大幅に免除されます。そして…騎士団に入ってからも、王族や上級階層(王国の要人や貴族)の護衛や、王国の重要施設の警備などなど、それなりに重要なポジションが任せられるのです。
「防壁の魔法じゃ無くて、銭の魔法マネーバリアだよ~!!」
ゼニィーは、不満そうに言う。
「はいはい、そうね」
聞き流しながら、言う私。
ゼニィーは、自分の事に関する名称には、結構なこだわりがあるそうです。この前も…『銭の精霊じゃ無くて、お金の精霊でも良いんじゃないの?』と言ったら、酷く怒っていましたからね!!
「騎士様、有難うございます!!」
「騎士様、助かりました!!」
ベン君とカリーナさんがペコペコとお礼を言う。
「いえいえ、そんな…」
(呼び名が、もう騎士様になっているし…)
「…」(私)
まぁ、こっちの方がシックリときますけどね。
それも、そのはず…
私は、かつて騎士でしたから。
「ワイワイワイ…」 「ワイワイワイ…」
「ガヤガヤガヤ…」 「ガヤガヤガヤ…」
その内に―
様子を見に来た、村人達が続々と小麦畑に集まって来ます。
皆…カリーナさんを心配して、声を掛けている。
ニックさん達…四天王は、安堵したのか道端に座り込んでいました。
「ふぅ…」
燦々と降り注ぐ日差しに、全身を照らされながら
私は、その様子を静かに見つめている。
気付けば…日は、空高く昇り真上で輝いていました。
「そうだ―!!」
「カマンヴェールさん、大丈夫なんですか!?」
「午後から、仕事で大事な商談があると聞いたのですが…」
モッチ村長は、言う。
「「アアアア、しまった!!」」
「「私、もう行くわね―!!」」
カマンヴェールさんは、慌ててその場から走り出します。
((えっ―!!))
「あっ、待って―」
私は反射的に、カマンヴェールさんを呼び止め様としますが。
「バチン―☆」
カマンヴェールさんの重たいウインクは、呼び止め様とした私を躊躇させた。全身が、また『ゾワアアアア~』とする私。
「あっ…」
「ヒュウウウウウウウウウウウウウウ―!!」
「バサバサバサバサバサバサ―」
呼び止める間も無く、彼の姿は草原の彼方に消えていった。
我に返った時には、彼の姿はもう視界には無かった。
目の前に広がる景色は、大草原と澄み渡る青空だけです。
まるで、最初から彼はいなかったんじゃないのか…
―寂しい風だけが、私の背を吹き抜ける。
「…」(私)
色々とツッコミどころがある人でしたけどね。
何だかんだで、明るくて面白い人でした。
「そうだ…」
「パーシャの町で、いつか貴方と一緒にパンでも食べたいわね」
「だから、また会いましょう…」
ちょっとした用事を片付けた後に
パーシャの町でー
私は誰もいない草原の道に向かって、そう呟いた。
バタバタと風に靡く髪を抑えながら。
そして、すぐに後ろを振り向いて、また寂しい旅路を行く。




