70話 設定
「記憶が戻って、良かったね~!!」
ゼニィーは、私に言う。
「そうね…」
私は、草原を歩きながら言います。
「でもボクは、もうボンヤリとしか覚えてないけどね~!!」
ゼニィーは…私と一緒に見た『私の記憶』の夢をボンヤリとしか、覚えてないみたいでした。
「…」(私)
まぁ、私もそんな感じなんですけどね…
私も、夢で甦った記憶の殆どを忘れていました。
まるで、今日見た夢をその内に忘れてしまうみたいに。
…勿論、ルイアとか他の第2分団の皆の事とかは、しっかりと覚えていますけど。そして、それはもう忘れる事も無いと思いますが。
しかし、あとの部分は…うろ覚えか、もしくは忘れてしまっていました。
と言いますか…
そもそも私は、イブでは無いのです。
勿論、外見は『イブ』という女性の身体ですが、その中身は地球にいる30歳過ぎのオッサン間近のフリーターの青年である。それ以下もそれ以上でも無いのです。
…ですけど、私はルイアに出会ってから、別れる時まで、本当にこの女性の身体『イブ』という人物になっていた感覚で動いていました。そして、ルイアや他の第2分団の皆と会った時は、心の底から嬉しかった。
それは-
まるで、自分の事の様に嬉しかった。
久しぶりに、自分の家族や仲間達と再開したみたいな気持ちです。
これは只…単純に、この『イブ』という人物の記憶と感情が流れ込んで、そう錯覚したに過ぎないのでしょうか。今の地球の私は『イブ』という人物の身体になっていますので…
それとも―
『イブ』という人物は、かつての私だったからでしょうか。
それはつまり、前世の私って事になりますね!!
「…」(私)
まあ、そんなの分かりませんけどね。仮に、そうだったとしても…魂が同じだったとしても、生まれ育った星や環境とか、性別とか、性格とか、年齢とか、価値観とか、趣味とかなどなど、全てが違うのです。
それは最早、どっちみち…
別人の人生と変わらないのでしょう。
「サアアアアアアアアアアアアアア―」
―日差しに照らされた暖かい風が、私に当たる。
私の目の前に広がる景色は、雄大な雲が漂う青空の空色と、色鮮やかな草原の黄緑色だけです。
(ふ~ん…)
相変わらず、のどかなで綺麗な景色ですね。
もう、この景色も見慣れてしまいました。
「…」(私)
どうやらー
もう地球には、戻れそうにないわね。
このまま、この異世界の星で、ずっと暮らしていく事になるのでしょうか。私は、どこまでも続く草原の道を見ながら考える。
この道をどこまで行こうが、故郷に辿り着く事は決して無い。
私もカコシと同じ様に…夢の中でしか、故郷に帰る事は出来ないらしい。
…まぁ、地球に戻っても大してやる事は無いんですけどね(ハハハっ)
そうそう、来週発売する新作のゲームが買えなかった事は残念でしたね。あれ、前から楽しみにしていたのに!!
「う~ん…」
この星に、郵送して貰えないだろうか…
「…」(私)
それは、さておきまして…
私は、ルイアや第2分団の皆の他に、もう1つハッキリと覚えている事がありました。それもまた…ルイアや第2分団の皆と同じ様に『今後、忘れる事は無いでしょう』と言える自信がある事です。
それは―
この『イブ』という人物の夢である
『この世界を旅して周る事』
「…」(私)
そうだ!!
『イブ』という人物は、前世の私という設定でいきましょう!!
そうしましょう。
―私は突然に閃いて、そう決定した。
そして、そして―
自由気ままに、のんびりとこの世界を旅をしながら、前世の私の夢を叶えていきましょうか。あとですが…『この世界を救って!!』というお告げも気になりますが、これは多分『世界中に散らばる、数多の呪具をどうにかして!!』と言っている気がしました。
旅をするついでに、これも確かめにいきましょうか。
まぁ、ゼニィーもいますから、大丈夫でしょう。
私は、少し前をパタパタと飛んでいるゼニィーを見つめながら、そう思う。
「んっ、どうしたの~!?」
ゼニィーは、問う
「フフフ、何でもないわ…」
私は、少し微笑んで返します。
そんな設定(思い)で、私は草原の道を行く。
~70話
第0章 ゼニィーとの出会い ~雨降る町にて~
71話~
第1章 ???




