52話 異界への鍵
「「「「「ピシャアアアアアアアアアアアア―ン!!」」」」」
「ハァハァハァハァ…」
近くに雷が、落ちたらしい。私のすぐ傍で轟音が鳴り響く。
しかし、私は臆する事なく草原を駆けていく!!
「「イブ―!!」」
「「ボク達、どこに向かっているの!?」」
「「…というか今、どこを走っているの!?」」
ゼニィーも、必死になって付いてくる。
「「丘を登っているよ!!」」
「「えっ、まさか―」」
「「その、まさかよ!!」」
「「でも、何で…ルイアは、呪具の所有者をしてしまったんだ!!」」
悪魔から、呪具でも買ったのでしょうか。
私は…果てしなく続く闇の中をひたすらに駆けながら、考える。
辺りは―
もう何がなんだか、よく分かりませんでした。
真夜中の闇とカコシの霧が混ざり合い、その中を雷と強雨が吹き荒れて、正直どこを走っているのか、右も左も分からない状態であった。
まぁ、それは視界だけに頼っていたらの話しですがー
あの教会は、私が…かつて何度も通いつめた場所だ。
そして…
もとより、ここは私が過ごしていた町だ。
この町の地理なんて、あの教会に向かう道筋なんて…
もう身体に、嫌という程に染み付いているのだ。
今の私なら、目を閉じったって、その場所に行く事が出来ますよ!!
「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオ―!!」」」
「「「「「ピシャアアアアアアアアアアアアーン!!」」」」」
「「イブー!!」」
「「ちょっと、待ってよオオオ~!!」」
○
「ハァハァハァハァ…」
しばらく、がむしゃらに走った後に…
私は、ある場所で立ち止まった。
辺りは、相変わらず闇に包まれて、数メートル先も見えません。
「急に立ち止まって、どうしたの~!?」
ゼニィーは、不安そうに言う。
「ここよ…」
私は息を切らしながらも、静かに答える。
私が、そう言った瞬間に―
「サアアアアアアアアアアアアアアアア―」
蠢く黒霧の中から突如、大きな建物が姿を現す。
それは、少し大きなお城の様な造りの建物でした。
そう、慟哭の教会です…
そしてー
ルイアとの思い出の教会でもある。
しかし、その建物は白く輝く当時の姿とは違い、まるで…外から火で炙られた様な感じで、真っ黒に染まっていました。入り口の扉は、すでにポッカリと大きく開いており、私達を更に闇の中へ誘っているみたいです。
(この中に、ルイアがいるのか…?)
「じゃあ、お邪魔しま~す…」
私達は、恐る恐る教会の中に入ります。
教会の中は、外よりも漆黒の闇に包まれている。
「コツコツコツコツコツコツ…」
私は、ランタンを片手に廊下らしき所を進んでいきます。
ランタンで、辺りを照らしますと…黒く蠢く何かがベッタリと壁についていました。何かウジャウジャしています。これは、気持ち悪い…
この教会は、外側も内側も黒く染まっているんですね。
「コツウウーン」 「コツウウーン」
「コツウウーン」 「コツウウーン」
「コツウウーン」
そして…
私が歩く足音は、教会内に反響して色々な所から足音が聞こえてきます。まるで、その足音は…無数の誰が、私達の後を付いてくる感じにも聞こえました。
((ブルブルブルブルブル…))
「イブ、気を付けてね~!!」
「この教会に、カコシを発生させる呪具があるならば、その呪具の所有者も近くに潜んでいる可能性があるよ~!!」
「そのルイアって人が…呪具の所有者ならば、その人がいつ暗闇から襲ってくるか分からないよ~!!」
「そ、そうなのね…」
「…」(思考)
ルイアは、私の事を覚えているでしょうか…
私みたいに、記憶が飛んでなければ良いのですが。
私は、そんな一抹の不安を感じます。
(モヤモヤモヤモヤモヤモヤ…)
「…」(私)
と言いますか…何かこの教会の中、妙に暖かいですね。
外は、雨も降ってヒンヤリとしていましたので、まぁ良いんですけど…でも、少しモヤ~っとして、暖房が効きすぎている感じがしますね。
「そう言われてみれば、そうだね~!!」
ゼニィーも、言います。
「あっ、そうだ!!」
そういえば、ポーチの中に室温計が入っていましたね。
今、何℃なのか一応見てみようかな。
私は、ポーチから室温計を取り出して、見ますと―
「室温計よ、出て来~い!!」
「スポン―!!」
(どれどれどれ…)
「「なああっ!!」」
『現在の気温』 『湿度』
254℃ 45%
『熱中症危険度』 『洗濯物』
照り焼き 焦げます
暖かいどころの話しでは、ありませんでした!!
何ですか、この温度…バリアが無かったら、もう終わっていますね。
因みに…
この室温計は、地球のボロアパートの部屋にあった物ですよ。
私は、節約の為にあまり冷暖房は使わない様にしていたんですけど…熱中症になるのは怖いですからね。なので、一応こうして…熱中症の危険度が分かる室温計をわざわざ用意した訳なのです。
そして、その熱中症の危険度の欄には『照り焼き』の文字と一緒に、こんがりと焼かれた七面鳥の絵が、表示されていました。こんな表示もあったのですね…
いや、これは異世界に来て、新たに加わった表示でしょうか。
((てか、こんな所で洗濯物は干さんわっ!!))
「でも、湿度はちょうど良いね!!」
ゼニィーは、言う。
「…」(私)
「ここで、煎餅も焼けそうだね~!!」
「ハハハハ、それもそうね…」
「「いや、こんな所で焼けるかっ!!」」
私達は、熱くなった廊下を談笑しながら進んでいきます。
これは、少しでも恐怖を紛らわす為でしょうか…
そして…廊下の先には、また大きな扉があり、そこを開けると―
「「「「「ピシャアアアアアアアアアアア―ン!!」」」」」
開けた瞬間に雷の眩しい光が、その内部を照らす。
「「「「!!」」」」(私とゼニィー)
【【アアアアアアアア―】】 【【ギャアアアアアアアアア―】】
【【ウオオオオオオオ―】】 【【ヒィィィィィィィィ―】】
【【キャアアアアアアアアアアアア―】】
外を吹き荒れる風は…
この朽ちた教会のひび割れた隙間を通り、不気味な音を奏でます。
それらは、大勢の人々の叫び声やうめき声にも聞こえてしまう…
そんな…
すきま風に吹かれて、吹き抜けた天井に吊るされている朽ちたシャンデリア達は、まるで踊っているかの様に、盛大にユラユラと揺れている。
そこは、とても大きい広間であったー
この大広間は、私が先日の悪夢で見た光景と殆んど同じであった。
違う所と言いますと…流石にルイアが立っていた屍と骸骨の山は、ありませんでした。
ですけど―
鼻が曲がりそうな、凄まじい死臭と血の臭いは、変わらずに漂っていた。
むしろ、夢の中より酷い臭いだ。
火の気も無いのに、この熱さ。
屍の山も無いのに、この強烈な臭い…
【【【ギャハハハハハハハハハハハハハ~!!】】】
【【【ハハハハハハハハハハハハハハハ~!!】】】
ルイアは、一体どこに―
いや…私は、自然と歩みを進めていました。
私が悪夢で見た、ルイアが立っていた場所には屍と骸骨の山の代わりに、とても大きい女神像?が置かれていた。
だがー
その女神像は、首が欠けて無くなっている。
「「「「「ピシャアアアアアアアアアアアア―ン!!」」」」」
「ザっ―」
私は、自然と…その女神像の前に立つ。
そして、その女神像の無い顔を見ながら、こう言った。
「ルイア、ここにいるんでしょ…」
「「「!!」」」(私とゼニィー)
「「「「「「「ドドドドドドドドドドドドドドドド―!!」」」」」」」
私が、そう言った瞬間―
地響きと共に突然、床が崩れ落ちていく。
「「うお…っとっと!!」」
「んっ…?」
「「「ギャアアアアアアアアアアアアアアアア―!!」」」
「「「「「ゴオオオオオオオオオオオオオオオ―!!」」」」」
そしてー
ポッカリと空いた穴からは、勢い良く炎が吹き出して、私達を直撃します。私は、逃げる間も無く悲鳴をあげながら、炎に飲み込まれる!!
「「ギャアアアアアアアアアアアアア~!!」」
「「アツいいいいいいい!!」」
「「死ぬうううううううううううっ!!」」
「「ウオオオオオオオオオオオオオオ~!!」」
「あの~、大丈夫ですか~?」
ゼニィーは、炎の中で平然と言いました。
「…」(私)
「少し、びっくりしただけよ…」
私は冷静になって、改めてポッカリと空いた穴を覗きますと…下へと奥深く続いている階段がありました。その階段は、灼熱の窯の中の如く、高熱でオレンジ色に輝いていまして、炎が渦巻いています。
それは、さながら地獄へと続く入り口みたいな感じでした。
更に、この中に入っていかないと行けないのか!!
「…」(私)
もう、帰りましょうかね…
いや、行きますけどね!!
「まぁ、ボクも悪魔(呪具)に一矢報いたいと思ってたからね~!!」
「ここまで来たら、行ってみるか~い!?」
ゼニィーは、言います。
「ゼニィー…、有難う」
「じゃあ、行きましょうか!!」
「ほーい!!」
「コツーン!!」
私とゼニィーはー
炎が吹き出す地獄の窯の入り口で、グータッチをします。
それでは、いざ出発で~す!!




