173話 作戦
「ヒュウウウウウウ~」
「ヒュウウウウウウ~」
「「ゼニィー、まだまだ上がっていくわよ!!」」
「「ええええ、まだですか!?」」
私とゼニィーはドップス邸の上空にいました。その高さは何と200~300メートルはあるでしょうか!!
真下には、ポツンと小さく見えるドップス邸があります。
「「さぁ、もっと頑張って!!」」
ゼニィーを応援する私。
「ううう、何で事に~!!」
そして、私の服を持ち上げながら不満を漏らすゼニィー。私はゼニィーの頑張りで、ここまで飛んでいました。
ゼニィーは最初は無理だよと断っていましたが…
『アンタのせいでこうなったのだから、頑張りなさいよ!!』と言い、頑張って貰っています。
「…」(私)
まぁ、頑張っていると言えば、私自身も頑張っていると思いますが…
ウッカリと周囲を見てしまうと、このサウスヴェルの町どころか、遥か先にある遠くの町の明かりまで見えてしまう。
高所恐怖症の私にとっては、耐え難い試練なのです。
まだ暗い事が救いでしょうか。景色が見えなければ、只の真っ暗な部屋にいるのと同じですからね。その様に、自分に思い込ませながら(汗)
それで今回のサーラちゃんの救出作戦ですが…
まずは、1番厄介な相手であるギレン執事長が寝るのをひたすら待ちます。ゼニィーに動きを監視して貰ってね!!
起きてる時に-
何かを怪しい行動をしたら、すぐにバレてしまう。
せめて…寝てる時に行動すれば、まだマシなのかもしれない。
その様に、自分に思い込ませながら(汗)
ギレン執事長が寝るまでは、私もベッドでゴロゴロとしていました。まぁ、バレてしまっては元も子もないですからね。急がば回れです!!
そして、ギレン執事長が無事に寝た後に行動を開始しました。倉庫へは地上からの移動ですと、警備員にすぐに見つかってしまうので、なんと空からの移動にした訳です!!
空高く宙に浮かんだ私は、そのまま倉庫の屋根に降りて、倉庫の煙突から中に入ります。煙突から中に入れる事は、事前にゼニィーが下調べをしてくれました。
有難うゼニィーさん!!
「「ビュウウウウウウウウウ~!!」」
「「バサバサバサバサ~」」
これで地上の警備員達はごまかせそうですが…
ギレン執事長はもう分からない。これでも、もしかしたらバレているかもしれない。私はその思いから、ドンドンと出来る限り上昇していきます。
「…」(私)
でも、流石にこの位で良いかもね。真下には、小さくなったトップス邸の灯りがユラユラと見える。このまま素早く降下して、煙突から倉庫の中に進入するわよ!!
「さぁ、そろそろ大丈夫かしら!!」
私はゼニィ-に言う。
「ゴ、ゴメン…」
「もう、無理かも限界…」
ゼニィーは青い顔をしながら言う。
「えっ…」(私)
「「いやいやいや、ちょっと待ってええええ」」
「「もうちょっと、頑張―」」
(パっ…)
「「「ギャアアアアアアアアアアアア~!!」」」
「「これは流石に素早すぎるわよオオオオ~!!」」
力尽きたゼニィーは、私を空中で手放してしまう。
私は涙ながらに、地上に落下して行きます。
「ヒュウウウウウウウウウウウウウ~!!」
「ヒュウウウウウウウウウウ~!!」
「ヒュウウウウウウ~!!」
「「「「「ドッスウウウウウウウウウウウウ~ン!!」」」」」
「モクモク…」 「モクモク…」
「モクモク…」
「モクモク…」 「モクモク…」
(う、う~ん…)
(こ、ここはあれ…!?)
気付けば、私は倉庫の中にいました。
暖炉のススまみれで、身体が逆さまになっていましたが…
えっ、まさか遥か上空から倉庫の煙突にホールインワンしたんですかね。
「ふぅ、何とか無事に着いたみたいだね~!!」
遅れてゼニィーが到着します。
「どうやら、ボクの狙いはバッチリだったみたいだね~。ボクは目が良いんですよ~!!」
「…」(私)
((いや、どこが無事なんだアアアア!!))
((私を殺す気かアアアア!!))
私は心の中で叫びます。
まぁ…一応は倉庫の中に入れたけど、これだけの大きな音を出してしまったわ。モタモタしていると、すぐにバレてしまう。
早く地下に続く道を探さないと…
ですが、倉庫の中は真っ暗です。
埃を被った沢山の荷物も無造作に置かれて、迷路の様になっていました。
ここから、どうやって探せば…
「フフフフ…」
まぁ、何てね!!
倉庫の中に入れてしまえば、もう大丈夫なのです。
私は早速ポーチの中から、サーラちゃんが使っていた枕を出します!!
「それじゃあ、ゼニィー」
「これでサーラちゃんの匂いを覚えて、その匂いを辿りなさい」
そして、ゼニィーに自信満々に言う。
「いや、そんなの無理だよ~!!」
「確かに、ボクは目と耳は良いけど嗅覚は普通だよ。ワンちゃんじゃ無いんだからさ~!!」
困った顔で言うゼニィーさん。
「「えええ、そうなの!?」」
「まぁ、大丈夫よ…」
「ここで召喚魔法を使うわ!!」
「!!」(ゼニィー)
「へぇ~、召喚魔法って…」
「イブ、魚以外も召喚が出来る様になったんだね~!!」
「フフフ、そうよ…」
「天魔の山脈で『果ての魔法』を使ってから、経験値もリセットされて激弱になっちゃったけど、そこからサウスヴェルまでの道のりでコツコツと魔獣を倒して、少しだけ召喚魔法もレベルアップしたのよ。それじゃあ早速、召喚するわ!!」
「「ほれえええ!!」」
「ボンっ!!」
「ワン、ワン、ワン、ワン!!」
「…」(ゼニィー)
「いや、只のワンちゃんじゃん」
「魔獣でも何でもないし…!!」
そこには…薄茶色の毛並みの柴犬の様な可愛いワンちゃんがいました。
「近所のアレックスさん家の愛犬のモモちゃんよ。最近、仲良くなりました」
「はぁ、そうですか…」
「それで、ワンちゃんの嗅覚は人間より遥かに優れているのよね。それじゃあ、早速モモちゃん、お願いね!!」
「ワン、ワン、ワン、ワン!!」
モモちゃんは、意気揚々にサーラちゃんの枕の匂いを嗅ぎます。
そして…すぐにテクテクと闇の中に向かって歩いていく。どうやら、サーラちゃんは本当にここに連れて来られていた様ですね。
モモちゃんは…
スルスルと暗闇の倉庫の中を進んでいく。私達は、埃にまみれた荷物の下を潜り抜けながら、必死に後を追う。
そして-
モモちゃんは何の変哲も無い、壁の前で立ち止まった。
「!?」(私)
私は何となく壁に手を触れてみますと…
「おお!!」
なんと手が壁の中に入っていきます!!
壁の中に入る事が出来ます。
「これは忍びの魔法だね~!!」
「忍びの魔法、何それ!?」
「いや、聞いた事があるわ」
私はたった今、前世の記憶から思い出しました。
『忍びの魔法』とは-
気配や音を消したり、素早さを向上させたり、夜目を利かせる事が出来る様になる魔法でしたね。この魔法は、闇夜に紛れてコソコソと活動する人達…例えば暗殺者や盗賊や、待ち伏せでの狩りをメインとする魔獣によく発現する魔法です。
そして-
達人にもなると変身したり、自身を周りの景色と同化させて姿を消す事も出来るのです。
日本で言う所の、まさに忍び…忍者ですよね!!
「これは忍びの魔法奥義 “騙し絵カーテン” だね~。この魔力の感じだと、多分ギレンが仕掛けた魔法と思いま~す!!」
「ふ~ん、やっぱりギレンか…」
「流石はフォースターね」
「寝てても、油断が出来ないわね」
それで…
どうやら、この壁の向こう側に拐われたサーラちゃんはいるのでしょうかね。とっ、ここでモモちゃんは召喚時間が過ぎたのか、消えてしまいます。
「フフフフ、便利な魔獣だったわね」
私は誇らしげに言う。
それをゼニィーは、呆れ顔で見ていました。
「ゴオオオオオオオオオオオ-」
「ウオオオオオオオオ-」
「…」(私)
恐る恐る壁の中を覗くと…
地下深く続く階段が見えます。
どこまで続いているか先は見えません。
…と言うか、階段が何故か大きく捩れています。
これもギレンの仕掛けた忍びの魔法なのでしょうか。
いや、それとは別の異様な雰囲気を感じる。
奥の方からは…唸り声の様な不気味な声が聞こえてきます。
しかし-
私は躊躇う事なく、階段を降り始めます。