67話 燃え盛る思い
「ヒュウウウウウウウウウウウウウウ―」
気付くと…私達の目の前には、小さな薄れた魔法陣がありました。
晴れ渡る草原の中に…
ポツンとある薄紫色の魔法陣は、とてもミスマッチです。
その周りには、蝶がヒラヒラと飛んでいる。
「…」
「ル…」
「ルイ…」
「ルイアちゃん…私と貴方は、凄く似てい…るわ」
その魔法陣の上には、凄く薄くなった巨大な口がいました。
まだ少し、カコシが残っていたみたいですね。
そして、カコシはルイアに語りかける。
「この巨大な騎士で…貴方と共に、この世界を創り変えたかったわ…」
「闘う人を皆殺しにして、闘いの無い平和な世界を創りたかった…」
「あと、もう少しだったのに…」
カコシは、悔しそうに言います。
カコシは、最終的に禍々しい巨大な騎士を作り出して、世界を創り変える事が目的だったのでしょうか。そして、私にも…
「イブちゃん…貴方もルイアちゃんの家族なら、私と一緒に手伝って欲しかったわ。貴方の力があれば、百人力だったのに…とても、残念ね」
カコシは最期の力を振り絞って、私を勧誘しているのでしょうか。
ですけどね、カコシさん。
私は―
「「「私は私のやり方で、この世界を平和にしてみせるわ。貴方の…悪魔の力なんて頼らずにね!!」」」
「「「無い目で、よく見てなっ!!」」」
私は、カコシに強く言い返します!!
勢い余って、凄く恥ずかしい事を言っていました(汗)
そして、私の後ろに凛々しく座っていた巨大なワンちゃんが、笑う様に息をフっと吐き出す。
それと同じタイミングでー
景色が草原から、どこかの町に切り替わった。
「ポトポトポトポトポトポト…」
(んっ、この町は…?)
今までとは、また違った町みたいですが…
その町は―
見渡しますと建物の壁には、色とりどりの花が飾られていました。
更に、道端の至る所に満開の花々が咲いています。
「ヒラヒラヒラヒラヒラヒラ…」
風に吹かれた、花びらが町中をヒラヒラと舞っている。
そして、雨が上がった直後みたいでしょうか。
建物の軒先から、ポトポトと滴り落ちる水滴…
濡れた路面には、所々に水溜まりが出来ている。
そんな濡れた町を、眩しい日差しがキラキラと反射させて、上空には舞い上がった花びらと共に、煌めく虹がかかっていました。
「「…っ!!」」(カコシ)
カコシは、その景色を目を見開いてマジマジと見ている感じがした。
◇
―貴方…一体、どんな魔法を使ったの?―
その少女が、口走った瞬間に景色が切り替わった。
この異空間の景色は、私の意図がなければ、絶対に切り替わる事がないのに…無理矢理に切り替わった?
そして、この景色は遥か昔…
私が得体の知れないドロドロの剣になる前に、暮らしていた町であった。
同時に-
深い闇に埋もれていた私の記憶が、徐々に甦ってくる。
そういえば、私は何でここまで平和に執着しているのかしら…
私自身も、その理由を今まで考えた事は無かったわ。
さっき、私が言った『ルイアちゃんと私は似ている』という言葉は、どこから出てきたのでしょうか。
「「「!!」」」
そうだ、そうでした…!!
私も、騎士だったわね。
私も…ルイアちゃんと同じ様に、故郷の国を守る為に闘っていたわ!!
とても、懐かしいわね。
だけど…
私の国は、くだらない争いで滅びて消えてしまったわ。
私は、失った物の全てを取り戻したかったのだ。
―いや、私は只…
((あの町に、帰りたかっただけだった))
花が咲き誇る綺麗だった、あの町に…
それが…気付けば、歪んだ願いになってしまったけど。
それもこれも、あの先輩の目の悪魔が『巨大な騎士が完成すれば、お前の願いは全て叶うぞ』とか言う、口車に乗せられたからですね。
口車というか、暗示でしょうか。
まぁ、確かに騎士の姿になって、その願いは1%くらいは叶えられたけど。
-まるで、あの町に帰った気分です。
久しぶりに、あの町の花びらに包まれている気分です。
滅んで消えた町に、訪れず事の無い平和が訪れた気分です。
「キラ」 「キラ」
「キラ」 「キラ」 「キラ」 「キラ」
「キラ」 「キラ」 「キラ」 「キラ」 「キラ」
「キラ」 「キラ」 「キラ」 「キラ」 「キラ」 「キラ」
「キラ」 「キラ」 「キラ」 「キラ」 「キラ」 「キラ」 「キラ」 「キラ」 「キラ」 「キラ」
「キラ」 「キラ」
そして―
目の前に立っていた少女の周りには、その姿を覆い尽くす程の金色に輝く花びら達が、風音と共に舞い始めた!!
「「ビュウウウウウウウウウウウウウウウウ~!!」」
沢山の金色の花びらが、私とその少女を覆う。
辺り一帯は、眩い金一色に染まる。
((す、凄く眩しい―))
そんな、眩しい花びらの隙間から一瞬だけ見えた顔は…
少女の顔では無く
かつての私だった―
その天使の様に、小さくか弱い口は言った。
「だから、私に任せて」
(ウルウルウルウル…)
まるで昔の私が、闇を吹き飛ばして戻って来た感じだった。
同時に、私の脳裏に人間だった頃の記憶が溢れ出てきた。
気付くと―
私の無いはずの目からは、涙が流れている様な気がした。
私は、溜まった涙を溢さぬ様にと、無意識に上を向く。
故郷を離れてからー
どれ程の時間が、経ったのでしょうか。
私の目的の達成度は、60%を超えていました。
何で、中途半端な割合かって…?
それは所詮-
この町は、私の幻想に過ぎないから。
でも、中々良い隠しステージじゃないの…
私の燃え盛る思いは、涙と共に鎮火していた。
「…」(私)
あ~、そこまで言うのならば…じゃあ、やるだけやってみれば。
◇
しばらく、カコシは天を仰いで何かを考えていた。
「フフっ、言うわね。そう、上手くいくかしら?」
「ハァ…」(カコシ)
そして、カコシはとても疲れている声で言う。
最早、それ以上…反論する気力も無いみたいでした。
「ウっ…」
「ウっ…」
「ウウ、ウぇぇぇぇ~」
ルイアの口から、まるで口から剣を出すマジックみたいに古びた短剣が出てきた。短剣は、地面にポトリと落ちる。
「ルイアちゃんと私の契約は、完全に解除したわ」
「とりあえず、貴方のやり方でやってみたら…」
「カ、カコシさん…」
「まぁ、失敗も成功のもとって言うからね…」
「…」(私)
「いやっ、失敗はしないからね!!」
「「「「「ハハハハハハハハハハハハハハハハ~!!」」」」」
カコシは、そう言って空の上に消えていった。
消えゆくカコシを追う様に、空を仰ぎ見れば-
日差しの中を、数匹の鳥が飛び立っていく。
そして…辺りを照らす日差しは更に降り注ぎ、私達は白い光に包まれます。
「パアアアアアアアアアアアアアアアアアア―!!」
気付くと―
差し込む光の先には、私達を待ちくたびれたかの様に3人の騎士が立っていました。
まるで…寝坊した私を待っていた、あの日の様に。
「凸凹コンビ、久しぶりじゃん。元気だったか!?」
「どう見ても元気な訳ないでしょ、全くっ…」
「み、皆…!!」(私とルイア)
私とルイアは、3人の所に駆け寄ります。
「久しぶりだな―イブ、ルイア」
そして、私達を一番待ちくたびれた様子で待っていた男性騎士がいました。彼は…えっと、名前が思い出せない。
「!!」(はっ、そうでした!!)
「コーレン副店長、久しぶりです!!」
私は、咄嗟に言う。
「副店長…何だ、そりゃ?」
コーレン副店長は、訳も分からず笑いながら言います。
あっ、副団長でしたね…すいません。
私は、夢で思い出した記憶が…
時間が経つにつれて、うろ覚えになっていました。
一部の記憶は、飛んでいますね。
「てか、コーレン副団長達は…どうして、ここにいるの?」
「それはな―」
コーレン副団長曰く…
バルキードとの戦争で死んだ後、気付いたらこの空間に閉じ込められていたとの事です。
「この異空間で、怨念としてカコシの力の一部になっていたんだね~!!」
ゼニィー先生は、そう言う。
因みに異空間とは、この世とあの世の境目の空間でもあり、死んで魂になっても、こうして姿を見せる事も出来るみたいです。
「皆、ごめんなさい。私のせいで…」
ルイアは、皆に謝ります。
「気にするな、ルイア」
「それより、お前一人に辛い思いをさせて、すまなかった」
コーレン副団長は、ルイアに言った。
「私も…いや、皆もルイアと同じ状況だったら同じ事をするわ」
サニーさんも、言います。
「「それより、イブ!!」」
「「お前スゲぇ~、格好良かったな!!」」
筋肉質の人が、私に話しかけてくる。
「う、うん。あ、有難うね…」(誰だっけ、コイツ…?)
私は知ってそうな装いで、焦って言いますが。
(絶対、忘れているな、コイツ…)
皆は、そんな顔で私を見ていた。
「イブ、大丈夫か~!?」
「ハハハー、まだ寝ぼけているじゃないのか!?」
「!!」(はっ、そうでした!!)
「パンの大食いコンテストで、準優勝だった人ね!!」
私は思い出して、言う。
「…」(筋肉質の人)
「そりゃ、お前だろが…ホラ、これを見てみろ!!」
筋肉質の人は、腕の筋肉を逞しく見せてくる。
「あ~、あのボディビルダーの人ね。バルモじゃん!!」
「いや、ボディビルダーって何だよっ!?」
「テカっている人よね~」
「好きで、テカっている訳じゃないぞ!!」
「ごめん、ごめん…その事、気にしてたんだよね」
「いや、気にしてなんか無いからね(汗)」
「「ハハハハハハハハハハ―!!」」
―しばらくすると、徐々に異空間が消え始めていた。
そして…私達は、かつてのパーシャ騎士団の建物の前にいました。
「「「「「「「「「「「ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア―!!」」」」」」」」」」」
「「「!!」」」(私)
いきなりの大歓声が聞こえます。
建物の広場には―
この異空間に、閉じ込められていた人達でしょうか。
皆さん、勢揃いして私に色々な声援を送っていました。
かつて、パーシャの町に住んでいた人達も勢揃いしていますね。
異空間のパラパラと崩れた破片達は、まるでキラキラと光る紙吹雪みたいに、歓声の中を舞っていました。
「「有難う―!!」」 「「格好良かったぞ~!!」」
「「ワンちゃんに救われたわ!!」」 「「わ~い!!」」
「「やっと、地表に出られた~!!」」
「「あの巨大な騎士を倒せるとは、思わなかったぞ!!」」
「「イブさん、今度パーティーを組んで、冒険しようぜ~!!」」
―遠くの方で、中年のおばさんと子供たちが微笑んでいるのが見えた。
バルキードの兵隊もいまして、私を見て深々とお辞儀していました。
「!!」(私)
よく見れば、夜空の星になった悪霊コンビもいますね。
「私達まで助けて貰って、有難うございます」
「イブさんとルイアさん、全く強すぎですよ…」
ナハリタとサルジャールは、言います。
「んっ…?」
「ついでよ、ついで…次、戦争したら今度は地獄の底まで叩き落とすから、気を付けてね!!」
「ハハハハ―、イブさん恐すぎ(汗)」
悪霊コンビは笑いにならない、笑いをしていた。
―もうすぐ、朝陽が昇ろうとしている。
今は、夜と朝の境界の時間です。
地平線の彼方は、オレンジ色に輝き始めて、雲一つの無い空を照らしていきます。黒く蠢くカコシの霧は…只の朝霧となり、眼下に広がるパーシャの町をうっすらと覆っていました。
「「ヒュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ~」」
「それが、貴方のパートナーなのね」
ルイアは、朝焼けの風に銀髪を靡かせながら、言う。
「でも、何だい…そのヘンテコな精霊は?」
サニーさんは、クスクスと笑いながら言う。
「「ヘンテコとは、何だアア~!!」」
ゼニィーは怒る。一応、精霊みたいだけどね。
「…でも、助かったわ。約束通り、精霊を連れて助けにきてくれたのね。有難うね!!」
「精霊って、本当にいたんだな!!」
「オレぇ…感動して泣いちゃいそうだよ…」
「イブ、お前…世界を救う旅をするんだろ」
コーレン副団長は、唐突に言う。
「…っ!!」
何故、その事を!!
「いやっ…あれは…その…」
「流れで言っただけで、恥ずかしいから人前では…」
「じゃあ、ついでにスターレス団長にも、渇をいれといてくれよ」
(スターレス団長…?)
その内に、朝陽が昇り始める。
皆の身体は、キラキラと消え始めた。
ルイアの身体も…
えっ、何で…?
焦る私に、ルイアは微笑みながら言いました。
「もう、お別れの時間ね…」
―私は、もうあの時…呪具を突き刺した時に死んでいるのだ―
だけど…
だけど、寂しくはないわ
命は巡るわ、またいつか…何処かで会いましょう
きっと…きっと、必ず会えるわ!!
それは、貴方が証明してくれた事―
貴方は、果てしなく続く長いトンネルを抜けて、また私達の所に会いに来てくれたから
「そう言うことだ、イブ!!」
「じゃあな!!」
「困った事があれば、助けにいくからね」
朝焼けに照らされて、4人の騎士は微笑みます。
ルイアは、最後に満面の笑みで言った。
―貴方が創る世界を、遠くから楽しみに見ています―
朝陽が町全体を照らすと、皆の姿は消えていった。
○
私とゼニィーは、草原の丘の上で朝陽を眺めていました。
もう、私達の周りには誰もいません。
ですけど、私自身もあまり寂しくはありませんでした。
町を覆っていた朝霧は次第に消えていき、朝焼けが町をキラキラと輝かせる。それは…かつて見たパーシャの町と変わらない日常の景色であった。
私が、飽きる程見ていた日常の景色―
清々しい雲一つない快晴であった。
「サアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア―」
「…」(私)
ですが、心配な点があります。
少なからず、この町はカコシの恩恵を受けていましたからね。
カコシが消えた今、この町は無防備な状態になって、害獣や盗賊に襲われる危険があるのです。
ん~、どうしましょうか…
「それは、心配ないかもよ~!!」
「えっ…」
「どうゆう事なの、ゼニィー!?」
ゼニィーは、ルイアが口から出した古びた短剣を持っていました。
「これは…調べた所、とても高位の天具なんだよ~!!」
「光の魔力が、沢山籠っていま~す!!」
「えっ、天具っ!?」
ゼニィー曰く、天具とは…
高位の闇の魔法具(俗に呪具)の反対で、高位の光の魔法具を言うとの事です。その名前の由来は、天使が使う様な魔法が使える魔法具だからとの事です。
(はぁ、天使ですか…)
まぁ、悪魔や精霊がいるという事は、天使もいそうな感じはしますけど。しかし、その姿は悠久の時を過ごしているゼニィーでも、一度も見た事は無いとか。
…なので、誰かが冗談で『この魔法具、凄っ…まるで、天使が使う魔法じゃん!!』と言ったのが、そのまま天具の由来として広まったみたいですね。
「きっと、天使は恥ずかしがり屋さんなんだね~!!」
「そ、そうなのね…」
そして、私はゼニィー鑑定士からその能力を教わりました。
(フムフムフム…)
「因みに、売れば沢山の銭が貰えるよ~!!」
「えっ、そうなの…!?」
「一生、遊んで暮らせるよ~!!」
ゼニィー鑑定士は、私に囁く。
「…」(私)
「フフフフ、それも良いわね…」
「「「だけどオオオオ」」」
「「「この魔法具の使い方は、これだアアアアー!!」」」
私は勢い良く、地面にその短剣を突き刺します!!
「「「「「「「ヴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーン!!」」」」」」」
突き刺した短剣はー
光と共に弾け飛んで、町全体を覆う巨大な結界を作った。
―光の超高位魔法 麗光結界 ―
です。
因みにこれは、普通の結界ではありません。
普通に、誰でも出入りが出来ます。効果は…カコシさんからの贈り物だけあって、カコシの霧と似ていますが、微妙に違う所がありますね。まず、害獣は近寄ってきません。それは竜でさえも、その結界を嫌がり避けるとの事です。
そして、盗賊などの悪い人達ですが…カコシの霧の場合は、全て呪い殺してしまいますが、こちらは結界内に入ると、心が洗われて善人になるみたいです。
「ふ~ん…」
まるで、子供が考えた様な魔法ね。
ですけど―
この結界と、この町の旨いパンがあれば、あっという間にかつての賑わいを取り戻すでしょう。
「さてと…じゃあ、行きますか!!」
「はいよ~!!」
私は、朝陽に向かってパーシャ騎士団の剣を掲げます。
久しぶりのパーシャ騎士団の出陣です!!
ここまで、読んで頂いた方へ~
有難うございました。感想、評価頂けたら喜びます。この先も、こんな感じで、のんびりと旅は続きます(次回更新は12月22日)※まだ第1章の途中です




