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166話 静寂の中で





「やぁイブ君、調子はどうだい!?」


「あっ、ドップス様」


私が夕陽に染まるステンドグラスの女性を眺めていると、ドップス様が歩いて来る。



「はい、上手くやっています…」


私は、気まずそうに答えます。



「こんな大きいロビーを1人で掃除して貰って、すまないね。私も少し手伝いましょう」



「!!」(私)


ええっ、ドップス様が直々に-!!

その場は、更に気まずくなります。

私は冷や汗をタラタラさせながら、掃除をしていますと…




「ハハハ、昨日の事は別に気にしなくても大丈夫ですよ。まぁ、最初の内は仕方がないですから。アナタがこの町で立派に独り立ち出来る様になるならば、安い代償です。屋敷の物なんて、別にいくらでも壊されようが全然構わないですよ!!」



「ああ、でもでも…」

「あのステンドグラスだけは壊さないでね(汗)」


ドップス様は、慌てて言い直します。



「ステンドグラスですか…!?」


ドップス様も、私が眺めているステンドグラスを見つめていました。



「そうそう、あのステンドグラスの事ですよ!!」

「あのステンドグラスは…今が1番綺麗に見える時間でね。たまに仕事を中断して、私も見に来るのですよ」




「そ、そうなんですね」

「凄い綺麗なステンドグラスですよね」



「ハハハ、そう言って貰って嬉しいよ!!」

「じゃあ、特別に教えちゃうけど、ステンドグラスの中にいる女性のモデルは…なんと私の奥さんなんだよね。屋敷を建てた時から当初からね、ずっとずっと昔から設置してあるガラスなんだよ」


夕陽に目を輝かせながら言うドップス様。




「へぇ、ドップス様の奥様なんですね!!」







「…」(私)


ですが、私が屋敷に来てから数日間、ドップス様の奥様の姿は見ていないのですが…


これは一体…!?






「まぁ、今はいないんだけどね。私が仕事に没頭し過ぎて、愛想を尽かされて、家から出ていってしまったんだよ」



「そ、そうだったんですね」

「その…奥様は、今はどこで暮らしているんですか!?」



「う~ん、それが音信不通でね。どこで何をしているかも分からないんですよ。実は言うと、顔も覚えてないんだ…」




「「えっ、顔もですか!?」」



「うん、当時の記憶が曖昧でね…」

「お医者さんが言うには、奥さんに逃げられたショックが強過ぎて、その時の記憶が一部欠損してしまっている状態らしいよ。確かに…奥さんに逃げられた後、私はしばらく体調を崩して、寝込んでいたからね。かなり、ショックを受けていたと思いますよ」




「…」(私)





「まぁ、でも…」

「これはもう、私が若い頃の話しですので」


「奥さんに出て行かれた当初は、頑張って行方を捜したりしたんですけどね。でも、行方は分からず…長い月日が流れた今ではもう只々、彼女の帰りを待つ事だけしか出来てませんよ。時間が経てば…彼女も頭を冷やして、またこの屋敷に戻って来てくれるんじゃないかと、都合良く祈りながらね」



「もう生きているかどうかすらも、分からないのにね-」






「ドップス様…」







「…」(ドップス様)




「そうそう、彼女はあと綺麗好きだったからね!!」


「だから、いつもこうして屋敷を掃除をして、彼女がいつでも戻って来ても大丈夫な様にしてるんですよ。只…メイドの皆に全部、掃除を任せちゃうと『自分は掃除してないのに、デカい顔をするな!!』って、怒られちゃうからね。私も時間の合間を見つけては、こうして掃除を手伝っているんですよ、ハハハ!!」



「ふ~ん、そうなんですね…」




「そうですよ」


汚れた雑巾を持ちながら、言うドップス様。






「いつか戻って来ると良いですね、奥さん」



「そうだね…」







ステンドグラスを通して、降り注ぐ夕陽を浴びながら、私とドップス様はしばらく赤々と煌めく女性の姿を眺めていました。


その彼女は、両手を握り合わせて何かを祈っている。



とても眩しい赤い光は、まるで炎の様にユラユラと揺らめき、彼女の全身をスッポリと包み込んでいた。


その姿形は-





ドップス様には悪いですが、綺麗と言うよりかは…




まるで、業火が渦巻く大火事の中で祈っている様な不気味さを感じさせる。


果たして、彼女は生きているのでしょうか-!?








「イブ、イブ~!!」

「今度は、このステンドグラスの拭き掃除をしてあげる!!」



「「いや、止めてあげて!!」」











             ◯












「グツグツグツ…」 「グツグツグツ…」




「そろそろ、食べ頃かしらね」

「じゃあ、食べましょうか!!」


「有難う、イブさん」



その夜、宿舎の部屋にて-

仕事を終えた、私とサーラちゃんは夕食を食べる所でした。


今日のメニューはですね、私が作った鍋料理です(自慢気)。食材は、主に私の召喚した魚なんですが…単純に鍋に魚をブチ込んだ訳ではなく、細かく微塵切りにして、そう何とツミレにしたのです!!



この料理の名前は-




召喚魚のツミレ汁です。





「まぁ、そこそこ美味しいわね」


特に喜ぶ事なく言う私-


私の召喚した魚は食料にはなりますが、不味いと言うのが欠点です。ですが、この様に…しっかりとツミレに下味を付けて、鍋にも調味料を入れて味を整えれば、普通のクオリティの料理になるのよね。


食材は何でも使い様です。

まぁ、そこそこのツミレ汁ね。




「凄い、美味しいです!!」



「ええ、本当に-!?」


「はい、本当に美味しいです…」

「あと魚をお団子状にして食べる、食べ方なんて初めて知ったわ。とても面白い食べ方でビックリです!!」


「ハハハ、そうなのね」



ツミレ汁を無邪気に、フーフーしながら食べるサーラちゃん。その姿は何か、まだまだ呆気ない子供ね。


それもそのはず…

サーラちゃんは、まだ14歳ですからね。





そんな、サーラちゃんですが-


話しを聞いた所ですと、予想通り村から出稼ぎに来た若者みたいですね。サウスヴェル近郊の貧しい村の出身らしく、小さい兄弟や病気の両親を養う為に12歳から、ドップス邸でメイドをしているそうです。



(う~ん…)


若いのに立派…いや、そんな言葉で言い表せられない程に、何か『この王国はこの状況をどう考えているのか!?』と疑問に思ってしまう。


日本ではありえない事ですから。


『ここは異世界なので…』と言う事で、納得するしかないのでしょうかね。





「グツグツグツ…」 「グツグツグツ…」



     「モグモグモグ-」




黙々と、鍋を食べる2人-


あっ、そうそう因みにゼニィーですが…

すでに屋敷内の探索に出発しています。

流石に、サーラちゃんと一緒に食卓を囲む事が出来ないのでね。


ゼニィーは…探索を終えた後、夜な夜な鍋の余りを食べる事になっています。その事に関して、ゼニィーは文句を言っていましたけど、まぁ仕方がないです。


あっ、あとコタツも出してます!!

鍋と言えば、コタツですからね。流石にサウスヴェルは温暖な気候なので、電源は入れてませんけど。





「グツグツグツ…」 「グツグツグツ…」



    「モグモグモグ-」




(フフフフ…)


でも、こうして同じ部屋で鍋を囲むなんて、本当の姉妹みたいな感じね。




「!!」(私)



「そうそう、サーラちゃん…」

「それで、少し聞きたい事があるんだけど、このドップス邸でメイドとして働いていて、何か変な情報とか噂とか、聞いた事はないかしら!?」


私は、とりあえず鍋を食べながら…

今日の仕事の疲れを表したかの様な、眠そうな声で聞きます。



「変な情報ですか…!?」


「そうよ、何でも良いから!!」

「ドップス様って、本当に優しくて良い人なの!?」




「…」(サーラちゃん)






「ドップス様は…」

「本当に優しくて良い方よ」



「やっぱり、そうなのね!!」


やっぱり、ドップス様は正真正銘の良い人みたいでした。何年もドップス邸で働いているサーラちゃんが言うのならば、間違いないでしょう。ですが、サーラちゃんは少し困惑している表情でした。




「変な情報と言うか、少し気になる事ならばあるけど…」


サーラちゃんは、続けてモジモジしながら言う。

う~ん、これは…凄く恥ずかしくて言いにくい事なんでしょうか。もしかして、誰かに恋心を抱いているとか。屋敷には、若い執事さんも沢山いましたからね!!


情報を聞くと言うか、只の恋バナになってしまいそうな感じね。




「…」(私)



と思いましたが、サーラちゃんの顔は一気に暗くなります。









「私には…」






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